危険すぎる恋に、落ちてしまいました。3

町の中心にあるイルミネーションストリート。
夜の帳が降り、街全体が光の海に包まれていた。
通り沿いの木々は金色に縁取られ、建物の窓には白や青の光が瞬いている。

その中心にそびえ立つ、巨大なクリスマスツリー。
赤と金のオーナメントが、まるで星屑のように揺れていた。

「……わぁ……」

美羽は思わず立ち止まり、息をのむ。

「すごい……ほんとに、絵本の中みたい……」

しかし、その感動は——
隣に立つ“眼鏡の椿”を視界に入れた瞬間、全部吹き飛んだ。

「……」
ちら。
「……はぅ……」
ぱっと顔を隠す。
「……」
また、ちら。
「……はぅぅ……」
今度は両手で顔を覆う。

「……おい」
椿は呆れたようにため息をついた。

「いい加減慣れろよ。こっちが恥ずかしいだろ」
「む、無理だよ……!」

美羽は真っ赤なまま必死に首を振る。

「だって!こんなレアなメガネ椿くん、一生拝めないかもしれないんだよ!!」

「大げさだっつーの……」

そう言いながらも、椿の胸の内は、少しだけ満たされていた。

(……まぁ、こんな可愛い顔で俺だけ見てくれんの、悪くねぇか)

独占欲が、静かにくすぐられる。
椿は、美羽の手首を軽く引き、クリスマスツリーの真正面に立たせた。

「美羽」

「……?」

「目、瞑れ」

「やだ!」

即答で美羽は拒否をした。

「まだ!まだメガネ椿くん見たい!!」

「ばーか」

椿は苦笑して、低く言った。

「今日はずっとつけてるから。とらねぇよ」

「……ほんと?」

「あぁ。」

それを聞いて、美羽はしぶしぶ目を閉じた。

「……開けていい?」
「まだだ」

椿は、そっと美羽の背後に回る。
指先が、首元に触れた。
ひんやりとした金属の感触。

「……ん?」
「動くなよ」

カチリ、と小さな音。

「……よし。開けていいぞ」

美羽はゆっくり目を開く。

「え?」

首元に、きらりと光るもの。

「……ネックレス?」

小さな雪の結晶を模したペンダント。
ツリーの光を反射して、優しく輝いている。

「……メリークリスマス、美羽」

椿は、少し照れたように笑った。

「えええ?!これ、プレゼント?!わぁ!可愛いっ!!」

美羽は思わず首元を押さえる。

「ありがとう!椿くん、一生大事にする!!」

「お、おう……」

椿は照れ隠しに視線を逸らす。

「そんな大げさに喜んでくれんなら、あげたかいがあるな」

美羽は笑顔のまま、今度は自分のバッグを探った。

「……あのね、私も、椿くんに」

小さな箱を差し出す。

「プレゼントがあるの」

「……俺に?」

「うん」

少しだけ、真剣な声。

「まだ使う時期じゃないかもしれないけど…大人になった椿くんに、着けてほしい」

椿は静かに箱を開けた。
中にあったのは、青とシルバーが溶け合う、上品なネクタイピン。

「……美羽……」

言葉を失う。
椿は、しばらくそれを見つめ——
ふっと、少し寂しそうに笑った。

「……さんきゅ」
「いつか大人になって、これが似合う男になって…美羽を迎えに行くよ」

美羽の目が潤む。

「……うん」

椿は、美羽の頬に手を伸ばし、そっとキスを落とした。
光に包まれた、静かな口づけ。
唇が離れたあと、美羽は照れ笑いする。

「……眼鏡、ちょっと当たっちゃうね」

「……だろ?だからいらねーよ」

椿も小さく笑った。








帰り道。
二人は指を絡め、ゆっくり歩く。
イルミネーションの光が、二人の影を長く伸ばしていた。
美羽は、少し考えたあと、口を開く。

「……あのね、椿くん」
「うん」
「私、今まで自分のことばっかりで、椿くんしか見えてなかった。」

椿は、黙って聞いている。

「でもね…椿くんや、莉子や、秋人くんや…皆と出会って、少しずつ変われたの」

椿は、驚いたように目を見開く。

「……美羽」
「パパの本音も、今までちゃんと聞こうとしてなかった。けど、それを繋いでくれたのも椿くんなんだよね。」

立ち止まり、美羽は深呼吸した。

「……本当はね。私も、一緒にアメリカ、行きたいよ」

椿の胸が、ぎゅっと締め付けられる。

「でも…私、大きな夢ができちゃったから」

美羽は、涙を浮かべながら笑った。

「椿くんと、幸せになる夢!」

「……美羽」

「だから…、堂々と椿くんの隣にいられるように。私、頑張って大人になる。」

声が震える。

「……だからね、椿くんも…私のこと、待っててくれる……?」

涙が零れ落ちる。

椿は、何も言わず——
美羽を、強く、優しく抱き締めた。
そして、耳元で囁く。

「ばーか、当たり前だ」







"待ってる"







美羽は、ゆっくり目を開き——
涙のまま、笑った。

「……うん」

夜空には、オリオン座が静かに輝いていた。
まるで、二人の未来を見守るように。


——この冬、
二人は“別れ”ではなく、これからの未来の“約束”を手に入れた。