体育祭が終わり、校舎に吹き込む風はすっかり冷たくなっていた。
廊下の窓ガラスは白く曇り、遠くで誰かがマフラーを巻き直す姿が見える。
冬休みまで、あと一週間。
黒薔薇学園・生徒会室は、
その季節感とは裏腹に、いつも通り騒がしかった。
「はぁ……」
美羽は両腕いっぱいに決算資料を抱え、
生徒会室と資料室を行ったり来たりしている。
「これで最後……かな?」
「うわ、重っ……!」
バタバタと扉を出ていく美羽の背中を見送りながら、悠真は椅子にだらりと座り、修正済みの資料を指で弾いていた。
「だぁーもう!!」
突然、悠真が叫ぶ。
「地味すぎるって!」
「数字!数字!数字!」
「生徒会って、こんなに面白くない場所だったっけ?!」
「悠真、うるせぇよ」
電話を耳に当てたままの椿が、眉間に深いシワを寄せる。
「今、校長と話してんだぞ」
「はいはい~」
遼は雑巾を絞りながら苦笑い。
「まぁまぁ、椿」
「確かに退屈だし、たまには悠真に乗ってやってもいいんじゃない~?」
その言葉を待ってましたと言わんばかりに、
悠真の目がきらりと光る。
「よっしゃ!!じゃあズバリ!!」
勢いよく立ち上がり、指を突き出す。
♪ピコピコドンドン!パフパフ~♪
「みんなのフェチが知りたい!!」
「却下」
椿の即答。
「えええ!?なんでだよ~!!」
悠真は床に座り込んで足をバタバタさせる。
「面白いじゃん!男子高校生の健全なトークだよ?!」
「健全の意味を辞書で引け」
玲央はパソコンから目を離さず、淡々と口を挟む。
「まぁ、タイトルはいささかハレンチではあるが、データ収集という観点では悪くない」
眼鏡の縁をくい、と押し上げる。
「……いや何のデータだよ」
椿が即ツッコむ。
碧は腹筋をしながら、にこにこと答えた。
「僕は、やっぱり腹筋!!ですね!!」
「それ自分の筋肉だろ」
遼のツッコミが冴える。
椿は、深くため息をついた。
「くだらねぇ……」
資料に赤ペンで修正を入れながら、露骨に興味なさそうだ。
遼はそんな椿を横目に、ニヤリと笑う。
「まぁまぁ椿~、気分転換だって」
「で?悠真はフェチといったらどこなの?」
「え、僕から聞いちゃうー?」
急に照れたように頬をかき、悠真は声を潜める。
「ん~……やっぱ、うなじかなぁ~」
一瞬の間。
「……美羽ちゃんのうなじは特に……」
――ブチッ。
嫌な音が響いた。
椿の手の中で、ペンが真っ二つに折れている。
「……おい」
生徒会室の空気が、凍った。
遼が慌てて割って入る。
「ちょ、ちょっと椿くん?!冗談じゃん?!ね?!」
そして、話題を逸らすように続ける。
「へぇ~悠真もなかなかセンスあるよねぇ!ちなみに、玲央は?」
玲央は淡々と答えた。
「特に何か感じるわけではないが……まぁ、目を見るほうかもしれないな」
「へぇ~!!」
遼は目を丸くする。
「玲央もそんなこと考えるんだ?ちなみに俺はねぇ~」
掃除の手を止め、にやっと笑う。
「可愛い女の子が、目をうるうるさせてたらグッとくるね」
「それ、フェチじゃなくて"癖"じゃないの?」
悠真が即座にツッコむ。
そして、急にキラキラした目で言った。
「それよりさ!!美羽ちゃんのフェチが知りたいなあ~!!」
「あ?」
椿の声が低くなる。
「悠真、ふざけてんのか?」
「え~?じゃあさ、椿がかわりに答えればいーじゃん!」
悠真は腕を組んで、そっぽを向く。
「ちなみに僕と同じは却下だからね!」
「……」
椿は眉間にシワを寄せ、口を開きかける。
「俺は――」
一斉に集まる視線。
だが、次の瞬間。
「……やっぱ言わねぇ」
ぷいっと視線を逸らす。
「って、えええ~!!めっちゃ溜めてそれかよ?!」
遼がずっこける。
「椿くんは!照れ屋さん!でしょうからね!!」
碧はまだ腹筋をしている。
そのとき。
「ただいま~」
扉が開き、美羽が戻ってきた。
「なに?なに?なんか楽しそうだね!」
椿は即座に言った。
「美羽、聞かなくていい。悠真のおふざけだ」
「え?そうなの?」
美羽はにこっと笑う。
「悠真くん、ダメよ?ちゃんと仕事しないと~」
「ふざけてないもん!!」
