雪と恋とクリスマスにまつわる、詩と短編小説を集めました。
今年も、よいクリスマスが過ごせますように。
Happy Xmas!
🎄❄️⭐️ 目次 🎄❄️⭐️
❄️ 詩集 ❄️
🎄Snow Xmas Love Story
君はただ、疲れてるだけだよ 青色の君を受け入れたい 君の連絡を待つ夜のスタバで 雪すらそっと応援してくれるよね こうやって、親密さを紡ぎたい 君の心を縫いたい クリスマスイブ 恋をもっと夢中にさせて 雪が降る街で君とはしゃぎたい 白いロンTの袖を重くしても メリークリスマス このまま楽しさを戻したい つよがらないで 今のままで十分、君は輝いている 永遠に無垢を冷凍したい 君が中心だよ 白が消えても 君は1年前よりも センチメンタルを壊さないで 最高に寒くて、暖かいね
❄️Winter Snow Love Story
ねえ、初恋は永遠だよ お互いに出来すぎているね 考えが甘すぎて、君に負担をかけてしまった 甘さで完全体になりたい 無意味に意味を生み出したい 雪が降りそうな朝、君のことを、ふと思い出した ドキドキは果てない 君が選んでくれた手帳が、もうすぐ終わる たとえ、ペンギンが空飛ぶ世界でも、日常は続く もっと自分を大切にしてほしい こう見えても、それなりに、こなしているよ 疲れているのは知っている まだ今日の言葉が頭の中に残ってる 倦怠期を乗り越えたい 今は黒い気持ちを出してほしい そう言うんだったら、やり方、教えてほしいな 日々、通話ボタンを押すたびに さよなら今年 あなたは、ポラリスより輝いている スノーファンタジア 踏ん張りどころだから、無理をしたい 君待ち すべてを捨てるよ 雪乞い少女。始まりの予感はいつも雨 雪の日になると、君を思い出す
🎄Happy Xmas! Love Story
寒いけど、君の話をもう少し聞きたい 雪が降ると、あの日、君が言ったことを思い出してしまう 君と笑いあえたら 恋が憂鬱な、クリスマス 赤いセーターの裾に想いを乗せて 雪ではしゃぐ君が好き スタバで物思いに、ふけているよ クリスマスの夜、大停電に襲われても、冷静でいるコツ この恋の悲しみを愛に変えたい もう、あのときには戻れない 何もかも白くなれば忘れられるかな 一目惚れって、突然だよね クリスマスになったのに、友達以上のままだったね 倦怠期で迎えたクリスマスイブ 青白い世界で手を握ったままでいようね 君と笑いあえたら クリスマスディナー にぎやかな中でも、世界はふたりきりみたい 雨のイルミネーション クリスマスの思い出 君の雪乞いは最高だね 隣の君はいつも違う世界を見ている クリスマスはゆっくり進む 12月は昔の夢が詰まっている クリスマスマーケット 楽しいことを共有しよう 初雪が降った街は 話したい ダサいモチーフのネックレスを買った話 切ない痛みイルミネート症候群 ジョニー、冬を駆ける
⭐️ 短編小説 ⭐️
❄️Winter Short Story 1
ただ、君との青い恋を破り捨てたくなかった
❄️Winter Short Story 2
君の告白を破り捨てたい
❄️Winter Short Story 3
5年後も君に会いたかった
🎄❄️⭐️🎄❄️⭐️🎄❄️⭐️🎄❄️⭐️🎄❄️⭐️🎄
Snow Xmas Love Story
🎄❄️⭐️🎄❄️⭐️🎄❄️⭐️🎄❄️⭐️🎄❄️⭐️🎄
❄️君はただ、疲れてるだけだよ。
静かに肩を震わせ、
泣き始めた君の青の涙を拭いたいから、
疲れ切った君を、ただ、抱きしめたい。
❄️青色の君を受け入れたい
もう、無理しなくてもいいよ。
青色に染まった素直のまま、
夢の中で一緒に手を繋ぐだけで、十分なんだ。
だから、そのままの君を受け入れるよ。
🎄君の連絡を待つ夜のスタバで
スタバの窓越しに藍色の夜が白くなった世界をぼんやり眺めている。
私はiPhoneの通知を待ちながら、憂鬱なままだよ。
ねえ、冬の夜ってどうして、こんなに寂しくなるんだろう。
赤いリボンで胸を縛っておかないと寂しさが破裂しそうだよ。
❄️雪すらそっと応援してくれるよね
君と一緒に雪を見ることができたら、
きっと、雪すらも喜んでくれると思うよ。
雪が降ったくらいで、そんな妄想する私って、変かな。
❄️こうやって、親密さを紡ぎたい
声を出して君と笑い合うだけで、
なんで、こんなに親密で切なくなるんだろう。
❄️君の心を縫いたい
ボロボロになった君の心を縫うよ。
ソーダ水でも飲んで、ゆっくり休めばいい。
そしたら、君の輝きはまた復活するよ。
🎄クリスマスイブ
マライア・キャリーが館内をクリスマスに染めている。
アトリウムを貫く大きなクリスマスツリーは
正統派なきらめきを放っていて、
赤や緑に帯びた電球色にうっとりする。
君と手を繋いだまま、
こうしてツリーを眺めていると
時間が止まったみたいで
このまま何もかも終わらない気がした。
❄️恋をもっと夢中にさせて。
初雪に夢中な君と一緒に、
ずっと、君と青い夢を見続けていたい。
❄️雪が降る街で君とはしゃぎたい。
雪が降る街のなかで、
雪だねって、ふたりではしゃぎながら、
ただ、君の手を繋いだままでいたい。
❄️白いロンTの袖を重くしても
白いロンTの袖を涙で重くして、
君が振り向いてくれるなら、
片思いのプレイリストを
Spotifyで流したりしないのに。
🎄メリークリスマス
去年、君とクリスマスツリーの前で、
誓った約束は有効のままで、
今、こうして、君と手を繋いでアトリウムの中に立っている、
LEDで青色のもみの木を眺めている時間は、
すごく大切になりそうだよ。
外は雪が降っていて、冷たくて寒いクリスマスだけど、
信じることでより熱くなる気持ちが溢れて、嬉しいよ。
「来年も大切にするね」
君が急に耳元でそう囁いた。
だから、私はゆっくり頷くと、君はまた笑顔になった。
オーロラを眺めるアザラシのように、
今夜は二人でのんびりと、サンタクロースを待とうね。
❄️このまま楽しさを戻したい
君との夜が深まったファミレスは、
いつの間にか、黄色の朝日でいっぱいになった。
このまま、成長しないで、君と一瞬を楽しみたいから、
もう一度だけ、時が戻る魔法を使いたい。
❄️つよがらないで
初雪のような切なさを持っている君は、
弱いように見えて、
実は誰よりも強いことを知っているよ。
❄️今のままで十分、君は輝いている
切なさと過去の涙を詰め合わせた
フルーツバスケットみたいに彩らなくても、
今のままで十分、
君はしっかりとキラキラしているよ。
❄️永遠に無垢を冷凍したい
言い訳ばかり、上手くなるのが、
大人になるってことなら、
このまま、冬を冷凍する方法を探すみたいに、
素直な少女で生きる方法を探したい。
❄️君が中心だよ
君が世界の中心だってことを
証明したいくらい、
このままずっと、君の話を聞いていたい。
❄️白が消えても
今、世界を白くしている雪も、
いつか消えていくけど、
君への想いは消えないよ。
だって、今まで頑張ってきたのは、
会えない君に会うためなんだから。
🎄君は1年前よりも
そこに積もった雪が、
イルミネーションでカラフルに輝いている。
そんな凍りついた世界を君とただ、眺めている。
君は1年前よりも、大人っぽくなったね。
そんなことを今日のどこかで言おうと思っていたのに、
楽しさと輝きで忘れてしまっていたよ。
❄️センチメンタルを壊さないで
センチメンタルを壊さないで。
君の世界はそのままでいいんだよ。
だから、思うままに、君をもっと突き詰めて。
🎄最高に寒くて、暖かいね
クリスマス色したイルミネーションの前で、
君と寒さを共有しながら、
今の幸せと悲しみを保存するみたいに、
iPhoneで自撮りして、
ふたりきりの世界をデータに残すのが、
最高のプレゼントに感じるよ。
🎄❄️⭐️🎄❄️⭐️🎄❄️⭐️🎄❄️⭐️🎄❄️⭐️🎄
Winter Snow Love Story
