危険すぎる恋に、落ちてしまいました。3

教室についた瞬間、美羽は限界だった。
椅子に座るなり、顔を青くして、そのまま机に伏せる。
胸の奥が、ぎゅっと痛い。
朝の昇降口での言葉が、何度も何度もリピートされる。

(なんで、あんな言い方になっちゃったんだろ……)

そこへ、明るい声が降ってきた。

「美羽、おはよー♪ってええええ、美羽?!どしたの?!ちょっと何があったの?!」

莉子が駆け寄り、椅子を引き寄せる。
美羽は、机に顔を伏せたまま、震える声で答えた。

「どうしよう…椿くんと喧嘩しちゃった…。」

莉子は目を見開き、次の瞬間には腕を組んでいた。

「ええ、椿くんと喧嘩?珍しいねー、何、お兄ちゃん何かやらかしちゃった?」

確信めいたその言い方に、美羽は小さく首を振る。

「ううん、秋人くん以前に、私たちの問題というか…はぁ…」

深いため息が、机の上に落ちる。
午前の授業が終わり、昼の光が校舎を満たす頃。
美羽と莉子は、ベランダに出ていた。
風が、カーテンを揺らし、遠くで部活の掛け声が聞こえる。
美羽は、昨日から今日までのことを、ぽつぽつと話した。
図書室でのこと。
朝のすれ違い。
莉子は腕を組んだまま、うんうんと頷いている。

「なるほど~椿くん、クールだからねぇ。色々考えてるんだろうけどあんまり話すタイプじゃないもんね…」

美羽は、手すりに寄りかかり、空を見上げる。

「そうなの。なんかもやもやしちゃって…私色々考えてたのに、さらっと終わっちゃうんだもん…だって話さないとわからない事だってあるじゃん?」

言葉にした途端、胸の奥がまたきゅっと縮む。
莉子は苦笑いしながら言った。

「ああ…まぁ、お兄ちゃんも一枚絡んではいるから妹の私はちょっと、申し訳ないんだけどさぁ…。」

美羽は目元をぬぐうふりをする。

「うーん。秋人くんはなんていうか…真っ直ぐだから、ちょっと戸惑ってるだけだよ。そして無駄に顔がいい…」

「あは、それお兄ちゃんに言ったらますます美羽にアプローチかけそうだね!」

「ええ、やめてよ…冗談きついよ。」

莉子は肩をすくめ、からかうように言う。

「でも美羽、ちょっとはお兄ちゃんにドキドキしたりしたんじゃないの?」

その言葉に、美羽の心臓が跳ねる。

「え?うーん、どうかな…あはは。」

曖昧に笑う美羽を見て、莉子は口笛を吹いた。

「そういうとこも椿くんに伝わってるんじゃないの?まぁ、私は美羽が幸せならどっちでもいいけど~」

「ええ、莉子!私の見方してくれないの?!」

涙ぐむ美羽に、莉子は頭をかきながら言う。

「お兄ちゃんも一途だからねぇ~、美羽がはっきりしないと可哀想だよ?あ、でもあんまりお兄ちゃん応援したら遼くんに怒られるしなぁ~」

「え?遼くん?なんでそこで遼くんがでてくるの?」

「え?!ううん、こっちの話!」

莉子は校庭を見下ろし、柔らかく微笑んだ。

「まぁ、椿くんはさ、凄く完璧に見えるけど内心焦ったり不安になったりしてるんじゃないかな?そう思ったら、美羽と似たような所あるよね!」

美羽は首をかしげる。

「椿くんが?私と似てる?」

「うん。色々悩んでても美羽の前だからかっこよく見せたいんだと思うよ。そして不器用だからちょっと喧嘩になっちゃったんじゃない?あの椿くんだよ?きっと、美羽が思ってるより、美羽とのこれからの事とか考えてるはずだよ。」

その言葉が、胸にすっと染み込む。
美羽は、花壇に目を向けた。
葉の先についた水滴が、ぽたりと落ちる。

「そうなのかなぁ…私、ちゃんと椿くんの気持ちとかペースも考えれてなかったかも…色々答えてくれてたのに…。仲直り、できるかなぁ…」

莉子は、にっこりと笑った。

「大丈夫。美羽、ちゃんと椿くんと話してきたら?椿くん、美羽の事大好きなんだよ?こんなことで、壊れたりしないよ。」

その言葉に、美羽の瞳が揺れる。

「うん、私も椿くんのこと大好きだから、ずっと一緒にいたい。ありがとう、莉子。ちょっと椿くん探してくる!」

そう言って、美羽は走り出した。

「美羽~頑張れ!」

莉子は小さく手を振る。

一人残されたベランダで、莉子は空を見上げた。

「さて、お兄ちゃんもどーするかねぇ~」

ため息は、風に溶けて消えていった。