夏休み貸し切りの黒薔薇学園。
普段は静かなはずの道場に、今日は異様な緊張感が漂っていた。
畳の上に立つだけで、背筋が自然と伸びる。
窓から差し込む強い夏の光が、床に長い影を落としていた。
「……で?」
その沈黙をぶち破ったのは、悠真だった。
「また僕達は、何を見させられてんの?!」
腕を組み、完全にツッコミ待ちの顔。
その隣で、玲央はいつも通り冷静だった。
眼鏡の縁を指で押し上げ、ノートパソコンを淡々と操作している。
「状況を説明する。雨宮美羽の父と、椿が雨宮美羽をかけた勝負をするらしい」
「いや説明が冷静すぎるんだけど!!」
悠真が叫ぶ。
その横では、双子が並んで畳に正座していた。
「へぇ〜、あれが美羽のお父さん!!」
莉子は目を輝かせている。
「初めて見るけど、ダンディーで素敵じゃな~い!!」
秋人は即座に訂正する。
「莉子、発音が間違ってるよ」
「“ダンディ”じゃなくて、“Dandy…”ね」
「そこぉぉお!?」
悠真がズッコける。
遼が思わず苦笑いする。
「いや〜、突っ込むとこそこじゃなくね?」
一方、碧はというと——
「……さすがです!」
目をキラキラさせながら、感動すらしていた。
「美羽さんのお父さん!!」
「威厳がありますね!!」
「強者の気配が、ひしひしと伝わってきます!!」
その視線の先。
白の胴着に、黒帯。
背筋を伸ばして立つ二人の男。
一人は——北条椿。
静かで、鋭い眼差し。
そしてもう一人は——
雨宮美羽の父。
年齢差はあれど、醸し出す圧は互角だった。
「……ちょっと!!」
耐えきれず、美羽が声を上げた。
「なんでこんなことになってるの?!」
「パパ、恥ずかしいんだけど!!」
顔を真っ赤にして、畳の端でじたばたしている。
だが父は、娘の声など完全にスルーだった。
「美羽!!パパが勝ったらな!!」
「こんなイケメン男なんて、すぐに忘れさせてやるからなぁ!!」
拳を握り、無駄に気合十分。
「……」
椿は一瞬だけ言葉を選び、静かに口を開いた。
「美羽の父さん」
「北条椿です」
間違いなく訂正しただけなのに——
「君に父さんと呼ばれる筋合いはないもん!!」
即・拒否。
頬をぷくっと膨らませ、完全に拗ねている。
「もう……」
美羽は額を押さえた。
「やめてよ……パパ」
「ほんと恥ずかしい……」
椿は一歩前に出て、真剣な眼差しで言った。
「……あと、あの約束…二言はないですよね?」
道場の空気が、ぴんと張り詰める。
美羽の父は、腕を組み、ふんっと鼻を鳴らした。
「あぁ!!」
「二言はない!!」
「ちょっと!!」
美羽が叫ぶ。
「なんの約束したの?!椿くん!!パパの口車に乗ったらだめだよ?!!」
椿は振り返り、美羽を見て、はっきりと言った。
「大丈夫だ、美羽」
「俺が勝てばいいだけの話だ」
その言葉に、美羽の胸がぎゅっと締めつけられる
。
「……っ」
「なにぃ?!」
父が吠える。
「さっきから美羽、美羽と!!俺の許可なしに呼び捨てにするなイケメンがぁ!!」
「こてんぱんにしてやる!!」
威嚇するように、拳を構える。
それを見た黒薔薇メンバーたちは、思わず顔を見合わせた。
「「「「「……」」」」」
そして、全員の心の声が一致する。
(美羽の父、なかなかのファザコンなのね……)
「もう!!」
美羽は両手で顔を覆った。
「やめてぇぇ!!」
恥ずかしさで、完全に窮地。
そんな中——
一歩前に出たのは、碧だった。
「それでは!!」
無駄に良い声で宣言する。
「俺が審判を務めます!!」
畳の中央に立ち、腕を高く掲げた。
「両者——」
椿と、美羽の父が、同時に構える。
「構え——」
道場に、息を飲む音が広がる。
「始め!!」
畳を踏み込む音が、鋭く響いた。
こうして——
恋人の父という名のラスボスとの、
真夏の空手決戦が、ついに幕を開けたのだった。