🎄❄️⭐️🎄❄️⭐️🎄❄️⭐️🎄❄️⭐️🎄❄️⭐️🎄
❄️ねえ、初恋は永遠だよ
ずっと、なくしていた
あなたからもらった赤いペンを見つけて、
ものすごく懐かしくて、嬉しくなったんだ。
だから、思わず君への想いを手帳に書いたよ。
初めて人のことを好きになった、
あなたにあてた儚い恋文は、
二度と誰にも読まれることはないけど、
あなたへの気持ちはきっと変わらないよ。
❄️お互いに出来すぎているね
寂しさに負けそうだから、
君にメッセージを送ろうとしたのに、
ちょうど、届いた通知は、君からのメッセージだった。
君も寂しかったんだと嬉しくて、
思わず、笑っちゃったよ。
求めてくれて、ありがとう。
❄️考えが甘すぎて、君に負担をかけてしまった
優しい君に甘えすぎて、
君を怒らせてしまったんだね。
君のこと、わかっていたつもりなのに、
わがままばかりで、
理解できなくてごめんね。
❄️甘さで完全体になりたい
ココアのホイップクリームを掬い、口に含むと、
自分が完全体になったように思えた。
まだ、この切ない甘みだけじゃ、
自己肯定感は完全回復なんてしないけど、
今はただ、その甘さを感じていたい。
❄️無意味に意味を生み出したい
無意味のなかに意味を探すような、
矛盾だらけでボロボロの毎日だ。
それでもこの街をオレンジにする、
冬の短い夕日は優しいね。
大好きを大嫌いへ逆さまにして、
ありったけの愛情を一方的に伝えまくりたい。
こんな極化して、
デタラメな、イライラで、
自分自身が無意味に壊れそうだよ。
❄️雪が降りそうな朝、君のことを、ふと思い出した。
凛とした朝の冷たい空気を吸い込むと、
急に忘れかけていた切なさを思い出した。
黒いマフラーのフリンジを揺らして、君が微笑んだ。
距離が縮まったと思えた、あの瞬間が、鮮明に蘇った。
だけど、もう、その日から、あまりにも離れたところまで、
来てしまったのはわかっているんだ。
だけど、今でも、
君のこと、忘れられないや。
❄️ドキドキは果てない
姿見に新しいコートを着た自分が映っている。
君のために買ったんだって言うのは、
重いと思われるから、言うことはないと思う。
だけどね、
褒めてくれたら嬉しさが爆発すると思うんだ。
褒めてくれる君を想像して、
私はもう、ドキドキし始めた。
❄️君が選んでくれた手帳が、もうすぐ終わる
夜のスタバで君が選んでくれた、
お気に入りの赤い手帳を開いた。
離れ離れになってから、
1ヶ月が経ったんだと思うと、
あらためて胸の奥が締め付けられた。
季節が変わった今でも、
自分は全く気配もないし、
コーヒーを飲んでも、
いまだに君のことが忘れられないや。
❄️たとえ、ペンギンが空飛ぶ世界でも、日常は続く
いつもの場所で赤信号につかまった。
凛として澄み切った空気は最高に気持ちよくて、
空の青さで、昨日のことを思い出した。
急に切なくなり、泣きそうになった。
空飛ぶペンギンの群れが、北に向かって、
飛んでいくのが目に入る。
昨日言われた、つらい言葉なんか忘れて、
今日も頑張ればいいやって、
思っているうちに信号が青になった。
❄️もっと自分を大切にしてほしい
君は簡単に自分を犠牲にして、
人に合わせることが得意なのは知っているよ。
だから、君が限界を迎える前に、
深呼吸をして、
しっかり立ち止まってほしい。
❄️こう見えても、それなりに、こなしているよ
器用にそれなりにやり過ごし、
疲れ切って今日も一日を終えた。
そんな中、帰ってきて、
白い蛍光灯の下、キッチンに立ち、
トマトとレタスのサラダを作り、
身体にそれなりに気を使っている
自分はめっちゃ偉い。
❄️疲れているのは知っている
本心を隠して、
微笑むことが得意な君が疲れているのは、
もう、当たり前のように知っていることだよ。
だから、シンプルに君のことを尊重して、
君の疲れを癒す魔法をかけてあげる。
❄️まだ今日の言葉が頭の中に残ってる
ローソンでカフェオレを買ったあと、
夜の公園まで歩き、そしてベンチに座った。
今日、言われた言葉が頭の中で、
また、ぐるぐるし始めたから、
カフェオレを一口飲んで、
甘さをしっかり感じることにした。
❄️倦怠期を乗り越えたい
すれ違う日々が続き、
お互いにギクシャクしているような気がする。
君の機嫌をなおす、きっかけを作るために、
君の好きなお店で、シュークリームを買ったよ。
甘さと引き換えに倦怠期を乗りけられたら、
きっと、ふたりは、より強くなれる気がするから。
❄️今は黒い気持ちを出してほしい
虚ろな表情は、君に似合わないけど、
今だけは、そのままでいいよ。
君は周りに気を遣いすぎて、
疲れ切っているんだから。
そんな君が再起動しやすいように、
頑張りすぎた君の頭をそっと撫でた。
❄️そう言うんだったら、やり方、教えてほしいな
頑張り癖を抜く必要があることくらい、
君に言われなくても、わかっているよ。
嫌われたくないし、
自分より、他人が気になりすぎて、
上手くいかないのだって、わかっているよ。
ずっと、そういう生き方をしてきたから、
頑張るのをどうやって、
やめるのか、わからなくなったんだ。
ねえ、どうやって力って、抜けばいいの?
❄️日々、通話ボタンを押すたびに、
君を知り、もっと深くなる気がする
通話は真夜中を藍色にするくらい、
深く君と話し続けたけど、まだ話し足りないよ。
もっと知りたいし、
もっと愛したい。
すでにワクワクしすぎて、
次に君と会える日が待てないよ。
❄️さよなら今年。来年の君もそのままでいてほしい
人混みのなか、君の手をしっかり感じるよ。
その手を離さないようにして、
さっき、君が言った、青くて切ない言葉を守りたい。
そして、今は楽しい気持ちのまま、
新しい年の花火を楽しもう。
❄️あなたは、ポラリスより輝いている
あなたが素直さと明るさを爆発させて、輝きを放てば、
あなたと同じような輝きを持つ人たちが集まるよ。
あなたのキラキラは、宇宙の果てにある北極星くらい最高で、
あなたを中心に世界は一気に白く眩しくなるよ。
見上げるアシカや、ペンギンだって、あなたのことが好きだし、
夜の果てにかかる緑のオーロラすら、味方してくれるよ。
それくらい、素直で素敵な人って、
周りから尊敬されるし、すごく魅力的なんだ。
❄️スノーファンタジア
雪の中、
君の前では泣くつもりじゃなかったのに、
そんなに優しい言葉かけられたら、
泣くに決まってるじゃん。
冷たい結晶が、
頬に落ちて、
涙なのか、雪なのか、
もうわからないや。
❄️踏ん張りどころだから、無理をしたい。
叫びたくなるくらい、
今日も嫌なことがたくさんあって散々だった。
明日も頑張れる気がしないけど、
頑張ろうって、
雪が降り積もる冷たい歩道橋の上で誓った。
❄️君待ち
誰もいない教室で
窓側の机の上に座り、外を眺めている。
綿のような雪が、グランドを白くしていた。
補講を受けている間、待っててくれという
君の身勝手でダサいお願いを聞いてしまった。
雪雲が風で激しく動き、
雲の切れ間から、夕日が教室に差し込んだ。
そのとき、扉が開く音がした。
❄️すべてを捨てるよ。
僕は君のことを真剣に考えてきたけど、
雪が降り積もる静かな明るい夜の中で君を失ったことを素直に後悔しているよ。
忙しさでお互いに積み重ねることができなかった日々は、
コンクリートの水たまりに氷が張ったみたいに不毛だったのかもしれないね。
ローソンの看板が雪で光がぼやけていて、
僕は君とこのローソンの前を去年、初雪が降った日に歩いたことを思い出した。
あの雪の日の夜も、この思いは変わらないかと思っていたけど、
1年もすれば、人って簡単に変われるね。
君の少しかすれ気味の声が好きだった。
冗談を言いあいながら、関係を深めていきたいなって漠然と思っていた。
だけど、日々はすれ違うことばかりだったな。
とても、思いやることなんてお互いに無理だったのかもな。
