あれから月日は流れていった。
4年後——*
体育館に、軽快な足音が響いている。
床を蹴るスニーカーの「キュッ」と鳴る摩擦音、ボールが弾む乾いた音、笑い声と息遣いが混ざり合う。
「パス!パスだってば!」
「うわ、速っ!」
そこへ——
「ピーーーッ!!」
澄んだ笛の音が、空気を一気に引き締めた。
「はーい、そこまで!みんな集まってー!」
声の主は、ポニーテールを高く結んだジャージ姿の若い女性教師。
新任教師、雨宮美羽・23歳。
高校生だった頃より、ぐんと大人びて。
誰もが振り向く可愛い系美人に変身していた。
それでも、笑うと変わらない無邪気さを残したまま。
「これからチーム戦をやるよ!」
「今から言う番号でグループ分けするから、ちゃんと聞いてねー!」
その瞬間。
「え~美羽先生!俺もう疲れたんだけど!休憩しよーよー!」
男子生徒が、わざとらしく床に寝転ぶ。
「ちょっと、こーらっ!」
美羽は腰に手を当て、ぷん、と頬を膨らませた。
「まだ始まったばっかりでしょ~?」
「ちゃんと動かないと、あとで後悔するよっ?」
——その姿が、すでに可愛い。
「やば……」
「美羽先生、怒っても天使じゃん……」
別の男子が小声で呟く。
「てかさ、ポニテ反則じゃね?」
「今日も美羽先生、ビジュ良すぎだろ……」
「……聞こえてるからね?」
美羽がじとっと睨むと、
「ひっ!」
「す、すみませ~ん!!」
即座に背筋が伸びる。
「それと!」
美羽は指を立てる。
「先生を“ちゃん”付けは禁止です!」
「せめて“先生”をつけなさい!」
「はーい、美羽ちゃん~!」
……訂正されていない。
「もう……」
ため息をつきつつも、美羽はどこか楽しそうだった。
一方、コートの隅では女子生徒たちが集まっている。
「ねえ見て!美羽先生、今日のポニテ、神じゃない?」
「分かる!エモすぎだよね!」
「てかネイル可愛くない?どこのかなぁ!?」
「こら、そこの女子~!あとで教えるから、今は準備運動ね!」
「「「「「はーい♡」」」」」
完全にファンクラブ状態だった。
そのとき。
体育館の扉が、静かに開く。
「おーい、君たち?」
少し低めで、落ち着いた声。
白衣を羽織った長身のどこかでみたことのある
オッドアイのイケメン男性が、ゆったりと歩いてきた。
「美羽先生、困ってるでしょ?ちゃんと授業、受けなよ?」
——実は保健室の先生をしている、高城秋人だった。
その瞬間。
「「「「「きゃーーーーっ!!」」」」」
「秋ちゃんだ!!」
「無理!目あった!!」
「高城せんせー!!」
「秋人せんせぇ、カッコいいー!!」
体育館が一段階、うるさくなる。
「秋人先生、今日もイケメンすぎ……!」
「もう授業どころじゃないんだけど……!」
美羽はこめかみを押さえた。
「……秋人せんせ~?」
「余計に授業にならないんですけど~?」
じとーっと睨む。
秋人はくすっと笑い、美羽の方へ歩み寄る。
「ごめんごめん。通りかかったら、なんだか騒がしかったから」
ふと、美羽の腕を見る。
「あれ?美羽先生、肘……青あざできてるよ?」
「え?」
美羽は自分の腕を見る。
「……あ、ほんとだ!」
「さっき転んだ時かな~?」
秋人は自然に距離を詰め、低い声で囁く。
「あとで保健室、来てくれるよね?ちゃんと俺が診てあげるね。」
その距離感、その笑顔。
「「「きゃーーーー!!!」」」
「近い近い!!」
「美羽先生と秋人先生、絶対付き合ってるでしょ!!」
「もう、違うってば!!」
美羽は真っ赤になって叫ぶ。
「そんなんじゃないから!ほら!さっさと試合始めるよ!」
「え~!」
「続き気になる~!」
「聞こえてるわよ!?」
秋人は肩をすくめ、楽しそうに笑った。
「じゃあ、俺はこれで。頑張ってね、美羽先生?」
「……ほんと、やめてくださーい」
そう言いながらも、目が合うと、二人は自然に笑っていた。
——四年経っても変わらない、この距離感。
——変わったのは立場だけ。
体育館の天井から差し込む光が、春の埃をきらきらと照らす。
今日も黒薔薇学園は、騒がしくて、あたたかい。