悠真が立ち上がる。
「僕は美羽ちゃんのフェチが知りたいだけだもん!!」
「ばか!やめろ!!」
椿が止めに入るが、遼が背後から椿の口をふさぐ。
「まぁまぁ!彼女の意見を聞くのも、彼氏の役目じゃね?」
「おい遼!?何すんだ?!」
「え?!フェチ?!」
美羽は顔を赤くして慌てる。
悠真はどこからかマイクを取り出し、
美羽の口元に差し出す。
「さ!美羽ちゃん!!ズバリ君のフェチはどこ?!」
「え、えーっと……」
もじもじしながら、美羽は――
なぜか、ちらりと玲央を見る。
「……?」
一瞬の静寂。
「は?」
椿の声が低く響く。
遼、碧、悠真は完全にフリーズ。
玲央は首をかしげた。
「……何だ。俺の顔に何かついているのか?」
「…っ!!や、やっぱり私、言えない~!!」
美羽は顔を隠し、そのまま生徒会室を飛び出していった。
「えええ?!美羽ちゃんんん!??」
悠真の叫びが虚しく響く。
椿は立ち上がり、怒りを露にする。
「おい、玲央。後で表出ろ」
「なぜだ椿。」
「落ち着いて?!椿くーんっ!!」
遼が必死に止める。
「こぉれが!!落ち着いてられっかぁ!!」
今日も生徒会は平和である(※騒音的な意味で)。
――そのころ。
廊下を走る美羽は、曲がり角で誰かとすれ違った。
「あれ?美羽ちゃん?」
「……あ!」
秋人だった。
だが、その瞬間。
「……?!」
美羽の目が、秋人の顔に釘付けになる。
「え、秋人くん…そ、それ……どうしたの?!」
指差す先。
そこには――
眼鏡をかけた秋人。
「ああ、これ?今日はコンタクトの調子が悪くてね」
爽やかに微笑む。
「眼鏡にしたんだ。変かな?」
「きゃーーー!!!」
美羽は両手で顔を覆う。
「無理無理無理!!絶対ダメだよぉーー!!!」
そのまま全力で逃走。
「……え?」
秋人は廊下に取り残され、
眼鏡を押さえながらぽつり。
「……そんなに変?」
――お分かりいただけただろうか。
雨宮美羽、実は眼鏡フェチである。
そしてこの事実は、後にクリスマスで
わくわくドキドキの展開となることを知らない。
廊下の窓ガラスは白く曇り、遠くで誰かがマフラーを巻き直す姿が見える。
冬休みまで、あと一週間。
黒薔薇学園・生徒会室は、
その季節感とは裏腹に、いつも通り騒がしかった。
「はぁ……」
美羽は両腕いっぱいに決算資料を抱え、
生徒会室と資料室を行ったり来たりしている。
「これで最後……かな?」
「うわ、重っ……!」
バタバタと扉を出ていく美羽の背中を見送りながら、悠真は椅子にだらりと座り、修正済みの資料を指で弾いていた。
「だぁーもう!!」
突然、悠真が叫ぶ。
「地味すぎるって!」
「数字!数字!数字!」
「生徒会って、こんなに面白くない場所だったっけ?!」
「悠真、うるせぇよ」
電話を耳に当てたままの椿が、眉間に深いシワを寄せる。
「今、校長と話してんだぞ」
「はいはい~」
遼は雑巾を絞りながら苦笑い。
「まぁまぁ、椿」
「確かに退屈だし、たまには悠真に乗ってやってもいいんじゃない~?」
その言葉を待ってましたと言わんばかりに、
悠真の目がきらりと光る。
「よっしゃ!!じゃあズバリ!!」
勢いよく立ち上がり、指を突き出す。
♪ピコピコドンドン!パフパフ~♪
「みんなのフェチが知りたい!!」
「却下」
椿の即答。
「えええ!?なんでだよ~!!」
悠真は床に座り込んで足をバタバタさせる。
「面白いじゃん!男子高校生の健全なトークだよ?!」
「健全の意味を辞書で引け」
玲央はパソコンから目を離さず、淡々と口を挟む。
「まぁ、タイトルはいささかハレンチではあるが、データ収集という観点では悪くない」
眼鏡の縁をくい、と押し上げる。
「……いや何のデータだよ」
椿が即ツッコむ。
碧は腹筋をしながら、にこにこと答えた。
「僕は、やっぱり腹筋!!ですね!!」
「それ自分の筋肉だろ」
遼のツッコミが冴える。
椿は、深くため息をついた。
「くだらねぇ……」
資料に赤ペンで修正を入れながら、露骨に興味なさそうだ。
遼はそんな椿を横目に、ニヤリと笑う。
「まぁまぁ椿~、気分転換だって」
