黒薔薇学園では、
秋の気配がほんのり混じり始めた空の下、
体育祭の準備が本格的に始まっていた。
校庭の端では、
体操服姿の美羽と莉子が、準備運動をしている。
「せーの……っ」
「よいしょ……!」
背中合わせになり、
互いの腕を絡めて、ゆっくりと持ち上げるストレッチ。
「ふぅ……」
美羽は息を整えながら、ぽつりと言った。
「ねぇ、莉子……」
「んー?」
莉子は前屈しながら気のない返事。
「夏休みにね……椿くんと、ちゃんと話し合ったんだ」
莉子は、ぴたりと動きを止めた。
「……ん?」
美羽は、少しだけ視線を落として続ける。
「椿くん、卒業したら留学するでしょ」
「それで……私は、日本に残ることにした」
——次の瞬間。
「えええええええ?!?」
莉子の声が、校庭に響き渡った。
「ちょ、ちょっと美羽!!」
「どういうこと?!それ遠距離じゃない?!」 「え?!え?!何それ?!急展開すぎるよ!」
美羽は慌てて振り返り、
莉子の口を両手で塞ぐ。
「り、莉子!!声が大きいって!!」
「みんな見てるから!!」
「むぐむぐ……!」
莉子は一旦黙ったかと思うと、
次の瞬間、ハンカチを取り出し——
「……うぅ……なんて可哀想なの、美羽……」
わざとらしく目元を押さえ、
「この……」
「ロマンチックバカップルがぁ~!!
織姫と彦星も感動するわぁ~!」
「ちがうから!!」
美羽は即座にツッコむ。
「そんなノリじゃないから!!」
美羽は一度深呼吸してから、
少し寂しそうに、でも穏やかに笑った。
「ちゃんと、夏休みに話して」
「ふたりで考えて、決めたことなの」
莉子は、その笑顔を見てふざけるのをやめた。
「……美羽、本当に大丈夫なの?」
美羽は、柔軟運動を続けながら頷く。
「うん」
「正直、最初は悲しかったけど」
「でも……私も将来の夢、見つけたから」
「……そっか」
莉子は、じっと美羽を見つめてから、 ぎゅっと抱きついた。
「美羽ぇ、もし辛くなったら…私の胸、いつでも貸すからね……」
「ふふっ」
美羽は笑いながら、莉子の背中をぽんぽん叩く。
「ありがとう。そのときは、遠慮なく借りるね!」
その頃——
体育館では、黒薔薇メンバーたちが
汗をかきながら体育祭準備に追われていた。
「よっ、重っ……!」
秋人は段ボールを抱えながら、
椿の横に並ぶ。
「で?美羽ちゃん、日本に残るって本当なの?」
椿は黙々と器具を運びながら答える。
「あぁ」
秋人は一瞬だけ視線を逸らし、「……そっか」と短く言った。
その後ろから、
悠真が脚立を片手に現れる。
「ええ~?!美羽ちゃんマジで可哀想じゃん!」
椿が嫌な予感を覚えた、その瞬間——
「でも大丈夫だよ椿!!僕、将来警察官だからさ!」
「美羽ちゃんの周囲は、僕が守るナイトになるよ!」
「……そして、あわよくば——ふっ、ふっ…」
「はいストップー」
遼が、悠真の頭をぽかっと叩いた。
「悠真、そろそろ美羽ちゃん卒業しなよ?そして危ないし、脚立片手で走らないの~」
「嫌だぁぁ!!」
悠真は涙目になり、「僕は美羽ちゃんじゃないと嫌だぁぁ!!」
脚立を持ったまま走り回る悠真。
「すごいです!」 碧が目を輝かせる。
「悠真くん、片手で脚立を……!」
「そこじゃねぇよ!」 全員が心の中で突っ込んだ。
玲央は眼鏡の縁を押し上げながら、淡々と。
「まぁ、ふたりで決めたことなら口出しは不要だな。それまでに、ブロマイド販売で資金を——」
「おいおい。なんの商売だ、それ」
椿が苦笑いしてツッコミをいれる。
「需要と供給だ」 玲央はいつになく真顔だった。
遼はあくびをしながら言う。
「はぁ~……でもさ、俺らもそろそろ彼女欲しくね?」
「椿だけじゃん、最強カップル完成してんの」
「俺にも可愛い天使、降ってこねぇかなぁ~」
すると秋人が、ちらりと遼を見る。
「……まぁ、本当の“LOVE”に鈍い遼くんには、まだほど遠いんじゃない?」
「はぁ?」
遼の額に怒りマークが浮かぶ。
「何秋人くん、ちょっと発音いいからって調子乗んないでくれない?」
「美羽ちゃん失恋ボーイ第1号の君に言われたくないんだけどー?」
「いやいや!!」 悠真がすかさず戻ってくる。
「失恋第1号は僕だからねぇ!!」
「そこ重要項目なのか?」 玲央が首を傾げる。
そのとき——
「おーい!!」
体育の先生の怒号が飛んだ。
「そこの男子!!無駄話してないで早く準備しろー!!」
四人は顔を見合わせ——
なぜか一斉に胸を張る。
「「「「先生!!今、将来に向けてとても重要な会議中です!!」」」」
体育の先生は、一瞬言葉を失い、
「……お、おー。そ、そうか…しっかりやりさない?」
引き気味に去っていった。
その背中を見送りながら、
黒薔薇メンバーたちは顔を見合わせる。
「……体育祭。なんだか色々ありそうだな」
秋の風が、体育館を抜けていった。
恋も、友情も、将来も——
全部まとめて、
黒薔薇学園の二学期は、ますます騒がしくなりそうだった。
秋の気配がほんのり混じり始めた空の下、
体育祭の準備が本格的に始まっていた。
校庭の端では、
体操服姿の美羽と莉子が、準備運動をしている。
「せーの……っ」
「よいしょ……!」
背中合わせになり、
互いの腕を絡めて、ゆっくりと持ち上げるストレッチ。
「ふぅ……」
美羽は息を整えながら、ぽつりと言った。
「ねぇ、莉子……」
「んー?」
莉子は前屈しながら気のない返事。
「夏休みにね……椿くんと、ちゃんと話し合ったんだ」
莉子は、ぴたりと動きを止めた。
「……ん?」
美羽は、少しだけ視線を落として続ける。
「椿くん、卒業したら留学するでしょ」
「それで……私は、日本に残ることにした」
——次の瞬間。
「えええええええ?!?」
莉子の声が、校庭に響き渡った。
「ちょ、ちょっと美羽!!」
「どういうこと?!それ遠距離じゃない?!」 「え?!え?!何それ?!急展開すぎるよ!」
美羽は慌てて振り返り、
莉子の口を両手で塞ぐ。
「り、莉子!!声が大きいって!!」
「みんな見てるから!!」
「むぐむぐ……!」
莉子は一旦黙ったかと思うと、
次の瞬間、ハンカチを取り出し——
「……うぅ……なんて可哀想なの、美羽……」
わざとらしく目元を押さえ、
「この……」
「ロマンチックバカップルがぁ~!!