「好きだけど、もう一緒にいるの無理だから。ごめんね」
再生される君の声に納得はまだしっかりとできてない。
君を信頼しすぎて、甘えすぎたのかもしれないなって思ったときには、
もう遅いっていうのは、きっと、ありきたりなことなんだろうな。
よくふたりで、
もち食感ロールを買ったこの店で、
つらいから、ジャックダニエルを買って、
君と出会った頃のことを思い出そう。
❄️雪乞い少女。始まりの予感はいつも雨。
冬の雨は冷たいのは当たり前だから、
真夜中にこっそり逃げ出したくなる。
世界の全てが嫌いだから、
誰かとこっそり内緒を作りたい。
生きているだけで罪だって、
たまに重荷を自分で背負ってしまって、
気に入らない現実を投げ出したくなっちゃう。
雪の美しさを否定して、
鬱陶しさを全面に出してしまうように
始まりの予感を感じ取ることなんてできなかった。
そうして、今年も全てを投げ出してしまった。
SNSを全てリセットしちゃって、
存在全てを消し去って、
大っ嫌いな自分をネットから消すよ。
だけど、実体の自分は消えなくて、
消したい気持ちは消えなくて、
逃げてもいいよって言ってくれる人もいなくて、
家にいたら頭が爆発しちゃいそうだから、
雨なのに外に出たんだよ。
息は白くて、
辛い気持ちは変わらなくて、
ビニール傘で自分の世界を作るけど、
凍える寒さは変わらなくて、
寒冷前線なんて消えてしまえばいいのに。
冷たい街は嘘でできているみたいに思えて、
裏切りと社会的地位は比例しているように見えて、
誰かがバカにしているような気がするように思えて、
大好きだった幼少時代に戻りたいけど、
砂場に忘れた赤いスコップのように
いつかは錆びて、
回収されて、
廃品にされて、
絶望とダンスすることに慣れてしまって、
もう、元には戻れない。
消したい気持ちは消えないけど、
新しい自分は作れるかもしれないって、
決意、空から降ってくるように、
これから雪乞いをしてやる。
明日、
雪乞いの所為で電車止まっても
きっと、気持ちは晴れないから、
少しくらい、駅の中のカフェで、
困ってる人たちのことを見ていてもいいよね。
❄️雪の日になると、君を思い出す
すれ違いは大きな溝になり、
季節はどんどん僕を置いて巡っていく。
雪で白くなった夜をゆっくりと歩いているけど、
気持ちはあんまり晴れないのはなぜだろう。
君と僕とが離れ離れになってしまったのは、
仕方ないことだけど、
もし、君がそばに居てくれたら、
きっと、違う人生になっていたんだろうなってふと思うよ。
あのときの約束も全ては溶けてしまった。
君が吸う1ミリのラークに火をつけたいと思う時もあるけど、
もうあの時のように簡単に君のラークを灯すことはもうないよ。
君とのやりとりはいつの間にか自然消滅していて、
君の名残はLINEトーク履歴だけだよ。
たまに君とのトークを開くと、
もう、何年も時間が経ってしまったんだとふと思うんだ。
きっと、君は傷ついたし、
きっと、君はもう癒えたはずだ。
だけど、もう仕方なかったんだ。
言い訳する自分は嫌いになったけど、
もう、全ては終わったことだ。
君と何気ない日常を過ごしていたら、
今頃、どうなっていたんだろうって思ってたら、
また、不安定に無数の雪が目の前を白くし始めた。
🎄❄️⭐️🎄❄️⭐️🎄❄️⭐️🎄❄️⭐️🎄❄️⭐️🎄
Happy Xmas! Love Story
🎄❄️⭐️🎄❄️⭐️🎄❄️⭐️🎄❄️⭐️🎄❄️⭐️🎄
🎄寒いけど、君の話をもう少し聞きたい
白い息を隠すように、
君のマフラーのフリンジが風で揺れた。
「話、聞いてくれてありがとう」
そう言った君を見ると、
君は僕の視線に気がつき、優しく微笑んだ。
もう少し、話を続けたいから、
寒いけど、このまま歩こう。
🎄雪が降ると、あの日、君が言ったことを思い出してしまう
忘れていたはずの君との切ない記憶が、
雪が降り続いてる街を眺めているうちに、蘇ったんだよ。
カフェのカウンター席から、
窓越しに見る冷たくなったビル街は、
騒がしくて、ひとりの寂しさが積もる。
USBをコンセントに挿しっぱなしなiPhoneを手に取り、
君が言ってくれた、
「いつまでも君のこと、忘れない」を、
メモのなかで悲しい文字記録にした。
🎄君と笑いあえたら、ここ最近のすれ違った日々や、
クリスマスなのに忙しかった今日を簡単に吹き飛ばすことができるよ
半額のオードブルと、ケーキを買って、
忙しかった今日をようやく君と一緒にクリスマスを彩れるね。
イルミネーションを眺めることも、
冷たい空気を吸えているかどうかも、
わからないまま、12月は駆け抜けていくみたいだった。
それでも、強いふたりは、すれ違いすら笑い飛ばせるから、
1と1を足したプラスの未来はカラフルだね。
だから、今日の夜更けは、それを確かめるために、
しっかり生クリームの甘さを共有しようね。
🎄恋が憂鬱な、クリスマス
こんなにこの恋が憂鬱なら、
ハートの形の翡翠ひすいや、
どんな恋も彩るクリスマスツリーになりたい。
そんな妄想をスタバのカウンター席で、
ずっと続けられたら、
こんな思いにふけることないのに。
🎄赤いセーターの裾に想いを乗せて
赤いセーターの裾をぎゅっと握ったまま、
あなたに願いを込めた。
そんな私の尽きない思いは、
クリスマスの雰囲気に飲まれているだけかもね。
ただ、どの人よりも、
きっと、あなたのことを想っていると思うよ。
そろそろ、あなたに会いたいな。
🎄雪ではしゃぐ君が好き
梅小路公園のクリスマスツリーは電球色と白に染まっていて、
「雪って最高だね」って言いあった日は最高だったよ。
雪が降り始めたね。
三条大橋のスタバから灰色の空と、
白でちらつく鴨川をそんな君とのやり取りを思い出しながら、
私は今ひとりで、ぼんやりと眺めている。
🎄スタバで物思いに、ふけているよ
ねえ、物思いにふけているのは、君の所為だと思わない?
そんなことを考えながら、帰りのバスの窓から、
忙しそうな街をぼんやりと眺めているよ。
クリスマス直前の休日はどこも混んでいて、
ひとりぼっちでいるのは、寂しいよ。
🎄クリスマスの夜、大停電に襲われても、冷静でいるコツ
見誤らないで。
人は辛いときほど、試されているものなんだ。
たとえ、クリスマスの夜に大停電に襲われ、
クリスマスツリーのカラフルが消えたとしても、
マフラーをそっと差し出す優しさを常に持っていよう。
その優しささえ持っていれば、
どんな困難、逆境のなかでも、冷静でいられるよ。
困難なときほど、
人は焦って、自分勝手になってしまうものだから。
🎄この恋の悲しみを愛に変えたい
別に一人で生きることには、
私だって、元々、慣れきっているんだよ。
ただ、同じ学校の中で、近くにいてくれたら、
君に会わなくても、君がいるという事実だけで、
毎日楽しく過ごすことができていたんだと思うよ。
私が転校して、遠くの街に行ってしまった今、
君という存在が無意識に大きかったことを感じているんだ。
ねえ、どうやって一人で生きていけばいいんだっけ。
🎄もう、あのときには戻れない
あのときのふたりは仲良かったよね。
昔、クリスマスに買った安いペアのネックレスが出てきて、
私は瞬間的に仲良かったあの日に戻ったみたいだよ。
でも、わかっているよ。
君が私のことをもう、思ってくれてないことくらい。
🎄何もかも白くなれば忘れられるかな
クリスマス前に降り始めた雪は街をゆっくりと白くし始めた。
僕はそんな白くなり始めた街をマックのカウンターから眺めている。
このまま降り続ければいいよ。
それだけ僕は、長い間、君に恋しちゃってたんだ。
なにもかも白くなるまで、君のことを僕は思い続けてやる。
🎄一目惚れって、突然だよね
君を見た瞬間から、
「あ、付き合うかも」って、
ものすごく、身震いしちゃったよ。
まだ君のこと、何もわかってないないのに、
ときめいてしまうのはなぜ?
