次の日の朝。
春の空気はやわらかく、校舎へ続く道には淡い光が満ちていた。
椿と美羽は、いつも通り並んで歩いている。
けれど、歩幅も、沈黙も、どこかぎこちない。
昨日までなら、自然に重なっていた会話が、今日は少し遠い。
美羽は、椿の横顔をちらりと盗み見た。
いつもより、少しだけ硬い表情。
(……やっぱり、昨日のこと引きずってるのかなぁ…)
意を決して、声をかける。
「椿くん…あのね!」
椿は、はっとしたように視線を戻す。
だが、どこか上の空だ。
「ん?どうした?」
美羽は一瞬言葉を選び、唇を噛んだ。
「昨日の事で、ちょっと…。」
けれど椿は、あっさりと言った。
「あぁ、気にしなくていい。俺もどうかしてた。」
その言葉に、美羽の胸が小さく跳ねる。
「え…、そうなの?」
(ええ…、私、昨日椿くんの事で色々悩んだのに…なんか軽くない??)
心の中で、もやっとしたものが広がっていく。
椿は椿で、頭の中が別のことでいっぱいだった。
(秋人はこの際どうでもいい。とにかく、美羽に色々と話さねぇと…)
だが、どう切り出すべきか分からない。
言葉が喉の奥で詰まったまま、時間だけが進んでいく。
昇降口が見えてきた頃。
椿は、足を止める。
「美羽」
呼ばれて、美羽は上靴に履き替えながら顔を上げる。
「ん?どうたの、椿くん?」
椿は一瞬、視線を泳がせたあと――。
「帰り、ちょっと話が…」
そこへ。
「美羽ちゃーん!おはよう~♪」
間の悪い、よく通る声。
悠真が、いつもの明るさで駆け寄ってきた。
「おはよう、悠真くん。今日も元気だねぇ~」
美羽は苦笑いする。
「朝から美羽ちゃんの顔見れたら、そりゃ元気でるでしょ~♪ね、椿~?」
椿は、言いかけていた言葉を飲み込み、ため息をついた。
「…あぁ、そうなんじゃねぇの?」
声音が、少し荒い。
「何々~?椿、嫉妬は見苦しいよ?」
悠真はニヤニヤしながら、美羽の肩に手を置いた。
次の瞬間。
バシッ。
椿は、悠真の手を勢いよく払った。
「朝から、うぜぇ」
眉間に皺を寄せた椿に、悠真は固まる。
美羽も目を見開いた。
「ちょっと、椿くん?!そんなに酷い言い方しなくてもいいじゃない。いつもの冗談でしょ?」
椿は、噛みつくように返してしまう。
「なんだよ。お前な、いちいち触らせすぎなんだよ。ちょっとは注意しろ。」
言った瞬間、はっとする。
「あ、悪ぃ…」
だが、その謝罪は届かなかった。
美羽の感情が、堰を切ったように溢れる。
「何それ。そんな言い方ないでしょ?!やっぱり、昨日の事気にしてるんじゃない。私が秋人くんと仲いいからって…、だって友達だよ?!話すのは当たり前じゃない。そんな事でいちいちイライラされてたら、私友達できないよ!」
「え、美羽ちゃん?秋人くんと仲いいの?!僕ショックなんだけど…」
悠真は顔を青くする。
「え?!いや、仲いいというか…いや、ちがうか!それは言葉のあやで…」
慌てて言い直すが、もう遅い。
椿の表情が、すっと冷えた。
「そうかよ。じゃぁ、仲良く友達ごっこでもすりやぁいいだろ。」
そう言い捨てて、椿はその場を離れた。
「はぁ?!何それ?!ちょっと、悠真くんきいてた?ねぇ!あれ…?」
美羽は悠真の袖を掴み、ぐらぐら揺らす。
だが悠真は、真っ青になって固まっている。
「ええ、悠真くん?!ちょっと?!」
静かな廊下に、美羽の声だけが響いた。
椿の背中は、振り返らない。
(……違う)
(こんな言い方したかったわけじゃねぇ)
けれど、立ち止まる勇気も、今はなかった。
春の朝の光は、やさしいはずなのに。
二人の間には、静かに距離が生まれていた。
春の空気はやわらかく、校舎へ続く道には淡い光が満ちていた。
椿と美羽は、いつも通り並んで歩いている。
けれど、歩幅も、沈黙も、どこかぎこちない。
昨日までなら、自然に重なっていた会話が、今日は少し遠い。
美羽は、椿の横顔をちらりと盗み見た。
いつもより、少しだけ硬い表情。
(……やっぱり、昨日のこと引きずってるのかなぁ…)
意を決して、声をかける。
「椿くん…あのね!」
椿は、はっとしたように視線を戻す。
だが、どこか上の空だ。
「ん?どうした?」
美羽は一瞬言葉を選び、唇を噛んだ。
「昨日の事で、ちょっと…。」
けれど椿は、あっさりと言った。
「あぁ、気にしなくていい。俺もどうかしてた。」
その言葉に、美羽の胸が小さく跳ねる。
「え…、そうなの?」
(ええ…、私、昨日椿くんの事で色々悩んだのに…なんか軽くない??)