4年後——*
体育館に、軽快な足音が響いている。
床を蹴るスニーカーの「キュッ」と鳴る摩擦音、ボールが弾む乾いた音、笑い声と息遣いが混ざり合う。
「パス!パスだってば!」
「うわ、速っ!」
そこへ——
「ピーーーッ!!」
澄んだ笛の音が、空気を一気に引き締めた。
「はーい、そこまで!みんな集まってー!」
声の主は、ポニーテールを高く結んだジャージ姿の若い女性教師。
新任教師、雨宮美羽・23歳。
高校生だった頃より、ぐんと大人びて。
誰もが振り向く可愛い系美人に変身していた。
それでも、笑うと変わらない無邪気さを残したまま。
「これからチーム戦をやるよ!」
「今から言う番号でグループ分けするから、ちゃんと聞いてねー!」
その瞬間。
「え~美羽先生!俺もう疲れたんだけど!休憩しよーよー!」
男子生徒が、わざとらしく床に寝転ぶ。
「ちょっと、こーらっ!」
美羽は腰に手を当て、ぷん、と頬を膨らませた。
「まだ始まったばっかりでしょ~?」
「ちゃんと動かないと、あとで後悔するよっ?」
——その姿が、すでに可愛い。
「やば……」
「美羽先生、怒っても天使じゃん……」
別の男子が小声で呟く。
「てかさ、ポニテ反則じゃね?」
「今日も美羽先生、ビジュ良すぎだろ……」
「……聞こえてるからね?」
美羽がじとっと睨むと、
「ひっ!」
「す、すみませ~ん!!」
即座に背筋が伸びる。
「それと!」
美羽は指を立てる。
「先生を“ちゃん”付けは禁止です!」
「せめて“先生”をつけなさい!」
「はーい、美羽ちゃん~!」
……訂正されていない。
「もう……」
ため息をつきつつも、美羽はどこか楽しそうだった。
一方、コートの隅では女子生徒たちが集まっている。
「ねえ見て!美羽先生、今日のポニテ、神じゃない?」
「分かる!エモすぎだよね!」
「てかネイル可愛くない?どこのかなぁ!?」
「こら、そこの女子~!あとで教えるから、今は準備運動ね!」
「「「「「はーい♡」」」」」
完全にファンクラブ状態だった。
そのとき。
体育館の扉が、静かに開く。
「おーい、君たち?」
少し低めで、落ち着いた声。
白衣を羽織った長身のどこかでみたことのある
オッドアイのイケメン男性が、ゆったりと歩いてきた。
「美羽先生、困ってるでしょ?ちゃんと授業、受けなよ?」
——実は保健室の先生をしている、高城秋人だった。
その瞬間。
「「「「「きゃーーーーっ!!」」」」」
「秋ちゃんだ!!」
「無理!目あった!!」
「高城せんせー!!」
「秋人せんせぇ、カッコいいー!!」
体育館が一段階、うるさくなる。
「秋人先生、今日もイケメンすぎ……!」
「もう授業どころじゃないんだけど……!」
美羽はこめかみを押さえた。
「……秋人せんせ~?」
「余計に授業にならないんですけど~?」
じとーっと睨む。
秋人はくすっと笑い、美羽の方へ歩み寄る。
「ごめんごめん。通りかかったら、なんだか騒がしかったから」
ふと、美羽の腕を見る。
「あれ?美羽先生、肘……青あざできてるよ?」
「え?」
美羽は自分の腕を見る。
「……あ、ほんとだ!」
「さっき転んだ時かな~?」
秋人は自然に距離を詰め、低い声で囁く。
「あとで保健室、来てくれるよね?ちゃんと俺が診てあげるね。」
その距離感、その笑顔。
「「「きゃーーーー!!!」」」
「近い近い!!」
「美羽先生と秋人先生、絶対付き合ってるでしょ!!」
「もう、違うってば!!」
美羽は真っ赤になって叫ぶ。
「そんなんじゃないから!ほら!さっさと試合始めるよ!」
「え~!」
「続き気になる~!」
「聞こえてるわよ!?」
秋人は肩をすくめ、楽しそうに笑った。
「じゃあ、俺はこれで。頑張ってね、美羽先生?」
「……ほんと、やめてくださーい」
そう言いながらも、目が合うと、二人は自然に笑っていた。
——四年経っても変わらない、この距離感。
——変わったのは立場だけ。
体育館の天井から差し込む光が、春の埃をきらきらと照らす。
今日も黒薔薇学園は、騒がしくて、あたたかい。