両手を広げて、雪乞いをする少女のように、
私は、この恋に舞い上がってしまっているよ。
🎄クリスマスになったのに、友達以上のままだったね
雪あかりで底が明るい夜、
赤と緑、そして電球色のクリスマスイルミネーションを
友達以上恋人未満の君と並んで、ただ眺めている。
月は太陽と違って、冷たくて、
凛と世界を冷え切らせているみたいだね。
その世界のなかで、
君と、ただ「きれいだね」って、
言い合っているだけでもいいよ。
本当はね、
ピンク色のハートで瓶の中を満たされるほど、君に愛されたい。
だけど、いいよ。
この恋はまだ、始まったばかりだから。
🎄倦怠期で迎えたクリスマスイブ
雪で白くなった夜をふたりきりで歩いている。
最近、「好き」って言ってくれる頻度、減ったよね。
だから、最近の私は倦怠期なのかもって、少しだけ拗ねていて、
君と一緒に暮らしているのに、
クリスマス前でより、私の気持ちは揺れていた。
「やっぱり、落ち着くかも」
「落ち着くってどういう意味?」
「好きってことだよ」
そうさらりと言われて、
その一言で嬉しくなった私はバカだよね。
うちに帰ったら、
君が好きって言った記念に、
生クリームたっぷりの5号のケーキ、一緒に食べようね。
🎄青白い世界で手を握ったままでいようね
LEDで青白いクリスマスツリーを眺め、
君と冷えた夜を共有できるのが嬉しいよ。
街は今日も雪で凍りついているけど、
切なさを凝縮した白色に染まっているね。
手を握ったまま、
来年もふたりで青い思い出をたくさん作ろう。
🎄君と笑いあえたら
半額のオードブルと、ケーキを買って、
忙しかった今日を駆け抜けたふたりは、
ようやくクリスマスを彩れるね。
イルミネーションを眺めることも、
冷たい空気を吸えているかどうかも、
わからないまま、12月は駆けていくみたいだったね。
それでも、強いふたりはすれ違いも笑い飛ばし、
1と1をプラスしたような未来はカラフルに思えるよ。
だから、今日の夜更けは、それを確かめるために、
しっかり生クリームの甘さを共有しようね。
🎄クリスマスディナー
窓の外は湾岸まで広がるビル街が
白と赤の光を放っている。
レストランに飾られている
クリスマスツリーを眺めて
久々に飲むシャンパンは何故か酔いやすい。
去年の今頃は、もういいやって
恋を諦めていた。
リボン柄の包装紙みたいに
君はシャイだから
もっと深いところを知りたいと思った。
🎄にぎやかな中でも、世界はふたりきりみたい
赤と緑と電球色でクリスマスになった世界で、
凛とした空気の中で、
ホットワイン飲むのは最高だね。
君の自由と、私の自由を混ぜて、
雪で白くて静かな世界をカラフルにしたい。
🎄雨のイルミネーション
雨で濡れたアスファルトに
イルミネーションのLEDが青白く反射して、
いつも見慣れた街がファンタジックになっていた。
君に言えなかったこととか、
そういうことを魔法にかけて、奇跡を起こしたい。
水が合わないなら諦めてしまえばいいけど、
まだ、君を諦めたくない。
君に会いたい。
🎄クリスマスの思い出
クリスマス色のイルミが、あまりにもきれいだから
雰囲気に飲み込まれそうになる。
肩くっつけて、自撮りしたら
最高に青い写真ができた。
撮ったあと、しばらくあなたと
そのままでいたかった。
だけど、そうしなかった。
このまま、魔法にかかったように
あなたと奇跡を一緒に共有したい。
🎄君の雪乞いは最高だね
大好きな季節の中で君とはしゃぐのは最高だね。
イルミネーションを背中に抱えて、
カラフルな世界をiPhoneで自撮りして。
君の微笑みは最強の武器なのに、
それを簡単に使えるのは、君がはしゃいでいる証拠だね。
冷たい世界をデーターに仕立てたあとに、
そっと、手を繋いでゆっくり歩き始めた。
あとで楽しかったことをスタバで振り返って、
最後まで、はしゃいで思い出を深くしようよ。
空から綿のような雪が振り始めて、
君は右手をそっと空間に伸ばして、
何かを掴もうとした。
🎄隣の君はいつも違う世界を見ている
巡る季節の中で、
あなたと私は取り残されたみたいに、
無口なまま手を繋ぎ、雪を踏みしめている。
雪が降り積もった静かな朝の中を
ゆっくり切り裂いているみたいだね。
冷たい手で美しい世界を描く君の才能は、
スノードームを振ったような揺らぎで、
それは、切なくて最高の世界だよ。
きっと、今この瞬間も私には見えない何かを
あなたは受け止めているのかな。
それがたまに寂しくなるときもあるよ。
そんな離れそうなあなたを離したくない。
🎄クリスマスはゆっくり進む
クリスマス前のカフェは騒がしさとは無縁で、
君とのんびりした希望を話すのは、
なんだか、はぐれた2羽のペンギンみたいだね。
窓越しの世界は白色に染まっていて、
きっとこのまま、綺麗な季節が落ち着きそうだから、
そっとしてほしいって、ふと思った。
君の小指、イエローゴールドを反射させ、
君はそっと、マグカップを持ち上げた。
「君の口元まで来るとカップが大きく見えるよ」
小声でそう伝えると、
君はココアを飲んだあと、そっと微笑んだ。
「ずっと一緒がいいな」って、
マグカップを置きながら、君は透明な声でそう返してくれた。
🎄12月は昔の夢が詰まっている
イルミネーションされた街を
カフェ代わりにしたデニーズから眺めている。
並木道が青白く放たれているから、
思わず、うっとりしてしまうよ。
持ったままの読みかけの文庫に栞を挟み、
そっとテーブルに置いて一息ついて、
誤魔化してきた気持ちを少しだけ思い出した。
左の薬指は照明で弱く輝きを放った。
冷えた世界で一人で息をしているみたいに
孤独を強さに変えるように、
頭の中で大好きな曲を再生した。
すれ違った恋は簡単には戻らないけど、
あのときのことを思い出してしまって、
憂鬱になっているのはどうしてだろう。
あと少ししたら、
また忘れて今に戻るよ。
🎄クリスマスマーケット
クリスマスマーケットは暖かい色している。
クリスマスイブを君と過ごすのは最高で
まだ緊張するけど、君の横にいることに少し慣れてきた。
手を繋いだだけで舞い上がっちゃってさ。
手袋越しに伝わる温もりは新鮮で胸がときめく。
気持ち、落ち着かせるためにホットチョコ飲もう。
🎄楽しいことを共有しよう
不思議な気持ちを追い求めるためにクリスマス色した街で、
二人で歩いて気分を高めるよ。
夜の街はいつものように冷たいけど、
切なさはおいて、幸せを求めよう。
そうやって、ファンタジックを君と分け合いたい。
大人になると冷めてしまうから、
今くらいは忘れてしまおう。
ロマンティックを白い布に染めるように、
憂鬱な毎日を衝動でカラフルに染めて、
瞳の中に写った景色を楽しく話して共有しよう。
LEDの輝きを追って、一緒に走り出そうよ。
このまま夜の隅まで向かって、いつもの歩道橋まで行こう。
そして、夜の忙しい国道をゆっくり眺めよう。
🎄初雪が降った街は
ミルクと砂糖をコーヒーに入れて、
ぼんやり初雪の街を眺めている。
憂鬱な日々は変わらないけど、
景色が変われば気持ちも変わりそうだね。
切なさは青いって、いつも決まっていて、
期限付きだった恋のことをふと思い出す。
スプーンでマグカップの中に白い渦を作り、
大好きな味に仕立てていくよ。
昼に雪が簡単に溶けて消えるように、
そんなことは遥か昔のことで、
それをもう、取り返すことはできない。
無垢なままじゃ生きていけないから、
MacBookで仕事を確認して、
身体を灰色に馴染ませていく。
そして、朝の澄んだ世界なんて、
無縁な世界に飛び込み、
苦みを甘さで打ち消してしまおう。
🎄話したい
君から着信があった。
並木が電球色をまとい
駅前がクリスマスになっていた。
君に発信したけど、出てくれなかった。
ため息をつくと白かった。
iPhoneで並木を写した。
すれ違いが寂しくて、デジャブを感じた。
帰ったら、君と通話しながら、
チーズとワインで、少し酔いたい。
🎄ダサいモチーフのネックレスを買った話。
永遠を誓うために、君と一緒にきゃっきゃ言いながら、
安いネックレスを2つ買った。
ショッピングモールの吹き抜けの下にあるベンチに座った。
吹き抜けのガラスからは冬の銀色の弱い日差しが差し込んでいて、
