朝の光が、カーテンの隙間から静かに差し込んでいた。
冬を越え、春に近づいた空気は、どこか柔らかくて澄んでいる。
美羽は鏡の前に立ち、深呼吸をひとつした。
鏡に映るのは、もう制服を着ていた頃の少女ではない。
白いブラウスに、淡い花柄のフレアスカート。
揺れる裾が、少しだけ大人になった時間を語っている。
首元には――
高校三年のクリスマス。
あのイルミネーションの下で、椿がくれた雪の結晶のネックレス。
きらり、と朝の光を受けて輝いた。
「……まだ、こんなに綺麗」
指先でそっと触れる。
そして、左手の薬指。
四年間、何度も見つめてきたお揃いの指輪。
忙しい日も、不安な夜も、
この指輪がそこにあるだけで、
「待ってる時間」が「信じる時間」に変わった。
「……よし」
美羽は鏡の中の自分に、にっこり笑いかけた。
「メイクもオッケー!よし、行こっ」
階段を降りると、リビングから不穏な気配が漂ってくる。
……ぴちょん。
嫌な予感がして、そっと覗くと。
「……うぅ……」
囲碁雑誌を開いたまま、
涙で紙をふやかしている父・優聖の姿があった。
「パ、パパ……?」
「……美羽ぇ……」
振り返った父の目は、すでに真っ赤。
「とうとう……とうとう美羽の彼ピが……」
「帰ってくるんだなぁああ……!!」
「いやいや、そこだけ彼ピ言うのやめてよ」
美羽は即ツッコミを入れる。
「パパの人生、涙腺崩壊イベント多すぎだろぉおお!!」
「囲碁雑誌濡らさないでよ!!」
「だってぇ……!」
優聖は雑誌を抱きしめる。
「パパ、まだ心の準備がぁ……」
「美羽、パパを置いて行かないでくれぇえ……」
「置いてかないから!!」
美羽は靴を履きながら叫ぶ。
「もう、行ってきます!!」
「美羽ぇえええ!!」
玄関の向こうで、父の絶叫が響いた。
その横で、キッチンからのんびり声が飛んでくる。
「……あらぁ」
美羽の母は、コーヒーを飲みながらにこにこしていた。
「そろそろゼクスィの雑誌、集めとかなきゃよねぇ~」
「な!!?」
父の顔色が、一瞬で真っ白になる。
「ゼ、ゼクスィだとぉぉおお!?」
「早すぎる!!」
「まだ!まだパパは心の準備がぁああ!!」
「準備する気はあるのね」
母はさらっと追撃する。
「だって指輪してるし~?」
「ネックレスも彼からだし~?」
「ねぇ、美羽?」
美羽は玄関で立ち止まり、少し照れたように笑った。
「……えへ」
「もう、ママまで!!」
優聖は頭を抱える。
「パパ、今日仕事休んでいい……?」
「勝手にしなよもう」
美羽は振り返り、玄関のドアを開けた。
「じゃ、行ってきまーす!」
春の風が、ふわりと頬を撫でる。
外に出ると、空はどこまでも高く、青かった。
「……椿くん」
胸の奥が、ぎゅっとなる。
四年分の時間。
四年分の想い。
待った日々も、寂しかった夜も、全部。
「……やっと、会える」
美羽は指輪にそっと触れ、歩き出した。
冬を越え、春に近づいた空気は、どこか柔らかくて澄んでいる。
美羽は鏡の前に立ち、深呼吸をひとつした。
鏡に映るのは、もう制服を着ていた頃の少女ではない。
白いブラウスに、淡い花柄のフレアスカート。
揺れる裾が、少しだけ大人になった時間を語っている。
首元には――
高校三年のクリスマス。
あのイルミネーションの下で、椿がくれた雪の結晶のネックレス。
きらり、と朝の光を受けて輝いた。
「……まだ、こんなに綺麗」
指先でそっと触れる。
そして、左手の薬指。
四年間、何度も見つめてきたお揃いの指輪。
忙しい日も、不安な夜も、
この指輪がそこにあるだけで、
「待ってる時間」が「信じる時間」に変わった。
「……よし」
美羽は鏡の中の自分に、にっこり笑いかけた。
「メイクもオッケー!よし、行こっ」
階段を降りると、リビングから不穏な気配が漂ってくる。
……ぴちょん。
嫌な予感がして、そっと覗くと。
「……うぅ……」
囲碁雑誌を開いたまま、
涙で紙をふやかしている父・優聖の姿があった。
「パ、パパ……?」
「……美羽ぇ……」
振り返った父の目は、すでに真っ赤。
「とうとう……とうとう美羽の彼ピが……」
「帰ってくるんだなぁああ……!!」
「いやいや、そこだけ彼ピ言うのやめてよ」
美羽は即ツッコミを入れる。
「パパの人生、涙腺崩壊イベント多すぎだろぉおお!!」
「囲碁雑誌濡らさないでよ!!」
「だってぇ……!」
優聖は雑誌を抱きしめる。
「パパ、まだ心の準備がぁ……」
「美羽、パパを置いて行かないでくれぇえ……」
「置いてかないから!!」
美羽は靴を履きながら叫ぶ。
「もう、行ってきます!!」
「美羽ぇえええ!!」
玄関の向こうで、父の絶叫が響いた。
その横で、キッチンからのんびり声が飛んでくる。
「……あらぁ」
美羽の母は、コーヒーを飲みながらにこにこしていた。
「そろそろゼクスィの雑誌、集めとかなきゃよねぇ~」
「な!!?」
父の顔色が、一瞬で真っ白になる。
「ゼ、ゼクスィだとぉぉおお!?」
「早すぎる!!」
「まだ!まだパパは心の準備がぁああ!!」
「準備する気はあるのね」
母はさらっと追撃する。
「だって指輪してるし~?」
「ネックレスも彼からだし~?」
「ねぇ、美羽?」
美羽は玄関で立ち止まり、少し照れたように笑った。
「……えへ」
「もう、ママまで!!」
優聖は頭を抱える。
「パパ、今日仕事休んでいい……?」
「勝手にしなよもう」
美羽は振り返り、玄関のドアを開けた。
「じゃ、行ってきまーす!」
春の風が、ふわりと頬を撫でる。
外に出ると、空はどこまでも高く、青かった。
「……椿くん」
胸の奥が、ぎゅっとなる。
四年分の時間。
四年分の想い。
待った日々も、寂しかった夜も、全部。
「……やっと、会える」
美羽は指輪にそっと触れ、歩き出した。