普段は静かなはずの道場に、今日は異様な緊張感が漂っていた。
畳の上に立つだけで、背筋が自然と伸びる。
窓から差し込む強い夏の光が、床に長い影を落としていた。
「……で?」
その沈黙をぶち破ったのは、悠真だった。
「また僕達は、何を見させられてんの?!」
腕を組み、完全にツッコミ待ちの顔。
その隣で、玲央はいつも通り冷静だった。
眼鏡の縁を指で押し上げ、ノートパソコンを淡々と操作している。
「状況を説明する。雨宮美羽の父と、椿が雨宮美羽をかけた勝負をするらしい」
「いや説明が冷静すぎるんだけど!!」
悠真が叫ぶ。
その横では、双子が並んで畳に正座していた。
「へぇ〜、あれが美羽のお父さん!!」
莉子は目を輝かせている。
「初めて見るけど、ダンディーで素敵じゃな~い!!」
秋人は即座に訂正する。
「莉子、発音が間違ってるよ」
「“ダンディ”じゃなくて、“Dandy…”ね」
「そこぉぉお!?」
悠真がズッコける。
遼が思わず苦笑いする。
「いや〜、突っ込むとこそこじゃなくね?」
一方、碧はというと——
「……さすがです!」
目をキラキラさせながら、感動すらしていた。
「美羽さんのお父さん!!」
「威厳がありますね!!」
「強者の気配が、ひしひしと伝わってきます!!」
その視線の先。
白の胴着に、黒帯。
背筋を伸ばして立つ二人の男。
一人は——北条椿。
静かで、鋭い眼差し。
そしてもう一人は——
雨宮美羽の父。
年齢差はあれど、醸し出す圧は互角だった。
「……ちょっと!!」
耐えきれず、美羽が声を上げた。
「なんでこんなことになってるの?!」
「パパ、恥ずかしいんだけど!!」
顔を真っ赤にして、畳の端でじたばたしている。
だが父は、娘の声など完全にスルーだった。
「美羽!!パパが勝ったらな!!」
「こんなイケメン男なんて、すぐに忘れさせてやるからなぁ!!」
拳を握り、無駄に気合十分。
「……」
椿は一瞬だけ言葉を選び、静かに口を開いた。
「美羽の父さん」
「北条椿です」
間違いなく訂正しただけなのに——
「君に父さんと呼ばれる筋合いはないもん!!」
即・拒否。
頬をぷくっと膨らませ、完全に拗ねている。
「もう……」
美羽は額を押さえた。
「やめてよ……パパ」
「ほんと恥ずかしい……」
椿は一歩前に出て、真剣な眼差しで言った。
「……あと、あの約束…二言はないですよね?」
道場の空気が、ぴんと張り詰める。
美羽の父は、腕を組み、ふんっと鼻を鳴らした。
「あぁ!!」
「二言はない!!」
「ちょっと!!」
美羽が叫ぶ。
「なんの約束したの?!椿くん!!パパの口車に乗ったらだめだよ?!!」
椿は振り返り、美羽を見て、はっきりと言った。
「大丈夫だ、美羽」
「俺が勝てばいいだけの話だ」
その言葉に、美羽の胸がぎゅっと締めつけられる
。
「……っ」
「なにぃ?!」
父が吠える。
「さっきから美羽、美羽と!!俺の許可なしに呼び捨てにするなイケメンがぁ!!」
「こてんぱんにしてやる!!」
威嚇するように、拳を構える。
それを見た黒薔薇メンバーたちは、思わず顔を見合わせた。
「「「「「……」」」」」
そして、全員の心の声が一致する。
(美羽の父、なかなかのファザコンなのね……)
「もう!!」
美羽は両手で顔を覆った。
「やめてぇぇ!!」
恥ずかしさで、完全に窮地。
そんな中——
一歩前に出たのは、碧だった。
「それでは!!」
無駄に良い声で宣言する。
「俺が審判を務めます!!」
畳の中央に立ち、腕を高く掲げた。
「両者——」
椿と、美羽の父が、同時に構える。
「構え——」
道場に、息を飲む音が広がる。
「始め!!」
畳を踏み込む音が、鋭く響いた。
こうして——
恋人の父という名のラスボスとの、
真夏の空手決戦が、ついに幕を開けたのだった。



