雨の日に拾った、あの子と僕

経眼窩的前頭葉白質切截術(Transorbital Lobotomy)実技ガイド

原著:194×年刊行『精神外科の手引き』第4章より抜粋

1. 概要

本術式は、従来のロボトミー(前頭葉切截術)とは異なり、頭蓋骨への穿孔や複雑な外科的切開を必要としない。眼窩(眼球が入っている骨の窪み)を経由して脳の前頭葉にアクセスし、視床と前頭前野を結ぶ神経連絡を物理的に遮断するものである。
この処置は、重度の興奮状態、破壊的衝動、または制御不能な不安を抱える患者に対し、永続的な鎮静をもたらすために行われる。

2. 準備および麻酔

患者を仰臥位(仰向け)にし、頭部が動かないよう完全に固定する。
本来は電気ショック療法(ECT)による一時的な意識消失下で行われることが推奨されるが、設備がない場合は、深部麻酔によっても代替可能である。患者が苦痛を感じず、かつ術中に体動がない状態を維持することが不可欠である。

3. 使用器具

ロイコトーム(眼窩用メス): アイスピック状の鋭利な金属棒。軸にはセンチメートル単位の目盛りが刻まれているものが望ましい。
打診器: 小型のハンマー。

4. 施術手順

【第一段階:挿入】
術者は患者の頭側に立つ。
左手の親指で患者の上眼瞼(上まぶた)を持ち上げ、眼球を露出させる。
右手に持った器具の先端を、眼球と上まぶたの間の結膜嚢に挿入する。
この際、器具は鼻梁(鼻の筋)と平行になるように保ち、かつ尾側(足の方)へ向けないよう注意する。

器具をゆっくりと進め、眼窩の天井部分(眼窩屋根)の後方部に接触させる。
ここにある骨(眼窩板)は非常に薄く、光を透かすほどの厚みしかない。

【第二段階:穿孔】
器具が骨に当たった感触を確認したら、位置を固定する。
右手で器具の柄を保持し、左手に持ったハンマーで、器具の尻を軽く叩く。
「コツッ」という乾いた音がし、骨を貫通する手応えが得られるまで叩く。
通常、軽い打撃で容易に貫通し、器具は頭蓋腔(脳のある場所)へと進入する。

【第三段階:切截(カット)】
器具が骨を貫通したら、さらに脳内へ5cm(眼瞼縁から計測して7cmの深さ)まで挿入する。この位置が前頭葉の白質中心部にあたる。
ここから、前頭葉の神経線維を切断する操作を行う。

1. 外側への振戦: 器具の柄を、患者の耳の方向へ約15度~20度動かす。これにより、内側の繊維が切断される。
2. 内側への振戦: 器具を正中線に戻し、さらに鼻の方向へ動かす。
3. 深部切截: 必要に応じて、器具をさらに奥へ進め、同様の操作を行う。

【第四段階:抜去】
操作が完了したら、器具を挿入時と同じ角度(鼻梁と平行)に戻し、ゆっくりと引き抜く。
直ちに反対側の眼球に対しても、同様の手順(第一段階~第四段階)を繰り返す。

5. 術後の経過と管理

処置直後、まぶたの裏から少量の出血が見られる場合があるが、通常は圧迫止血のみで対応可能である。
最も顕著な身体的所見として、両眼の周囲に著しい皮下出血(ブラック・アイ)と浮腫(腫れ)が生じる。
これは眼窩板を破壊したことによる必然的な反応であり、脳の損傷を意味するものではない。通常、1週間から10日程度で吸収され、消失する。

精神的な変化としては、術後直後から以下の反応が見られる。

緊張の消失
無関心、無頓着
刺激に対する反応の遅延
幼児的な挙動

これらは手術の成功を示す兆候であり、時間の経過とともに安定した「人格」として定着する。