昼休みの廊下は、ざわざわとした音で満ちていた。
笑い声、足音、ロッカーの扉が閉まる音。
その中を、美羽はプリントを胸に抱えながら歩いていた。
(図書室……図書室……)
進路希望調査票。
空欄のままの第一志望欄が、やけに重く感じる。
そんな時だった。
「美羽ちゃーん!」
やけに明るく、よく通る声。
振り向いた瞬間、
アッシュブラウンの前髪がふわりと揺れ、
キラキラした笑顔が目に飛び込んできた。
「悠真くん!」
悠真は両手を広げる勢いで近づいてくる。
「昼休みに美羽ちゃんに会えるなんて、
僕はなんて幸せ者なんだろうねぇ!」
「大げさすぎだよ。」
美羽は苦笑いしながら聞く。
「ところで悠真くん、何してるの?」
悠真は人差し指を立て、得意げに言った。
「実はね、椿にちょっと資料集めを頼まれててさ。
まぁ、僕にしかできないこともあるから~?」
ドヤ顔だった。
美羽は一瞬間を置いてから、
「あはは。要するに――パシりなんだね。」
ぴしっ。
悠真は胸を押さえ、大げさに後ずさる。
「ひ、ひどい……!
でもそんな辛辣な美羽ちゃんも、可愛いよ……!」
ハンカチで目元を拭く仕草まで完璧だった。
「もう。」
美羽は笑ってから、ふと思いついたように言う。
「ねえ、悠真くんも図書室?」
「え?」
「私も行くとこなんだ。一緒に行こ?」
悠真の目が、きらっと光る。
「えっ、それって……
やっぱり僕たち運命なんじゃ――」
「はいはい、行くよ~。」
美羽はそのまま悠真の袖を掴み、歩き出した。
「み、美羽ちゃん!?
ちょっと大胆すぎない!?」
悠真は慌てつつも、どこか嬉しそうだった。
(もう、悠真くんたら。調子いいんだから。)
心の中で呆れつつ、
でもその軽やかさに、少し救われている自分もいた。
図書室に入ると、空気が一変する。
静けさと、紙の匂い。
大きな窓から、春の光が斜めに差し込んでいた。
「じゃあ僕、あっちのコーナー行ってくるね~!」
悠真は手をひらひらさせ、別の棚へ。
「うん、あとでね!」
美羽は頷き、
進路・進学コーナーへ向かった。
大学案内、専門誌、職業ガイド。
何冊も手に取り、窓際の席に積み上げる。
「うーん……」
ページをめくるたび、
期待と不安が交互に胸に浮かぶ。
(どれも違う気がする……でも、全部気になるしなぁ。)
ぶつぶつ独り言を言いながら読み進めていると、
いつの間にか、隣の椅子が引かれた。
「美羽ちゃん、すごく熱心だね。」
悠真だった。
「何を調べてるの~?」
美羽は少し迷ってから、正直に言った。
「うーん、……進路希望。」
そして、ふと思い出したように顔を上げる。
「ねえ、悠真くんって将来の夢とか、考えてる?」
悠真は一瞬きょとんとしてから、
ぱっと表情を明るくした。
「ああ!進路かぁ~♪
僕はね、警察官だよ!」
「えっ!?」
美羽は思わず声を上げる。
「警察官!?意外すぎる!」
「でしょー?」
悠真は胸を張る。
「この国の困ってる可愛い女の子を助けるんだ~♪」
ウインク付きだった。
「ちょっと待って。」
美羽はすかさず突っ込む。
「女の子“だけ”じゃだめだからね!?
みんな助けるの!」
「えぇ~?厳しいなぁ、美羽ちゃん。」
悠真は笑いながらも、少し照れたように頬を掻いた。
美羽は内心で、
(っていうか一応暴走族入ってるけど、それはセーフなの……?)
