危険すぎる恋に、落ちてしまいました。3

図書室の窓から差し込む春の光は、柔らかくて、少しだけ眩しかった。

静かな空間に、紙をめくる音と、遠くの校庭から聞こえる笑い声が溶け合っている。

美羽は机の上に広げた資料を見つめながら、無意識にため息をついた。

その様子を、隣に座る悠真はじっと見ていた。


「ところで、美羽ちゃんは進路で調べものしてるんだよね?何か悩んでる感じ?」


その言葉に、美羽はびくっと肩を揺らす。

「うん、実はね…全くやりたいことが見つからなくって…。」

声が少しだけ小さくなり、視線がプリントへ落ちる。

その横顔が、やけに弱々しく見えて、悠真は胸の奥がきゅっとした。

(美羽ちゃん……守りたくなるような顔、するんだよなぁ。)

「そっかぁ~。まぁ、急に言われても難しいよね~。」

悠真はいつもの調子で、でもどこか優しく続ける。

「ゆっくりでいいんじゃない?僕は、そのままの美羽ちゃんが楽しくて、幸せでいてくれることが何よりだけどね~。」

その言葉に、美羽の目が少し潤む。

「悠真くん…ありがとう!急に進路希望の紙配られて、本当はかなり焦っちゃったの~」

「おやおや、大丈夫?美羽ちゃん!?」

悠真は大げさに身を乗り出す。

「そんなに焦る必要ないと思うけど~?まぁ、そうだね、何か好きなこととか、気になることから探すといいのかな。」

その真剣な声音に、美羽は少し驚きつつ、ぽつりと呟いた。

「楽しいことかぁ…私、いつの間にか莉子とか、黒薔薇のメンバーのみんなと一緒にいる事が楽しくって…あんまり先の事考えてなかったから…。」

困ったように眉を下げて笑う美羽。
悠真は思わず目を見開く。

「美羽ちゃん…」

「前はね、空手が大好きだったんだけど…色々あって、やめちゃったし。」

美羽の声は、過去を撫でるように静かだった。

「今やりたいことって特になくて…、あ!でもね、椿くんや、莉子、黒薔薇のみんなの支えになりたいって今は思うよ?けど、将来ってなったらぜーんぜん繋がらないというか…」

悠真は顎に手を当て、少し考える。

「そっかぁ…空手は試合にでないとっていうのがあるだろうしなぁ…?」

そして、にこっと笑った。

「でも美羽ちゃんが僕たちの事大事に思ってくれてるのは嬉しいよ!」

「ふふ、そうかな?」

美羽は照れたように笑う。

「なんかこう、人を支えたいというか…まぁ、単なる椿くんの隣で堂々としてたいだけなんだけどね!」

その瞬間、悠真は胸を押さえた。

「くぅ!ここで椿が出てくるのかぁ~悔しい…!」

そして、すぐに表情を緩める。

「けど、美羽ちゃんが相手を大切に思う気持ちはきっと未来に繋がっていくよ!」

「そ、そうかなぁ…?」

美羽は少し考えてから、ふっと微笑んだ。

「ふふ、ありがとう!」

その笑顔があまりにも可愛くて、悠真は思わず視線を逸らし、手元の資料をいじる。

「ねぇ、悠真くん。」

美羽が不意に声をかける。

「そういえば遼くんとか、碧くんとか、玲央くんとかも将来の事とか考えてたりするのかなー?」

「ん~、遼達?」

悠真は椅子に背を預け、天井を見上げる。

「遼は実家がアパレル会社だからねぇ~継ぐんじゃないかな?」

「碧は、空手があるから、オリンピックとか??」

「んー、玲央はパソコン得意だからITとかなんとか言ってた気がする~!」

「へぇー!」

美羽は目を輝かせる。

「みんなすごいなぁ~。そんなはっきりしてる感じなんだぁ。」

そして、ぽつりと付け足した。

「じゃぁ椿くんも決まってるのかなぁ~…」

悠真は少しだけ間を置いてから答えた。

「ん~、椿は家が北条グループの病院で、父さんは経営者しているから医療関係あたり?じゃないかな?」

「本人から聞いてないしわからないけどね。まぁ、椿のお兄さんは医者だからねぇ~。」

「椿の性格上、自分で道を切り開くタイプだから、すんなりと親のレール歩くようには見えないけどねぇ。」

その話を聞いた瞬間、美羽の頭が真っ白になる。

「ええ!椿くんのお父さんて、病院の経営者なの?!!」

魂が抜けたように、視線が明後日の方向へ飛んだ。

「す、凄い人なんだね…」

「み、美羽ちゃん?大丈夫?」

悠真が慌てて声をかける。

「う、うん…」

美羽は小さく頷きながら、心の中で思っていた。

(私、そんな人の息子の彼女になっちゃったの…?先が思いやられるんだけど…)

「まぁまぁ!」

悠真は場を和ませるように手を振る。

「周りのこと気にしてもしょうがないよ?!もちろん、僕は警察官になって美羽ちゃんの周りをパトロールするからね!」

ウインク付きだった。
その瞬間、悠真は図書室の時計が目に入る。

「あ、いけない!」

悠真は立ち上がり、

「そろそろ椿に資料もっていかなきゃ!」

そう言ってから、美羽の手をぎゅっと握る。

「美羽ちゃん、またゆっくり、椿と話してみるといいよ!」

「そんなに不安にならないで!ね?」

その温もりに、美羽は少しだけ安心する。

「うん…ありがとう、悠真くん。」

「じゃ、またねぇ~!」

悠真は軽やかに手を振り、図書室を駆けていった。
残された美羽は、窓の外を見る。

春の光が、ゆっくりと机の上を滑っていく。

(そういえば、椿くんと……将来のこと、ちゃんと話したことなかったなぁ。)


不安と期待が、胸の奥で混ざり合う。
まだ答えは見えない。

でも、確かに一歩ずつ、未来へ近づいている――
そんな予感だけが、静かな図書室に残っていた。