空港は、相変わらず人で溢れかえっていた。
スーツケースの転がる音、アナウンスの声、行き交う人々のざわめき。
すべてが重なり合い、まるで世界そのものが忙しなく動いているようだった。
美羽は、その喧騒の中に立っていた。
(……ここだ)
四年前。
空港で、がらの悪い連中に絡まれ、
必死に戦って、
泣いて、笑って、
そして――椿と「別れ」を交わした場所。
(また、ここに来ちゃったんだ)
胸の奥が、じんわりと熱くなる。
美羽は1階の広場を見渡し、
人混みの中から“椿らしき姿”を必死に探した。
「……いない」
背の高い人影、スーツ姿、黒髪。
似たような人はいくらでもいるのに、
“その人”だけが見つからない。
(人、多すぎ……)
少し焦りが混じった、そのとき。
――ピロン。
スマホが震えた。
画面には、見慣れすぎた名前。
【椿】
『美羽、俺は今着いた。どこだ?』
(……っ)
心臓が跳ねる。
「や、やば……」
指先が少し震えながら、返信を打とうとする。
けれど、人の流れが激しくて、肩がぶつかりそうになる。
「す、すみません……」
避けながら文字を打とうとした、その瞬間。
――ドンッ。
「わっ!?」
強く誰かとぶつかり、
手に持っていたスマホが、すぽん、と宙を舞った。
「……あ!」
カン、カン、と床を滑りながら、
スマホは人混みの向こうへ飛んでいく。
「私のスマホがぁ!!」
美羽は慌てて人の波をかき分け、走った。
(待って、待って……!)
その時だった。
人混みの先で、
ひとりの男性が屈み込み、床に落ちたスマホを拾い上げる。
「あ……!」
美羽は息を切らしながら駆け寄った。
「すみません!そのスマホ、私のなんです!」
男性は、ゆっくり顔を上げた。
「……はい」
差し出されたスマホ。
それを受け取ろうとした、その一瞬。
美羽の視界が、止まった。
(……え)
整った輪郭。
少し大人びた、落ち着いた雰囲気。
紺のスーツをさらりと着こなし、
長めの黒髪を色気のあるかきあげバングにしている。
(……なに、この人)
胸が、どくん、と鳴る。
(すっごい……イケメンなんだけど……)
思わず、まじまじと見てしまう。
(え、ていうか……椿くんより……イケメン……かも……)
――はっ。
(ち、ちがう!!)
一瞬で羞恥心が込み上げる。
(何考えてんの、私ったら!!)
慌ててスマホを受け取り、ぺこりと頭を下げた。
「ひ、拾っていただいてありがとうございます!」 「ごめんなさい、私ちょっと急いでるので……失礼します!」
早口でそう言い、
男性の横を通り過ぎた、その瞬間。
低く、よく知った声が、背中にかかった。
「――俺の他に、誰に会いに行くんだ?美羽」
……え?
美羽の足が、ぴたりと止まる。
ゆっくり、ゆっくりと振り返る。
そして――
視線が、男性の胸元に止まった。
青とシルバーが混ざり合った、
どこか見覚えのあるネクタイピン。
(……あ)
喉が、ひゅっと鳴る。
「……え……」
視界が、滲んでいく。
「もしかして……椿……くん……?」
男性は、くすりと笑った。
「何だ?俺の顔、忘れたのか?」
その笑顔。
その声。
――間違いない。
四年前、この場所で愛の別れをした人。
「……っ!」
次の瞬間、美羽は泣きながら走り出していた。
「……椿くん!!」
勢いよく抱きつくと、
椿は驚きながらも、すぐに腕を回す。
「……ただいま、美羽」
その一言に、
美羽の涙腺は完全に崩壊した。
「おかえり……っおかえり!!……椿くん……!」
顔を埋めたまま、声が震える。
「気付かなくて……ごめんなさい……!」
椿は、あの頃と変わらない、優しい笑顔で言った。
「俺もだよ。美羽、綺麗になってたから一瞬わからなかった」
そう言って、美羽の首元に視線を落とす。
「……でも、このネックレスでピンときた」
美羽は、はにかみながら顔を上げる。
「……椿くんも、そのネクタイピン……似合ってるよ。すごく……かっこいいね」
椿は少し照れたように笑った。
「さんきゅ」
人混みの中で、
ふたりはぎゅっと抱き合ったまま、離れなかった。
四年分の時間も、
不安も、寂しさも、
全部――この瞬間に溶けていく。
空港のざわめきが、
まるで遠い世界の音のように感じられた。
