昼休みの校舎は、いつもより少しだけざわついていた。
窓から差し込む光が廊下を斜めに切り取り、春の空気が漂っている。
「あ、高城くん!!ありがとう……」
黒板消しを抱えきれずに困っていた背の低い女子が、少し上目遣いで礼を言うと、
秋人は軽く微笑んで、それを黒板の上段にひょいと戻した。
「どういたしまして。無理しなくていいよ」
さらりとした声。
オッドアイが光を受けて、柔らかくきらめく。
その少し先では、転びかけた別の女子生徒が「きゃっ」と声を上げ、
次の瞬間には、秋人の腕が伸びていた。
「危ないよ」
支える手は紳士的で、距離は近いのにどこか節度がある。
「だ、大丈夫です……!」
女子生徒は真っ赤になり、逃げるように去っていった。
その一部始終を見ていた周囲の女子たちは、もはや隠す気もなく騒ぎ始める。
「今日も秋人くん、輝かしいわぁ……」
「ねぇ、なんか更に色気増してない?」
「失恋したって噂、ほんと?」
「え!じゃあ今ならチャンスじゃない?」
「ちょっと、やめなよ~!」
黄色い声が、波のように広がっていく。
秋人はその喧騒から少し離れ、廊下の窓辺に寄りかかって、小さく息を吐いた。
「……ふぅ」
窓の外には、眩しいほどの青空。
自分でも分かる。少し、吹っ切れた。
(まぁ……落ち込んでる場合でもないしね)
そう思った瞬間――
ドドドドドドっ!!
突然、廊下の奥からものすごい勢いで駆けてくる影。
「……え?」
秋人が振り向いた、その刹那。
「秋人くーん!!ぶふぅっ!!」
勢いそのまま、美羽が秋人の胸に突っ込んできた。
「……っ?!」
衝撃に一瞬よろけながらも、反射的に腕を伸ばし、美羽を抱き止める。
「え、美羽ちゃん???」
周囲が、しん……と静まり返る。
次の瞬間。
「きゃああああ!!」
「なに今の!?少女漫画!?」
「抱き止めてるぅぅ!?羨ましすぎない?!」
女子たちの悲鳴が、一斉に上がった。
秋人は、目を見開いたまま、美羽を見下ろす。
「あはは、……大丈夫かい?」
美羽は、秋人の胸に額をぶつけたまま、ぐっと顔を上げる。
「あ!!ご、ごめんね!」
少し息を切らしながら、それでも目はきらきらしていた。
「はぁ……でもよかった~!ちょうど秋人くんを探してたのっ!!」
秋人は内心で苦笑する。
(いや、この前の流れの後でこれってどうなの?
アメリカンジョーク越えてるよね?)
美羽は構わず続ける。
「あのね、秋人くん!!」
両手をぎゅっと握りしめて、少し前のめりになる。
「私に――英語、教えてほしいのっ!!」
ぴたり。
秋人の思考が、完全に止まった。
「……え?」
間抜けな声が、自然と漏れる。
「「「「「……え?」」」」」
もう一度。
周囲の女子たちも、同時に固まった。
「……ん?」
「……今、なんて?」
「……英語?」
美羽は真剣そのものだった。
「うん!!中間テスト近いし……私、英語ほんとにやばくて……!!」
「秋人くん、留学してたし、英語ペラペラでしょ?」
「だから……この通り、お願いしますっ!!」
ぺこっと、深く頭を下げる。
秋人は、しばらくその姿を見つめてから、ゆっくりと息を吐いた。
「……」
そして、苦笑いを浮かべる。
「……まいったなー」
(こんな真っ直ぐな子に頼まれたら、断れるわけないじゃんねぇ)
オッドアイが、柔らかく細まる。
「いいよ」
「え?!」
美羽の顔が、一瞬でぱあっと明るくなる。
「ほ、ほんと?!ありがとう!!」
秋人は肩をすくめて笑った。
「ただし」
指を一本立てる。
「覚悟はしてね。俺、結構スパルタだよ?」
その言葉に、美羽は一瞬ひるみ――
でもすぐに、笑顔でうなずいた。
「うん!わかった!頑張るねっ!!」
そのやり取りを、廊下の端から見ていた女子たちは、呆然としていた。
「……きゃー!!なに、あれ!!」
「英語教えるとか……私達も教えてほしい!!」
「失恋したって噂、嘘じゃないの……?」
「あの二人、どういう展開??!!」
その中心で、秋人は美羽の頭に軽く手を置き、
「じゃあ、放課後ね」
と、静かに微笑んだ。
美羽は胸の奥で、小さく跳ねる鼓動を感じながら、
「うん!ありがとう、秋人くん!!」
と元気よく答えた。
――この瞬間、
“英語勉強会”という名の、新たな波乱が静かに始まったのだった。
