4月1日(金)
天候:雨 気温:11℃
午後9時40分、帰宅途中の公園にて対象を保護。
激しい降雨の中、ベンチ脇の泥濘にてうずくまっているところを発見した。
外皮は泥と水で汚れきっており、本来の色調は不明。全体的に濡れそぼり、激しい振戦が見られた。
接近しても逃走の気配なし。衰弱が著しいと判断。
捕獲を試みる。
成獣のオスと思われる。骨格は大きく、持ち上げた際の重量感は想定を上回る。
抵抗はなく、運搬中も「ウウ、アア」といった弱々しい発声を繰り返すのみであった。
特定の品種かは不明だが、発声器官の構造が複雑である可能性が高い。
自宅地下の飼育スペースへ収容。
コンクリート床に毛布、吸水シートを設置。
対象は濡れた外皮を剥がそうともせず、隅で丸まり続けている。
ヒーターにて室温を24℃に調整。水を入れた容器を設置したが、反応なし。
まずは環境への順応を優先し、接触を控える。施錠確認よし。
4月2日(土)
天候:曇り 気温:14℃
午前7時、観察。
室内に入ると、対象は部屋の隅で膝を抱えるような姿勢で硬直していた。
私を視認すると、即座に後ずさりし、壁に背を押し付ける動作を行う。警戒心強し。
排泄の失敗あり。床面に液体状の汚れ。アンモニア臭。トイレのしつけは皆無と思われる。
清掃中、対象は断続的に鳴き声を上げた。
以前の飼い主による訓練の影響が推測される。
意味のある言語として処理する必要なし。全ては「威嚇」および「要求」の鳴き声である。
給餌を試みる。
ドライフードの固形を与えるも、摂取せず。
皿を前肢で払い除けるという攻撃的な拒絶反応を示した。
その後、二本の後肢だけで立ち上がり、威嚇行動に出る。バランスは悪いが、体高があるため圧迫感がある。
扉を叩き、ノブを回そうとする動作を繰り返す。指先が器用で、構造を理解している節がある。
脱走への執着が強い。注意を要する。
4月3日(日)
天候:晴れ 気温:17℃
食欲不振が続く。
ドライフードは不適と判断し、回収。
以前の環境で与えられていた餌への依存が強いと推測される。
健康管理上は不本意だが、カロリー摂取を最優先し、コンビニエンスストアにて購入した柔らかい固形物を用意した。
対象に見せると、鼻を動かして反応。
床に置くと、前肢を使って包装を剥がし、直接口へ運んだ。咀嚼音大。
摂食方法は極めて野性的である。
完食後、前肢を合わせる奇妙な動作を行い、こちらを見上げて鳴き声を上げた。
哀願のようなトーンだが、これに絆されてはならない。
主導権は常に管理側になければならない。
4月5日(火)
天候:雨 気温:13℃
問題行動の深刻化。
夜間、高音での咆哮が止まらない。
防音設備があるとはいえ、換気口からの音漏れが懸念されるレベルの音量である。
内容は単調な音の繰り返し。近隣への配慮、および対象自身の精神安定のため、鳴き声を物理的に抑制する必要があると判断。
市販の口輪を検討したが、対象の顔面形状には適合しない。
粘着テープにて代用することとする。
装着時、激しい抵抗あり。
前肢を振り回し、暴れる。爪による引っ掻き攻撃。
体重をかけて制圧し、口部をテープで固定した。
対象は目から水分を大量に排出。呼吸が荒い。
静寂確保。
以降、食事時のみテープを解除する運用とする。
4月7日(木)
天候:晴れ 気温:18℃
対象の皮膚に一部変色が認められる。
暴れた際の打撲痕か。
テープ解除時、即座に大声で鳴き出すため、給餌が困難。
摂食量が減少し、再び衰弱の兆候が見られる。
本日は流動食(ゼリー飲料)を、テープの隙間から器具を用いて強制的に注入した。
嚥下確認。
対象は私を見ると激しく震え、視線を逸らす。
