危険すぎる恋に、落ちてしまいました。3



「ふふふ……実はね!その転入生は~」

莉子がわざとらしく間をためた、その瞬間だった。
廊下の奥から、まるで波が押し寄せるみたいに、


「「「「きゃーっっ!!!」」」」

「え、なに!?誰!?超イケメン!!」

「ちょっと待って、レベル違わない!?」

と、黄色い歓声が一斉に弾けた。

「え?」

美羽はびくっと肩を揺らし、思わず声を上げる。

「な、なに?!」

ざわめきはどんどん近づいてくる。
春の校舎に似つかわしくないほど、熱を帯びた視線と声。

椿は眉をひそめ、ゆっくりと振り返ろうとした、そのとき。

「――椿。」

低くもなく、高すぎもしない。
けれど、妙に耳に残る、爽やかな声。
椿はぴたりと動きを止め、振り向いた。

「……っ」

次の瞬間、椿の目がわずかに見開かれる。

「……秋人?」

そこに立っていたのは、
黒薔薇学園の制服を、少しだけ着崩しながらも完璧に着こなした青年。
留学前よりも少し伸びた髪。
海外の太陽を浴びたせいか、ほんのり艶があり
輪郭はシャープ。
何より――左右で色の違うオッドアイが、きらりと光っていた。

「久しぶり」

軽い調子で手を振るその姿に、
周囲の女子生徒たちは一瞬で射抜かれた。

「え、誰……?!」
「ちょっと待って、顔面強すぎ……」
「しかもオッドアイ!?なにあれ、反則でしょ……」
「黒薔薇にこんな人いたっけ……?」

美羽はというと、完全に思考停止していた。

「……え?」

次の瞬間、思わず素っ頓狂な声が飛び出す。

「えーっ!?あ、秋人くんん!?」

目をまんまるくして固まる美羽を見て、
秋人はふっと笑った。

「美羽ちゃん!久しぶり!!」

きらきらと輝くオッドアイ。
その笑顔は、まるで春の光をそのまま閉じ込めたみたいだった。

(う、うわぁ……)

美羽は内心、思わず苦笑いする。

(元がイケメンなだけに……なにこれ……
 さらに眩しくなってるんだけど……。
 これが……留学パワー……?)

その横で、莉子が満面の笑みを浮かべて両手を広げた。

「というわけで!!
 転入生は~……じゃじゃーん!!
 私のお兄ちゃんでした~♪」

「もう!莉子ったら!」

美羽は思わず声を上げる。

「それならそうと教えてよ~!!心臓止まるかと思ったよ!」

椿も腕を組み、ため息混じりに言う。

「おい、秋人。
 連絡くらい寄こせ」

そう言いながらも、
椿のその声音にはほんの少しだけ、再会を喜ぶ色が滲んでいた。

「ははっ、ごめんねー。
 サプライズのほうが面白いかなーと思って。」

周囲はすでに大混乱だった。

「え、椿くんの知り合い!?」
「ってことは……強いの?」
「黒薔薇の新メンバー……?」
「てか普通に国宝級なんだけど!!」
「超~絶イケメン!!」
「一回でいいからハグされたい……!!」

秋人はそんな視線をものともせず、
莉子の前に立つと、ぽん、と頭に手を置いた。

「莉~子。秘密って言っただろ~?」

「えへへ!」

莉子は嬉しそうに目を細める。

「だって!
 美羽と椿くん、絶対びっくりすると思って!」

美羽は苦笑しながら首をかしげる。

「それはびっくりするよ……」

そして、ふと思い出したように聞いた。

「でも秋人くん、
 なんで急にこっちに……?」

その問いに、秋人は一瞬だけ間を置いた。
そして――
すっと、美羽との距離を詰める。

「んー?」

耳元に落ちる、少し低くなった声。

「それはね……」

周囲の空気が、一瞬、静止する。

「美羽ちゃんに、会いたかったからだよ」

そう言うなり、
秋人は迷いなく、美羽の頬にキスを落とした。

「――ひゃっ!?」

あまりに一瞬の出来事で、
美羽の脳は完全に追いつかなかった。

熱が、頬から一気に駆け上がる。

「え、あ、あ、あきと、く……っ!?」

言葉にならない声を上げて、手で頬を押さえて
その場で固まる美羽。

椿は目を見開き、次の瞬間、鋭く秋人を睨みつけた。

「おい、秋人。
 何のつもりだ?」

声は低く、はっきりとした怒気を含んでいる。

「きゃー!!」
「大胆すぎ!!」
「朝から刺激強すぎない!?」

莉子はというと、完全にお祭り状態だった。

「きゃー!お兄ちゃん大胆んんん!!
 最高!!」

秋人は肩をすくめ、涼しい顔で言う。

「やだなぁ、椿。
 “あっち”じゃ、挨拶みたいなもんだよ?」

そして、にやりとした。

「まぁ……
 椿にも会いたかったのは本当だけどね?」

その言葉を境に、
椿と秋人の間に、目に見えない火花が散った。
美羽はふたりの間に挟まれ、あわあわと視線を泳がせる。

(ちょ、ちょっと!…なんなの?!この空気は……!)


春の始まり。
桜が舞う新学期。

こうして、
黒薔薇学園・高校三年生のドタバタラブコメは――
三角関係という名の火種を抱えて、本格的に幕を開けたのだった。