青春とデッドエンド・サバイバル ~普通の大学生が、ゾンビパンデミックを生きのびる方法



 【某SNS】

 20XX年11月XX日 07時19分
 藤実(ふじみ)駅にいるんだけどやべーよマジで
 オッサンが女のひと食ってる
 今は警察待ち
 異様すぎて誰も近づけねえ

 20XX年11月XX日 07時24分
 は?w

 20XX年11月XX日 07時26分
 朝から寝ぼけてんの?

 20XX年11月XX日 07時35分
 いやマジだって
 動画あげとく
 http:://loginite.177998777666.movie.com

 20XX年11月XX日 07時40分
 うわ何これ血の海じゃん

 20XX年11月XX日 07時42分
 グロすぎ……

 20XX年11月XX日 07時43分
 げ、あいつこっち来る!
 逃げ

 20XX年11月XX日 07時43分
 お前大丈夫かよ!!??

 20XX年11月XX日 07時48分
 なあ、返事しろよ
 おいってば

 …
 …
 …

 20XX年11月XX日 08時21分
 あいつ無事かな……
 いったい藤実で何が起こってんだ……?

 …
 …
 …

 『ニュース速報です。今朝、臼井(うすい)藤実(ふじみ)市内で、病原性ウイルスが原因とみられる集団感染が発生しました。
 県警と消防が事態の収拾にあたっていますが、被害を抑えきれず、混乱が広がっています。
 付近の住民の方々は、不要不急の外出を控えて────』


 ◇◇◇


 ウーー、ウーー………

 「……ふわぁ」

 ──遠くでサイレンが鳴っている。
 その音で目が覚めた。
 寝ぼけ眼を擦りつつ伸びをして……あれ、と思う。
 窓から射す光がやけに眩しい。

 「…………うわ、寝坊した」

 壁のデジタル時計を見る。やべ。一限目、とっくに始まってる。
 昨日の夜、アラームを設定し忘れたらしい。なんてこった。
 枕にポスッと顔を埋める。

 「……ま、寝坊しちまったもんはしょうがねえよな」

 我ながら、ダメ大学生のお手本のようなだらけ方だが、一人暮らしで自分に厳しく、なんて鋼の心がなきゃ難しい。
 ……と自分に言い訳して、頭をボリボリかきながら体を起こす。

 「よし、二限目はちゃんと行こう」

 さようなら一限目。
 来週はちゃんと出るからな。
 
 ……認めるのも何だが、俺は大体においてこんな感じだ。怠惰で、ヘタレで、諦めが早い。
 それが自分という人間だと思ってた。
 でも、時々考えんだよな。
 こんなんでいいのか、と。
 そう思うのは、高校生みたいな思春期ををまだ脱しきれてないからだろうか。
 ちょっとだけ俺は、俺自身が面倒くさい。
 小さくため息をつき、いい加減布団から出る。

 洗面所で身だしなみを整え、クローゼットから適当に服を出す。
 今日は薄いモスグリーンのニットにジーンズ、チャコールの薄手コート。
 ファッションに強いこだわりはない。
 シンプルな服を清潔に着こなすのが一番だ。
 俺みたいなのが無茶すると、大事故になりかねん。

 バスケットシューズとジャージもリュックに突っ込んでおいた。
 今日こそは練習に参加するつもりだ。
 ゆるい同好会だが、一応俺はレギュラーに選ばれている。二日連続でサボったら、さすがに怒られるだろう。

 そこでふと首を捻った。
 ひっきりなしに聞こえる、サイレンの音。
 今鳴ってるのはパトカーだろう。

 「……大きな火事、とかかな」

 かなりの数の緊急車両が走り回っているようだ。
 でも今はニュースをチェックする余裕はない。
 後で確認しよう。
 俺はさっさとアパートを出て、愛用のチャリに乗った。

 ……信号待ちの交差点。俺は何となく空を見上げた。
 秋晴れの空はどこか空虚だ。
 サイレンの音と、かすかな焦げくさい臭い。
 それらが相まって、なんだか胸がざわつく。

 「……変な感じの朝だなぁ」

 呟いて、俺は青になった信号を渡った。


 ◇◇◇


 「朝メシ、朝メシ~っと」

 大学に行く途中、自転車を停めてコンビニに寄った。
 店に入って、棚からサンドイッチを取る。朝はパン派だ。ついでに牛乳も手に取った。
 それからレジに向かう。

 俺はこのコンビニの常連だ。店員の顔もほぼ覚えている。
 この時間なら、シフトに入ってるのは大抵、金髪の若い兄ちゃんだ。
 少し前、その金髪兄ちゃんが新人に丁寧に仕事を教えてるのを見た。人は見かけによらねえな、と自分を差し置いて、感心したばかりだった。だが、

 「………」

 俺はレジの前で首をかしげた。
 レジの内側を見回しても、兄ちゃんどころか誰もいない。
 バックヤードで休憩してんのか……?

 「…………すいませーん!」

 奥に向かって声をかけてみる。
 ……返事はない。
 キョロキョロ店内を見回してみたが、自分以外の客も見当たらない。

 コンビニに一人きり、なんて状況はあまり経験がない。そのせいか、妙に不安を覚える。
 店内に流れる陽気なJPOPが、やけに浮いて聞こえた。

 「早くしないと二限も遅刻だな……」

 スマホで時間を確認する。結構ギリギリだ。
 結局サンドイッチと牛乳を棚に戻し、俺は大人しくコンビニを出た。
 空きっ腹がぐぅぅ……と鳴る。

 「あー、くっそ腹減った……でも、勝手に商品を持ち出すわけにもいかねぇしなぁ……」

 俺は朝食を諦め、仕方なくチャリにまたがった。



 ──俺はこれまで、そこそこ平凡に生きてきた。
 少々不真面目で、覇気に欠け、わりと迂闊だという欠点はあったが、それくらいならよくある短所だと思う。

 だから、異変に気づかなかった。
 ……バックヤードのドアの下から、真っ赤な血がじわじわと染みだしていたことに。

 後から思えば、俺の平凡な日常は、この時すでに崩壊しはじめていたのだろう。