弱い光に暖かさを少しだけ感じた。
君と私は温室育ちのよしみのバナナみたいに、
人目をはばからず、弱々しく肩をくっつけあっていた。
ローブランドの袋から取り出した2つのネックレスは、
1つには、ハートの片割れ。つまり右心室と、鍵、
2つには、ハートの片割れ。つまり左心室と、南京錠がついていた。
「右と左、どっちがいい?」
「鍵と錠の聞き方のほうがよかったな」と私が返すと、
君はどっちだっていいじゃんと、ゲラゲラ笑い始めた。
何もかも、初めての体験の私たちはこのやり取りすら新鮮に感じ、
今、降り積もっている雪は永遠に溶けないような気さえした。
あのとき、鍵を選んだ私は、
結局、君の心を上手く開くことができなかった。
失くしたと思っていたはずのダサいネックレスで、
昔のショッピングモールファンタジーを痛く思い出した。
🎄切ない痛みイルミネート症候群
イルミネーションでカラフルになった街で
星の欠片を待っている気持ちになるのは、
新しいことをやり始めて、
もうすぐ半年だからかもしれないね。
センチメンタルになるのは、
まだ、心の何処かで君との思い出が、
うずいているからで、
もう二度と会うこともない君の印象が強すぎるよ。
夢のような日々に、
追われるように暮らしているけど、
心が満足しないのは
わがままだからかな。
誰もいないホームで二人きりで、
君と話したことを思い出すと、
もうあのときの気持ちは失われているんだなって、
少し切なくなる。
きっと、昔住んでいた街は、
もう雪が降り積もっていて、
君はその街で
きっと君なりの生活をしているのだろうね。
もし、君もあのときのことを思い出して、
少しだけ青い気持ちに今でもなってくれたら、
少しだけ胸はときめくだろうけど、
君とのコンタクトを失った今、
失った時間を取り戻すことなんてできないし、
もうすでに色々、遅いんだよ。
きっと、君とあの日、
夜空を高速で通過する
UFOを見たときに
何かが決定的に変わってしまったんだ。
気持ちや淡い夢や、
そう言った些細なズレに気づいてしまったんだ。
君は大好きだったけど、
君とは見ているものや
感じていること、
考えていることが違ったんだ。
寒い海のテトラポットに寝そべっていてた
アザラシを一緒に見たときのように
落ち着く気持ちや
不思議な気持ちを
もっと、君と混ぜればよかった。
だけど、もうすべては遅いよ。
だから、今の暮らしを続けるし、
イルミネーションの街を
ゆっくり歩いて少しだけ気持ちを休めるよ。
🎄ジョニー、冬を駆ける。
ねぇ、ジョニー。
こっちは雪が降り積もったよ。
合鍵を忘れた君は
まだ戻ってこないね。
ジョニー、
君はなぜそんなに生き急ぐの?
私は悩みに忙殺されて
つらい毎日だよ。
ジョニー、
君はなぜ自由を愛せるの?
世界は狭いって笑うのは
君が広い世界を知っているからだよ。
ジョニー、
雪の中を裸足で駆けるように
無謀なことばかり好きなの?
大好きなチョコレートを買ってくれたら、
私はすぐに機嫌なおす単細胞だよ。
ジョニー、
私はいつまで独りで
ココアを飲めばいいの?
ひざ掛けだけクリスマスの柄で
ホリデイ気分を高めることはできないよ。
ねぇ、ジョニー。
私を置いていかないで。
🎄❄️⭐️🎄❄️⭐️🎄❄️⭐️🎄❄️⭐️🎄❄️⭐️🎄
Winter Short Story 1
ただ、君との青い恋を破り捨てたくなかった
🎄❄️⭐️🎄❄️⭐️🎄❄️⭐️🎄❄️⭐️🎄❄️⭐️🎄
凛とした朝の冷たい空を吸い込むと、
急に忘れかけていた切なさを思い出した。
黒いマフラーのフリンジを揺らして君が微笑み、
距離が縮まった、あの瞬間が鮮明に蘇った。
だけど、もう、その日から、
あまりにも離れたところまで来てしまったのは、
わかっているんだ。
だけど、今でも、君のこと忘れられないや。
1
「別に不安なんか、吹き飛ばせばいいんだよ」
小田切おだぎりくんはそう言って、微笑んでくれた。そのあとすぐ、冷たい風が吹き、雪予報のいつものホームはものすごく冷たくなった。
私はいつも乗っている電車に乗らずにベンチに座っていると、小田切くんが私の隣に座った。
私も小田切くんも制服姿なのに、学校に行く概念を忘れてしまったみたいに、行き先が表示されている電光掲示板のデジタル時計だけが、ただ、いたずらに進んでいた。
「そんなこと、できる人って羨ましいな」
皮肉のつもりでそう返し、小田切くんを睨むと、小田切くんは、なにに対して面白かったのか、わからないけど、ふふっと私のことを笑った。
「怒るなよ、萌夏もかちゃん。ココア、コーヒー、カフェオレ、どれがいい?」
「ココア」
そう返すと、小田切くんはバッグからiPhoneを取り出し、立ち上がった。そして、数歩先にある自販機までいった。ピッと甲高い電子音が2回なり、自販機が雑になにかを落とす音も2回した。
飲み物と私の名前を並べてほしくないって思ったけど、きっと、小田切くんはそんなこと、気にもせず、考えてもいないと思う。
そんなことを考えているうちに、小田切くんは、なにかを2つ買って、またベンチに戻ってきた。
「ほら、お詫び」
「へえ、優しいね」
「お礼くらい、言えよ」
「――ありがとう」
小田切くんから、缶のココアを受け取った。缶は熱くて、冷たくなった手が、じんじんする感覚がした。小田切くんは、缶のブラックコーヒーを左手に持ち、そして、ブルリングを引っ張り、缶を開けた。気持ちいい音がしたあと、できた穴から、かすかに湯気が立っていた。
だから、私も同じように缶を開けたあと、そっと缶を唇につけて、飲んだ。
「頑張ってる方だと思うよ。こんなことになってるのに」
「なに? 彼氏面したいの?」
缶を唇から離し、そして、小田切くんを睨んだ。小田切くんは黒のマフラーにグレーのコートを着ていた。重めの黒髪マッシュは今日もきれいに決まっていたし、二重まぶたで、こぶりな鼻、しゅっとしたフェイスライン、すべてが完璧なバランスだった。
二重まぶたを細めるだけで、アンニュイな世界になるし、小田切くんの寂しそうな表情は、冬の中でも十分輝いていた。
だから、小田切くんはモテるし、クラスで居場所をなくした2軍の私になんか、話しかけなくても、十分、満たされた生活をしているはずだと思う。
「違うよ。口説いてるだけだよ」
「――朝から元気だね」
「萌夏ちゃんが元気なさすぎなんだよ」
ほっておいてよって言って、立ち去ろうと思った。そう思って、もう一度、電光掲示板の時計を見ると、もう、お互いに学校には間に合わない時間になり始めていた。
なんか、小田切くんを遅刻させておいて、しかも、ココアおごってもらって、勝手に立ち去るなんて、ひどいかもと思い、私はもう一度、ココアを一口飲んだ。
「小田切くん、学校、遅刻するよ」
「いいよ。そんな暗い顔して、座ってる萌夏ちゃんのこと、ほっておけるわけないじゃん」
そう得意げに言って、小田切くんはブラックコーヒーをもう一口飲んだ。小田切くんには、前にも二度、ちょっかいを出されたことがあった。一度目は、放課後、忘れ物をして教室に戻ると、小田切くんが座っていた。そのときも話しかけられたけど、数往復の当たり障りない会話をして、終わった。
二度目は、バイト先のコンビニでレジをしていたら、21時50分に客として現れ、そして、22時にバイト先のコンビニをあがって、店を出たら、小田切くんが店の前で待っていた。
どうして、シフト終わりわかったの? って聞いたら、『未成年は22時以降、働けないだろ。そんなのバレバレだよ』と言って、笑って返してきた。小田切くんは変に頭が切れていて、変に洞察力が鋭い。
そして、小田切くんと帰っているとき、気がついた。小田切くんは私のことを勝手に馴れ馴れしく『萌夏ちゃん』と名前呼びしていた。
小田切くんは、頭が切れて、会話のとっさの返しもうまいから、クラスの一軍にも人気があるし、クラスの中心人物に違いないなんだけど、なぜか、陰キャばかりが揃っている図書局に入っていて、週に1度、図書室で当番をしているらしい。
そのギャップで、小田切くんは、クラスでは不思議なところあるよねって、よく言われている。
「変わってるよね。小田切くんって」
「そうかな。まわりが言うほど、変わってないと思うよ。むしろ、俺からしたら、みんなの方が変わってるよ」
