実は——
椿は、さっきからずっと落ち着かなかった。
ショッピングモールへ向かう夜道。
イルミネーションが歩道を照らし、人々の影がきらきらと伸びている。
その横で、美羽が歩いている。
ローズ色のショートパンツから伸びる、すらりとした脚。
白いダウンの裾から覗く素肌が、冬の空気にやけに目立っていた。
(……なんつー格好してきてんだよ)
椿は前を向きながら、内心で盛大にため息をつく。
(寒いだろ、それ)
(つーか……見せすぎだろ)
視線を逸らしたいのに、気づくとまた見てしまう。
心臓が、無駄に早い。
「……」
椿は軽く咳払いして、
できるだけ平静を装った。
「美羽、今日は寒ぃんだから、もう少し暖かい格好なかったのか?」
さりげないトーン。……のつもりだった。
しかし。
「ええ?!これダメ?!」
美羽がぴたりと立ち止まり、ショックを受けた顔で振り返る。
「せっかくおしゃれしてきたのに?!私、昨日からすっごい悩んだんだよ!?」
「い、いや……」
椿は言葉に詰まる。
「ダメじゃねぇけど……。いや……ダメだろ……」
ぼそっと零れた本音。
それを、美羽は全部真に受けた様子。
「……椿くん、ひどい」
みるみる潤む瞳。
「せっかく……私……」
「は?おい、泣くなよ?!」
椿は慌てて振り向く。
だが、美羽の目からはぽろぽろと涙がこぼれ始めていた。
「だってぇ……」
「……っ」
椿は頭を抱えた。
(あーくそ。俺の言い方が悪いのか)
がしがしと髪を掻き、覚悟を決めたように息を吸う。
「……いや、だからな」
「お前の足が……」
「……え?」
美羽は、きょとん。
「なに……?」
椿は一瞬固まり、
そして——
「……あーくそ!」
声を荒げる。
「お前の綺麗な足見てるとだな!触りたくなんだよ!!」
言った。
言い切った。
……数秒の沈黙。
椿は、自分が何を言ったのか理解した瞬間、
ぴたりと固まった。
「…………あ」
顔が、爆発したように赤い。
美羽も、ぽかんと口を開けたまま動かない。
「……」
「……いや、ちょっとまて、違ぇよ?あの…」
そして——
「……ぷっ」
「……あは」
「あはははははははは!!!!!」
次の瞬間、
美羽は腹を抱えて爆笑した。
カフェにて
暖かい店内。
椿の前で、美羽は未だに笑いが止まらない。
「だって!!あの椿くんが!!足って!!」
「……笑うなよ」
椿はカップを持ちながら、
耳まで真っ赤にして拗ねている。
「後で覚えてろよ……」
「ごめん、ごめん!でも、なんかおかしくって!」
ひとしきり笑ったあと、美羽はふと首を傾げた。
「ねぇ。そういえば冬休み前に話してたフェチって……」
そして、珍しくニヤリとする。
「もしかして椿くん、実は足だったり?」
「……っ」
図星。
「……なんだよ、わりーかよ」
椿はそっぽを向く。
美羽は、少し照れながら微笑んだ。
「ううん。悪くないよ?」
「なんか……椿くんのこと、色々知れて嬉しい」
椿は、そんな美羽を見て、また静かに赤くなった。
そのとき。
——ブルル。
椿のスマホが震える。
画面を見て、眉をひそめる。
「……悪ぃ、父さんだ。ちょっと外で電話してくる」
「う、うん」
美羽はパフェをつつきながら見送る。
数分後ー*
外は、思ったより風が強かった。
電話を終えた瞬間、
突風が吹き——
「……っ、いてぇ」
椿は思わず目をこする。
(ゴミ入ったか……)
そのまま店に戻ると、片目を押さえている椿を見て、美羽が心配そうに立ち上がる。
「え?椿くん、大丈夫?目、どうしたの?!」
「あぁ、ちょっとゴミ入ったみてぇ」
「洗面所いってくるわ」
「ハンカチいる?」
「サンキュ」
椿はハンカチを受け取り、
洗面所へ向かった。
——が。
洗面所の鏡の前で、
彼は小さく舌打ちした。
「……あー、コンタクト、剥がれてんじゃねぇか」
片方が、完全に外れている。
「ついてねぇな……」
諦めて、もう片方も外し、
そのまま席へ戻る。
そして、事件は起きることとなる。
「コンタクト落としたみてぇだ」
「え?!大丈夫?!買いにいく?!」
「いや」
椿は鞄を開け、慣れた手つきで取り出した。
——黒縁眼鏡。
「こんなこともあろうかと、これがある」
そう言って、眼鏡をかけた時だった。
「……あぁ、これで良く見え——」
その瞬間。
ガシャン!!
