――未来という名前の、まだ白いページ。
昼休みの教室は、ざわざわとした音で満ちていた。
窓から差し込む春の光が、机の上のプリントをやわらかく照らしている。
美羽は、そのプリントをじっと見つめたまま、うんうんと唸っていた。
「……進路希望調査かぁ。」
ペンを握ったまま、視線だけが行ったり来たりしている。
その様子を、前の席からくるりと振り返って見ていた莉子が、首をかしげた。
「ねぇ美羽~?
さっきから何と戦ってるの?」
「え?」
美羽ははっと顔を上げ、慌ててプリントを胸元に引き寄せる。
「な、なんでもないよ!」
「いやいや、その顔は“なんでもある”顔でしょ~。」
莉子は肘をつき、にやりと笑った。
「もしかして~……進路のこと?」
「……うん。」
観念したように、美羽は小さく頷いた。
「なんかさ、いよいよ三年生なんだなぁって思ったら……
急に現実味が出てきちゃって。」
プリントの空白欄が、やけに広く見える。
莉子は一瞬考えたあと、ぱっと明るい声を出した。
「じゃあさ!いっそ“専業主婦”でいいんじゃない?」
「え?」
「だって美羽には椿くんがいるじゃーん!
黒薔薇の王の奥様よ?
もう“北条家に嫁ぎます♡”って書いちゃいなよ~!」
「ちょ、ちょっと莉子!!」
美羽は顔を真っ赤にして、ばたばたと手を振った。
「そ、そんな簡単な話じゃないでしょ!!
そもそも、まだ高校生だし!」
「え~?将来を見据えた合理的?な判断じゃない~♪」
莉子は楽しそうに笑っている。
美羽は一度ため息をついてから、ふっと表情を和らげた。
「……じゃあさ、莉子は?もう決まってるの?」
「んー?」
「莉子の将来の夢って、何よ?」
その問いに、莉子は一瞬きょとんとしたあと、胸を張った。
「それはもちろん、CA!」
「え、即答!?」
「当たり前じゃん!」
莉子はどや顔で続ける。
「世界中飛び回ってさ、
イケメンの外国人と出会って、
運命の恋をして、
“アイラブユー♡”とか言われるの!
ロマンチックでしょ~♪」
「……え、遼くんは?」
美羽は、じとっとした視線を向けた。
「え?」
「いや、だって。
イケメン外国人って言ってたから……。」
一瞬の沈黙。
それから莉子は、ふふっと笑った。
「大丈夫だよー。
ちゃんと考えてるから。」
その声は、いつものおちゃらけた調子より、少しだけ大人びていた。
「夢は夢。
でも、誰と一緒にいたいかは、ちゃんと別で考えてる。」
美羽は、その言葉に少し驚いて、目を瞬いた。
(莉子……ちゃんと未来のこと、考えてるんだ。すごいなぁ。私なんて…)
胸の奥が、ちくりとする。
美羽は視線を落とし、自分のプリントを見つめた。
(私は……どうなんだろう、これからどうしたいのかな。)
もちろん椿と将来もずっと一緒にいたい。
それは、迷いようのない本音だった。
でも。
(それと同時に……
私自身の“やりたいこと”が、ちゃんと見えてない。このままじゃダメな気がする…)
焦りが、じわじわと胸に広がる。
「美羽。」
莉子が、今度は優しい声で呼んだ。
「そのうち、見つかるよ。
美羽はさ、真面目だから考えすぎちゃうだけ。」
「……そうかな。」
「そうそう!
今はまだ“白紙”でもいいじゃん。」
莉子は、にっと笑った。
「これから、いっぱい書き込めるってことだよ。」
美羽は小さく微笑んだ。
「…そう、だよね。…ありがとう、莉子。」
ふと、椿の顔が頭に浮かぶ。
(椿くんは……将来のこと、考えてたりするのかなぁ…)
これからの事も、まだちゃんと話せていない。
椿くんはいつも、大事なことほど多くを語らない感じだし…。
(今度会ったら、聞いてみよう!)
そう、心の中で決める。
「私、図書室行ってくる。」
美羽は立ち上がり、プリントを鞄にしまった。
「ちょっと調べものしてくるね。」
「うん。
あ、悠真くんとか碧くんにも聞いてみたら?」
莉子が声をかけるが、
「う~ん、そうだね!会えたら聞いてみる!」
美羽は振り返って笑い、教室を出ていった。
その背中を見送りながら、莉子は椅子にもたれかかる。
「……そういえば。」
ぽつりと呟く。
「遼くんって、将来なに目指してるんだろ~?」
想像するだけで、自然と口元が緩んだ。
「私も聞いてみよっかな~?」
春の午後。
それぞれの胸に、まだ名前のついていない未来が、そっと芽吹き始めていた。
昼休みの教室は、ざわざわとした音で満ちていた。
窓から差し込む春の光が、机の上のプリントをやわらかく照らしている。
美羽は、そのプリントをじっと見つめたまま、うんうんと唸っていた。
「……進路希望調査かぁ。」
ペンを握ったまま、視線だけが行ったり来たりしている。
その様子を、前の席からくるりと振り返って見ていた莉子が、首をかしげた。
「ねぇ美羽~?
