悠真が図書室を出ていったあと、静けさが戻った。
本棚の間を抜ける空気は、紙とインクの匂いを含んでいて、どこか落ち着かせてくれる。
そのとき、机の上で置いていたスマホが小さく震えた。
――椿からのLIME。
『悪ぃ、今日終わる時間、少し過ぎる。』
画面を見つめたまま、美羽は一瞬だけ唇を噛む。
けれどすぐに指を動かした。
『そっか!わかった。
乗降口で待ってるね!』
送信して、スマホを胸元に抱き寄せる。
ふっと息を吐くと、自然と椿の顔が浮かんだ。
(今日……椿くんと少し話せるかなー。)
窓の外では、春の光が校舎の壁に反射して、淡く揺れている。
その光を眺めながら、美羽は机の上に広げていた大学案内や就職雑誌へと視線を戻した。
ページをめくる指は、少しだけ重い。
そんなときだった。
「美羽ちゃん?」
その声は、図書室の静けさを壊さない、柔らかくて澄んだ響きだった。
美羽は顔をあげる。
そこに立っていたのは、黒薔薇の制服を着こなした青年――秋人。
「秋人くん?!」
驚きのあまり、瞬きを何度も繰り返してしまう。
「莉子に聞いてね。ここにいるって言ってたから。」
柔らかく笑うと、左右で色の違うオッドアイが、窓から差し込む光を映してきらりと輝いた。
その視線に、胸が小さく跳ねる。
(……やだ。なんでちょっとドキドキしてるのよ。)
美羽はその感情に気づいて、慌てて首を振った。
(秋人くん、なんでここに?!始業式から色々あったから…なんだかちょっと気まずいなぁ…)
心臓の奥が、ざわりと落ち着かない。
「そっか!秋人くんも調べものとか?」
そう言って、美羽は雑誌のページをめくりながら尋ねた。
「ん?いや、美羽ちゃんに会いたくて来たんだ。」
秋人はそう言いながら、何のためらいもなく美羽の隣の席に腰を下ろす。
その距離の近さに、空気が一段階だけ温度を上げた気がした。
「うえ!?」
思わず声が裏返る。
(もう!秋人くん、まぶしすぎるよ…留学ってこんなさらりとスマートなキャラになっちゃうの?!)
困惑する美羽の様子を見て、秋人はくすっと笑った。
「まぁ、半分は冗談で半分は本気…かな?」
机に肘をつき、顔を近づけて見つめてくる。
美羽の頬に、一気に熱が集まった。
「あ、秋人くん?!私、ちょっとそういうの…困るんだけど…。」
視線を逸らしながら、小さく抗議する。
「あはは、ごめんね。つい美羽ちゃんが可愛いくて意地悪しちゃうんだ。」
その言葉に、胸がまた跳ねる。
(だめだめだめ!これ以上は……!)
(こんな所で、秋人くんと二人きりだなんて…椿くんに後ろめたすぎるんだけど…!早く終わらして教室戻らなきゃ!)
焦りが、背中を押す。
そんな美羽の心情を知ってか知らずか、秋人は机の上の資料に目を落とした。
「あれ?美羽ちゃん何か進路で困ってるの?」
「え?あー、…そうなの!」
美羽は慌てて笑顔を作る。
「実はさっき、悠真くんと色々話してたんだけどね!全然これからの事とか考えてなくって…あはは、出遅れてるよね~!」
秋人は少しだけ目を見開いた。
「そっかぁ…こんな真っ直ぐな美羽ちゃんでも悩むんだねぇ。」
声のトーンが、ほんの少し落ち着く。
「もう俺達3年生だし焦っちゃうよね。」
その言葉は、不思議と美羽の気持ちに寄り添っていた。
「うん!そうなの…!」
美羽は思わず前のめりになる。
「将来何になりたいかって急に言われてもわからなくって…。」
そして、ふと思いついたように尋ねた。
「あ、秋人くんは将来の夢とかあるの?」
期待と、不安が入り混じった視線。
秋人はころころと表情を変える美羽を、面白そうに眺めていた。
「ん?そうだなぁ。」
少し考えるように視線を上げてから、にこりと笑う。
「色々海外で刺激も多かったし。なりたいものならたくさんあるかな。」
「国際的な仕事とか~まだ決めてはいないけど。」
その言葉を聞きながら、美羽は胸の奥が静かにざわめくのを感じていた。
