春の風が、校庭の桜を揺らしていた。
今や貸し切りの黒薔薇学園の中庭には、見慣れた顔ぶれが集まっている。
ただし、少しだけ――全員が大人になっていた。
「ちょっと椿!新郎なのに無愛想すぎない?!」
「写真なんだから、もうちょい笑えって!」
悠真が腕をぶんぶん振り回しながら叫ぶと、
椿はため息をついてネクタイを直した。
「悠真うるせぇ。これが通常運転だろ」
「通常運転で結婚式やるなよ~!」
「ねぇ美羽ちゃん、こんな旦那でほんとに大丈夫なの?!」
「大丈夫だから選んだんだろ」
すかさず入るのは、眼鏡をかけた玲央。
相変わらず冷静で、相変わらず場をよく見ている。
「椿が笑わない確率は、統計的にも想定内だ」 「むしろ、雨宮美羽が隣にいる時点で奇跡だろう」
「ちょっと玲央くんん!?それフォローになってないから!」
美羽はウェディングドレスの裾を軽く持ち上げながら、ぷんっと頬を膨らませる。
白いドレスに、雪の結晶のネックレス。
左手の薬指には、新しい指輪が光っていた。
「美羽、こっち向いて~!」
莉子がカメラを構えて駆け寄ってくる。
隣には、すっかり“彼氏の顔”になった遼。
「はいはい、笑って笑って~!」
「新郎新婦、もっとくっつきなよ~?」
「遼、莉子と距離感近すぎねぇ?」
椿が訝しげにチラリとみて、遼は肩をすくめて笑った。
「え?もう今さらでしょ」
「俺、正式に秋人くんの“義理の弟ポジ”だし?」
「は?なんだそれ、聞いてねぇぞ」
「今決めた~」
「決めんなよ」
そのやり取りに、
碧が大きくうなずきながら感動している。
「素晴らしいです……!」
「愛と友情と筋肉が、すべて揃っています!」
「最後の一個いらないからね、碧くん!」
美羽が即ツッコミを入れると、
碧は「えっ」とショックを受けながらも腹筋を始めた。
「ですが!感情が高ぶると、どうしても筋肉が反応するんです……!」
「反応すんな」
一歩離れた場所で、
その光景を静かに眺めている人物がいた。
白衣ではなく、今日はきちんとしたスーツ姿で
ゆっくりと歩いてくる秋人だった。
「……本当に、来たんだな。この日が」
ぽつりと呟くと、
美羽が振り返り、ぱっと笑顔になる。
「秋人くんっ!来てくれてありがとう!」
「ははっ、来ない理由ないでしょ?」
そう言って、少し照れたように笑う。
「それに……ちゃんと見届けないとね」
椿が一歩前に出て、秋人に拳を差し出した。
「……ありがとな秋人」
短い言葉だったけれど、
そこには四年分以上の想いが詰まっていた。
秋人は一瞬目を見開き、それから拳を合わせる。
「どういたしまして。幸せにしなよ、椿」
「当たり前だ」
美羽は、その二人を見て、胸がじんとする。
(ちゃんと、ここまで来たんだ)
黒薔薇学園で出会って、
ぶつかって、迷って、泣いて、笑って。
恋も、友情も、夢も、
誰一人欠けることなく、今ここにある。
「――はい!じゃあ集合写真いくよー!」
悠真の声で、全員が集まる。
椿と美羽を中心に、
黒薔薇メンバー、莉子、秋人。
誰かが誰かの肩に腕を回し、
誰かが笑い、誰かが照れている。
「いくよー!」
「せーの!」
シャッターが切られた、その瞬間。
桜の花びらが、風に舞い上がった。
まるで祝福するみたいに。
椿は、美羽の手を強く握った。
「これからもよろしくな、美羽」
「椿くん…うん!こちらこそ!」
美羽は、笑って頷いた。
黒薔薇学園は、今日もあの頃変わらず続いている。
少し形を変えながら、それでも確かに、ここ戻ってきていた。
――物語は終わる。
けれど、彼らの人生は、ここからだ。
fin.
