危険すぎる恋に、落ちてしまいました。3

あれから月日は流れていった。


4年後——*



体育館に、軽快な足音が響いている。

床を蹴るスニーカーの「キュッ」と鳴る摩擦音、ボールが弾む乾いた音、笑い声と息遣いが混ざり合う。

「パス!パスだってば!」
「うわ、速っ!」

そこへ——

「ピーーーッ!!」

澄んだ笛の音が、空気を一気に引き締めた。

「はーい、そこまで!みんな集まってー!」


声の主は、ポニーテールを高く結んだジャージ姿の若い女性教師。

新任教師、雨宮美羽・23歳。

高校生だった頃より、ぐんと大人びて。
誰もが振り向く可愛い系美人に変身していた。

それでも、笑うと変わらない無邪気さを残したまま。

「これからチーム戦をやるよ!」
「今から言う番号でグループ分けするから、ちゃんと聞いてねー!」

その瞬間。

「え~美羽先生!俺もう疲れたんだけど!休憩しよーよー!」

男子生徒が、わざとらしく床に寝転ぶ。

「ちょっと、こーらっ!」

美羽は腰に手を当て、ぷん、と頬を膨らませた。

「まだ始まったばっかりでしょ~?」
「ちゃんと動かないと、あとで後悔するよっ?」

——その姿が、すでに可愛い。

「やば……」
「美羽先生、怒っても天使じゃん……」


別の男子が小声で呟く。

「てかさ、ポニテ反則じゃね?」

「今日も美羽先生、ビジュ良すぎだろ……」

「……聞こえてるからね?」

美羽がじとっと睨むと、

「ひっ!」
「す、すみませ~ん!!」

即座に背筋が伸びる。

「それと!」

美羽は指を立てる。

「先生を“ちゃん”付けは禁止です!」
「せめて“先生”をつけなさい!」

「はーい、美羽ちゃん~!」

……訂正されていない。

「もう……」

ため息をつきつつも、美羽はどこか楽しそうだった。
一方、コートの隅では女子生徒たちが集まっている。

「ねえ見て!美羽先生、今日のポニテ、神じゃない?」

「分かる!エモすぎだよね!」

「てかネイル可愛くない?どこのかなぁ!?」

「こら、そこの女子~!あとで教えるから、今は準備運動ね!」

「「「「「はーい♡」」」」」

完全にファンクラブ状態だった。
そのとき。

体育館の扉が、静かに開く。

「おーい、君たち?」

少し低めで、落ち着いた声。

白衣を羽織った長身のどこかでみたことのある
オッドアイのイケメン男性が、ゆったりと歩いてきた。

「美羽先生、困ってるでしょ?ちゃんと授業、受けなよ?」

——実は保健室の先生をしている、高城秋人だった。

その瞬間。

「「「「「きゃーーーーっ!!」」」」」

「秋ちゃんだ!!」
「無理!目あった!!」
「高城せんせー!!」
「秋人せんせぇ、カッコいいー!!」

体育館が一段階、うるさくなる。

「秋人先生、今日もイケメンすぎ……!」
「もう授業どころじゃないんだけど……!」

美羽はこめかみを押さえた。

「……秋人せんせ~?」
「余計に授業にならないんですけど~?」

じとーっと睨む。
秋人はくすっと笑い、美羽の方へ歩み寄る。

「ごめんごめん。通りかかったら、なんだか騒がしかったから」

ふと、美羽の腕を見る。

「あれ?美羽先生、肘……青あざできてるよ?」

「え?」

美羽は自分の腕を見る。

「……あ、ほんとだ!」
「さっき転んだ時かな~?」

秋人は自然に距離を詰め、低い声で囁く。


「あとで保健室、来てくれるよね?ちゃんと俺が診てあげるね。」

その距離感、その笑顔。

「「「きゃーーーー!!!」」」
「近い近い!!」
「美羽先生と秋人先生、絶対付き合ってるでしょ!!」


「もう、違うってば!!」

美羽は真っ赤になって叫ぶ。

「そんなんじゃないから!ほら!さっさと試合始めるよ!」

「え~!」
「続き気になる~!」

「聞こえてるわよ!?」

秋人は肩をすくめ、楽しそうに笑った。


「じゃあ、俺はこれで。頑張ってね、美羽先生?」

「……ほんと、やめてくださーい」

そう言いながらも、目が合うと、二人は自然に笑っていた。


——四年経っても変わらない、この距離感。
——変わったのは立場だけ。


体育館の天井から差し込む光が、春の埃をきらきらと照らす。

今日も黒薔薇学園は、騒がしくて、あたたかい。