「えっ。どういうこと?」
「だってさ、ギャーギャー騒いで、噂話して、なにかネタになることがあると、それでまたギャーギャー騒いでさ。俺には真似できないな」
小田切くんだって、ギャーギャー騒いでいる方じゃん――。
そう思いながら、ココアをもう一口、飲んだ。口いっぱいに甘さが広がったのを感じながら、小田切くんって本当によくわからないなって思った。
「だから、バイト禁止って学校もよくわからないけどな。それで、まわりもギャーギャー言っても仕方ないじゃん。なのに、騒いで萌夏ちゃんのことをバカにする。俺には、よくわからないな」
「――だよね」
先々週、意地悪な1軍女子軍団、4人に囲まれて、『バイトやってて、なにになるの?』と問い詰められた。そこから、陰口を言われるようになり、私はクラスで一気に孤立した。そうなった原因はわかっている。小田切くんと、あの夜、コンビニからの帰り、駅前で1軍女子のひとりとばったり会ってしまったからだった。
それは完全に勘違いだし、しかも1軍女子のリーダーが小田切くんに想いを寄せていることも知っていた。だけど、これは私の意思で小田切くんとふたりきりになったわけじゃないのに、クラスで1.5軍の中途半端なポジションの私は、簡単に1軍からの圧力が来るようになってしまった。
「バイトなんて、黙ってやってるやつなんて、何人もいるのにさ、萌夏ちゃんだけ、やるって完全に当てつけじゃん」
「当てつけで簡単にクビになるし、ホント、最悪だよ」
「だけど、なんでクビになったの?」
「学校から、バイト先に電話いって、それでオーナーが仕方ないけど、学校に許可とれないなら、うちは無理だわって言われた」
「へえ。ひどい話だな」
「他人事みたいなんだけど」
右隣にいる小田切くんを睨むと、「悪い」と小さな声でそう返してきた。そして、また小田切くんがブラックコーヒーを飲んでいる途中で、私たちが乗る予定だった電車の3本あとの電車がホームに入ってきた。窓の内側に広がる車内には、多くの人たちが立ち、つり革を掴んでいた。そして、電車が止まる衝撃で、みんな同じ方向に軽く揺れたあと、ドアが開いた。
「ただ、萌夏ちゃんは悪くないよ。他のやつらより、冷静だし、大人っぽいよ」
「――ただ、小遣い稼ぎしたかっただけだよ」
「いいじゃん、真っ当な方法選んでるんだし」
そう言われて、少しだけ見栄を張って、嘘ついたことがすぐに嫌になってしまった。なんでかわからないけど、小田切くんになら、本当のことを言ってもいいかなって思った。
「ごめん、嘘」
「嘘?」
「本当は県外の大学行くために、ひとり暮らし用の資金貯めてる」
「あー、だと思った」
「えっ?」
「だって、派手じゃないし、こないだ会ったときも質素な服装だったし、なにに使ってるんだろうってちょっと思ったから、安心した」
また、独特の頭の切れのよさを見せつけるかのように小田切くんはそう言った。その間に、聞き慣れたメロディが流れたあと、ドアが閉まり、電車がゆっくり動き出した。ステンレスで銀色の電車が、すっと加速していき、轟音を立て、あっという間に私たちの、目の前を通り過ぎた。
「あーあ、マジやってらんないよな。頑張っても水を差してくるヤツもいるし、無理しても報われないってさ、どうかしてるわ」
「――そうだね」
「孤独で寂しくなったら声、かけてよ」
「えっ?」
「それに、俺もこんな状況になってる萌夏ちゃんみるのは、嫌だな」
「――そうなんだ」
私はどう、リアクションを取ればいいのかわからず、とりあえず、同調しておくことにした。その間に急に心拍数はあがり、なぜか鬱陶しかったはずの小田切くんのことを意識している自分がいることに気がついた。それを悟られないようにしようと思い、ココアをまた一口飲み始めている途中で、また冷たくて強い風が吹いた。そして、急に灰色の空から、綿のような雪が無数に舞ってきた。
「これ、電車とまるんじゃね?」
「まだ、降り始めたばかりじゃん」
「どうせ、今日、学校行っても、帰宅難民になるかもな」
「学校行かない理由、つくってるだけでしょ」
「それもある」と言って、小田切くんは弱く微笑んだ。そして、また強くて冷たい風が吹き、小田切くんの黒いマフラーのフリンジが揺れた。私は寒くて、思わず身震いをすると、小田切くんはそんな私のことを「寒がってるじゃん」と言って、笑った。
「なあ」
「なに?」
「好きになっちゃった」
「えっ」
「身震いして、肩上げてるの、めっちゃかわいい」
私は、どうすればいいのかわからず、とりあえず前を向いたまま、無数の白い粒を眺めることにした。
2
だけど、小田切くんとは付き合って、1年くらいで別れてしまった。
高校を卒業して、別々の街に住み始めて、すれ違った連絡はそのままになって、そして、君との恋は消えた。
今、仕事が終わり、大勢の人たちと一緒に、iPhoneを片手に、人差し指で情報をダラダラと流し読みしながら、電車を待っている。吸い込む息は冷たく凛としていて、ヘトヘトの身体が余計重く感じた。
『今夜から最強寒波襲来 積雪に注意』
大学に入ってからは、私はもう一度、付き合った恋が消えて、今、3人目の彼と付き合っている。
あれから5年近く経ち、私はすでに大学も卒業し、灰色の都会で、群衆の中、ひとりの社会人になった。
そこそこのお金をもらって、そこそこの暮らしで、たまにささやかに楽しみ、生活を維持できたらいいやって思っている。
未だに夢や目標とか、自分がやりたいこととか、よくわかっていない。とにかく、生活をしなければならないから、ビル街のオフィスで事務を黙々とこなしているだけだ。
そして、QOLを意地でも、維持するためにどんなにヘトヘトになっても、自炊はするようにしている。
帰ったら、トマトとレタスのサラダだけ、準備して、昨日パン屋で買ったベーコンエピを食べよう。そして、ぐっすり眠って、明日の休みで疲れをとろう――。
そんなことを、考えているうちに比較的速いスピードで電車が冷たい風を作った。
3
あのとき、すれ違わなかったらって思う時がある。
改札を抜けて、小さな駅から、アパートまでのいつもの路地を歩き始めた。心細い白色LEDで路地は照らされていて、ひっそりとしていた。私はパンプスをコツコツさせながら、黙々と闇を進んだ。
そして、冷たい向かい風がぶわっと吹き、私の髪は一気に乱れた。そのあと、あのときと同じように無数の雪が降り始めた。白いLEDに照らされた雪はちらちらとしていて、それがよりひとりであることを実感させられているくらい、寂しくなった。
私の小さな嘘も、なにも考えずに言った本音を、しっかり受け止めてくれる人は、まだ小田切くんしか知らない。5年経った今でも、たまに小田切くんって本当に優しくて、私のことを考えてくれてたんだって、今でも強く思う。
iPhoneをバッグから取り出し、LINEを起動した。そして、数年前で時が止まったままのタイムラインを表示した。
《いままで、ありがとう ごめん》
最後は君からのメッセージで終わっていた。
都合がいいのはわかっているけど、ただ、もう一度、私は君に話しかけてみたくなった。
《久しぶり 雪、降ってるの見て、急に思い出したんだ》
あの日、雪が降るホームで『孤独で寂しくなったら声、かけてよ』って言ったよね。
すぐ、メッセージの横に既読がつき、またあの日みたいに私はドキドキし始めた。
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Winter Short Story 2
君の告白を破り捨てたい
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1
「ずっと一緒にいよう」
頼太(ライタ)はそう言ったから、私はそのまま、静かにうんと頷いた。たった一言でなんでこんなに世界が暖かくなるんだろう。冬だってことも忘れてしまうくらい。学校近くの人気のないビルの外階段は私と頼太の秘密の場所だった。外階段はコンクリート造りで雪がチラついている今日はものすごく冷えていた。だけど、頼太はこれを使えよと言って、自分のマフラーを階段にひいてくれた。
階段の踊り場からは灰色の街が見える。低くて冷たい灰色の雲から、無数のふわっとした雪が容赦なく降っている。
