青春とデッドエンド・サバイバル ~普通の大学生が、ゾンビパンデミックを生きのびる方法



 ────誰かに運ばれて、揺られている

 深い眠りから覚めていく。
 頭は重く、思考もまとまらない。
 しかし時間と共に、意識が明晰になっていく。

 ……薄く開いた、まぶたの隙間。
 そこには、見たことのない景色が広がっていた。

 少年は黒い瞳を丸くした。
 眠りに落ちる前は、いつもの部屋──無機質で閉鎖的な、人工の空間にいたはずだった。

 なのに……今いる場所はまるで違う。
 頬を撫でる冷たい風、混ざり合うさまざまな匂い──どれも初めての感覚だった。

 研究所の地下から、出たんだ──

 夢うつつだった意識が一気に覚醒する。

 ──これが、外の世界。

 ふとし顔を上げると、そこには、果てのない天蓋が広がっていた。
 ……空だ。

 初めて見るそれは、想像よりも遥かに広大で、少年は胸が締めつけられるほどの感動を覚えた。
 空の半分は深い藍色で、地平線の向こうから、やわらかな光がにじむように広がっていく。
 あれが、朝だろうか。とても、きれいだ。

「起きたのか」

 自分を抱えていた誰かが、話しかけてきた。
 低い声のした方に視線を移す。
 紺色のいかつい服を着た男だった。

 研究所にいた人間はみんな、ひょろっとしているか小太りで、自分を抱えて移動するところなんて想像もできなかったが、男は苦もなくやっている。
 普段から相当体を鍛えているのだろう。
 それにしたってすごいな、少年は素直に感心した。

「あなたは……?」
「坂上だ。警察の機動隊所属だが……警察は知ってるか?」
「うん。あなたは警察の人……?」
「そうだ」

 ……彼は頷くと、辺りを警戒しながら、建物づたいに静かに移動していく。

「あなたが……研究所からつれだしてくれたの?」
「そうだ」
「……ありがとう。ぼく、ずっと外にでたかったんだ」
「…………そうか、良かった。君の名前は?」
「"ナイン"」

 少年は小さく笑った。

「ぼく、すごくつかれてるみたい。ねむくてしかたないんだ……」
「君は眠っていて構わない。安全な場所まで必ず連れていくと約束する。安心してくれ」
「……あなたは、とてもいい人」

 そう言って、少年はふっと眠りに落ちた。