危険すぎる恋に、落ちてしまいました。3

卒業式の日。

空はどこまでも澄みわたり、校舎を囲む桜は、まるで今日のために咲いたかのように満開だった。
風が吹くたび、花びらが舞い、
白い校舎と黒い制服の間を、淡いピンクが静かに流れていく。
——なのに。

美羽の胸は、どこか落ち着かなかった。

(……椿くん、いないんだ)

椿は、今日ここにはいない。
飛行機の時間があるため、卒業式には出られないと、前日に短い連絡が来ただけだった。

式が終わり、体育館を出た瞬間。
拍手と笑い声、写真を撮る音があちこちから聞こえる。
その中で、美羽はひとり、立ち止まっていた。

「美羽」

呼ばれて振り返ると、そこには美羽の父・優聖の姿があった。
グレーがかったスーツを着こなし、いつもより背筋が伸び、珍しく真剣な表情をしている。
父は、無言で封筒を差し出した。

「卒業おめでとう。」

「あと……これを」

美羽が中を見ると、そこには——
アメリカ行きの航空券。

「……パパ」
「美羽、今まですまないことをした。パパが悪かったよ。もう椿くんの反対はしないよ。後は……自分で決めなさい」

それだけ言ってうっすらと笑い、父は背を向けた。


桜の花びらが、封筒の上に一枚、そっと落ちる。

(……選ぶって、こういうことなのかな)

そのときだった。

「美羽ちゃん!?」

聞き慣れた声。
振り向くと、秋人がバイクの横で必死に手を振っていた。

「え?秋人くん?」

「椿からの連絡みた?!飛行機の時間、予定より早まったって!!今すぐ空港行こう!!」

「え……!?そうなの?!やば!スマホがサイレントになってて気付かなかった!」

考える暇もなく、美羽はヘルメットを受け取り、秋人の背中にしがみついた。