屋上の扉が、静かに閉まった。
「……ふぅ」
美羽は、背中を扉に預けて小さく息を吐いた。
風はもう届かないはずなのに、胸の奥はまだ少しざわざわしている。
「あんなこと言っちゃったけど……」
ぽつりと、独り言が零れた。
「私……椿くんについていけるのかなぁ……」
さっきまで、あんなに嬉しかったのに。
未来の話をして、世界が一気に広がった気がしたのに。
不安は、嬉しさのすぐ隣に座っている。
美羽は自分の頬を、ぱちぱちっと両手で叩いた。
「いけない、いけない!」
声に出して、自分を叱る。
「何弱気になってるの、美羽!椿くんと一緒にいるって、決めたでしょ!」
鏡なんてなくても分かる。
今の自分の顔は、きっと必死で、でも少し前向きだ。
「よし!」
気合を入れて、廊下を走り出した。
教室に入ると、いつもの空気がそこにあった。
「もう、美羽~!遅いよ~!」
莉子が、机に頬杖をついたまま振り返る。
美羽は慌てて駆け寄り、苦笑いする。
「ごめん、莉子!色々遅くなっちゃって!」
「ふ~ん?」
莉子はニヤリと目を細めた。
「で?椿くんと仲直りできたって感じ?」
「え?う、うん……」
美羽は視線を泳がせ、耳まで赤くなる。
その反応が答えだった。
「ふふっ」
莉子は楽しそうに笑う。
「もう、ラブラブじゃな~い!」
「ちょ、ちょっと莉子!」
美羽は慌てて止めに入るが、口元は緩んでいた。
「ちゃかさないでよ~……でも」
小さく声を落とし、
「……ありがとう莉子。」
莉子は一瞬きょとんとしてから、肩をすくめる。
「どーいたしまして。親友ですから?」
二人は顔を見合わせ、くすっと笑った。
一方その頃。
椿も教室に戻った途端、待ち構えていたように悠真に捕まっていた。
「おーい椿~!」
肩をがっしり組まれる。
「美羽ちゃんと仲直りできた?僕、心配してたんだからねぇ~!」
椿は少し視線を逸らし、「……あぁ、まぁな」
その一言が、全てを物語っていた。
「えええ?!」
悠真は目を見開く。
「今の見た?!あの椿が照れてる!!てかデレてるぅ?!」
「……」
椿の眉間に、くっきりと皺が寄る。
「お前、ほんといちいちうぜぇな」
「ひどっ!」
遼はその様子を見て、くつくつと笑う。
「いやぁ、何よりだねぇ~。青春青春~」
碧も腕を組みながら頷いた。
「でも、椿くん。本当に留学なんてしてしまったら……寂しいですね!」
その言葉に、椿は一瞬だけ息を詰めた。
けれど、すぐに頬杖をつき、落ち着いた声で言う。
「それについては、きっちり蹴りつけるよ」
「美羽とも話したし」
悠真は少しだけ真面目な顔になる。
「そっかぁ……でもさ、椿。美羽ちゃんとの遠距離はなかなかきついんじゃない?」
椿は、こいつは何を言っているんだ、とでも言いたげに返す。
「は?」
そして、さらりと。
「そんなの、美羽と一緒に行けばいいだけだろ」
「離れるつもりねぇし」
「えええええ?!!」
悠真が叫ぶ。
「そうなの?!そんなのアリなのおお?!!」
「僕の美羽ちゃんが、海外デビュー?!!」
目を輝かせながら、
「何それ!なんかやらしー……」言い切る前に。
「だぁから!」
椿が悠真の口を無理やり塞ぐ。
「お前はいちいちうるせーんだよ!」
「むぐっ?!むむー!!」
遼は腹を抱えて笑っていた。
「いやぁ……ほんと、騒がしいねぇ」
その隣で、玲央が眼鏡の縁を指で押し上げる。
「しかし椿」
冷静な声。
「留学となると、英語が必須科目だが」
「雨宮美羽の成績で……本当に、なんとかなるのか?」
椿は、その言葉にぴたりと固まった。
「……は?」
教室の空気が、一瞬止まる。
遼が、ぽつり。
「あー……」
悠真も、ようやく口を解放されて言う。
「……あ、それ、触れちゃいけないやつじゃない?」
椿は、屋上から出ていった美羽の背中を思い出していた。
(……そういや……)
(テスト前になると、いつも大変そうだったような……)
不穏な予感が、じわじわと広がっていく。
それは——
中間テストが近づいた頃に、確実に現実となる問題だった。