と突っ込みつつ、
「でも、警察官かぁ……」
ふっと微笑む。
「かっこいいね。悠真くんなら、なれる気がする。」
その瞬間。
窓から差し込む光が、
悠真と美羽を柔らかく包み込んだ。
悠真の目に映る美羽は、
春の光そのものみたいで――
思わず、胸がきゅっと鳴る。
「……でしょ?」
少し照れた声で悠真は言う。
「大人になってもさ、
美羽ちゃんを守れるって思うと、誇らしいな。」
美羽は、くすっと笑った。
「もう、ほんと調子いいんだから。」
でも、その言葉は嫌じゃなかった。
(悠真くんも、ちゃんと未来を見てるんだ。)
そう思うと、胸の奥が少し温かくなる。
進路の答えは、まだ見えない。
でも、こうして誰かの話を聞くたびに、
少しずつ、霧が晴れていく気がした。
「ありがとう、悠真くん。」
美羽はそう言って、もう一度プリントに目を落とした。
図書室の時計が、静かに時を刻む。
笑い声、足音、ロッカーの扉が閉まる音。
その中を、美羽はプリントを胸に抱えながら歩いていた。
(図書室……図書室……)
進路希望調査票。
空欄のままの第一志望欄が、やけに重く感じる。
そんな時だった。
「美羽ちゃーん!」
やけに明るく、よく通る声。
振り向いた瞬間、
アッシュブラウンの前髪がふわりと揺れ、
キラキラした笑顔が目に飛び込んできた。
「悠真くん!」
悠真は両手を広げる勢いで近づいてくる。
「昼休みに美羽ちゃんに会えるなんて、
僕はなんて幸せ者なんだろうねぇ!」
「大げさすぎだよ。」
美羽は苦笑いしながら聞く。
「ところで悠真くん、何してるの?」
悠真は人差し指を立て、得意げに言った。
「実はね、椿にちょっと資料集めを頼まれててさ。
まぁ、僕にしかできないこともあるから~?」
ドヤ顔だった。
美羽は一瞬間を置いてから、
「あはは。要するに――パシりなんだね。」
ぴしっ。
悠真は胸を押さえ、大げさに後ずさる。
「ひ、ひどい……!
でもそんな辛辣な美羽ちゃんも、可愛いよ……!」
ハンカチで目元を拭く仕草まで完璧だった。
「もう。」
美羽は笑ってから、ふと思いついたように言う。
「ねえ、悠真くんも図書室?」
「え?」
「私も行くとこなんだ。一緒に行こ?」
悠真の目が、きらっと光る。
「えっ、それって……
やっぱり僕たち運命なんじゃ――」
「はいはい、行くよ~。」
美羽はそのまま悠真の袖を掴み、歩き出した。
「み、美羽ちゃん!?
ちょっと大胆すぎない!?」
悠真は慌てつつも、どこか嬉しそうだった。
(もう、悠真くんたら。調子いいんだから。)
心の中で呆れつつ、
でもその軽やかさに、少し救われている自分もいた。
図書室に入ると、空気が一変する。
静けさと、紙の匂い。
大きな窓から、春の光が斜めに差し込んでいた。
「じゃあ僕、あっちのコーナー行ってくるね~!」
悠真は手をひらひらさせ、別の棚へ。
「うん、あとでね!」
美羽は頷き、
進路・進学コーナーへ向かった。
大学案内、専門誌、職業ガイド。
何冊も手に取り、窓際の席に積み上げる。
「うーん……」
ページをめくるたび、
期待と不安が交互に胸に浮かぶ。
(どれも違う気がする……でも、全部気になるしなぁ。)
ぶつぶつ独り言を言いながら読み進めていると、
いつの間にか、隣の椅子が引かれた。
「美羽ちゃん、すごく熱心だね。」
悠真だった。
「何を調べてるの~?」
美羽は少し迷ってから、正直に言った。
「うーん、……進路希望。」
そして、ふと思い出したように顔を上げる。
「ねえ、悠真くんって将来の夢とか、考えてる?」
悠真は一瞬きょとんとしてから、
ぱっと表情を明るくした。
「ああ!進路かぁ~♪
僕はね、警察官だよ!」
「えっ!?」
美羽は思わず声を上げる。
「警察官!?意外すぎる!」
「でしょー?」
悠真は胸を張る。
「この国の困ってる可愛い女の子を助けるんだ~♪」
ウインク付きだった。
「ちょっと待って。」
美羽はすかさず突っ込む。
「女の子“だけ”じゃだめだからね!?
みんな助けるの!」
「えぇ~?厳しいなぁ、美羽ちゃん。」
悠真は笑いながらも、少し照れたように頬を掻いた。
美羽は内心で、
(っていうか一応暴走族入ってるけど、それはセーフなの……?)
と突っ込みつつ、
「でも、警察官かぁ……」
ふっと微笑む。
「かっこいいね。悠真くんなら、なれる気がする。」
その瞬間。
窓から差し込む光が、
悠真と美羽を柔らかく包み込んだ。
悠真の目に映る美羽は、
春の光そのものみたいで――
思わず、胸がきゅっと鳴る。
「……でしょ?」
少し照れた声で悠真は言う。
「大人になってもさ、
美羽ちゃんを守れるって思うと、誇らしいな。」
美羽は、くすっと笑った。
「もう、ほんと調子いいんだから。」
でも、その言葉は嫌じゃなかった。
(悠真くんも、ちゃんと未来を見てるんだ。)
そう思うと、胸の奥が少し温かくなる。
進路の答えは、まだ見えない。
でも、こうして誰かの話を聞くたびに、
少しずつ、霧が晴れていく気がした。
「ありがとう、悠真くん。」
美羽はそう言って、もう一度プリントに目を落とした。
図書室の時計が、静かに時を刻む。



