青春とデッドエンド・サバイバル ~普通の大学生が、ゾンビパンデミックを生きのびる方法


 勢いよく扉が開く。
 体がつんのめるように屋上に出た。
 頭上に広がるのは、突き抜けるような青空。
 そういえば最近、秋晴れが続いてたなぁ……なんて、至極どうでもいいことが頭の掠めた。

 その時──俺の頭上に影が差した。

 ガッ!

 激しく何かがぶつかる音。
 振り返ると、俺に向かってパイプ椅子を振りかぶったであろう男子学生と、それを鉄パイプで弾き返した雪生さんの姿があった。

 男子学生は「おわっ!」と声を上げてパイプ椅子を放り出し、ドサッと尻餅をつく。

「ぎゃーーーーっ、陽介……と秋庭君ッ!?」

 男子学生の後ろで野球のバットを構えていた女子学生が、悲鳴を上げた。

「夏川先輩…………」
「なんだ、秋庭だったのかよ…………」

 男子学生は尻餅をついたまま、立ち尽くす俺を見上げて目を丸くした。

 黒髪の短髪に三白眼。身長は俺よりやや低め。
 体格は厳つい。
 その男子学生は、バスケ同好会の三年生、夏川陽介先輩だった。
 その後ろでバットを握りしめてるのは、女子バスケ同好会の同じく三年生、春日咲先輩。
 ウェーブのかかった茶髪をひとくくりにした、快活そうな女子学生である。

 この二人は仲が良く、学内で一緒にいるのをよく見かけた。
 以前、「先輩たち、付き合ってるんすか?」って聞いたら、「別に付き合ってはいねぇよ」「そーそーあくまで友だち!」と返ってきた。実際仲がいいだけで、恋人とかではないらしい。
 今日も二人でいた所に、ゾンビ大量発生に巻き込まれ、屋上に避難したのだろう。

 ふと扉の方を見ると、屋上に放置されていた椅子や机が高く積まれていた。
 夏川先輩と春日先輩はバリケードを作って、ゾンビの侵入を防ごうとしていたらしい。
 ……俺の体当たりで、大半が崩れてしまったが。

「先輩たちがバリケードで塞いでたんすね……どうりでドアが開かなかったわけだ」
「オレらはゾンビが侵入してくるんだとばかり思ってたわ。殴りかかって、すまんかった!」
「ごめんねー穂浪君!」

 先輩たちが手を合わせて謝る。
 俺は二人に、椅子やバットで滅多打ちにされる所だったらしい。危なかった。
 それを防いだ雪生さんには感謝しかない。

「雪生さんのおかげで、また助かったよ……」
「それはいいけど……秋庭君の知り合いの方々ですか?」
「ああ、こっちが夏川先輩で、あっちが春日先輩。俺と同じく、バスケ同好会のメンバーなんだ」
「ちーっす!」
「どうもー!」

 首を傾げる雪生さんに、先輩二人が明るく挨拶する。

「……初めまして、雪生柊香といいます。秋庭君の同級生です……あの、とりあえず、みんなでバリケードを直しておきませんか?」
「たしかに」
「そうだな!」
「うん!」

 雪生さんの提案に全員が頷く。

「さっき俺がバリケード崩した時、結構な音がしたけど大丈夫かな……」
「あたしの悲鳴もまずかったかもー……」
「ゾンビは音に反応するっつーしなァ」
「そうですね、音を聞きつけてやってこないとも限らないので、さくっと直しましょう」

 雪生さんの言葉を合図に、せっせと椅子やら机やらを扉の前に積んでいく。
 四人でかかればあっという間に終わった。
 再度出来上がったバリケードを見上げ、俺は隣の雪生さんに話しかけた。

「……ところでさ、雪生さんの考えてた作戦ってどんなの?屋上に立てこもって救助を待つ、じゃないんだよね」

 尋ねると、雪生さんはこくりと頷いた。

「……この校舎のすぐ裏って、職員用の駐車場になってますよね。車に何か落として防犯用ブザーを鳴らせば、ゾンビを一ヶ所に集められるかな、と思ったんです」
「……なるほど、その隙に脱出かぁ」

 ゾンビが音に反応する習性を利用して、脱出する。
 それが彼女の作戦のようだ。

「私の一存では決められませんが……彼らの注意を引くものがないと、大学から脱出するのは厳しいかな、と」

 確かに、学内には夥しい数のゾンビがいる。
 あれを振り切って脱出するには、全力で走るだけでは無理だ。
 しかし、ゾンビの注意を他に向けることができれば、脱出の難易度は一気に下がるだろう。

「…………先輩たちはどう思いますか」

 雪生さんが話を振ると、二人は考え込んだ。

「うーんそうだなァ。オレは雪生さんの意見も一理あると思うぜ」
「あたしは……下手に動くより、屋上で大人しく救助を待った方がいい気がするなぁ。音でおびき寄せる作戦がうまくいく保証はないしねー……」

 春日先輩が躊躇いがちに反対意見を言う。
 彼女は普段、溌剌とした元気な人だが、異常事態だからか、明るい雰囲気はやや鳴りをひそめていた。

「秋庭君はどう思いますか?」
「お、俺!?俺は……正直どっちも正しいように聞こえる、かなぁ……ゴメン」

 雪生さんに聞かれて、相変わらずの優柔不断ぶりを発揮してしまった。
「別に謝る事じゃねーだろ」と吹き出した夏川先輩に、背中をバシバシ叩かれた。地味に痛い。

 その時、俺の腹がギュルルル~と鳴った。
 そういや朝から何も、食べてないんだっけ……

「……休憩しながら情報交換しましょうか」
「…………そうだね」

 雪生さんの提案に、俺は情けない顔で頷いた。