「……ふぅ」
美羽は、背中を扉に預けて小さく息を吐いた。
風はもう届かないはずなのに、胸の奥はまだ少しざわざわしている。
「あんなこと言っちゃったけど……」
ぽつりと、独り言が零れた。
「私……椿くんについていけるのかなぁ……」
さっきまで、あんなに嬉しかったのに。
未来の話をして、世界が一気に広がった気がしたのに。
不安は、嬉しさのすぐ隣に座っている。
美羽は自分の頬を、ぱちぱちっと両手で叩いた。
「いけない、いけない!」
声に出して、自分を叱る。
「何弱気になってるの、美羽!椿くんと一緒にいるって、決めたでしょ!」
鏡なんてなくても分かる。
今の自分の顔は、きっと必死で、でも少し前向きだ。
「よし!」
気合を入れて、廊下を走り出した。
教室に入ると、いつもの空気がそこにあった。
「もう、美羽~!遅いよ~!」
莉子が、机に頬杖をついたまま振り返る。
美羽は慌てて駆け寄り、苦笑いする。
「ごめん、莉子!色々遅くなっちゃって!」
「ふ~ん?」
莉子はニヤリと目を細めた。
「で?椿くんと仲直りできたって感じ?」
「え?う、うん……」
美羽は視線を泳がせ、耳まで赤くなる。
その反応が答えだった。
「ふふっ」
莉子は楽しそうに笑う。
「もう、ラブラブじゃな~い!」
「ちょ、ちょっと莉子!」
美羽は慌てて止めに入るが、口元は緩んでいた。
「ちゃかさないでよ~……でも」
小さく声を落とし、
「……ありがとう莉子。」
莉子は一瞬きょとんとしてから、肩をすくめる。
「どーいたしまして。親友ですから?」
二人は顔を見合わせ、くすっと笑った。
一方その頃。
椿も教室に戻った途端、待ち構えていたように悠真に捕まっていた。
「おーい椿~!」
肩をがっしり組まれる。
「美羽ちゃんと仲直りできた?僕、心配してたんだからねぇ~!」
椿は少し視線を逸らし、「……あぁ、まぁな」
その一言が、全てを物語っていた。
「えええ?!」
悠真は目を見開く。
「今の見た?!あの椿が照れてる!!てかデレてるぅ?!」
「……」
椿の眉間に、くっきりと皺が寄る。
「お前、ほんといちいちうぜぇな」
「ひどっ!」
遼はその様子を見て、くつくつと笑う。
「いやぁ、何よりだねぇ~。青春青春~」
碧も腕を組みながら頷いた。
「でも、椿くん。本当に留学なんてしてしまったら……寂しいですね!」
その言葉に、椿は一瞬だけ息を詰めた。
けれど、すぐに頬杖をつき、落ち着いた声で言う。
「それについては、きっちり蹴りつけるよ」
「美羽とも話したし」
悠真は少しだけ真面目な顔になる。
「そっかぁ……でもさ、椿。美羽ちゃんとの遠距離はなかなかきついんじゃない?」
椿は、こいつは何を言っているんだ、とでも言いたげに返す。
「は?」
そして、さらりと。
「そんなの、美羽と一緒に行けばいいだけだろ」
「離れるつもりねぇし」
「えええええ?!!」
悠真が叫ぶ。
「そうなの?!そんなのアリなのおお?!!」
「僕の美羽ちゃんが、海外デビュー?!!」
目を輝かせながら、
「何それ!なんかやらしー……」言い切る前に。
「だぁから!」
椿が悠真の口を無理やり塞ぐ。
「お前はいちいちうるせーんだよ!」
「むぐっ?!むむー!!」
遼は腹を抱えて笑っていた。
「いやぁ……ほんと、騒がしいねぇ」
その隣で、玲央が眼鏡の縁を指で押し上げる。
「しかし椿」
冷静な声。
「留学となると、英語が必須科目だが」
「雨宮美羽の成績で……本当に、なんとかなるのか?」
椿は、その言葉にぴたりと固まった。
「……は?」
教室の空気が、一瞬止まる。
遼が、ぽつり。
「あー……」
悠真も、ようやく口を解放されて言う。
「……あ、それ、触れちゃいけないやつじゃない?」
椿は、屋上から出ていった美羽の背中を思い出していた。
(……そういや……)
(テスト前になると、いつも大変そうだったような……)
不穏な予感が、じわじわと広がっていく。
それは——
中間テストが近づいた頃に、確実に現実となる問題だった。



