危険すぎる恋に、落ちてしまいました。3

潮風が、二人の間をすり抜けていく。
波は相変わらずきらきらと光っているのに、美羽の胸の奥はひどく苦しかった。
抱き締められたまま、
椿は、ゆっくりと言葉を落とした。

「……4年」

「……え?」

美羽は、思わず顔を上げる。
涙で滲んだ視界の向こう、椿の表情は真剣だった。

「4年経ったら、帰ってくる」
「だから……俺を、待っててほしい」

その瞬間、張り詰めていた何かが音を立てて崩れた。

「……っ」

美羽の涙が、一気に溢れ出す。
ぽろぽろ、ぽろぽろと止まらない。

「ばか……!」
「長いよ!!」

美羽は、椿の胸をぽかぽかと叩いた。
力なんてない、ただの八つ当たり。

「……ごめん」

椿は、そう言って、さらに強く抱き締める。

「私が……」
「私が浮気しちゃったら、どーすんのよ!?」
また、ぽかぽかと椿の胸を叩く。

「……それは、嫌だな」

椿は、少し困ったように答えた。

「じゃあ!!」
「秋人くんに、すがりついちゃうかもしれないよ!?」

また、胸を叩く。
椿は、苦笑いを浮かべながら、少しだけ目を伏せた。

「……それは、妬けるな」

その声が、あまりにも寂しそうで。

「何よそれ!」
「私はっ……!」

言いかけた、その瞬間。
椿は、美羽の顎にそっと手を添え、
迷いなく、唇を重ねた。

「……んっ」

美羽は、一瞬目を見開き、
そして、ゆっくりと目を閉じる。

波の音。
潮の匂い。
体温。
全部が、椿だった。
やがて、椿は名残惜しそうに唇を離す。

「……美羽」

低く、震える声。
「もし……、俺が帰ってきて…そのとき、まだ美羽が、俺を好きでいてくれたら——」

一瞬の間。

「……美羽。俺と、"結婚してほしい"」

時間が、止まった。

「……っ」

美羽は、目を見開いたまま固まる。
顔が、熱くて、熱くて、どうしようもない。
次の瞬間——

「……何それぇ……」

声が、震えた。

「ずるい!!」
「そんなの……ずるいよ……!!」

美羽は、その場に崩れるように泣き出した。
嗚咽混じりで、言葉にならない。

「……ごめん」

椿は、苦笑いしながら、美羽の背中を撫でる。

「俺、ほんと……」

「美羽を泣かせてばっかりだな」

しばらく、二人はただ抱き締め合っていた。
泣き声が、波音に溶けていく。
やがて、美羽の涙が落ち着いた頃。
椿は、そっと美羽の額に触れ、優しく言った。

「……美羽、可愛い。ずっと好きだ、愛してる」

そう言って、もう一度、キスをする。
今度は、深く、ゆっくりと。
海の光が反射して、
椿の瞳が、宝石みたいに輝いていた。
美羽は、震える声で答える。

「……私も椿くんが、ずっと好きだよ」
「泣いてばっかりで……ごめんなさい」

「謝るな」

椿は、また美羽を抱き締めた。

「それも全部、好きだ」

海辺に、夕陽が差し込み始める。
二人の影が、ゆっくりと重なった。

——離れる時間は、ある。
——不安も、きっと消えない。

それでも。

この海辺で交わした約束は、
確かに、二人の未来を結びつけていた。
四年分の距離と、
一生分の想いを抱えて。