俺の右手は、もう新しい世界を創り出せない。
歪な線が何本も引かれたスケッチブックの上で、止まった右手をしばらく眺めてから、俺は鉛筆を置いた。
何度も消したせいで、ガタガタになった紙はまるで今の俺のようで。
消して、引いて、また消して。それでも思い通りの線は一向に現れず、俺はこんなに無力だったのかと、胸の奥のザラつきだけを受け取っていた。
こんなはずではなかった。
ちょっと前までは、この世界のすべてが、何よりも美しく見えた。
ちょっとした高校の授業や、教室から見える景色でさえ、俺にとっては創作の糧となるはずの、宝の倉庫だった。
今はもう、その感覚はない。
机に積み重なる画材とスケッチブック達は、ただの置物と化した。
「……クソ」
誰に聞かせるでもなく、ひとりでに呟いて、俺はスケッチブックを放り投げた。
唯一の生きがいだった絵も、今ではないもの。
俺は、絵以外に夢中になれるものがないのだと気づき、頭を殴りつけられたような気分になった。
いつからか、世界のすべてが、描く価値のないもののように感じられ、友達もいない俺には、高校とはどんな場所なのか分からなくなっていた。
宝を拾えない教室は、俺にとってもはやただの空間でしかなかった。
……いや、それも建前かもしれない。
俺__三田村藍衣は、今日も描けない自分を誤魔化すように、保健室へと足を進めた。
歪な線が何本も引かれたスケッチブックの上で、止まった右手をしばらく眺めてから、俺は鉛筆を置いた。
何度も消したせいで、ガタガタになった紙はまるで今の俺のようで。
消して、引いて、また消して。それでも思い通りの線は一向に現れず、俺はこんなに無力だったのかと、胸の奥のザラつきだけを受け取っていた。
こんなはずではなかった。
ちょっと前までは、この世界のすべてが、何よりも美しく見えた。
ちょっとした高校の授業や、教室から見える景色でさえ、俺にとっては創作の糧となるはずの、宝の倉庫だった。
今はもう、その感覚はない。
机に積み重なる画材とスケッチブック達は、ただの置物と化した。
「……クソ」
誰に聞かせるでもなく、ひとりでに呟いて、俺はスケッチブックを放り投げた。
唯一の生きがいだった絵も、今ではないもの。
俺は、絵以外に夢中になれるものがないのだと気づき、頭を殴りつけられたような気分になった。
いつからか、世界のすべてが、描く価値のないもののように感じられ、友達もいない俺には、高校とはどんな場所なのか分からなくなっていた。
宝を拾えない教室は、俺にとってもはやただの空間でしかなかった。
……いや、それも建前かもしれない。
俺__三田村藍衣は、今日も描けない自分を誤魔化すように、保健室へと足を進めた。
