──ぼくたちは、あの《適合》したおにいさんが"アルファ"をつかまえてるすきに、にげだした。
そのとき、ガラスの上でころんで、ぼくは手を切ってしまった。
「ナイン君、今はこれで押さえててください」
おねえさんが、布をわたしてくれた。
ジッケンで、よくからだを切られてたから、かなしそうなおねえさんがふしぎだった。
とまどっていると、夏川のおにいさんがぼくをひょいとかかえて、はしりだした。
「お前、ほっせえなー、ここ逃げたら、たくさんメシ食わすからな!」
そんなことをいわれて、ちょっとわらってしまった。
研究所で、そんなことをいう人はいなかったからだ。
あの人たちは、ジッケンとか、ぼくの血にしか、きょうみなかったんだ。
まして、つぎつぎとゾンビがおそってくるこんなときに、そんなことをいわれるなんて。
ぼくはゆられながら、目をとじた。
──"アルファ"は、あの《適合》したお兄さんに気を取られている。
どれだけはなれていても、ぼくはあの子が、なにをかんがえているか、わかる。
いまなら力をつかっても、だいじょうぶだろう。
あの子はきっときづかない。
力をつかうには、ただ、つよくおもうだけでよかった。
「いなくなれ、こっちにかまうな」、と。
ゾンビたちが、ぼくたちにつぎつぎとみちをゆずる。
そうして、ぼくたち三人は、ゾンビのむれをつっきっていった。
