青春とデッドエンド・サバイバル ~普通の大学生が、ゾンビパンデミックを生きのびる方法


 しょうがない。もうこれしかない。
 俺は自分の命を差し出すことに決めた。

 自分でもバカだなぁ、と思う。
 でも、ナインをこっち側に留めておく方法なんて、ほかに何一つ思い浮かばなかったんだ。

 「……じゃあこうしよう。俺がお前の代わりに"アルファ"を倒す。お前はそれを見届けろ」
 「…………え?」

 ナインの黒い目が真ん丸になった。

 「俺は、お前のおかげで《適合者《ハイブリッド》》になったんだ。確率上げて貰ったし、それで今も一応人として生きてる。その俺が"アルファ"を倒せば、実質お前がやったようなもんだろ」
 「…………そんなリクツ、ある?」
 「ある。余裕である。これは、鶴の恩返しみたいなもんだ」
 「……ツルノオンガエシ、ってなに?……」

 ナインはひどく面食らっていた。だが、ここは勢いで押し通すべきだな。
 俺は大人のしたり顔を浮かべて、鶴の恩返しを説明してやった。

 「助けてもらった鶴が、お礼に自分の羽で機織りをする昔話だ。鶴は鳥で、機織りは布を織ること」

 それを聞いて、ナインは黒い目をパチパチさせた。

 「ふふ………あはははっ」
 「………………何笑ってんだよ」
 「だって……そんなこといわれるなんて、おもってなかったんだもん」

 ナインは暫く腹を抱えて笑っていた。
 バツが悪くて俺が眉を下げると、ナインは笑いすぎて零れた涙を拭いた。

 「…………わかった。ぼく、おにいさんと手をくむよ」

 俺の言い分はかなり無茶苦茶だったが、ナインを心変わりさせるのには有効だったらしい。
 白い髪の少年は、小さな手を差し出して、ニコッと笑った。

 「"アルファ"をいっしょにたおそう。おにいさん、力をかして」


 ◇◇◇


 そうして、"アルファ"掃討作戦がはじまった。参加人員はたったの二人。実働部隊はほぼ俺。

 本当は一刻も早く、政府機関にナインを引き渡すべきなんだろう。
 だが、急がば回れ。急いては事を仕損じる、だ。
 下手に関係を拗らせて、ナインを失うわけにはいかなかった。

 作戦の準備は、なかなか前途多難だった。
 まず、"アルファ"を迎え撃つ場所の選定で揉めた。

 「ねえ、もっとひろいとこ、ないかな」
 「んじゃここは?」
 「まだちいさい。こっちは?」

 今いる一軒家は、幸い電波が通じた。
 地図アプリを見ながら、ああでもないこうでもないと話し合いつつ、いくつかの候補の中から絞っていく。
 最終的に、決戦の地は、矢羽々《やはば》小学校に決まった。

 こんこんと眠っている先輩たちへ書き置きを残し、ナインを連れて、一晩泊まるはずだった家を後にする。
 出ていく時に、そっと雪生さんを目に焼きつけるように見つめた。もしかしたら、彼女を見るのはこれで最後になるかもしれない。
 まあ、そうならないように全力を尽くすつもりだけど。

 次に、必要な物資をかき集める。
 といっても、ナインはゾンビに狙われてしまうので、必然的に作業は俺がやらねばならない。

 「つぎは……ねんりょうをあつめてほしい。あのいれものに、七、八本くらい」
 「ペットボトルな。お前、軽く言ってるけど、結構大変だぞ……」

 ……ナインは意外と人使いが荒いかった。
 だが、やるしかない。

 ゾンビが徘徊する中、俺は容器から探し回り、要求された量のガソリンを集めた。
 だが、今の俺に不可能はない……!
 そんな風に己を鼓舞して何とか完遂した。まあ量そのものはそんなに多くなかったので、何とかなった。

 「つぎは、バリケードだね。ぼくもてつだうよ」

 ナインが待機する予定の教室には、バリケードを作っておく。俺が側にいない間にゾンビが入り込んだら、助けてやれるか分かんねぇもんな。

 二人で協力し、二ヶ所ある扉の前に、机や椅子をせっせと積み上げる。
 それが終わると、ナインは自分のポケットから、ガラスのシリンダー数本とメスを取り出した。
 病院からかっぱらってきたらしい。

 「これをつかおうとおもう」
 「…………いつの間に」
 「おにいさんがくるまえ。子どもっぽくうろうろして、こっそり、ポケットにいれといたの」
 「……その時からお前は、"アルファ"を倒そうとか思ってたわけ?」
 「まあね」

 ナインはまた、大人びた笑みを浮かべる。
 年端も行かないはずなのに、俺よりよほど肝が据わってんな……

 「"アルファ"……テンは、ほんのすこしの《抗体》で、よわらせることができるんだ。これ一本分あれば、たぶんしんじゃう。あの子をおわらせるために、ぼくの血をつかって、おにいさん」

 ナインは躊躇うことなく、手のひらをすっとメスで切った。

 「…………」

 俺は眉をひそめた。
 しかし何も言えず、ナインが滴る血をシリンダーに入れていくのを黙って見守っていた。