「で?悠真はフェチといったらどこなの?」
「え、僕から聞いちゃうー?」
急に照れたように頬をかき、悠真は声を潜める。
「ん~……やっぱ、うなじかなぁ~」
一瞬の間。
「……美羽ちゃんのうなじは特に……」
――ブチッ。
嫌な音が響いた。
椿の手の中で、ペンが真っ二つに折れている。
「……おい」
生徒会室の空気が、凍った。
遼が慌てて割って入る。
「ちょ、ちょっと椿くん?!冗談じゃん?!ね?!」
そして、話題を逸らすように続ける。
「へぇ~悠真もなかなかセンスあるよねぇ!ちなみに、玲央は?」
玲央は淡々と答えた。
「特に何か感じるわけではないが……まぁ、目を見るほうかもしれないな」
「へぇ~!!」
遼は目を丸くする。
「玲央もそんなこと考えるんだ?ちなみに俺はねぇ~」
掃除の手を止め、にやっと笑う。
「可愛い女の子が、目をうるうるさせてたらグッとくるね」
「それ、フェチじゃなくて"癖"じゃないの?」
悠真が即座にツッコむ。
そして、急にキラキラした目で言った。
「それよりさ!!美羽ちゃんのフェチが知りたいなあ~!!」
「あ?」
椿の声が低くなる。
「悠真、ふざけてんのか?」
「え~?じゃあさ、椿がかわりに答えればいーじゃん!」
悠真は腕を組んで、そっぽを向く。
「ちなみに僕と同じは却下だからね!」
「……」
椿は眉間にシワを寄せ、口を開きかける。
「俺は――」
一斉に集まる視線。
だが、次の瞬間。
「……やっぱ言わねぇ」
ぷいっと視線を逸らす。
「って、えええ~!!めっちゃ溜めてそれかよ?!」
遼がずっこける。
「椿くんは!照れ屋さん!でしょうからね!!」
碧はまだ腹筋をしている。
そのとき。
「ただいま~」
扉が開き、美羽が戻ってきた。
「なに?なに?なんか楽しそうだね!」
椿は即座に言った。
「美羽、聞かなくていい。悠真のおふざけだ」
「え?そうなの?」
美羽はにこっと笑う。
「悠真くん、ダメよ?ちゃんと仕事しないと~」
「ふざけてないもん!!」
悠真が立ち上がる。
「僕は美羽ちゃんのフェチが知りたいだけだもん!!」
「ばか!やめろ!!」
椿が止めに入るが、遼が背後から椿の口をふさぐ。
「まぁまぁ!彼女の意見を聞くのも、彼氏の役目じゃね?」
「おい遼!?何すんだ?!」
「え?!フェチ?!」
美羽は顔を赤くして慌てる。
悠真はどこからかマイクを取り出し、
美羽の口元に差し出す。
「さ!美羽ちゃん!!ズバリ君のフェチはどこ?!」
「え、えーっと……」
もじもじしながら、美羽は――
なぜか、ちらりと玲央を見る。
「……?」
一瞬の静寂。
「は?」
椿の声が低く響く。
遼、碧、悠真は完全にフリーズ。
玲央は首をかしげた。
「……何だ。俺の顔に何かついているのか?」
「…っ!!や、やっぱり私、言えない~!!」
美羽は顔を隠し、そのまま生徒会室を飛び出していった。
「えええ?!美羽ちゃんんん!??」
悠真の叫びが虚しく響く。
椿は立ち上がり、怒りを露にする。
「おい、玲央。後で表出ろ」
「なぜだ椿。」
「落ち着いて?!椿くーんっ!!」
遼が必死に止める。
「こぉれが!!落ち着いてられっかぁ!!」
今日も生徒会は平和である(※騒音的な意味で)。
――そのころ。
廊下を走る美羽は、曲がり角で誰かとすれ違った。
「あれ?美羽ちゃん?」
「……あ!」
秋人だった。
だが、その瞬間。
「……?!」
美羽の目が、秋人の顔に釘付けになる。
「え、秋人くん…そ、それ……どうしたの?!」
指差す先。
そこには――
眼鏡をかけた秋人。
「ああ、これ?今日はコンタクトの調子が悪くてね」
爽やかに微笑む。
「眼鏡にしたんだ。変かな?」
「きゃーーー!!!」
美羽は両手で顔を覆う。
「無理無理無理!!絶対ダメだよぉーー!!!」
そのまま全力で逃走。
「……え?」
秋人は廊下に取り残され、
眼鏡を押さえながらぽつり。
「……そんなに変?」
――お分かりいただけただろうか。
雨宮美羽、実は眼鏡フェチである。
そしてこの事実は、後にクリスマスで
わくわくドキドキの展開となることを知らない。



