美羽と椿が、まるで世界に二人きりしかいないみたいな空気でバレンタインを過ごしている、その頃。
放課後の校舎の奥、日が差し込みにくい第3科学準備室B。
教室には、遼がぽつんとひとりでいた。
適当に椅子に腰を下ろし、背もたれに体を預ける。
窓の外では、冬の空が少しだけオレンジ色に染まりはじめている。
「はぁ……」
ため息が、やけに大きく響いた。
「で?秋人くんに言われてきたけど、誰もいないじゃ~ん。俺はいったいどうしたらいいの?」
独り言は、当然返事をしない。
遼は苦笑しながら、椅子の脚をきぃ、と鳴らした。
そのときだった。
ガラガラッ——!
勢いよく開いた教室のドア。
冷たい外気と一緒に、誰かの荒い息遣いが流れ込んでくる。
そこに立っていたのは、莉子だった。
髪は少し乱れ、肩が上下している。
全力で走ってきたことが、一目でわかった。
「え?莉子ちゃん?」
遼が思わず声をあげる。
莉子は胸に手を当てながら、ぶつぶつと文句をこぼしていた。
「もう、まったく。てか第3科学準備室Bってどこよ!わかりにくいのよお兄ちゃん!ってかこの学校広すぎなのよ、バカっ。」
遼は一瞬きょとんとしてから、苦笑する。
「あぁ、秋人くんに言われたの?じゃぁ、俺もう帰っていい?」
そう言って立ち上がろうとすると、
「ちょっと、待ってっ…休憩、させてよっ…」
莉子はそう言って、その場にしゃがみこんだ。
「え、大丈夫?そんな走ってきたの?とりあえず座りなよ。俺は帰るから、ひとりでゆっくりできるでしょ?」
心配半分、冗談半分。
けれど莉子は、息を整えながら、ぐっと遼との距離を詰めてくる。
「もう!なんでわかんないの?!遼くんに用事があるんだってば!」
「え、そーなの?何?」
莉子は視線を落とし、指先をぎゅっと握った。
教室に落ちる夕日の光が、彼女の頬を淡く染める。
「バ…バレンタイン…」
「何?ちょっと聞こえないんだけど…」
「っ!だから、その!バレンタイン!渡しに来たんだってば!!」
顔を真っ赤にして叫ぶ莉子。
遼は一瞬目を丸くして、それから吹き出した。
「あはは、バレンタインで走るって莉子ちゃん、超必死じゃん…」
お腹を抱えて笑う遼に、莉子の目が潤む。
「そんな、そんな笑わなくていいじゃん!」
「ごめんごめん…」
遼は片目に浮かんだ涙を拭い、ふっと表情を変えた。
「でも…そんなに会いたかったの?」
低く、近い距離で囁かれて、莉子の心臓が跳ねる。
「ダメ、なの…?」
遼はため息をつき、ゆっくり椅子に座った。
「ちょっと莉子ちゃんこっちに立って。」
言われるがまま、莉子は遼の前に立つ。
「莉子ちゃんてさ、俺が他の子からチョコレートもらったら嫌?」
胸が締めつけられる。
美羽の応援の言葉を思い出して、莉子は小さく頷いた。
「うん…」
「じゃぁ、俺が他の女の子といたらもっと嫌?」
「うん、嫌。」
まっすぐな声。
遼はくすっと笑った。
「何、莉子ちゃん。本当に俺の事好きじゃん。」
「だからっ!この間からそうだって言ってるじゃ…」
「俺もさ…!莉子ちゃんが他の男とつるんでるとイライラすんだよね~」
「え?」
「たとえ、それが秋人くんでもね。」
その言葉に、莉子の目から涙がこぼれ落ちた。
「俺、もともと年上の女性が好きだし、前までそんなことなかったんだけど~、なんでかな、最近なんかわかんないんだよね…。でも…」
立ち上がった遼は、優しい目で莉子を見つめ、そっと涙を拭った。
「莉子ちゃんをもっと泣かせてみたくなった。
それはきっと…、好きだからだよ。」
「本当…?」
「うん、本当」
「…っ!!」
その瞬間、莉子は遼にぎゅっと抱きついた。
「はは、よーしよし。」
静かな教室に、二人の心音だけが重なる。
しばらくして、遼はチョコレートの箱を開ける。
「食べてくれるの?」
「うん。そういえばもっと美味しい食べ方があるんだけど莉子ちゃん知ってる?」
「え?何?何かたりなかった?」
「それはね、」
チョコを口に運ぶ遼はニヤリとした。
莉子はドキリとしながら遼を見つめる。
そして次の瞬間、遼は莉子の顎に指を添えてキスをした——。
「…っ!!」
「ね?美味しかったでしょ?」
莉子は赤い顔で固まったまま、やがて小さく、
「…うん、甘い。」
と呟いた。
しばらくしてから莉子は、
「ってか、遼くん!?付き合ってって言われてないんだけど?!」
「え、あれ、そうだっけ?」
「もう!!遼くんんん?!」
「あはは」
夕焼けの教室に、莉子の声が響く。
こうして二人は、少し不器用で、少し意地悪で、でも確かにこの日を境に——
晴れて恋人同士になった。
美羽のバレンタイン作戦は、どうやら大成功だったらしい。
放課後の校舎の奥、日が差し込みにくい第3科学準備室B。
教室には、遼がぽつんとひとりでいた。
適当に椅子に腰を下ろし、背もたれに体を預ける。
窓の外では、冬の空が少しだけオレンジ色に染まりはじめている。
「はぁ……」
ため息が、やけに大きく響いた。
「で?秋人くんに言われてきたけど、誰もいないじゃ~ん。俺はいったいどうしたらいいの?」
独り言は、当然返事をしない。
遼は苦笑しながら、椅子の脚をきぃ、と鳴らした。
そのときだった。
ガラガラッ——!
