危険すぎる恋に、落ちてしまいました。3

あれから——
秋人のバイクに乗り、美羽は黒薔薇学園へと戻ってきていた。
校門をくぐった瞬間、春の風がふわりと頬を撫でる。


校庭には、満開の桜。

卒業式を終えたばかりの空気は、どこか浮き足立っていて、少しだけ切ない。
そのとき。

「美羽~~!!おかえりぃ~~!!」

遠くから、聞き慣れた声が飛んできた。
美羽はぱっと顔を上げる。

「……莉子!!」

駆け寄ってくる莉子の姿に、美羽の表情も自然と緩む。

「おまたせ!ただいま!」

「もう、ほんっと遅いんだから~!……って、あれ?」

莉子は美羽の後ろに立つ秋人を見て、にやりと笑った。

「お兄ちゃんも一緒だったんだね!お勤めご苦労さまです~!」

秋人は肩をすくめ、余裕の笑みを浮かべる。

「いえいえ。お転婆なお姫様の送迎は、なかなか刺激的だったよ?」

ちらり、と意味深に美羽を見る。

「……っ!」

美羽は一瞬で顔が赤くなった。

「ちょ、ちょっと秋人くん!変な言い方しないでよ!!」

そのやり取りを見て、莉子は吹き出す。

「あはは!美羽、なんか元気そうだね。よかった」

「……うん」

美羽は小さく頷いた。

「色々あったけどね!」

秋人は空を仰ぎながら、くすっと笑う。

「まぁ、あんなの見せつけられたら…そりゃ大丈夫でしょ?」

「え?!なになに?!美羽と椿くん、どうだったの?!教えてよ、お兄ちゃん!」

莉子が詰め寄った、その瞬間。

「は~い、ストーーップ」

後ろから、軽い声が割り込んだ。

「兄妹でイチャつかないの~」

振り向くと、そこには遼がいた。

「……遼くん!?」

莉子が驚いた隙に、遼はさっと莉子の手を取る。

「ちょ、ちょっと!?」

「ほら、行くよ莉子ちゃん。」

「え、待って——!」

そのまま、遼は走り出した。
振り返りざま、秋人に向かって不敵な笑み。

「秋人くん、莉子ちゃんは…もう俺のだからね?」

「はいはい~やれやれだねぇ」

秋人は苦笑しながら肩をすくめる。
校庭は、相変わらずのドタバタだった。

「美羽ちゃーん!!遅いじゃーん!早く写真撮るよー!!」

悠真が、片手をぶんぶん振って叫んでいる。

「ごめん、悠真くん!今行くねー!」

美羽はぱあっと表情を明るくして駆け出した。
その途中。

「碧くん?!ちょっと待って!それ何!?」

「筋トレグッズです!!卒業式後も鍛錬は欠かせません!!」

「いらないから!!ってか卒業証書はどこ行ったの!?」

笑い声が弾ける。
シャッターチャンスを逃して頭を抱える玲央。

筋トレ器具を持ち込もうとする碧。

騒ぎながらも、どこか名残惜しそうな空気。

桜の花びらが、ひらひらと舞い落ちる。

美羽は、少し立ち止まり、空を見上げた。


——佐々木先生……あの時、急に空手を辞めて、ごめんなさい。——


胸の奥で、そっと呟く。


どうやら、私——


“危険すぎる恋”に、落ちてしまいました"


けれど、それは——
怖くて、切なくて、でも一生に一度の、どうしようもなく大切な恋だった。

「美羽ちゃーん!おーい、こっち来なよ~!」

秋人の声が、校庭に響く。
美羽は振り返り、にっと笑った。

「うん!今行くー!」

卒業証書の筒をぎゅっと握りしめて、再び走り出す。

桜の下、笑い合う仲間たち。
遠くへ旅立った、大切な人。

——そして、ここから始まる新しい日々。
空は、どこまでも青かった。