君の右手で、俺は描く


「……はぁ」

最初から最後までやかましく、図々しく、何かと掴みどころのないやつだった、と改めて考える。

あいつが出ていった保健室の扉をみて、その後、机を見た。そこには、あいつが置いていったのだろう。
俺が渡井にぶつけてしまったしわくちゃな紙が置いてあった。
それを手に取ってみると、指を伝ってくる紙の毛羽立った様子。でも、あいつが丁寧に伸ばしたせいか、微かな温度を持っていた。

「……めっちゃ好き、ね」

思い出しただけで、あまりの軽さに、眉間にシワがよっていくのがわかる。
こんな描きかけに、何を感じるっていうんだ。
逃げるように投げ捨てた、俺の弱い心を表すようなものなのに。

……なのに。



「描き途中?」



あいつがそう言った時感じた、心の奥底を指で弾かれたような感覚が、また残っている。

俺の絵を、上手いとか、下手だとか、そんなものではなくて、ただ、途中だと。
あの言葉の後には、なんて言葉が続いたんだろうか。

もったいない?
なんで?