危険すぎる恋に、落ちてしまいました。3

そうこうしているうちに、季節はあっという間に冬休みに突入し、
街はどこもかしこも、浮かれた光で満ちていた。
イルミネーションに包まれた駅前。
赤や金色のライトが、歩く人たちの影を長く伸ばす。

——12月24日。
クリスマスイブ。
美羽は、いつもの駅ではなく、
少し離れたショッピングモール手前の壁にもたれながら、
ひとり、椿を待っていた。

(……椿くん…まだかな~)

スマホを確認すると、待ち合わせより少し早い時間。
「ちょっと早く来すぎちゃった……」
「気合い入れすぎかなぁ……」

そう呟きながら、つま先をもじもじと動かす。
今日の美羽は、珍しくかなり大人っぽい。
ローズ色のショートパンツに、
ふわふわのオーバーシャギーニット。
その上から白いダウンを羽織り、
首元には小さなマフラー。
昨日、鈴から届いたLINEが頭をよぎる。


――
《美羽ちゃーん!!
お兄ちゃんとクリスマスデートでしょ?!
可愛くコーデ決めて頑張ってね!!
写真送ってね!!》
――


(……鈴ちゃん、絶対楽しんでるよね)

「ショーパン……やっぱまずかったかなぁ」
「寒いし……でも、可愛いって思ってくれたら……」

白い息が、ふわりと宙に溶けていく。
そのときだった。

「ねぇ」

背後から、少し軽い声。
振り向くと、
年上のチャラそうな男が二、三人、にやにやしながら立っていた。

「君、可愛いね~?」
「なに?クリスマスなのにひとり?」

美羽は一瞬だけ眉をひそめるが、
すぐに営業スマイルのような笑顔を貼り付ける。

「あ、大丈夫です~彼氏待ってるので。」

そう言ってスマホに視線を落とす。
だが、男たちは引かない。

「えー?彼氏にしては遅くない?」
「バックれたんじゃね?」

下品な笑い声。

「いいじゃん、俺らと遊ぼうよ!」

(……めんどくさいなぁ)

美羽は、にこっと笑いながら言い返す。

「えー?でも彼、カッコいいから準備が遅くて」
「たぶん、リムジンで来るんですよ♪」

男たちが一瞬、きょとんとする。

「……は?」
「なので、大丈夫です~」

あまりにも堂々とした嘘に、男たちの顔が引きつる。

「……あ?」
「調子乗ってんじゃねぇぞ?」

次の瞬間——
ぐいっと、美羽の腕が掴まれた。

「ちょっと来いよ」
「遊ぶだけだって」

(……あーもう)

椿がまだ来ないことへの苛立ちと
この寒さ。

そして、何より——

(うっざ……)

美羽の中で、何かがブチッと切れた。

「離してください。警察呼びますよ?」

低い声。
だが、男たちは笑う。

「あぁ?黙ってついてこいって——」

言い終わる前だった。

——ドンッ!!

美羽の足がしなやかに動き、
腕を掴んでいた男の腹部に、鋭い前蹴り。

「ぐぇっ?!」

男はそのまま後ろへ吹き飛び、地面に転がる。

「なっ……!」
「この、野郎っ…!!」

横から別の男が殴りかかるが、
美羽は一歩下がり、軽くかわす。

「……遅いよ」

バシッ!
正拳突きが、男の胸に決まり、
息が詰まったような声が漏れる。
最後の一人が慌てて蹴りを繰り出すが——

「だから、遅いって言ってるでしょ!」

くるり、と回転し、
美しいフォームの回し蹴り。

——ドサッ。
静寂。
美羽は軽く息を整え、髪を耳にかける。

「……ったく。しつこいんだから」

そのとき。

「美羽!!」
聞き慣れた声。
振り向くと、人混みをかき分けて走ってくる椿の姿。

「……あ」

美羽は一瞬きょとんとし、次の瞬間、満面の笑みになる。

「椿くーん!」

ぶんぶんと手を振る。
椿は息を切らしながら近づき、
倒れている男たちを見て固まった。

「……?美羽、大丈夫か?」

そして、首をかしげる。

「……つか、こいつら誰?」
「知らなーい」

美羽はあっけらかんと答え、
椿の腕にぎゅっとしがみつく。

「もういいから、行こ?寒いし!」
「……あ、ああ」

状況が理解できないまま、
椿は美羽に引っ張られるように歩き出す。
後に残された男たちは、うめき声を上げながら空を見上げる。

「……イケメンすぎんだろ……」
「……しかも彼女、強…ぇ……」

そして、静かに気絶した。
イルミネーションの光が、ふたりの背中を優しく照らす。
椿は歩きながら、美羽をちらりと見る。

「……なぁ。さっきの、何があった?」

美羽はにこっと笑う。

「んー?ちょっと、クリスマス前の準備運動?」
「……お前、ほんと最強だな」
「でしょ?」

そう言って、美羽は椿の腕にぎゅっと力を込めた。

(遅れてきても、こうして来てくれたから……)


胸の奥が、少しだけ温かくなる。
白い息が、夜空に溶けていった。



——クリスマスイブは、
まだ始まったばかり。
このあと待ち受けるのは、
甘すぎるデートか、
それとも、さらに波乱か。