危険すぎる恋に、落ちてしまいました。3

素敵なクリスマスと、少し切ない冬休みが終わり、
気づけば黒薔薇学園は三学期を迎えていた。

校舎には、どこか落ち着かない空気が漂っている。

受験シーズン。

進路。
別れと始まりが、静かに交差する季節。

美羽もまた、大学受験という大きな山を越えたひとりだった。

試験を終えたあとの、あの独特の脱力感。
肩の力が抜けて、
「やっと終わったんだ」と実感するまで、少し時間がかかった。


そして——
いよいよやってくる、二月。
恋する人たちの一大イベント、バレンタインデー。





二月十三日。
バレンタインデー前日。


莉子の家のキッチンは、甘い香りで満ちていた。
湯煎用の鍋から立ちのぼる湯気。
ボウルの中で、とろりと溶けていくチョコレート。
スプーンで混ぜるたびに、つやつやと光る表面。

「……よし、このくらいかな」

美羽は、真剣な顔でチョコを混ぜながら、ふっと顔を上げる。

「で?」

その声に、莉子がびくっと肩を揺らした。

「莉子はさ、結局、遼くんとどうなったの?」

核心を突く質問。

「ぶふっ」

莉子は思わず手を止め、慌てて視線を逸らす。

「え、ええ?またその話?!もう美羽、しつこいんだけど~!」

そう言いながらも、どこか元気がない。
莉子は、チョコを流し込むカップを並べながら、小さく答えた。

「……結局ね。付き合って、ないよ」

美羽の手が、ぴたりと止まる。

「……え?」
「ええええ?!あんなに仲良さげだったのに?!」


驚きすぎて、美羽はうっかりボウルに近づきすぎた。

「あつっ!!」

「ちょっと美羽!?」

莉子が慌てて駆け寄る。

「大丈夫?!もう、集中してよ~!」

美羽は慌てて水道で指を冷やしながら、涙目で笑う。

「い、いった~……でも、今の衝撃の方が痛かった……」

「ちょっと!」

美羽は指を冷やしたまま、じとーっと莉子を見る。

「……でもさ。告白は、したんでしょ?」

莉子は、観念したように肩を落とした。

「……うん、一応したけど。」

「一応?」

「なんかねぇ……タイミングが悪かったっていうか話してるうちに、流れちゃったっていうか……」

へにゃ、と笑う莉子。

「……よく、わかんないの」

その笑顔は、どこか無理をしているように見えた。
美羽は、少しだけ真剣な顔になる。

「……そっか」

一瞬の沈黙。

そして、次の瞬間——
美羽の目が、ぱっと輝いた。

「じゃあさ!」

「リベンジだね!!バレンタインデー作戦!!」

ぱちん、とウインク。

「ええ~……」

莉子は苦笑いしながらも、
どこか心が揺れている。

「また大胆なこと言い出すね……」

「だって!」

美羽は胸を張る。

「バレンタインって、そういうイベントでしょ?
気持ち、伝える日なんだから!」

莉子は少し黙り込んで、チョコレートを見つめた。

溶けて、形を変えて、また固まっていくチョコ。


——まるで、自分の気持ちみたい。


「……正直ね。ちょっと怖いんだぁ」

ぽつり、と本音がこぼれる。

「また、はぐらかされたらどうしようって。
嫌われたらどうしようって考えちゃうの」

美羽は、そっと莉子の手元を見てから、優しく言った。

「大丈夫!今回はねぇ。ちゃんと作戦があるから」

「作戦……?」

美羽はにっと笑う。

「秋人くんにも、協力してもらう!逃げ場さえ作らないやつ!」

「え?!ちょ、ちょっと美羽?!それ大丈夫なやつ?!」

「大丈夫大丈夫!」

美羽は楽しそうだ。

「秋人くん、こういうの得意だし?
莉子のこと、大事に思ってるし!」

莉子はため息をつきながらも、
少しだけ口元が緩んだ。

「……ありがとう、美羽」

「うん!」

「……頑張ってみるよ。今度こそ」

「うん、そうこなくっちゃ!」



チョコレートの甘い香りが、キッチンいっぱいに広がる。
それはきっと、まだ形になっていない恋の匂い。


——バレンタインデーは、すぐそこまで来ていた。