危険すぎる恋に、落ちてしまいました。3

秋人の話を聞きながら、美羽は自然と背筋を伸ばしていた。

窓から差し込む午後の光が、机の上の雑誌や資料を淡く照らしている。

「そうなんだぁ~、秋人くんは海外留学いってたもんね!英語とかもペラペラなんでしょ?凄いよね!」

純粋な尊敬をこめてそう言うと、秋人は肩をすくめるように笑った。

「ははっ、そんな事ないよ。」


軽く流すその態度が、余計に“大人”に見えてしまう。
美羽はページをめくる手を止め、小さく息を吐いた。


「私も何かみつかるかあなぁ…」


その声には、さっきまで抑えていた不安が滲んでいた。
秋人は、迷いなく答える。


「絶対見つかるよ、美羽ちゃんなら。」


その言葉は優しく、それでいて芯があった。


「誰でも、道に迷ったり。行き止まりで身動きとれなくなってどうしようもなくなるときがある。でも、そんなとき手を差しのべられたり、誰かと出会ったり、何か些細な事が起こったとき、その人の人生が大きく変わる事があるんだよ。」


ゆっくりと、美羽の目を見つめながら。


「美羽ちゃんが、俺にわからせてくれたようにね。」


オッドアイが、ほんの少し揺れていた。
美羽は言葉を失い、目をゆっくりと見開く。

「秋人くん…?」

胸の奥が、じん、と熱を持つ。
すると秋人は、ふっと雰囲気を変えて口角を上げた。

「ふふ、美羽ちゃん…ちょっとは俺にドキドキしてる?」

「なっ!!秋人くん!?そ、そんなわけないでしょ!!もう、またからかってるでしょ!」

慌てて否定する美羽の頬は、真っ赤だった。
その反応が面白かったのか、秋人はクスクスと笑う。


「女の子に殴られたのは初めてだったなぁ~、なかなかいい拳だったよ。」

そう言って、自分の頬に触れる。

「あれは!…その、ごめんなさい。ってか秋人くんが悪いんだからね!」

「うん、あの時は本当にごめん。けど、俺は美羽ちゃんに救われたよ?」

真っ直ぐすぎる言葉に、美羽は視線を逸らした。

「それは、良かったです…」

(だめだ!これ以上、秋人くんといると色々ペースに巻き込まれる!)

壁に掛かった時計を見て、美羽は慌てて立ち上がる。


「あ。もうそろそろ時間だから、私戻ろうかな!なんか色々話きいてくれてありがとう、秋人くん!」

資料を抱え、足早に席を離れようとした瞬間――
そっと、腕を掴まれた。

「待って。」

「えっ」

心臓が跳ねる。
秋人は、真剣な表情で美羽を見ていた。

「俺、ずっと美羽ちゃんに聞きたかったんだけどさ…」

空気が張り詰める。

「もし…もし椿より先に俺の方が出会うのが早かったら…少しは俺にも可能性、あったかな…?」

視線を逸らせない。
胸の鼓動が、耳の奥でうるさい。

(秋人くん…?なんで、なんで今そんなこというの?私は、椿くんの彼女なんだよ?!)

「なんで、そんなこ…」

言い終わる前に、低く、はっきりとした声が割り込んだ。

「美羽」

はっと振り返る。
そこに立っていたのは、椿だった。
秋人は軽く両手をあげて、笑う。

「残念。時間切れ~」

椿の眉間には深い皺が寄っている。

「椿くん!ちがうの!たまたま秋人くんにあって!少し話してただけだから!」

「美羽に聞いてねぇ。」

低く、短い声。

(やばい、椿くん怒ってる!てか誤解してるよね!?)

目に見えない火花が、二人の間で散る。

「秋人、何のつもりだ?」

「んー、何が?美羽ちゃんと話してただけだけど?」

挑発的な笑み。

「秋人、美羽は俺の女だ。わかってるよな?」

「わかってるよー?だから何もしてないじゃん。なぁに、椿。ご機嫌斜め?」

椿は舌打ちをして、美羽の手を掴む。

「美羽、いくぞ。」

「あ、椿くん?!ごめんね、秋人くん!またねー!」

引きずられるように図書室を出る二人。
残された秋人は、軽く手を振りながら見送った。
そして窓の外へ視線を向け、小さく呟く。

「わかってるよ。でもしょうがないでしょ。」

「You stole my heart...」

春の光が、彼の横顔を静かに照らしていた。
――こうして、三人の距離は
さらに近づき、そして、さらに複雑になっていく。