「積もるかもな」
頼太はそう言いながら、左手に持っていたセブンスターのボックスから一本取り出して、それを咥え、手慣れたようにライターで火をつけた。制服の上にコートを着ているけど、頼太の顔つきは幼くて、やっぱり高校生にしか見えない。
頼太とここでタバコを吸うようになったのは夏の始まりの時からだった。頼太が昼休みに体育館の隅で、タバコを吸っているのを見たからだ。私もどうしても吸いたくなって、昼休み、ブロック塀と体育館の間のこの場所ならいけるかなと思って、行ってみたら先客がいた。
「あ、先に吸ってずるい」
私も、慌ててバッグから赤ラークの1ミリを取り出し、ボックスから、一本取り出して、咥えた。そして、ラークを咥えたまま、頼太の方に顔を近づけると、頼太はライターで火をつけてくれた。軽く吸い込むと、冬の新鮮で冷たい空気と、香りが一緒に広がった。そして、右手の人差し指と、中指で挟んだラークをそっと口元から離し、小さく息を吐くと、白い煙が踊り場いっぱいに広がった。
「悪い子だね。優璃(ゆり)」
「お互いだよ」
私がそう言い終わるのと合わせて、頭頂部に温かさを感じた。頼太の方を見ると、私は頼太にわしゃわしゃと頭を撫でられた。私は頼太にされるがままに頼太を見つめていた。横から見る頼太もシュッとしている。小ぶりだけど、筋が通っていて、存在感ある鼻から、小ぶりな唇、顎の輪郭まで全てが絶妙なバランスで、いつも見惚れてしまう。
昼休み、たびたび頼太と一緒にタバコを吸うことになり、いつの間にか一緒に帰るようになった。そして、私がいつも学校帰りに使っていたこのビルの階段で頼太も一緒にタバコを吸うようになった。それが習慣になっただけだ。
頭から、熱がすっと離れる。頼太はクールに目尻に皺を作りながら微笑んだ。右手でセブンスターを口元から離して、すっと長く息を吐いた。綺麗に几帳面に白い線がゆっくり唇の先から舞い上がった。そして、踊り場に置いていたアルミのポケット灰皿に灰を落とした。
「こないだの歌もよかったよ」
「ありがとう」
「すぐにバズったね」
「あぁ。みんなあんな感じの曲が好きなんだよ」
頼太はそう言うと、また口元にセブンスターを持っていき、ゆっくり吸った。頼太の才能が羨ましかった。TikTokで有名になった彼の曲はどこか寂しくて、切ないメロディだった。地声で歌わず、高めの鼻に少しだけかかったミックスボイスが曲のセンチメンタルな感じをより引き立てていた。
「なあ。優璃」
「なに?」
そう返事をしたあと、ラークを弱く吸い込み、すっと吐いた。そして、頼太の方を向くと頼太は真っ直ぐ前を見たまま、口元から離したセブンスターの先端を見つめているように見えた。頼太から次の言葉はまだなかった。だけど、何か言いたげな表情に見えたから、私は少しだけ次の言葉を待つことにした。
「――もうすぐ、この街から出なくちゃならなくなった」
「そうなんだ」
別に不自然な話じゃない。私たちはあと数ヶ月もしないうちに高校生が終わるんだから、どこかに出ていくことなんて普通だ。だから、別にそんなことで言葉に詰まる意味がいまいちわからなかった。
「どこかの大学、推薦出してたの?」
「いや、違うよ」
頼太は私の方を向き、穏やかに微笑んだ。なんで、そんな表情しているの? って言いたくなったけど、水を差すことになりそうだから、やめておいた。
「会社から、声かかった」
「会社?」
私は会社という言葉が予想外でよくわからなかった。
「え、就職?」
「バカだな。優璃は。レコード会社と契約することになった」
思わず、右手に持っているラークを落としそうになった。ってことは――。
「メジャーデビューだってさ。それで上京することにした」
「えー、すごいね! おめでとう」
私はラークを一気に吸い込んだあと、自分のポケット灰皿に吸い終わったラークを入れたあと、頼太に抱きついた。
「バカ。いきなり抱きつかれたら、灰、落ちるだろ」
頼太はそう言い終わったあと、セブンスターを灰皿に入れ、私の背中に両手を回した。そして、お互いにくっついたまま、本降りになり始めた雪を眺めた。通りすぎる車の音や、遠くで鳴っている救急車のサイレン、子どもたちの騒いでいる声をバックサウンドにしてしばらくの間、こうしていた。時間は無限に思えた。
「ねぇ、私のこと好き?」
私はしばらく経ったあと、頼太に聞いた。
「そんなの当たり前でしょ」
頼太はそう言ったあと、セブンスターを口に咥え、火をつけた。そして、大きく吸いこんだあと、白く吐き出した。
2
だけど、その約束は1年半くらいで終わった。
高校を卒業したあと、頼太と私はそれぞれ別の街に住み、遠く離れることになった。頼太は上京し、私は北の果てにある大学に進学した。
私は私なりに必死に過ごしたし、頼太にできるだけ連絡するようにした。そして、アルバイトをして、東京に居る頼太に会いに行くためにお金を貯めた。
きっと、頼太は頼太なりに過ごしていたんだと思う。だから、連絡はすれ違い、連絡は途切れ、やがて関係性に意味を見出すことができなくなった。それは次の飛来地に行くことを諦め、留まることにした白鳥と飛んでいった白鳥との違いだと思う。頼太は私が想像できないようなメジャーな世界でとんでもない数の人たちに音楽を届けるように頑張っているのが簡単にわかった。
たまに来る頼太からのメッセージは頼太のまま変わらなかった。高校生の時からタバコと酒を覚えて遊んでいる頼太、そのままだった。だけど、彼は着実に成功して行っているように見えた。テレビをつけたら、頼太の曲が流れていたり、スーパーやコンビニの有線でも彼の曲は流れている。
そして、熱愛報道も簡単に知ることになった――。
3
私はまだ、あの時の約束が無効になったことから立ち直れず、毎日、胸が痛んでいた。
頼太に会うために始めたコンビニのアルバイトも今ではただ、惰性でやっているだけに過ぎなかった。そして、レジに立っているときに、彼の曲が店内に流れると、なんで私、こんなことしているんだろうと虚しさで嫌になった。そして、彼の切ない声と、失恋の内容の歌詞にものすごくムカついた。
こんなに応援してたのに。落ち着いたら一緒にいたいって、ただ、思ってただけなのに。
私はそんなモヤモヤした気持ちを晴らすこともできないまま、大学で身近な彼らと知り合い、身近な彼らと打ち解けようとした。だけど、すべて上手くいかなかった。
頼太のように親密になりたいと思えるような人なんていなかったし、私は頼太に置いていかれたという苦い事実を受け入れることができなかった。
私はこうして大学を卒業し、新卒で事務職に就いた。
4
iPhoneを片手で操作しながら、駅から一人暮らしのアパートへ帰っている。毎日働いて、色んな人と話して、ひどく疲れる毎日だった。何年も同じことをして、気が休まらない休日を過ごし、あるはずもない出会いに淡い期待をした。就職をきっかけに始めた東京での一人暮らしはきつかった。仕事をする代わりに何かを失ったような気がした。
夜の淵にローソンの牛乳瓶が白く濁っていた。
ふと、あの日、あの灰色の階段に一緒に座った頼太のことを思い出した。残業が終わって、ヘトヘトな状態で家まで歩いる中でなんで頼太のことなんか思い出したんだろう。パンプスの裏は痛く、歩くのすら面倒だ。LINEを起動し、の友達リストから、頼太のアイコンを見つけ出した。
頼太のアイコンはすでに知らない乳児の顔になっていた。
思わず、私は立ち止まってしまった。急に私が立ち止まったからか、何人かの視線を感じた。去年、そういえば結婚報道があったのを思い出した。画面を見たまま、すっと息を吐いた。そのあとすぐにiPhoneがバイブレーションし、一番嬉しい人の名前の通知が表示された。
《24日、ご飯食べに行こう。大事な話したい》
なにか揺れたような気がしたけど、電柱も車も道路もなにも揺れていなかった。ただ、もうなにもかも、永遠に戻らないなって思った。
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Winter Short Story 3
5年後も君に会いたかった
🎄❄️⭐️🎄❄️⭐️🎄❄️⭐️🎄❄️⭐️🎄❄️⭐️🎄
