昼休みの校舎は、
体育祭前特有のざわめきに包まれていた。
廊下には色とりどりのクラス旗、
窓からは夏の名残を感じさせる強い光。
どこか浮き足立った空気の中で、
美羽は莉子を半ば強引に屋上へ連れ出していた。
「……で?」
フェンスにもたれながら、
美羽は腕を組み、じっと莉子を見つめる。
「結局さ~、莉子って本当のところ遼くんのこと、どう思ってるの?」
「っ――!!」
莉子は思わず息を詰まらせ、
慌てて視線を逸らす。
「え!!美羽?!な、なんで急にそんな事聞くのよ!」
「心の準備ってものが……!」
「はいはい!逃げない逃げなーい」 美羽は静かに笑った。
「ちゃんと答えて?」
しばらく沈黙が落ちる。
遠くで体育祭の準備の声が聞こえる中、
莉子はぎゅっとスカートの裾を握った。
「……好き、だよ」
かすれた声。
「たぶんじゃない。ちゃんと……好き」
美羽は一瞬、目を丸くして、
次の瞬間ぱっと顔を輝かせた。
「きゃー!!やっぱり!?」
「でも!!待って美羽!」 莉子は慌てて続ける。
「どうしていいかわかんないの!」
「遼くん、掴みどころないし。私のことどう思ってるかもわかんないし…むしろ嫌われ…」
「なるほどね」 美羽は深く頷く。
そして、にやり。
「よし!!私が協力したげる!!」
「……へ?」
「莉子の恋、全力で応援するから!!だから覚悟してね!!」
「え?ちょ、待って。その目、嫌な予感しかしないんだけど……」
だがもう遅かった。
「ちょっと?!美羽~?!」
美羽はそのまま屋上を飛び出し、
廊下で荷物を運んでいた秋人の腕を掴む。
「秋人くん!!」
「お?美羽ちゃん。」 秋人は驚きつつも笑顔を崩さない。
「こんな所でどうしたの?」
「実はね…莉子の恋、応援したいの!」
「秋人くん協力して!!」
秋人は美羽に一連の流れを聞いて、一瞬だけ考えてから、すぐに楽しそうに目を細めた。
「ははーん。……なるほどね。それは、面白そうだね」
その距離が、
ほんの少しだけ近すぎた。
少し離れた場所でそれを見ていた遼は、
無意識に眉をひそめていた。
「……ん?またなんかあのふたり、怪しくね?」
胸の奥に、
理由のわからない違和感が芽生える。
体育祭当日。
グラウンドは歓声と音楽に満ち、
白線の上で生徒たちは汗を光らせていた。
リレーでは、
悠真と碧が異様な速さを見せる。
「速っ!!」
「何あれ!」
バトンを受け取る碧のフォームは無駄がなく、
悠真はテンションMAXで駆け抜ける。
「僕、今日ヒーローじゃない?!」
「なってますよ、完全に!!」 碧はキラキラしていた。
結果は一位。
観客席が沸く。
一方、玉入れでは——
「それっ!」
「はいっ!」
「やった!!いっぱい入ってる!!」
美羽が次々と玉を放り込んでいた。
「美羽ちゃん、意外と力あるよね~!!」
「雨宮さん中学で空手やってたからかな?」
クラスの女子が騒いでいた。
椿は少し離れた場所から、
そんな美羽をじっと見ていた。
真剣な横顔。
額に浮かぶ汗。
(…何だあれ…可愛いすぎんだろ。)
気づけば、自然と口元が緩んでいた。
そして、問題の種目。
借り物競争。
アナウンスが響く。
「代表者、前に出てくださーい!」
その瞬間。
「莉子!ちょっときて!!」 美羽が手を上げる。
「え?何々?!ちょ、聞いてないんだけど!!」
抗議する間もなく、莉子は参加者として整列させられていた。
「大丈夫大丈夫!!私に任せて!」 美羽は悪い笑顔をしている。
「え!ちょっと美羽?!冗談でしょ?!」
目隠しをされ、箱の中から紙を引く。
——ぱさ。
紙を開いた瞬間、
莉子の思考が止まった。
《好きな人》
「……はぁぁあ!?」
顔が一気に熱くなる。
「ちょっと美羽!!何なのよこれ!!」
少し離れた場所で美羽と秋人は肩を組み、
「Good luck~♪莉子!!」
「莉子頑張れー!応援してるよ~?」
と、満面の笑みだ。
「うっそ、最悪……!!」
だが、他の参加者はもう走り出している。
「ヤバいじゃん!!ど、どうしよ……!」
視線を彷徨わせ、ついに見つけた人物。
(うう~…!!仕方ない!!)