スーツケースの転がる音、アナウンスの声、行き交う人々のざわめき。
すべてが重なり合い、まるで世界そのものが忙しなく動いているようだった。
美羽は、その喧騒の中に立っていた。
(……ここだ)
四年前。
空港で、がらの悪い連中に絡まれ、
必死に戦って、
泣いて、笑って、
そして――椿と「別れ」を交わした場所。
(また、ここに来ちゃったんだ)
胸の奥が、じんわりと熱くなる。
美羽は1階の広場を見渡し、
人混みの中から“椿らしき姿”を必死に探した。
「……いない」
背の高い人影、スーツ姿、黒髪。
似たような人はいくらでもいるのに、
“その人”だけが見つからない。
(人、多すぎ……)
少し焦りが混じった、そのとき。
――ピロン。
スマホが震えた。
画面には、見慣れすぎた名前。
【椿】
『美羽、俺は今着いた。どこだ?』
(……っ)
心臓が跳ねる。
「や、やば……」
指先が少し震えながら、返信を打とうとする。
けれど、人の流れが激しくて、肩がぶつかりそうになる。
「す、すみません……」
避けながら文字を打とうとした、その瞬間。
――ドンッ。
「わっ!?」
強く誰かとぶつかり、
手に持っていたスマホが、すぽん、と宙を舞った。
「……あ!」
カン、カン、と床を滑りながら、
スマホは人混みの向こうへ飛んでいく。
「私のスマホがぁ!!」
美羽は慌てて人の波をかき分け、走った。
(待って、待って……!)
その時だった。
人混みの先で、
ひとりの男性が屈み込み、床に落ちたスマホを拾い上げる。
「あ……!」
美羽は息を切らしながら駆け寄った。
「すみません!そのスマホ、私のなんです!」
男性は、ゆっくり顔を上げた。
「……はい」
差し出されたスマホ。
それを受け取ろうとした、その一瞬。
美羽の視界が、止まった。
(……え)
整った輪郭。
少し大人びた、落ち着いた雰囲気。
紺のスーツをさらりと着こなし、
長めの黒髪を色気のあるかきあげバングにしている。
(……なに、この人)
胸が、どくん、と鳴る。
(すっごい……イケメンなんだけど……)
思わず、まじまじと見てしまう。
(え、ていうか……椿くんより……イケメン……かも……)
――はっ。
(ち、ちがう!!)
一瞬で羞恥心が込み上げる。
(何考えてんの、私ったら!!)
慌ててスマホを受け取り、ぺこりと頭を下げた。
「ひ、拾っていただいてありがとうございます!」 「ごめんなさい、私ちょっと急いでるので……失礼します!」
早口でそう言い、
男性の横を通り過ぎた、その瞬間。
低く、よく知った声が、背中にかかった。
「――俺の他に、誰に会いに行くんだ?美羽」
……え?
美羽の足が、ぴたりと止まる。
ゆっくり、ゆっくりと振り返る。
そして――
視線が、男性の胸元に止まった。
青とシルバーが混ざり合った、
どこか見覚えのあるネクタイピン。
(……あ)
喉が、ひゅっと鳴る。
「……え……」
視界が、滲んでいく。
「もしかして……椿……くん……?」
男性は、くすりと笑った。
「何だ?俺の顔、忘れたのか?」
その笑顔。
その声。
――間違いない。
四年前、この場所で愛の別れをした人。
「……っ!」
次の瞬間、美羽は泣きながら走り出していた。
「……椿くん!!」
勢いよく抱きつくと、
椿は驚きながらも、すぐに腕を回す。
「……ただいま、美羽」
その一言に、
美羽の涙腺は完全に崩壊した。
「おかえり……っおかえり!!……椿くん……!」
顔を埋めたまま、声が震える。
「気付かなくて……ごめんなさい……!」
椿は、あの頃と変わらない、優しい笑顔で言った。
「俺もだよ。美羽、綺麗になってたから一瞬わからなかった」
そう言って、美羽の首元に視線を落とす。
「……でも、このネックレスでピンときた」
美羽は、はにかみながら顔を上げる。
「……椿くんも、そのネクタイピン……似合ってるよ。すごく……かっこいいね」
椿は少し照れたように笑った。
「さんきゅ」
人混みの中で、
ふたりはぎゅっと抱き合ったまま、離れなかった。
四年分の時間も、
不安も、寂しさも、
全部――この瞬間に溶けていく。
空港のざわめきが、
まるで遠い世界の音のように感じられた。



