売店からいただいてきたプロテインバーを全員に配り、それを齧りながら、改めて情報交換する。
とはいえ話してみると、持ってる情報に大差はなかった。
先輩二人も"アルファ"の動画は見たようで、「奴にだけは会いたくない」という意見で全員一致した。
そんなわけで、救助の状況等、最新情報を集めることになったのだが。
その前に、全員のスマホのバッテリー残量を確認することになった。
「……よし、今回は秋庭のスマホを使うぞ。お前のが一番バッテリー残ってっからな!」
夏川先輩が、ビシィッと俺を指差す。
「はぁ……異存はないすよ」
俺も頭をかいて同意を示す。
バッテリーの残り40%の夏川先輩や春日先輩、60%の雪生さんと比べて、俺のスマホはほぼ100%。
先輩たちの充電は温存する、という意見に俺も賛成だった。
俺は寝坊して、家を出るギリギリまで充電していた。
その後はゾンビから逃げ回って、スマホをさわる暇なんかほとんどなかった。
使ったのは、親にメッセージを送った時くらい。
情報収集は自分のためでもあるので、協力するのに異論はない。
何よりこの四人で力を合わせなければ、この事態を乗り切れないだろう。
俺にとっての幸運は、ここにいる三人が信頼のおける知人だという点だ。
同好会の先輩二人はとても頼りになる。
夏川先輩はガラが悪いけど男気があるし、春日先輩も後輩から慕われる、しっかり者だ。
雪生さんの冷静さ、強さは群を抜いている。
このメンツなら、ゾンビがあふれた地獄でも生き残れるかもしれない。
俺のなかに希望が灯る。
「ごめんねー穂浪君……」
「いえ、気にしないでください春日先輩」
「それぞれのスマホを順番に使いましょう」
春日先輩が手を合わせて謝り、雪生さんにフォローされ、みんなで俺のスマホを覗き込む。
そして。
…………いくつかのニュースサイトを巡って判明した事実に、俺らの表情は暗くなった。
市の中心部は壊滅的な被害を被っており、地元の警察も消防も、ほぼ機能してないらしい。
そして、このゾンビパンデミックは、藤実市周辺にも確実に影響を及ぼしつつあった。
鉄道の沿線や、幹線道路沿いで感染が多発。
政府は藤実市を中心に人の行き来を制限し、検疫を行っているが、暴れる感染者=ゾンビの対応に苦慮している。
ゾンビを生け捕りにするかどうかに関しても、政府内で意見が真っ二つに分かれていた。
頭部を破壊して行動不能にしてしまうのは難しくないが、その決断に伴う責任を取りたくないのだろう。
彼らは一応、生きて、動いているように見えるのだから。
とはいえ、感染者が増え続ければ、いずれ決断を迫られる。現状は引き延ばしに過ぎない。
ウイルス感染の勢いは、とんでもなく凄まじい。
有効な対策が講じられる前に、政府が機能不全に陥るのではないか……という憶測も囁かれていた。
「うーーーん、良いニュースが一つもないわぁ……」
「とはいえ、オレらはまだ生きてっからな。それが何よりの吉報だ!」
「おーーー陽介かっこいー!」
「先輩の言う通りすね」
春日先輩がパチパチと拍手し、俺も同意する。
そうだ、絶望するにはまだ早い。
その時、じっとスマホを見ていた雪生さんが、あるニュースのタイトルを指した。
「これ。救助が難航してる、と書いてあります」
「見てみる?」
「はい」
俺がニュース動画をタップすると、スタジオにいる女性アナウンサーが画面に映った。
『──藤実市を中心に発生している感染爆発についての最新情報をお伝えします。このウイルスは非常に危険で、感染すると、知性を失って凶暴化することがわかっています。
現在、自衛隊や消防が、町に取り残されている非感染者の救助にあたっていますが、救助作業は困難を極め、思うように進んでいません』
そこで映像が切り替わった。
ビルの屋上に、救助のヘリが着陸する様子が映る。
隣のビルから撮影したもので、「視聴者からの提供」というテロップが付いていた。
動画は、屋上で救助を待つ人々の姿を捉えた。
彼らはヘリに大きく手を振った。遠目にも救助を喜ぶ様子が伝わってくる。
──だが、そこからは悪夢だった。
カメラは角度を下げ、ビル前の道路を映した。
そこには、ヘリのホバリングにつられて集まった、夥しい数のゾンビが蠢いていた。
ゾンビの一部は建物内の階段を上がって、バリケードを押し退け、屋上に雪崩を打って押し寄せた。
避難者達があっという間にゾンビの群れに飲みこまれていく。
結局ヘリは着陸できず、慌ててビルから離れていった。
そこで映像は途切れた。
ニュースは再び、スタジオのアナウンサーに戻る。
ヘリの音がゾンビを呼び寄せてしまい、ヘリや救助隊員にも被害が出ていること、避難中はなるべく音を立てないように、という注意で締めくくって、ニュースは終わった。
……見終わった後、暫く誰も言葉を発しなかった。
「…………うん。屋上の救助は無理そうだって、よーくわかったわ。柊香ちゃんの作戦で行こっかー!」
「俺も、春日先輩と同意見っす」
沈黙を破って、春日先輩が雪生さんの案に賛成した。片手を上げて俺も続く。
「じゃあ満場一致だな。下の駐車場の車に衝撃を与え、防犯ブザーが鳴ってる隙に、オレ達は逃げる!」
夏川先輩の言葉に、全員が頷いた。
