危険すぎる恋に、落ちてしまいました。3

昼過ぎの体育館は、春の名残と初夏の匂いが混ざったような空気に包まれていた。
高い天井から差し込む光が、床に白い四角を落とし、ボールの影が跳ねる。

「よーし、今日はバスケだ。各自あてらてたグループになり対決するように~。」

体育教師の笛の音が、体育館に響く。

「いえ~い。久々のバスケだねぇ。椿~!同じグループじゃん!よろしくねぇ~♪」

悠真は相変わらずのテンションで、軽くジャンプしながら椿に近づいた。
だが――
椿は、明らかに様子がおかしかった。
眉間には深い皺。
視線は、ずっと一点を捉えている。

「……」

「え、椿どうしたの?!そんなに俺と組むの嫌なの?!ひどくない?! 」

悠真は胸に手を当て、今にも泣き出しそうな顔を作る。
その横から、遼がすっと入り込んだ。

「悠真くん~?椿はね、今それどころじゃないんだよ~」

椿の肩に腕を回し、にやにやと笑う。

「ライバルができちゃったからねぇ~」

「ちっ、るせぇ。」

椿は舌打ちし、視線を外さない。
その先にいるのは――
黒薔薇学園の制服を着崩し、余裕の立ち姿を見せる秋人だった。
秋人のチームには、碧がいる。

「なんと!秋人くんと同じチームなんてレアですね!頑張りましょうね!」

碧は相変わらずの無邪気さで、状況をまるで理解していない。

「あぁ、よろしくね。」

秋人は爽やかに答えながら、リストバンドのついた手で髪をかきあげた。
その仕草一つで、女子の視線が一斉に集まる。
椿は、昨日の図書室の光景を思い出していた。

美羽のほんのり赤くなった頬と戸惑った顔。
秋人の、あの距離。

(……くそ。)

秋人は、その視線に気づいていた。
オッドアイを細め、挑むように椿を見る。
遼は、少し引きつった笑顔で心の中で呟く。

(うわぁ……あからさまにバチバチじゃん……)

試合前から、すでに火花は散っていた。
コートの端では、休憩中の女子生徒たちが集まっている。

「椿くんかっこいい~!」

「いやいや、秋人くんでしょ!?」

「どっちが勝つのかなぁ~!」

「やーん、どっちも勝ってほしい~!!」

まるでファンクラブのような盛り上がりだ。
笛が鳴る。

「ではAチーム!Bチーム!並べ~。」

椿と悠真のいるチームがA。
秋人と碧のいるチームがB。
遼はCなので、観客ポジションだ。

整列した瞬間、秋人が一歩前に出た。

「ねぇ椿、さっきはごめんね?それでさ、俺と勝負しない?」

「……勝負?」

椿は訝しげに眉をひそめる。

「そう。どちらかがシュートを多く決めた方が、
美羽ちゃんと今日一緒に帰れるっていうのはどうかな?」

秋人は、にやりと笑った。

「何?」

椿の目が、鋭く細められる。

「ふふ、今は椿の彼女でも、俺には関係ないよ。どう?勝負受けるの?受けないの?」

挑発するような声。

「は?秋人、お前ふざけて…」

椿が一歩踏み出した瞬間。

「はいはい、椿!秋人くんも!喧嘩しな~いの!」

悠真が慌てて二人の間に割って入った。

「秋人く~ん?僕もいること忘れないでね?」

その声は、珍しく本気だった。
だが秋人は、悠真を見て肩をすくめる。

「へぇ、そうなんだ?美羽ちゃんにあんまり相手にされてないように見えるけど?」

「むきぃぃ!!」

悠真の顔が真っ赤になる。

「もう悠真くんは怒った!!いくぞ!椿!!
こんなやつこてんぱんにしてやるぅぅ!!」

「は?おい!!悠真!?」

椿は引きずられるようにコートへ向かう。
その様子を、秋人はクスクスと笑って見ていた。

「秋人くん!美羽さんと付き合いたいなら、美羽さんに勝たないといけませんよ?」

碧が、珍しく真顔で言った。

「はは、大丈夫。」

秋人はウインクする。

「まずは椿に勝たないとね?」

笛が鳴り、試合開始。
体育館の空気が、一気に熱を帯びる。
――美羽をかけた戦いが、始まろうとしていた。
その頃。
まったく事情を知らない美羽は、別の教室で数学の授業を受けていた。
静かな教室。
チョークの音。

「……くしゅん!」

小さなくしゃみをして、鼻をすする。

(ん~?風邪かなぁ……?)

窓の外は、春の光がきらきらしていた。
その光の下で、
彼女を巡る男たちの戦いが始まっていることなど、
知る由もなく――。