危険すぎる恋に、落ちてしまいました。3

昼休みの校舎は、
体育祭前特有のざわめきに包まれていた。
廊下には色とりどりのクラス旗、
窓からは夏の名残を感じさせる強い光。
どこか浮き足立った空気の中で、
美羽は莉子を半ば強引に屋上へ連れ出していた。

「……で?」

フェンスにもたれながら、
美羽は腕を組み、じっと莉子を見つめる。

「結局さ~、莉子って本当のところ遼くんのこと、どう思ってるの?」

「っ――!!」

莉子は思わず息を詰まらせ、
慌てて視線を逸らす。

「え!!美羽?!な、なんで急にそんな事聞くのよ!」
「心の準備ってものが……!」
「はいはい!逃げない逃げなーい」 美羽は静かに笑った。
「ちゃんと答えて?」

しばらく沈黙が落ちる。
遠くで体育祭の準備の声が聞こえる中、
莉子はぎゅっとスカートの裾を握った。

「……好き、だよ」

かすれた声。

「たぶんじゃない。ちゃんと……好き」

美羽は一瞬、目を丸くして、
次の瞬間ぱっと顔を輝かせた。

「きゃー!!やっぱり!?」

「でも!!待って美羽!」 莉子は慌てて続ける。

「どうしていいかわかんないの!」
「遼くん、掴みどころないし。私のことどう思ってるかもわかんないし…むしろ嫌われ…」

「なるほどね」 美羽は深く頷く。
そして、にやり。

「よし!!私が協力したげる!!」

「……へ?」
「莉子の恋、全力で応援するから!!だから覚悟してね!!」

「え?ちょ、待って。その目、嫌な予感しかしないんだけど……」

だがもう遅かった。

「ちょっと?!美羽~?!」





美羽はそのまま屋上を飛び出し、
廊下で荷物を運んでいた秋人の腕を掴む。

「秋人くん!!」
「お?美羽ちゃん。」 秋人は驚きつつも笑顔を崩さない。

「こんな所でどうしたの?」

「実はね…莉子の恋、応援したいの!」
「秋人くん協力して!!」

秋人は美羽に一連の流れを聞いて、一瞬だけ考えてから、すぐに楽しそうに目を細めた。

「ははーん。……なるほどね。それは、面白そうだね」

その距離が、
ほんの少しだけ近すぎた。
少し離れた場所でそれを見ていた遼は、
無意識に眉をひそめていた。

「……ん?またなんかあのふたり、怪しくね?」

胸の奥に、
理由のわからない違和感が芽生える。








体育祭当日。


グラウンドは歓声と音楽に満ち、
白線の上で生徒たちは汗を光らせていた。
リレーでは、
悠真と碧が異様な速さを見せる。

「速っ!!」
「何あれ!」

バトンを受け取る碧のフォームは無駄がなく、
悠真はテンションMAXで駆け抜ける。

「僕、今日ヒーローじゃない?!」
「なってますよ、完全に!!」 碧はキラキラしていた。

結果は一位。
観客席が沸く。
一方、玉入れでは——

「それっ!」
「はいっ!」
「やった!!いっぱい入ってる!!」

美羽が次々と玉を放り込んでいた。

「美羽ちゃん、意外と力あるよね~!!」
「雨宮さん中学で空手やってたからかな?」

クラスの女子が騒いでいた。

椿は少し離れた場所から、
そんな美羽をじっと見ていた。
真剣な横顔。
額に浮かぶ汗。

(…何だあれ…可愛いすぎんだろ。)

気づけば、自然と口元が緩んでいた。



そして、問題の種目。
借り物競争。
アナウンスが響く。


「代表者、前に出てくださーい!」

その瞬間。
「莉子!ちょっときて!!」 美羽が手を上げる。

「え?何々?!ちょ、聞いてないんだけど!!」

抗議する間もなく、莉子は参加者として整列させられていた。

「大丈夫大丈夫!!私に任せて!」 美羽は悪い笑顔をしている。

「え!ちょっと美羽?!冗談でしょ?!」

目隠しをされ、箱の中から紙を引く。

——ぱさ。
紙を開いた瞬間、
莉子の思考が止まった。

《好きな人》

「……はぁぁあ!?」

顔が一気に熱くなる。

「ちょっと美羽!!何なのよこれ!!」

少し離れた場所で美羽と秋人は肩を組み、
「Good luck~♪莉子!!」
「莉子頑張れー!応援してるよ~?」
と、満面の笑みだ。

「うっそ、最悪……!!」

だが、他の参加者はもう走り出している。

「ヤバいじゃん!!ど、どうしよ……!」

視線を彷徨わせ、ついに見つけた人物。

(うう~…!!仕方ない!!)

「……遼くん!」

次の瞬間。

「え?」 遼は腕を掴まれる。

「莉子ちゃん?!」
「いいから!!きて!!」

莉子は顔を真っ赤にして叫ぶ。

「ごちゃごちゃ言わないの!黙ってついてきなさいよ!!」

「ちょ、俺?何、どういうこと?!説明を――!」

歓声にかき消され、
ふたりはそのままゴール。
——一位。
司会の声が響く。

「借りたものは——!」

その瞬間、莉子は紙を奪い取りマイクを掴んだ。

「おほん!えーっと!…"可愛い男子"です!!」

「おおおーー!!」

「え?俺ってそうなの?」

歓声が沸く。だが、遼は納得していなかった。

「……莉子ちゃん」

遼は莉子の腕を掴む。

「ちょっと来て」
「え?」
「ちょ、遼くん――!?」

人混みの外へ連れ出される二人。
それを見ていた美羽と秋人。

「……これは?ええっと」 美羽が首を傾げる。
「作戦、成功なの?かな?」

秋人は少し考え、穏やかに笑った。

「少なくとも…美羽ちゃんの期待するものかはわからないけど、恋は、動き出したんじゃないかな?」

グラウンドには、
まだ歓声が響いていた。
恋は借り物じゃない。


でも——
勇気は、きっかけで生まれる。
体育祭は、きっとドキドキへのスタート。