心の中で、もやっとしたものが広がっていく。
椿は椿で、頭の中が別のことでいっぱいだった。
(秋人はこの際どうでもいい。とにかく、美羽に色々と話さねぇと…)
だが、どう切り出すべきか分からない。
言葉が喉の奥で詰まったまま、時間だけが進んでいく。
昇降口が見えてきた頃。
椿は、足を止める。
「美羽」
呼ばれて、美羽は上靴に履き替えながら顔を上げる。
「ん?どうたの、椿くん?」
椿は一瞬、視線を泳がせたあと――。
「帰り、ちょっと話が…」
そこへ。
「美羽ちゃーん!おはよう~♪」
間の悪い、よく通る声。
悠真が、いつもの明るさで駆け寄ってきた。
「おはよう、悠真くん。今日も元気だねぇ~」
美羽は苦笑いする。
「朝から美羽ちゃんの顔見れたら、そりゃ元気でるでしょ~♪ね、椿~?」
椿は、言いかけていた言葉を飲み込み、ため息をついた。
「…あぁ、そうなんじゃねぇの?」
声音が、少し荒い。
「何々~?椿、嫉妬は見苦しいよ?」
悠真はニヤニヤしながら、美羽の肩に手を置いた。
次の瞬間。
バシッ。
椿は、悠真の手を勢いよく払った。
「朝から、うぜぇ」
眉間に皺を寄せた椿に、悠真は固まる。
美羽も目を見開いた。
「ちょっと、椿くん?!そんなに酷い言い方しなくてもいいじゃない。いつもの冗談でしょ?」
椿は、噛みつくように返してしまう。
「なんだよ。お前な、いちいち触らせすぎなんだよ。ちょっとは注意しろ。」
言った瞬間、はっとする。
「あ、悪ぃ…」
だが、その謝罪は届かなかった。
美羽の感情が、堰を切ったように溢れる。
「何それ。そんな言い方ないでしょ?!やっぱり、昨日の事気にしてるんじゃない。私が秋人くんと仲いいからって…、だって友達だよ?!話すのは当たり前じゃない。そんな事でいちいちイライラされてたら、私友達できないよ!」
「え、美羽ちゃん?秋人くんと仲いいの?!僕ショックなんだけど…」
悠真は顔を青くする。
「え?!いや、仲いいというか…いや、ちがうか!それは言葉のあやで…」
慌てて言い直すが、もう遅い。
椿の表情が、すっと冷えた。
「そうかよ。じゃぁ、仲良く友達ごっこでもすりやぁいいだろ。」
そう言い捨てて、椿はその場を離れた。
「はぁ?!何それ?!ちょっと、悠真くんきいてた?ねぇ!あれ…?」
美羽は悠真の袖を掴み、ぐらぐら揺らす。
だが悠真は、真っ青になって固まっている。
「ええ、悠真くん?!ちょっと?!」
静かな廊下に、美羽の声だけが響いた。
椿の背中は、振り返らない。
(……違う)
(こんな言い方したかったわけじゃねぇ)
けれど、立ち止まる勇気も、今はなかった。
春の朝の光は、やさしいはずなのに。
二人の間には、静かに距離が生まれていた。



