素敵なクリスマスと、少し切ない冬休みが終わり、
気づけば黒薔薇学園は三学期を迎えていた。
校舎には、どこか落ち着かない空気が漂っている。
受験シーズン。
進路。
別れと始まりが、静かに交差する季節。
美羽もまた、大学受験という大きな山を越えたひとりだった。
試験を終えたあとの、あの独特の脱力感。
肩の力が抜けて、
「やっと終わったんだ」と実感するまで、少し時間がかかった。
そして——
いよいよやってくる、二月。
恋する人たちの一大イベント、バレンタインデー。
*
二月十三日。
バレンタインデー前日。
莉子の家のキッチンは、甘い香りで満ちていた。
湯煎用の鍋から立ちのぼる湯気。
ボウルの中で、とろりと溶けていくチョコレート。
スプーンで混ぜるたびに、つやつやと光る表面。
「……よし、このくらいかな」
美羽は、真剣な顔でチョコを混ぜながら、ふっと顔を上げる。
「で?」
その声に、莉子がびくっと肩を揺らした。
「莉子はさ、結局、遼くんとどうなったの?」
核心を突く質問。
「ぶふっ」
莉子は思わず手を止め、慌てて視線を逸らす。
「え、ええ?またその話?!もう美羽、しつこいんだけど~!」
そう言いながらも、どこか元気がない。
莉子は、チョコを流し込むカップを並べながら、小さく答えた。
「……結局ね。付き合って、ないよ」
美羽の手が、ぴたりと止まる。
「……え?」
「ええええ?!あんなに仲良さげだったのに?!」
驚きすぎて、美羽はうっかりボウルに近づきすぎた。
「あつっ!!」
「ちょっと美羽!?」
莉子が慌てて駆け寄る。
「大丈夫?!もう、集中してよ~!」
美羽は慌てて水道で指を冷やしながら、涙目で笑う。
「い、いった~……でも、今の衝撃の方が痛かった……」
「ちょっと!」
美羽は指を冷やしたまま、じとーっと莉子を見る。
「……でもさ。告白は、したんでしょ?」
莉子は、観念したように肩を落とした。
「……うん、一応したけど。」
「一応?」
「なんかねぇ……タイミングが悪かったっていうか話してるうちに、流れちゃったっていうか……」
へにゃ、と笑う莉子。
「……よく、わかんないの」
その笑顔は、どこか無理をしているように見えた。
美羽は、少しだけ真剣な顔になる。
「……そっか」
一瞬の沈黙。
そして、次の瞬間——
美羽の目が、ぱっと輝いた。
「じゃあさ!」
「リベンジだね!!バレンタインデー作戦!!」
ぱちん、とウインク。
「ええ~……」
莉子は苦笑いしながらも、
どこか心が揺れている。
「また大胆なこと言い出すね……」
「だって!」
美羽は胸を張る。
「バレンタインって、そういうイベントでしょ?
気持ち、伝える日なんだから!」
莉子は少し黙り込んで、チョコレートを見つめた。
溶けて、形を変えて、また固まっていくチョコ。
——まるで、自分の気持ちみたい。
「……正直ね。ちょっと怖いんだぁ」
ぽつり、と本音がこぼれる。
「また、はぐらかされたらどうしようって。
嫌われたらどうしようって考えちゃうの」
美羽は、そっと莉子の手元を見てから、優しく言った。
「大丈夫!今回はねぇ。ちゃんと作戦があるから」
「作戦……?」
美羽はにっと笑う。
「秋人くんにも、協力してもらう!逃げ場さえ作らないやつ!」
「え?!ちょ、ちょっと美羽?!それ大丈夫なやつ?!」
「大丈夫大丈夫!」
美羽は楽しそうだ。
「秋人くん、こういうの得意だし?
