危険すぎる恋に、落ちてしまいました。3

体育館に、笛が鳴り響いた。
高く反響する音が、張り詰めた空気を一気に引き締める。

ボールを取ったのは、秋人だった。
床を叩くドリブルの音が、やけに大きく聞こえる。
その背中を、椿はじっと見据えたまま、低く声を落とす。

「秋人」

呼ばれ、秋人は軽く振り返る。

「ん?何ー?」

余裕のある笑み。
だが、次の言葉で空気が変わった。

「次で決める。好きにしろ。ただ、俺に勝てたらな」

椿の目は、いつもよりずっと鋭く、真っ直ぐだった。
冗談も、挑発もない。本気だけがそこにあった。
秋人は一瞬、目を見開く。
そして、ふっと口角を上げる。

「はは、面白い冗談だね」

その笑みすら、どこか真剣味を帯びていた。
端では、女子生徒たちがざわめく。

「なんか、もう次元が、ちがうんだけど!!」

「何これ!!ドラマみたい!!」

「もう二人の世界じゃんね?!」

「もう映画とれるよ!!」

黄色い声が、波のように広がっていく。
椿は秋人にぴたりとマークにつき、低く言った。

「秋人、さっきの訂正しろ」

「え?」

秋人はドリブルを続けながら、ちらりと視線を向ける。

「美羽はか弱くいたいんじゃねぇ。ただ、真っ直ぐに愛してほしいだけなんだよ」

その言葉は、強くもあり、どこか不器用で。
椿らしい、一直線な独占欲だった。

「へぇ」

秋人は、くるりと体勢を変える。

「でもそれって俺でもできるよね?」

次の瞬間――
椿はそれを読み切っていた。

「それを最初に引き出したのは、俺なんだ、よ!」

さらり、と。
信じられないほど自然に、秋人のボールを奪い取る。

「あっ」

秋人が驚いた声を上げた。
椿は迷わず、悠真にパスを出す。

「だから、美羽を愛すのも、これから愛し続けるのも、俺なんだよ」

真剣な表情で、秋人を見据えた。
秋人は一瞬だけ黙り込み、
それから、少し困ったように笑った。

「そ」

軽く肩をすくめる。

「じゃぁそれはいいとして、今日の美羽ちゃんは俺がもらうね?」

その瞬間。
悠真から、ボールが奪われた。

「えっ!?」

「は?」

秋人は一気に駆け出す。
椿も、反射的に走り出した。
端では、遼が目を丸くしている。

「おい、おいどっち?どっちが勝っちゃうの~?」

悠真は頭を抱えながら叫ぶ。

「うそ!とられたんだけど!!椿!!もうこの際なんでもいいわ!!頑張れ!!」

「わかってる!!」

二人は、ほぼ同時にゴールへ向かった。
跳ぶ。
リングへ。
次の瞬間――
ガシャン!!
激しい音が体育館に響いた。
シュートに入らなかったボールが、床を転がる。
そのそばで、尻餅をついている二人。
椿は口元を押さえ、顔をしかめる。

「痛ぇ…」

口の端が切れたのか、指に赤が滲んでいた。
秋人は額を押さえ、天井を見上げる。

「あー、キタわ。これはなかなかキタわ」

先生が慌てて駆け寄る。

「北条!高城!大丈夫か?!」

椿と秋人は、お互いの肩を支えながら、同時に答える。

「「いや、大丈夫じゃ(ねぇ/ないです)。」」

「そ、そうか、保健室だな…」

先生は完全に焦っていた。
端で見ていた遼が、苦笑いする。

「なーんだ。引き分けかぁ~勝負つかなかったねぇ~美羽ちゃん、これは苦労するねぇ。」

「えええ、うそでしょー?!引き分けえええ?!!」

悠真は盛大に頭を抱えた。
椿と秋人は、痛みをこらえながら、ふっと笑う。

「勝負つかなかったね」

秋人が言う。

「あ、でも俺の方が素早かったんじゃない?」

「ばーか」

椿は鼻で笑う。

「俺が阻止したんだから俺の勝ちだろ」

二人は視線を合わせ、
同時に、少しだけ笑った。
その空気が、ふっと和らいだ瞬間。
秋人は、少し寂しそうな顔をして言った。

「椿、ごめんね」

「は?何に謝ってんだよ」

「美羽ちゃんを好きになって。ごめん」

椿は一瞬きょとんとし、
次の瞬間、声を上げて笑った。

「はっ、許さねぇー」

でも、その顔はどこか清々しかった。
決着はつかなかった。
けれど、二人とも分かっていた。

――美羽を想う気持ちだけは、
誰にも負けていないことを。
そしてその想いは、
やがて彼女自身の選択へと、繋がっていく。