危険すぎる恋に、落ちてしまいました。3

美羽と椿が図書室から出ていく、その少し前。
書架の影から、偶然その様子を目撃してしまった人物がいた。

遼だった。
二人の間に流れる、明らかに張り詰めた空気。
椿の低い声、美羽の揺れる表情。
そして、強引に手を引いて去っていく姿。


「……うわー、まじかよ」

思わず、声が漏れた。

「とんでもないことになってんじゃん……?」

いつもは軽口ばかりの遼の顔が、珍しく引きつっている。

(こりゃ、相当こじれるやつだな……)

「面倒なことになったねぇ~」

ぶつぶつと呟きながら、遼はその場を離れ、教室へ戻ることにした。
廊下を進み、階段を上がる。
昼休みの終わりが近づき、校舎には少しずつ人が増えてきていた。
角を曲がろうとした、その瞬間。

「きゃっ!」

小さな悲鳴。

「うわっ――」

遼は反射的に前に手を伸ばした。
次の瞬間、腕の中にすっぽり収まったのは、小柄な女の子だった。

「おっと……大丈夫?」

いつもの癖で、キラキラのスマイルを向ける。
だが、その顔をよく見ると――

「……あれ?」

遼の動きが止まる。
腕の中で、顔を真っ赤にして固まっているのは、莉子だった。

「り、遼くん……?!」

目をぱちぱちさせながら、莉子は慌てて言う。

「あの、ありがとう!!」

「……莉子ちゃん?」

遼は驚きつつも、ゆっくりと腕を緩め、彼女を立たせた。

「いや、俺の方こそごめんね。大丈夫?」

優しい目でそう尋ねると、莉子は小さく頷く。

「うん、大丈夫。私の方こそごめんなさい。」

その声は少し上ずっていて、頬はまだ赤いままだ。
遼はふっと息をつき、軽く笑った。

「そういえば莉子ちゃん、急いでどうしたの?」

莉子は、ぱっと表情を明るくする。

「ちょっと、美羽が遅いから迎えにいこうとおもって!」

ニコニコと笑うその顔に、遼は一瞬、言葉に詰まった。
――さっき見た、図書室の光景が脳裏に浮かぶ。

(あー……)

「……あー、美羽ちゃんなら大丈夫だと思うよ?」

何気ないふりをして、そう言った。

「椿といるみたいだから。」

「え?」

莉子はきょとんと目を丸くする。

「そうなの?なーんだぁ。」

少し肩を落としながら、
「お兄ちゃんと一緒だと思ってたのにな~。」

と、残念そうに呟いた。

「……え?」

遼は思わず聞き返す。

「莉子ちゃんて、秋人くんと美羽ちゃん派なの?」

「え?」

莉子は一瞬きょとんとしたあと、すぐに笑った。

「そんな事はないけど~」

そして、少しだけ声を潜めて。

「でも、ちょっと面白いなぁって♪」

えへっと、可愛く舌を出す。

(あー……この子、確信犯だな)

遼は口角を上げ、少しだけ意地悪な笑みを浮かべた。
そして、一歩近づく。

「へぇ……」

莉子の耳元に顔を寄せ、低い声で囁く。

「へぇ。莉子ちゃんて、ちょっと意地悪なんだね。」

「……っ!」

莉子の肩がびくっと跳ねる。

「でもだめだよ。」

さらに距離を詰めて、続ける。

「俺は椿を応援したいから。」

一拍、間を置いて。
「邪魔するなら……」

声が、さらに低くなる。

「俺、莉子ちゃんに意地悪しちゃうかも。」

「ひゃっ……!」

莉子は思わず声を上げ、両手で耳を塞いだ。
顔は真っ赤で、目にはうっすら涙が浮かんでいる。

(遼くんん?!!な、なにこの破壊力……!)

遼はそんな反応が面白くて、くすっと笑った。

「じゃーね。」

軽く手を振り、そのまま歩き去っていく。
残された莉子は、しばらくその場から動けなかった。
胸がどきどきして、顔の熱がまったく引かない。

「……どうしよう、私……」

小さく呟く。

「遼くんの事、本気になっちゃうかも……」

一拍置いて、さらに。

「てか……意地悪されたいかも!?」

自分でも何を言っているのかわからなくなり、莉子は両手で顔を覆った。

春の廊下には、
誰にも気づかれないまま、
新しい恋の予感が、そっと芽吹いていた。