今や貸し切りの黒薔薇学園の中庭には、見慣れた顔ぶれが集まっている。
ただし、少しだけ――全員が大人になっていた。
「ちょっと椿!新郎なのに無愛想すぎない?!」
「写真なんだから、もうちょい笑えって!」
悠真が腕をぶんぶん振り回しながら叫ぶと、
椿はため息をついてネクタイを直した。
「悠真うるせぇ。これが通常運転だろ」
「通常運転で結婚式やるなよ~!」
「ねぇ美羽ちゃん、こんな旦那でほんとに大丈夫なの?!」
「大丈夫だから選んだんだろ」
すかさず入るのは、眼鏡をかけた玲央。
相変わらず冷静で、相変わらず場をよく見ている。
「椿が笑わない確率は、統計的にも想定内だ」 「むしろ、雨宮美羽が隣にいる時点で奇跡だろう」
「ちょっと玲央くんん!?それフォローになってないから!」
美羽はウェディングドレスの裾を軽く持ち上げながら、ぷんっと頬を膨らませる。
白いドレスに、雪の結晶のネックレス。
左手の薬指には、新しい指輪が光っていた。
「美羽、こっち向いて~!」
莉子がカメラを構えて駆け寄ってくる。
隣には、すっかり“彼氏の顔”になった遼。
「はいはい、笑って笑って~!」
「新郎新婦、もっとくっつきなよ~?」
「遼、莉子と距離感近すぎねぇ?」
椿が訝しげにチラリとみて、遼は肩をすくめて笑った。
「え?もう今さらでしょ」
「俺、正式に秋人くんの“義理の弟ポジ”だし?」
「は?なんだそれ、聞いてねぇぞ」
「今決めた~」
「決めんなよ」
そのやり取りに、
碧が大きくうなずきながら感動している。
「素晴らしいです……!」
「愛と友情と筋肉が、すべて揃っています!」
「最後の一個いらないからね、碧くん!」
美羽が即ツッコミを入れると、
碧は「えっ」とショックを受けながらも腹筋を始めた。
「ですが!感情が高ぶると、どうしても筋肉が反応するんです……!」
「反応すんな」
一歩離れた場所で、
その光景を静かに眺めている人物がいた。
白衣ではなく、今日はきちんとしたスーツ姿で
ゆっくりと歩いてくる秋人だった。
「……本当に、来たんだな。この日が」
ぽつりと呟くと、
美羽が振り返り、ぱっと笑顔になる。
「秋人くんっ!来てくれてありがとう!」
「ははっ、来ない理由ないでしょ?」
そう言って、少し照れたように笑う。
「それに……ちゃんと見届けないとね」
椿が一歩前に出て、秋人に拳を差し出した。
「……ありがとな秋人」
短い言葉だったけれど、
そこには四年分以上の想いが詰まっていた。
秋人は一瞬目を見開き、それから拳を合わせる。
「どういたしまして。幸せにしなよ、椿」
「当たり前だ」
美羽は、その二人を見て、胸がじんとする。
(ちゃんと、ここまで来たんだ)
黒薔薇学園で出会って、
ぶつかって、迷って、泣いて、笑って。
恋も、友情も、夢も、
誰一人欠けることなく、今ここにある。
「――はい!じゃあ集合写真いくよー!」
悠真の声で、全員が集まる。
椿と美羽を中心に、
黒薔薇メンバー、莉子、秋人。
誰かが誰かの肩に腕を回し、
誰かが笑い、誰かが照れている。
「いくよー!」
「せーの!」
シャッターが切られた、その瞬間。
桜の花びらが、風に舞い上がった。
まるで祝福するみたいに。
椿は、美羽の手を強く握った。
「これからもよろしくな、美羽」
「椿くん…うん!こちらこそ!」
美羽は、笑って頷いた。
黒薔薇学園は、今日もあの頃変わらず続いている。
少し形を変えながら、それでも確かに、ここ戻ってきていた。
――物語は終わる。
けれど、彼らの人生は、ここからだ。
fin.