莉子のこと、大事に思ってるし!」
莉子はため息をつきながらも、
少しだけ口元が緩んだ。
「……ありがとう、美羽」
「うん!」
「……頑張ってみるよ。今度こそ」
「うん、そうこなくっちゃ!」
チョコレートの甘い香りが、キッチンいっぱいに広がる。
それはきっと、まだ形になっていない恋の匂い。
——バレンタインデーは、すぐそこまで来ていた。
気づけば黒薔薇学園は三学期を迎えていた。
校舎には、どこか落ち着かない空気が漂っている。
受験シーズン。
進路。
別れと始まりが、静かに交差する季節。
美羽もまた、大学受験という大きな山を越えたひとりだった。
試験を終えたあとの、あの独特の脱力感。
肩の力が抜けて、
「やっと終わったんだ」と実感するまで、少し時間がかかった。
そして——
いよいよやってくる、二月。
恋する人たちの一大イベント、バレンタインデー。
*
二月十三日。
バレンタインデー前日。
莉子の家のキッチンは、甘い香りで満ちていた。
湯煎用の鍋から立ちのぼる湯気。
ボウルの中で、とろりと溶けていくチョコレート。
スプーンで混ぜるたびに、つやつやと光る表面。
「……よし、このくらいかな」
美羽は、真剣な顔でチョコを混ぜながら、ふっと顔を上げる。
「で?」
その声に、莉子がびくっと肩を揺らした。
「莉子はさ、結局、遼くんとどうなったの?」
核心を突く質問。
「ぶふっ」
莉子は思わず手を止め、慌てて視線を逸らす。
「え、ええ?またその話?!もう美羽、しつこいんだけど~!」
そう言いながらも、どこか元気がない。
莉子は、チョコを流し込むカップを並べながら、小さく答えた。
「……結局ね。付き合って、ないよ」
美羽の手が、ぴたりと止まる。
「……え?」
「ええええ?!あんなに仲良さげだったのに?!」
驚きすぎて、美羽はうっかりボウルに近づきすぎた。
「あつっ!!」
「ちょっと美羽!?」
莉子が慌てて駆け寄る。
「大丈夫?!もう、集中してよ~!」
美羽は慌てて水道で指を冷やしながら、涙目で笑う。
「い、いった~……でも、今の衝撃の方が痛かった……」
「ちょっと!」
美羽は指を冷やしたまま、じとーっと莉子を見る。
「……でもさ。告白は、したんでしょ?」
莉子は、観念したように肩を落とした。
「……うん、一応したけど。」
「一応?」
「なんかねぇ……タイミングが悪かったっていうか話してるうちに、流れちゃったっていうか……」
へにゃ、と笑う莉子。
「……よく、わかんないの」
その笑顔は、どこか無理をしているように見えた。
美羽は、少しだけ真剣な顔になる。
「……そっか」
一瞬の沈黙。
そして、次の瞬間——
美羽の目が、ぱっと輝いた。
「じゃあさ!」
「リベンジだね!!バレンタインデー作戦!!」
ぱちん、とウインク。
「ええ~……」
莉子は苦笑いしながらも、
どこか心が揺れている。
「また大胆なこと言い出すね……」
「だって!」
美羽は胸を張る。
「バレンタインって、そういうイベントでしょ?
気持ち、伝える日なんだから!」
莉子は少し黙り込んで、チョコレートを見つめた。
溶けて、形を変えて、また固まっていくチョコ。
——まるで、自分の気持ちみたい。
「……正直ね。ちょっと怖いんだぁ」
ぽつり、と本音がこぼれる。
「また、はぐらかされたらどうしようって。
嫌われたらどうしようって考えちゃうの」
美羽は、そっと莉子の手元を見てから、優しく言った。
「大丈夫!今回はねぇ。ちゃんと作戦があるから」
「作戦……?」
美羽はにっと笑う。
「秋人くんにも、協力してもらう!逃げ場さえ作らないやつ!」
「え?!ちょ、ちょっと美羽?!それ大丈夫なやつ?!」
「大丈夫大丈夫!」
美羽は楽しそうだ。
「秋人くん、こういうの得意だし?
莉子のこと、大事に思ってるし!」
莉子はため息をつきながらも、
少しだけ口元が緩んだ。
「……ありがとう、美羽」
「うん!」
「……頑張ってみるよ。今度こそ」
「うん、そうこなくっちゃ!」
チョコレートの甘い香りが、キッチンいっぱいに広がる。
それはきっと、まだ形になっていない恋の匂い。
——バレンタインデーは、すぐそこまで来ていた。