織姫と彦星も感動するわぁ~!」
「ちがうから!!」
美羽は即座にツッコむ。
「そんなノリじゃないから!!」
美羽は一度深呼吸してから、
少し寂しそうに、でも穏やかに笑った。
「ちゃんと、夏休みに話して」
「ふたりで考えて、決めたことなの」
莉子は、その笑顔を見てふざけるのをやめた。
「……美羽、本当に大丈夫なの?」
美羽は、柔軟運動を続けながら頷く。
「うん」
「正直、最初は悲しかったけど」
「でも……私も将来の夢、見つけたから」
「……そっか」
莉子は、じっと美羽を見つめてから、 ぎゅっと抱きついた。
「美羽ぇ、もし辛くなったら…私の胸、いつでも貸すからね……」
「ふふっ」
美羽は笑いながら、莉子の背中をぽんぽん叩く。
「ありがとう。そのときは、遠慮なく借りるね!」
その頃——
体育館では、黒薔薇メンバーたちが
汗をかきながら体育祭準備に追われていた。
「よっ、重っ……!」
秋人は段ボールを抱えながら、
椿の横に並ぶ。
「で?美羽ちゃん、日本に残るって本当なの?」
椿は黙々と器具を運びながら答える。
「あぁ」
秋人は一瞬だけ視線を逸らし、「……そっか」と短く言った。
その後ろから、
悠真が脚立を片手に現れる。
「ええ~?!美羽ちゃんマジで可哀想じゃん!」
椿が嫌な予感を覚えた、その瞬間——
「でも大丈夫だよ椿!!僕、将来警察官だからさ!」
「美羽ちゃんの周囲は、僕が守るナイトになるよ!」
「……そして、あわよくば——ふっ、ふっ…」
「はいストップー」
遼が、悠真の頭をぽかっと叩いた。
「悠真、そろそろ美羽ちゃん卒業しなよ?そして危ないし、脚立片手で走らないの~」
「嫌だぁぁ!!」
悠真は涙目になり、「僕は美羽ちゃんじゃないと嫌だぁぁ!!」
脚立を持ったまま走り回る悠真。
「すごいです!」 碧が目を輝かせる。
「悠真くん、片手で脚立を……!」
「そこじゃねぇよ!」 全員が心の中で突っ込んだ。
玲央は眼鏡の縁を押し上げながら、淡々と。
「まぁ、ふたりで決めたことなら口出しは不要だな。それまでに、ブロマイド販売で資金を——」
「おいおい。なんの商売だ、それ」
椿が苦笑いしてツッコミをいれる。
「需要と供給だ」 玲央はいつになく真顔だった。
遼はあくびをしながら言う。
「はぁ~……でもさ、俺らもそろそろ彼女欲しくね?」
「椿だけじゃん、最強カップル完成してんの」
「俺にも可愛い天使、降ってこねぇかなぁ~」
すると秋人が、ちらりと遼を見る。
「……まぁ、本当の“LOVE”に鈍い遼くんには、まだほど遠いんじゃない?」
「はぁ?」
遼の額に怒りマークが浮かぶ。
「何秋人くん、ちょっと発音いいからって調子乗んないでくれない?」
「美羽ちゃん失恋ボーイ第1号の君に言われたくないんだけどー?」
「いやいや!!」 悠真がすかさず戻ってくる。
「失恋第1号は僕だからねぇ!!」
「そこ重要項目なのか?」 玲央が首を傾げる。
そのとき——
「おーい!!」
体育の先生の怒号が飛んだ。
「そこの男子!!無駄話してないで早く準備しろー!!」
四人は顔を見合わせ——
なぜか一斉に胸を張る。
「「「「先生!!今、将来に向けてとても重要な会議中です!!」」」」
体育の先生は、一瞬言葉を失い、
「……お、おー。そ、そうか…しっかりやりさない?」
引き気味に去っていった。
その背中を見送りながら、
黒薔薇メンバーたちは顔を見合わせる。
「……体育祭。なんだか色々ありそうだな」
秋の風が、体育館を抜けていった。
恋も、友情も、将来も——
全部まとめて、
黒薔薇学園の二学期は、ますます騒がしくなりそうだった。