窓から差し込む光が廊下を斜めに切り取り、春の空気が漂っている。
「あ、高城くん!!ありがとう……」
黒板消しを抱えきれずに困っていた背の低い女子が、少し上目遣いで礼を言うと、
秋人は軽く微笑んで、それを黒板の上段にひょいと戻した。
「どういたしまして。無理しなくていいよ」
さらりとした声。
オッドアイが光を受けて、柔らかくきらめく。
その少し先では、転びかけた別の女子生徒が「きゃっ」と声を上げ、
次の瞬間には、秋人の腕が伸びていた。
「危ないよ」
支える手は紳士的で、距離は近いのにどこか節度がある。
「だ、大丈夫です……!」
女子生徒は真っ赤になり、逃げるように去っていった。
その一部始終を見ていた周囲の女子たちは、もはや隠す気もなく騒ぎ始める。
「今日も秋人くん、輝かしいわぁ……」
「ねぇ、なんか更に色気増してない?」
「失恋したって噂、ほんと?」
「え!じゃあ今ならチャンスじゃない?」
「ちょっと、やめなよ~!」
黄色い声が、波のように広がっていく。
秋人はその喧騒から少し離れ、廊下の窓辺に寄りかかって、小さく息を吐いた。
「……ふぅ」
窓の外には、眩しいほどの青空。
自分でも分かる。少し、吹っ切れた。
(まぁ……落ち込んでる場合でもないしね)
そう思った瞬間――
ドドドドドドっ!!
突然、廊下の奥からものすごい勢いで駆けてくる影。
「……え?」
秋人が振り向いた、その刹那。
「秋人くーん!!ぶふぅっ!!」
勢いそのまま、美羽が秋人の胸に突っ込んできた。
「……っ?!」
衝撃に一瞬よろけながらも、反射的に腕を伸ばし、美羽を抱き止める。
「え、美羽ちゃん???」
周囲が、しん……と静まり返る。
次の瞬間。
「きゃああああ!!」
「なに今の!?少女漫画!?」
「抱き止めてるぅぅ!?羨ましすぎない?!」
女子たちの悲鳴が、一斉に上がった。
秋人は、目を見開いたまま、美羽を見下ろす。
「あはは、……大丈夫かい?」
美羽は、秋人の胸に額をぶつけたまま、ぐっと顔を上げる。
「あ!!ご、ごめんね!」
少し息を切らしながら、それでも目はきらきらしていた。
「はぁ……でもよかった~!ちょうど秋人くんを探してたのっ!!」
秋人は内心で苦笑する。
(いや、この前の流れの後でこれってどうなの?
アメリカンジョーク越えてるよね?)
美羽は構わず続ける。
「あのね、秋人くん!!」
両手をぎゅっと握りしめて、少し前のめりになる。
「私に――英語、教えてほしいのっ!!」
ぴたり。
秋人の思考が、完全に止まった。
「……え?」
間抜けな声が、自然と漏れる。
「「「「「……え?」」」」」
もう一度。
周囲の女子たちも、同時に固まった。
「……ん?」
「……今、なんて?」
「……英語?」
美羽は真剣そのものだった。
「うん!!中間テスト近いし……私、英語ほんとにやばくて……!!」
「秋人くん、留学してたし、英語ペラペラでしょ?」
「だから……この通り、お願いしますっ!!」
ぺこっと、深く頭を下げる。
秋人は、しばらくその姿を見つめてから、ゆっくりと息を吐いた。
「……」
そして、苦笑いを浮かべる。
「……まいったなー」
(こんな真っ直ぐな子に頼まれたら、断れるわけないじゃんねぇ)
オッドアイが、柔らかく細まる。
「いいよ」
「え?!」
美羽の顔が、一瞬でぱあっと明るくなる。
「ほ、ほんと?!ありがとう!!」
秋人は肩をすくめて笑った。
「ただし」
指を一本立てる。
「覚悟はしてね。俺、結構スパルタだよ?」
その言葉に、美羽は一瞬ひるみ――
でもすぐに、笑顔でうなずいた。
「うん!わかった!頑張るねっ!!」
そのやり取りを、廊下の端から見ていた女子たちは、呆然としていた。
「……きゃー!!なに、あれ!!」
「英語教えるとか……私達も教えてほしい!!」
「失恋したって噂、嘘じゃないの……?」
「あの二人、どういう展開??!!」
その中心で、秋人は美羽の頭に軽く手を置き、
「じゃあ、放課後ね」
と、静かに微笑んだ。
美羽は胸の奥で、小さく跳ねる鼓動を感じながら、
「うん!ありがとう、秋人くん!!」
と元気よく答えた。
――この瞬間、
“英語勉強会”という名の、新たな波乱が静かに始まったのだった。