本棚の間を抜ける空気は、紙とインクの匂いを含んでいて、どこか落ち着かせてくれる。
そのとき、机の上で置いていたスマホが小さく震えた。
――椿からのLIME。
『悪ぃ、今日終わる時間、少し過ぎる。』
画面を見つめたまま、美羽は一瞬だけ唇を噛む。
けれどすぐに指を動かした。
『そっか!わかった。
乗降口で待ってるね!』
送信して、スマホを胸元に抱き寄せる。
ふっと息を吐くと、自然と椿の顔が浮かんだ。
(今日……椿くんと少し話せるかなー。)
窓の外では、春の光が校舎の壁に反射して、淡く揺れている。
その光を眺めながら、美羽は机の上に広げていた大学案内や就職雑誌へと視線を戻した。
ページをめくる指は、少しだけ重い。
そんなときだった。
「美羽ちゃん?」
その声は、図書室の静けさを壊さない、柔らかくて澄んだ響きだった。
美羽は顔をあげる。
そこに立っていたのは、黒薔薇の制服を着こなした青年――秋人。
「秋人くん?!」
驚きのあまり、瞬きを何度も繰り返してしまう。
「莉子に聞いてね。ここにいるって言ってたから。」
柔らかく笑うと、左右で色の違うオッドアイが、窓から差し込む光を映してきらりと輝いた。
その視線に、胸が小さく跳ねる。
(……やだ。なんでちょっとドキドキしてるのよ。)
美羽はその感情に気づいて、慌てて首を振った。
(秋人くん、なんでここに?!始業式から色々あったから…なんだかちょっと気まずいなぁ…)
心臓の奥が、ざわりと落ち着かない。
「そっか!秋人くんも調べものとか?」
そう言って、美羽は雑誌のページをめくりながら尋ねた。
「ん?いや、美羽ちゃんに会いたくて来たんだ。」
秋人はそう言いながら、何のためらいもなく美羽の隣の席に腰を下ろす。
その距離の近さに、空気が一段階だけ温度を上げた気がした。
「うえ!?」
思わず声が裏返る。
(もう!秋人くん、まぶしすぎるよ…留学ってこんなさらりとスマートなキャラになっちゃうの?!)
困惑する美羽の様子を見て、秋人はくすっと笑った。
「まぁ、半分は冗談で半分は本気…かな?」
机に肘をつき、顔を近づけて見つめてくる。
美羽の頬に、一気に熱が集まった。
「あ、秋人くん?!私、ちょっとそういうの…困るんだけど…。」
視線を逸らしながら、小さく抗議する。
「あはは、ごめんね。つい美羽ちゃんが可愛いくて意地悪しちゃうんだ。」
その言葉に、胸がまた跳ねる。
(だめだめだめ!これ以上は……!)
(こんな所で、秋人くんと二人きりだなんて…椿くんに後ろめたすぎるんだけど…!早く終わらして教室戻らなきゃ!)
焦りが、背中を押す。
そんな美羽の心情を知ってか知らずか、秋人は机の上の資料に目を落とした。
「あれ?美羽ちゃん何か進路で困ってるの?」
「え?あー、…そうなの!」
美羽は慌てて笑顔を作る。
「実はさっき、悠真くんと色々話してたんだけどね!全然これからの事とか考えてなくって…あはは、出遅れてるよね~!」
秋人は少しだけ目を見開いた。
「そっかぁ…こんな真っ直ぐな美羽ちゃんでも悩むんだねぇ。」
声のトーンが、ほんの少し落ち着く。
「もう俺達3年生だし焦っちゃうよね。」
その言葉は、不思議と美羽の気持ちに寄り添っていた。
「うん!そうなの…!」
美羽は思わず前のめりになる。
「将来何になりたいかって急に言われてもわからなくって…。」
そして、ふと思いついたように尋ねた。
「あ、秋人くんは将来の夢とかあるの?」
期待と、不安が入り混じった視線。
秋人はころころと表情を変える美羽を、面白そうに眺めていた。
「ん?そうだなぁ。」
少し考えるように視線を上げてから、にこりと笑う。
「色々海外で刺激も多かったし。なりたいものならたくさんあるかな。」
「国際的な仕事とか~まだ決めてはいないけど。」
その言葉を聞きながら、美羽は胸の奥が静かにざわめくのを感じていた。