「……遼くん!」
次の瞬間。
「え?」 遼は腕を掴まれる。
「莉子ちゃん?!」
「いいから!!きて!!」
莉子は顔を真っ赤にして叫ぶ。
「ごちゃごちゃ言わないの!黙ってついてきなさいよ!!」
「ちょ、俺?何、どういうこと?!説明を――!」
歓声にかき消され、
ふたりはそのままゴール。
——一位。
司会の声が響く。
「借りたものは——!」
その瞬間、莉子は紙を奪い取りマイクを掴んだ。
「おほん!えーっと!…"可愛い男子"です!!」
「おおおーー!!」
「え?俺ってそうなの?」
歓声が沸く。だが、遼は納得していなかった。
「……莉子ちゃん」
遼は莉子の腕を掴む。
「ちょっと来て」
「え?」
「ちょ、遼くん――!?」
人混みの外へ連れ出される二人。
それを見ていた美羽と秋人。
「……これは?ええっと」 美羽が首を傾げる。
「作戦、成功なの?かな?」
秋人は少し考え、穏やかに笑った。
「少なくとも…美羽ちゃんの期待するものかはわからないけど、恋は、動き出したんじゃないかな?」
グラウンドには、
まだ歓声が響いていた。
恋は借り物じゃない。
でも——
勇気は、きっかけで生まれる。
体育祭は、きっとドキドキへのスタート。
体育祭前特有のざわめきに包まれていた。
廊下には色とりどりのクラス旗、
窓からは夏の名残を感じさせる強い光。
どこか浮き足立った空気の中で、
美羽は莉子を半ば強引に屋上へ連れ出していた。
「……で?」
フェンスにもたれながら、
美羽は腕を組み、じっと莉子を見つめる。
「結局さ~、莉子って本当のところ遼くんのこと、どう思ってるの?」
「っ――!!」
莉子は思わず息を詰まらせ、
慌てて視線を逸らす。
「え!!美羽?!な、なんで急にそんな事聞くのよ!」
「心の準備ってものが……!」
「はいはい!逃げない逃げなーい」 美羽は静かに笑った。
「ちゃんと答えて?」
しばらく沈黙が落ちる。
遠くで体育祭の準備の声が聞こえる中、
莉子はぎゅっとスカートの裾を握った。
「……好き、だよ」
かすれた声。
「たぶんじゃない。ちゃんと……好き」
美羽は一瞬、目を丸くして、
次の瞬間ぱっと顔を輝かせた。
「きゃー!!やっぱり!?」
「でも!!待って美羽!」 莉子は慌てて続ける。
「どうしていいかわかんないの!」
「遼くん、掴みどころないし。私のことどう思ってるかもわかんないし…むしろ嫌われ…」
「なるほどね」 美羽は深く頷く。
そして、にやり。
「よし!!私が協力したげる!!」
「……へ?」
「莉子の恋、全力で応援するから!!だから覚悟してね!!」
「え?ちょ、待って。その目、嫌な予感しかしないんだけど……」
だがもう遅かった。
「ちょっと?!美羽~?!」
美羽はそのまま屋上を飛び出し、
廊下で荷物を運んでいた秋人の腕を掴む。
「秋人くん!!」
「お?美羽ちゃん。」 秋人は驚きつつも笑顔を崩さない。
「こんな所でどうしたの?」
「実はね…莉子の恋、応援したいの!」
「秋人くん協力して!!」
秋人は美羽に一連の流れを聞いて、一瞬だけ考えてから、すぐに楽しそうに目を細めた。
「ははーん。……なるほどね。それは、面白そうだね」
その距離が、
ほんの少しだけ近すぎた。
少し離れた場所でそれを見ていた遼は、
