夏休みは、思っていたよりもずっと早く終わった。
空手の道場での騒動も、
父と椿の真剣勝負も、
海辺で交わした約束も——
すべてが、ひと夏の熱の中に溶けていくようだった。
そして迎えた、二学期の朝。
美羽の家のリビングでは、
ひとりだけ季節を逆行している人物がいた。
「……美羽ぇ……」
「パパを置いて、学校行っちゃうのかぁ……」
ソファに座り、目を真っ赤に腫らした美羽の父である。
「もう、パパったら……」
美羽は苦笑いしながら靴を履く。
「毎日毎日、そんなに泣かないでよ~」
「彼氏って認めたんでしょ?」
「認めたけどぉ……!!」
父は声を裏返らせる。
「娘が取られた事実は変わらないだろう?!」 「パパの心は、毎朝失恋中なんだぞぉ~!!」
「はいはい」
美羽は軽く手を振った。
「夕方にはちゃんと帰ってくるから」
その様子を、キッチンから見ていた母がくすりと笑う。
「はいはい、パパはその辺で。美羽、今日から二学期ね。椿くんと、また素敵な思い出作ってきなさい」
「うん!ありがとう、ママ。」
美羽はにっこり笑って、 「行ってきまーす!」
玄関の扉が閉まる。
その瞬間——
「美羽ぇぇぇ…!!」
という父の絶叫が、家中に響いた。
「……もう」
美羽は振り返らず、空を見上げる。
(パパ、ほんと面倒くさいんだから)
朝の空は澄み切っていて、
少しだけ、夏の名残の匂いがした。
——駅前。
人の流れの中で、
美羽は、すぐに“その人”を見つけた。
壁にもたれて、静かに立つ椿。
夏よりも少し落ち着いて、
日に焼けた肌が反射し、大人びた雰囲気をまとっている。
美羽の胸が、ぎゅっと鳴った。
思わず足を止める。
「うう……二学期の椿くん、まぶしすぎるぅ」
美羽は小さく呟いた。
「私の彼氏、反則すぎなんですけど……」
その瞬間。
頭に、ぽん、と優しい重み。
美羽が顔を上げると、
そこには、ニヤリと笑う椿。
「ばーか。何、寝ぼけたこと言ってんだ?」
朝日に照らされて、
椿の薬指がきらりと光った。
——お揃いの指輪。
それを見た瞬間、
美羽の心臓は思い切り跳ねた。
「……っ」
顔が、かぁっと熱くなる。
「つ、椿くん……」 声が裏返る。
「ん?」 椿は何でもないことのように言う。
椿は、そんな美羽の手を取った。
指と指が絡む。
「行くぞ」 短く言って、歩き出す。
美羽は慌てて並び、
少しだけ歩いたところで、勇気を出した。
「……椿くん!」
「ん?どーした?」
椿が振り返る。
美羽は、ぎゅっと拳を握ってから——
顔を赤くしながら、はにかんで笑った。
「二学期も……よろしくね!」
一瞬、椿は目を瞬かせた。
そして、ふっと表情を緩める。
「はっ、……あぁ。こちらこそ」
繋いだ手に、少し力を込めて。
「これからも、ずっとな」
その言葉に、美羽の胸がじんわり温かくなる。
こうして——
ふたりの二学期が、静かに、確かに始まった。
夏が終わっても、
恋は終わらない。
むしろ、ここからが本番なのだと——
朝の光が、そっと祝福しているようだった。
空手の道場での騒動も、
父と椿の真剣勝負も、
海辺で交わした約束も——
すべてが、ひと夏の熱の中に溶けていくようだった。
そして迎えた、二学期の朝。
美羽の家のリビングでは、
ひとりだけ季節を逆行している人物がいた。
「……美羽ぇ……」
「パパを置いて、学校行っちゃうのかぁ……」
ソファに座り、目を真っ赤に腫らした美羽の父である。
「もう、パパったら……」
美羽は苦笑いしながら靴を履く。
「毎日毎日、そんなに泣かないでよ~」
「彼氏って認めたんでしょ?」
「認めたけどぉ……!!」
父は声を裏返らせる。
「娘が取られた事実は変わらないだろう?!」 「パパの心は、毎朝失恋中なんだぞぉ~!!」
「はいはい」
美羽は軽く手を振った。
「夕方にはちゃんと帰ってくるから」
その様子を、キッチンから見ていた母がくすりと笑う。
「はいはい、パパはその辺で。美羽、今日から二学期ね。椿くんと、また素敵な思い出作ってきなさい」
「うん!ありがとう、ママ。」
美羽はにっこり笑って、 「行ってきまーす!」
玄関の扉が閉まる。
その瞬間——
「美羽ぇぇぇ…!!」
という父の絶叫が、家中に響いた。
「……もう」
美羽は振り返らず、空を見上げる。
(パパ、ほんと面倒くさいんだから)
朝の空は澄み切っていて、
少しだけ、夏の名残の匂いがした。
——駅前。
人の流れの中で、
美羽は、すぐに“その人”を見つけた。
壁にもたれて、静かに立つ椿。
夏よりも少し落ち着いて、
日に焼けた肌が反射し、大人びた雰囲気をまとっている。
美羽の胸が、ぎゅっと鳴った。
思わず足を止める。
「うう……二学期の椿くん、まぶしすぎるぅ」
美羽は小さく呟いた。
「私の彼氏、反則すぎなんですけど……」
その瞬間。
頭に、ぽん、と優しい重み。
美羽が顔を上げると、
そこには、ニヤリと笑う椿。
「ばーか。何、寝ぼけたこと言ってんだ?」
朝日に照らされて、
椿の薬指がきらりと光った。
——お揃いの指輪。
それを見た瞬間、
美羽の心臓は思い切り跳ねた。
「……っ」
顔が、かぁっと熱くなる。
「つ、椿くん……」 声が裏返る。
「ん?」 椿は何でもないことのように言う。
椿は、そんな美羽の手を取った。
指と指が絡む。
「行くぞ」 短く言って、歩き出す。
美羽は慌てて並び、
少しだけ歩いたところで、勇気を出した。
「……椿くん!」
「ん?どーした?」
椿が振り返る。
美羽は、ぎゅっと拳を握ってから——
顔を赤くしながら、はにかんで笑った。
「二学期も……よろしくね!」
一瞬、椿は目を瞬かせた。
そして、ふっと表情を緩める。
「はっ、……あぁ。こちらこそ」
繋いだ手に、少し力を込めて。
「これからも、ずっとな」
その言葉に、美羽の胸がじんわり温かくなる。
こうして——
ふたりの二学期が、静かに、確かに始まった。
夏が終わっても、
恋は終わらない。
むしろ、ここからが本番なのだと——
朝の光が、そっと祝福しているようだった。