さっきから何と戦ってるの?」
「え?」
美羽ははっと顔を上げ、慌ててプリントを胸元に引き寄せる。
「な、なんでもないよ!」
「いやいや、その顔は“なんでもある”顔でしょ~。」
莉子は肘をつき、にやりと笑った。
「もしかして~……進路のこと?」
「……うん。」
観念したように、美羽は小さく頷いた。
「なんかさ、いよいよ三年生なんだなぁって思ったら……
急に現実味が出てきちゃって。」
プリントの空白欄が、やけに広く見える。
莉子は一瞬考えたあと、ぱっと明るい声を出した。
「じゃあさ!いっそ“専業主婦”でいいんじゃない?」
「え?」
「だって美羽には椿くんがいるじゃーん!
黒薔薇の王の奥様よ?
もう“北条家に嫁ぎます♡”って書いちゃいなよ~!」
「ちょ、ちょっと莉子!!」
美羽は顔を真っ赤にして、ばたばたと手を振った。
「そ、そんな簡単な話じゃないでしょ!!
そもそも、まだ高校生だし!」
「え~?将来を見据えた合理的?な判断じゃない~♪」
莉子は楽しそうに笑っている。
美羽は一度ため息をついてから、ふっと表情を和らげた。
「……じゃあさ、莉子は?もう決まってるの?」
「んー?」
「莉子の将来の夢って、何よ?」
その問いに、莉子は一瞬きょとんとしたあと、胸を張った。
「それはもちろん、CA!」
「え、即答!?」
「当たり前じゃん!」
莉子はどや顔で続ける。
「世界中飛び回ってさ、
イケメンの外国人と出会って、
運命の恋をして、
“アイラブユー♡”とか言われるの!
ロマンチックでしょ~♪」
「……え、遼くんは?」
美羽は、じとっとした視線を向けた。
「え?」
「いや、だって。
イケメン外国人って言ってたから……。」
一瞬の沈黙。
それから莉子は、ふふっと笑った。
「大丈夫だよー。
ちゃんと考えてるから。」
その声は、いつものおちゃらけた調子より、少しだけ大人びていた。
「夢は夢。
でも、誰と一緒にいたいかは、ちゃんと別で考えてる。」
美羽は、その言葉に少し驚いて、目を瞬いた。
(莉子……ちゃんと未来のこと、考えてるんだ。すごいなぁ。私なんて…)
胸の奥が、ちくりとする。
美羽は視線を落とし、自分のプリントを見つめた。
(私は……どうなんだろう、これからどうしたいのかな。)
もちろん椿と将来もずっと一緒にいたい。
それは、迷いようのない本音だった。
でも。
(それと同時に……
私自身の“やりたいこと”が、ちゃんと見えてない。このままじゃダメな気がする…)
焦りが、じわじわと胸に広がる。
「美羽。」
莉子が、今度は優しい声で呼んだ。
「そのうち、見つかるよ。
美羽はさ、真面目だから考えすぎちゃうだけ。」
「……そうかな。」
「そうそう!
今はまだ“白紙”でもいいじゃん。」
莉子は、にっと笑った。
「これから、いっぱい書き込めるってことだよ。」
美羽は小さく微笑んだ。
「…そう、だよね。…ありがとう、莉子。」
ふと、椿の顔が頭に浮かぶ。
(椿くんは……将来のこと、考えてたりするのかなぁ…)
これからの事も、まだちゃんと話せていない。
椿くんはいつも、大事なことほど多くを語らない感じだし…。
(今度会ったら、聞いてみよう!)
そう、心の中で決める。
「私、図書室行ってくる。」
美羽は立ち上がり、プリントを鞄にしまった。
「ちょっと調べものしてくるね。」
「うん。
あ、悠真くんとか碧くんにも聞いてみたら?」
莉子が声をかけるが、
「う~ん、そうだね!会えたら聞いてみる!」
美羽は振り返って笑い、教室を出ていった。
その背中を見送りながら、莉子は椅子にもたれかかる。
「……そういえば。」
ぽつりと呟く。
「遼くんって、将来なに目指してるんだろ~?」
想像するだけで、自然と口元が緩んだ。
「私も聞いてみよっかな~?」
春の午後。
それぞれの胸に、まだ名前のついていない未来が、そっと芽吹き始めていた。