無意識に眉をひそめていた。
「……ん?またなんかあのふたり、怪しくね?」
胸の奥に、
理由のわからない違和感が芽生える。
体育祭当日。
グラウンドは歓声と音楽に満ち、
白線の上で生徒たちは汗を光らせていた。
リレーでは、
悠真と碧が異様な速さを見せる。
「速っ!!」
「何あれ!」
バトンを受け取る碧のフォームは無駄がなく、
悠真はテンションMAXで駆け抜ける。
「僕、今日ヒーローじゃない?!」
「なってますよ、完全に!!」 碧はキラキラしていた。
結果は一位。
観客席が沸く。
一方、玉入れでは——
「それっ!」
「はいっ!」
「やった!!いっぱい入ってる!!」
美羽が次々と玉を放り込んでいた。
「美羽ちゃん、意外と力あるよね~!!」
「雨宮さん中学で空手やってたからかな?」
クラスの女子が騒いでいた。
椿は少し離れた場所から、
そんな美羽をじっと見ていた。
真剣な横顔。
額に浮かぶ汗。
(…何だあれ…可愛いすぎんだろ。)
気づけば、自然と口元が緩んでいた。
そして、問題の種目。
借り物競争。
アナウンスが響く。
「代表者、前に出てくださーい!」
その瞬間。
「莉子!ちょっときて!!」 美羽が手を上げる。
「え?何々?!ちょ、聞いてないんだけど!!」
抗議する間もなく、莉子は参加者として整列させられていた。
「大丈夫大丈夫!!私に任せて!」 美羽は悪い笑顔をしている。
「え!ちょっと美羽?!冗談でしょ?!」
目隠しをされ、箱の中から紙を引く。
——ぱさ。
紙を開いた瞬間、
莉子の思考が止まった。
《好きな人》
「……はぁぁあ!?」
顔が一気に熱くなる。
「ちょっと美羽!!何なのよこれ!!」
少し離れた場所で美羽と秋人は肩を組み、
「Good luck~♪莉子!!」
「莉子頑張れー!応援してるよ~?」
と、満面の笑みだ。
「うっそ、最悪……!!」
だが、他の参加者はもう走り出している。
「ヤバいじゃん!!ど、どうしよ……!」
視線を彷徨わせ、ついに見つけた人物。
(うう~…!!仕方ない!!)
「……遼くん!」
次の瞬間。
「え?」 遼は腕を掴まれる。
「莉子ちゃん?!」
「いいから!!きて!!」
莉子は顔を真っ赤にして叫ぶ。
「ごちゃごちゃ言わないの!黙ってついてきなさいよ!!」
「ちょ、俺?何、どういうこと?!説明を――!」
歓声にかき消され、
ふたりはそのままゴール。
——一位。
司会の声が響く。
「借りたものは——!」
その瞬間、莉子は紙を奪い取りマイクを掴んだ。
「おほん!えーっと!…"可愛い男子"です!!」
「おおおーー!!」
「え?俺ってそうなの?」
歓声が沸く。だが、遼は納得していなかった。
「……莉子ちゃん」
遼は莉子の腕を掴む。
「ちょっと来て」
「え?」
「ちょ、遼くん――!?」
人混みの外へ連れ出される二人。
それを見ていた美羽と秋人。
「……これは?ええっと」 美羽が首を傾げる。
「作戦、成功なの?かな?」
秋人は少し考え、穏やかに笑った。
「少なくとも…美羽ちゃんの期待するものかはわからないけど、恋は、動き出したんじゃないかな?」
グラウンドには、
まだ歓声が響いていた。
恋は借り物じゃない。
でも——
勇気は、きっかけで生まれる。
体育祭は、きっとドキドキへのスタート。