美羽の手から、スプーンが派手に落ちた。
「……?」
椿は首を傾げる。
次の瞬間、美羽の顔が——
ありえないほど、真っ赤になっていた。
「……ん?」
椿が言うより早く。
「キャーーーーーー!!!!!!」
店内に響き渡る、美羽の悲鳴。
椿は完全にフリーズ。
「は?」
美羽は震えながら、両手で顔を覆っている。
「だ、だめ……無理……!!反則ぅ……!!」
「……なにがだよ」
「無理無理無理無理!!心臓もたないから!!!」
周囲の客がざわつく中、椿はようやく理解した。
(……あ。これか、だから玲央みてたのか。)
——美羽の、眼鏡フェチ。
まさかの、彼氏本人で発動。
椿はため息をつきながら、眼鏡の奥でニヤリと笑った。
「ふっ、面白ぇ」
椿は、さっきからずっと落ち着かなかった。
ショッピングモールへ向かう夜道。
イルミネーションが歩道を照らし、人々の影がきらきらと伸びている。
その横で、美羽が歩いている。
ローズ色のショートパンツから伸びる、すらりとした脚。
白いダウンの裾から覗く素肌が、冬の空気にやけに目立っていた。
(……なんつー格好してきてんだよ)
椿は前を向きながら、内心で盛大にため息をつく。
(寒いだろ、それ)
(つーか……見せすぎだろ)
視線を逸らしたいのに、気づくとまた見てしまう。
心臓が、無駄に早い。
「……」
椿は軽く咳払いして、
できるだけ平静を装った。
「美羽、今日は寒ぃんだから、もう少し暖かい格好なかったのか?」
さりげないトーン。……のつもりだった。
しかし。
「ええ?!これダメ?!」
美羽がぴたりと立ち止まり、ショックを受けた顔で振り返る。
「せっかくおしゃれしてきたのに?!私、昨日からすっごい悩んだんだよ!?」
「い、いや……」
椿は言葉に詰まる。
「ダメじゃねぇけど……。いや……ダメだろ……」
ぼそっと零れた本音。
それを、美羽は全部真に受けた様子。
「……椿くん、ひどい」
みるみる潤む瞳。
「せっかく……私……」
「は?おい、泣くなよ?!」
椿は慌てて振り向く。
だが、美羽の目からはぽろぽろと涙がこぼれ始めていた。
「だってぇ……」
「……っ」
椿は頭を抱えた。
(あーくそ。俺の言い方が悪いのか)
がしがしと髪を掻き、覚悟を決めたように息を吸う。
「……いや、だからな」
「お前の足が……」
「……え?」
美羽は、きょとん。
「なに……?」
椿は一瞬固まり、
そして——
「……あーくそ!」
声を荒げる。
「お前の綺麗な足見てるとだな!触りたくなんだよ!!」
言った。
言い切った。
……数秒の沈黙。
椿は、自分が何を言ったのか理解した瞬間、
ぴたりと固まった。
「…………あ」
顔が、爆発したように赤い。
美羽も、ぽかんと口を開けたまま動かない。
「……」
「……いや、ちょっとまて、違ぇよ?あの…」
そして——
「……ぷっ」
「……あは」
「あはははははははは!!!!!」
次の瞬間、
美羽は腹を抱えて爆笑した。
カフェにて
暖かい店内。
椿の前で、美羽は未だに笑いが止まらない。
「だって!!あの椿くんが!!足って!!」
「……笑うなよ」
椿はカップを持ちながら、
耳まで真っ赤にして拗ねている。
「後で覚えてろよ……」
「ごめん、ごめん!でも、なんかおかしくって!」
ひとしきり笑ったあと、美羽はふと首を傾げた。
「ねぇ。そういえば冬休み前に話してたフェチって……」
そして、珍しくニヤリとする。
「もしかして椿くん、実は足だったり?」
「……っ」
図星。
「……なんだよ、わりーかよ」
椿はそっぽを向く。
美羽は、少し照れながら微笑んだ。
「ううん。悪くないよ?」
「なんか……椿くんのこと、色々知れて嬉しい」
椿は、そんな美羽を見て、また静かに赤くなった。
そのとき。
——ブルル。
椿のスマホが震える。
画面を見て、眉をひそめる。
「……悪ぃ、父さんだ。ちょっと外で電話してくる」
「う、うん」
美羽はパフェをつつきながら見送る。
数分後ー*
外は、思ったより風が強かった。
電話を終えた瞬間、
突風が吹き——
「……っ、いてぇ」
椿は思わず目をこする。
(ゴミ入ったか……)
そのまま店に戻ると、片目を押さえている椿を見て、美羽が心配そうに立ち上がる。
「え?椿くん、大丈夫?目、どうしたの?!」
「あぁ、ちょっとゴミ入ったみてぇ」
「洗面所いってくるわ」
「ハンカチいる?」
「サンキュ」
椿はハンカチを受け取り、
洗面所へ向かった。
——が。
洗面所の鏡の前で、
彼は小さく舌打ちした。
「……あー、コンタクト、剥がれてんじゃねぇか」
片方が、完全に外れている。
「ついてねぇな……」
諦めて、もう片方も外し、
そのまま席へ戻る。
そして、事件は起きることとなる。
「コンタクト落としたみてぇだ」
「え?!大丈夫?!買いにいく?!」
「いや」
椿は鞄を開け、慣れた手つきで取り出した。
——黒縁眼鏡。
「こんなこともあろうかと、これがある」
そう言って、眼鏡をかけた時だった。
「……あぁ、これで良く見え——」
その瞬間。
ガシャン!!
美羽の手から、スプーンが派手に落ちた。
「……?」
椿は首を傾げる。
次の瞬間、美羽の顔が——
ありえないほど、真っ赤になっていた。
「……ん?」
椿が言うより早く。
「キャーーーーーー!!!!!!」
店内に響き渡る、美羽の悲鳴。
椿は完全にフリーズ。
「は?」
美羽は震えながら、両手で顔を覆っている。
「だ、だめ……無理……!!反則ぅ……!!」
「……なにがだよ」
「無理無理無理無理!!心臓もたないから!!!」
周囲の客がざわつく中、椿はようやく理解した。
(……あ。これか、だから玲央みてたのか。)
——美羽の、眼鏡フェチ。
まさかの、彼氏本人で発動。
椿はため息をつきながら、眼鏡の奥でニヤリと笑った。
「ふっ、面白ぇ」