勢いよく開いた教室のドア。
冷たい外気と一緒に、誰かの荒い息遣いが流れ込んでくる。
そこに立っていたのは、莉子だった。
髪は少し乱れ、肩が上下している。
全力で走ってきたことが、一目でわかった。
「え?莉子ちゃん?」
遼が思わず声をあげる。
莉子は胸に手を当てながら、ぶつぶつと文句をこぼしていた。
「もう、まったく。てか第3科学準備室Bってどこよ!わかりにくいのよお兄ちゃん!ってかこの学校広すぎなのよ、バカっ。」
遼は一瞬きょとんとしてから、苦笑する。
「あぁ、秋人くんに言われたの?じゃぁ、俺もう帰っていい?」
そう言って立ち上がろうとすると、
「ちょっと、待ってっ…休憩、させてよっ…」
莉子はそう言って、その場にしゃがみこんだ。
「え、大丈夫?そんな走ってきたの?とりあえず座りなよ。俺は帰るから、ひとりでゆっくりできるでしょ?」
心配半分、冗談半分。
けれど莉子は、息を整えながら、ぐっと遼との距離を詰めてくる。
「もう!なんでわかんないの?!遼くんに用事があるんだってば!」
「え、そーなの?何?」
莉子は視線を落とし、指先をぎゅっと握った。
教室に落ちる夕日の光が、彼女の頬を淡く染める。
「バ…バレンタイン…」
「何?ちょっと聞こえないんだけど…」
「っ!だから、その!バレンタイン!渡しに来たんだってば!!」
顔を真っ赤にして叫ぶ莉子。
遼は一瞬目を丸くして、それから吹き出した。
「あはは、バレンタインで走るって莉子ちゃん、超必死じゃん…」
お腹を抱えて笑う遼に、莉子の目が潤む。
「そんな、そんな笑わなくていいじゃん!」
「ごめんごめん…」
遼は片目に浮かんだ涙を拭い、ふっと表情を変えた。
「でも…そんなに会いたかったの?」
低く、近い距離で囁かれて、莉子の心臓が跳ねる。
「ダメ、なの…?」
遼はため息をつき、ゆっくり椅子に座った。
「ちょっと莉子ちゃんこっちに立って。」
言われるがまま、莉子は遼の前に立つ。
「莉子ちゃんてさ、俺が他の子からチョコレートもらったら嫌?」
胸が締めつけられる。
美羽の応援の言葉を思い出して、莉子は小さく頷いた。
「うん…」
「じゃぁ、俺が他の女の子といたらもっと嫌?」
「うん、嫌。」
まっすぐな声。
遼はくすっと笑った。
「何、莉子ちゃん。本当に俺の事好きじゃん。」
「だからっ!この間からそうだって言ってるじゃ…」
「俺もさ…!莉子ちゃんが他の男とつるんでるとイライラすんだよね~」
「え?」
「たとえ、それが秋人くんでもね。」
その言葉に、莉子の目から涙がこぼれ落ちた。
「俺、もともと年上の女性が好きだし、前までそんなことなかったんだけど~、なんでかな、最近なんかわかんないんだよね…。でも…」
立ち上がった遼は、優しい目で莉子を見つめ、そっと涙を拭った。
「莉子ちゃんをもっと泣かせてみたくなった。
それはきっと…、好きだからだよ。」
「本当…?」
「うん、本当」
「…っ!!」
その瞬間、莉子は遼にぎゅっと抱きついた。
「はは、よーしよし。」
静かな教室に、二人の心音だけが重なる。
しばらくして、遼はチョコレートの箱を開ける。
「食べてくれるの?」
「うん。そういえばもっと美味しい食べ方があるんだけど莉子ちゃん知ってる?」
「え?何?何かたりなかった?」
「それはね、」
チョコを口に運ぶ遼はニヤリとした。
莉子はドキリとしながら遼を見つめる。
そして次の瞬間、遼は莉子の顎に指を添えてキスをした——。
「…っ!!」
「ね?美味しかったでしょ?」
莉子は赤い顔で固まったまま、やがて小さく、
「…うん、甘い。」
と呟いた。
しばらくしてから莉子は、
「ってか、遼くん!?付き合ってって言われてないんだけど?!」
「え、あれ、そうだっけ?」
「もう!!遼くんんん?!」
「あはは」
夕焼けの教室に、莉子の声が響く。
こうして二人は、少し不器用で、少し意地悪で、でも確かにこの日を境に——
晴れて恋人同士になった。
美羽のバレンタイン作戦は、どうやら大成功だったらしい。