信頼関係の構築には程遠い。
「飼育」というよりは「監禁」に近い状態になってしまっている現状を憂慮する。
これは保護である。理解させねばならない。
4月8日(金)
天候:曇り 気温:15℃
負傷。
午後8時、給餌のためテープを一部剥がした際、対象により右手指を噛まれた。
明確な敵意を持った攻撃行動。
出血あり。
対象はその後、四つん這いで逃走を図り、扉へ突進した。
阻止し、再施錠。
室内からは、ドンドンと壁を叩く音と、狂ったような鳴き声が続いている。
聞き取れる音韻が変化している。攻撃性が頂点に達している。
失望した。
一週間の保護と世話に対し、返ってきたのは暴力であった。
この個体には、通常のしつけは通用しないことが判明した。
脳の回路に、制御不能な欠陥がある可能性が高い。
根本的な修正が必要である。
表面的な訓練ではなく、より深層へのアプローチ。
生物としての仕様を変更する決断を下す。
4月10日(日)
天候:晴れ 気温:20℃
終日、資料の調査にあてる。
行動矯正に関する文献、および古い医学的記述を参照。
対象の「凶暴性」および「無駄吠え」を恒久的に除去し、平穏な共生を可能にする手法を選定した。
高度な設備は不要。
眼窩を経由した、前頭葉への物理的干渉。
神経線維の切断による、情動の遮断。
これは罰ではない。
恐怖と怒りに支配された脳を解放するための、唯一の処置である。
必要な器具の手配完了。
・穿刺用の鋭利な金属棒
・打撃用のハンマー
・固定具
・消毒液
明後日、実施する。
4月12日(火)
天候:晴れ 気温:19℃
特記事項:調整実施
午後10時、開始。
対象には事前に高濃度のアルコールと睡眠導入剤を経口投与。
意識レベルの低下を確認。抵抗なし。
床面に全力で抑えつけ、対象の四肢および頭部を強固に固定する。
照明を確保。
手順に従い、上眼瞼を持ち上げる。
眼球と眼窩の隙間へ、器具の先端を挿入。
角度調整。鼻梁に対し並行、かつやや上方へ。
抵抗を感じる位置まで押し込む。
全工程、約15分にて終了。
対象は深い呼吸を繰り返している。
両眼の周囲が、内出血により急速に暗紫色へ変色し始めた。
文献にある通りの経過である。
成功と判断する。
4月14日(木)
天候:曇り 気温:16℃
対象が覚醒。
両目の周囲には濃い隈のような変色が定着している。
腫れにより目は細まっているが、瞳孔は確認できる。
私を視認しても、逃走反応なし。
威嚇なし。
鳴き声なし。
ただ、中空の一点をぼんやりと凝視している。
給餌を行う。
スプーンを口元へ。
機械的に口を開閉し、嚥下した。
以前のような拒絶も、選り好みもない。
完食。
非常にスムーズな管理が可能となった。
部屋は静寂に包まれている。
4月17日(日)
天候:晴れ 気温:22℃
腫れが引き、対象の表情が観察しやすくなった。
顔の筋肉が弛緩しており、常に薄い笑みを浮かべているように見える。
感情の起伏は消失。
私の命令に緩慢ながら従うようになった。
反応速度は遅い。命令から動作まで数秒のラグがある。
しかし、反抗は一切ない。
排泄に関してはコントロールを喪失した模様。
垂れ流し状態となるため、オムツの着用を開始。
世話の手間は増えたが、以前の精神的摩耗に比べれば些細な問題である。
身体を拭いている間も、対象はされるがままである。
穏やかな存在へと生まれ変わった。
4月20日(水)
天候:快晴 気温:23℃
外気浴を行う。
首輪とリードを装着。抵抗なし。
庭に出る。
日差しに対し、目を細める動作。
凸凹な地面での歩行は不安定で、足をひきずるような動作が混じる。
リードを引くと、素直についてくる。