星屑を水に混ぜるようにぐちゃぐちゃの気持ちをiPhoneで書き殴っている。
鏡の世界は光が乏しいモノクロで
絶望癖の王様があぐらをかいているから、
冬の静かな夜くらい、
電球色でシックなスタバの店内から、
そっと、右手を伸ばして、
手のひらから光を送って、
すべてを吹き飛ばせたらいいのに。
「この図、23歳の今のあなたを元に過去と未来の天体配置を計算した図を見たんだけれど、17歳の時、なにか大きな別れみたいなことあったでしょ。この歳だから失恋かな」
私は天体配置図をずっと見ていた。図は12等分されたケーキにみえた。星と星をつなぐように赤い線が三角形を作っていた。その赤い三角形に重なるように青い線が重なっていた。
衝動的に入った占いのお店の中はしんとしていた。内装はいたってシンプルな作りで、きっと前のテナントは事務所だったのだろうと簡単に想像がつくような白い壁と白い天井だった。
ただ、おしゃれなお店らしい雰囲気を出すためか間接照明がいくつも設けられていて、電球色が店内の色になっていた。奥にパーテーションで仕切られたブースのなかで私は今、まさにどこかの青い民族衣装を着たおばさんに占ってもらっている。
民族衣装の名前が思い出せない――。
「失恋しました」
「やっぱり、そうなんだ。それも結構、そのときに人生観が変わるような失恋だと思うんだけど」
「――そうです。死んじゃったんです。彼が」
そう言ったあと、胸を締め付ける感覚がこみ上がってきた。
「――それはお気の毒に。辛かったね」
「今でも思い出すと辛いです」
視界が潤み始め、胸が重く痛くなってきた。涙が一粒、右の頬を伝った。すぐに別の涙が左の頬も伝った後、涙が止まらなくなった。
「――すみません」
「いいの。いきなり辛いこと思い出させてしまったね」おばさんは立ち上がり、ティッシュを取ってきて、箱ごと渡してくれた。
「すみません」そう言って、私はティッシュ箱を受け取り、テーブルに箱を置いた。そのあと、2枚のティッシュをとり、鼻を噛んだ。
「あなたのためにも続けるね」おばさんは私に諭すようにそう言った。私はまだ、涙がとまらず、胸の奥でつらい気持ちが荒ぶっていた。
「まず、今までの人生観が17歳のときに変わってしまっているの。180度ね。これから先の運勢見ても、その影響は一生続くと思うよ。だから、これってもう、受け入れるしかなさそうなの」
「――受け入れること、まだ時間かかりますか」
「それはわからない。あなた次第。だけど、受け入れていくとこの先、運気が好転していくことは確かだと思うよ。それにしても、あなた仕事、忙しそうね」
「かなり忙しいです」
「そうでしょ。あなたの場合、忙しい場所にいると一時的に自分自身の向き合わなくちゃいけないことから逃げるんだと思うんだよね。忙しいとそれを口実にできるから。だけど、ふとひとりの時間ができるとポッカリと心に穴が空いたような感覚が襲うでしょ? それを繰り返していると、健康面でマイナス。だから、このままだと、あと5年後に大きな病気するかもね」
おばさんはさらりと私が5年後に病気になるということを言いのけた。だけど、私はすでに不眠症という立派な病気で、寝れないときは本当に寝れない。
私の占いの結果を見ても私の未来は暗いんだと、半分、納得したし、半分、絶望した。
「――やっぱり、暗いんですね。未来」
「いや、そんなことないよ」
いや、どっちだよ。
「今の環境がそれだけあなたにとってマイナスであるってだけだから。これが過去のこと受け入れていたら、仕事と恋愛、両方とも集中して、好転してたかもしれないし。要は今のあなたは心の準備がまだ出来ていないから、ゆっくりしたほうがいいってこと」
「受け入れるって何をですか?」
「たぶんね、彼が死んだことだと思うの」
そう言われたあと、私は大きくため息を吐いた。そして、涙を拭いたティッシュを右手でぎゅっと握った。だけど、気持ちなんて変わらないし、彼の死なんて、5年経っても忘れられない――。
「ゆっくりできないです。受け入れられないんです。私。彼が死んだこと」
「厳しいこと言うけど、今を生きるには過去に折り合いつけないといけよ
「――全然、折り合いなんてつきません。彼のこと、忘れられないんです」
――彼。
志度(シド)のことを思い出すと、胸が苦しくなる。彼は5年前に死んでしまったのに――。
「わかった。――ちょっと変わったことできるんだけどやってみない?」
急におばさんから聞かれ、よく意味を理解できなかった。思わず眉間に力が入ってしまった。
「そんな顔しないでよ。過去に折り合いをつけることができるかもしれない体験なんだけど」
「体験?」
「そう。彼と会うことができる体験」
志度と会うことができる体験ってどういう? 私の脳内は急に追いつかなくなった。だけど、本当にそんなことができるなら、今すぐに会いたい――。
「どういうことですか」
「なんて言えばいいんだろう。人間ってその気になれば、タイムスリップできるんだよね」おばさんがそう簡単に言ったから、私はどう言葉を返せばいいのか、よくわからくなった。
「そんなに難しくない。補助装置があるの。どう? 一回5万円なんだけど」
――嘘でもいいから、志度に会いたい。
私は静かに頷くと、おばさんは素直でかわいいねと言ってくれた。人からかわいいなんて言われたの本当に久しぶりだと思った。バッグから財布を取り出し、お金をおばさんに渡した。
☆
別の部屋へ移動した。おばさんの青い民族衣装の裾は綺麗に揺れていた。その揺れているところを見て、思い出した。
――サリーだ。
部屋の真ん中に使い古された茶色のロッキングチェアーが一脚置いてあった。それ以外の家具はなにもなく、この部屋だけが急にそれまでの世界観がすっぽり消えていた。窓には黒い遮光カーテンが取り付けられていた。蛍光灯が事務所の一室である雰囲気をより作り上げていた。
「大体、2日くらい過去に戻れるの」
「タイムマシーンってことですか?」
「そう。そういうことだね。2日目の夜、寝て起きたら、ここに戻ってる感じ」おばさんはそう言いながら、私を椅子に座るようにと左手でジェスチャーした。私はおばさんの指示通り、椅子に座った。
「この椅子があなたを過去に連れて行ってくれるの。あなたが目をつぶったあと、あなたの胸に私は手をあてるから、その間、あなたは戻りたい過去の断片だけを思い出して」
おばさんがそう言ったあと、沈黙が流れた。
私はすでに過去の断片を決めていた。
「私ね、この装置で多くの人達に感謝されたの。私は管理人だから、実際に自分でこの装置を使ったことはないけどね。だけど、体験した人の顔は多く見た。大体の人は過去を見に行ったあと、現実に折り合いがつくみたい。だけど、そうでもない人も一部いる」
「――そうでもない人」
「そう。まるで別人みたいになった人もいたね。多分だけど、過去から帰って来れなくなって、そうなるんだと思う。ごく一部だけどね」
おばさんはさらりと怖いことを他人事のようにそう言った。
「――帰って来なかったら、死ぬんですか?」
「さすがに死なないから、安心して。その人たちは戻ってきて、そのままお礼を言って、帰っていくよ。だけど、なにかが違うの。様子がね」
おばさんは不気味に微笑んだ。
別にもう、死んでもいいやと思った。仮にこれが本当のことであったとしても、現実に戻ってきても志度が死ぬ事実はきっと変わってないだろうから。
「怖がらないで。今は注意事項を話してるだけだから。ほとんどの人はそのまま今に帰ってくるよ。ツアーから帰ってきたように満足してね」
「これって、本当に過去に戻れるんですか」
「私にはわからない。大体は思い出を見に行ってきて終わりって感じかな。旅行みたいにね」
おばさんはニコッと笑ってそう言った。
「さて、決まったね」
「――はい」
口に溜まっていた唾を飲み込むと、乾いていた喉が少しだけ潤う感覚がした。
「目をつぶって」
私は言われたとおり、目をつぶった。
視界は黒くなり、何もなくなった。そのあとすぐ、おばさんの手が私の胸に当たるのがわかった。手は温かく、何かが胸を流れていっているような感覚がする。
私は言われたとおり、あのときをイメージをした。
☆
「日奈子、待ってたよ」
壊れかけた時計の秒針のように鼓動が大きくなり、私の意識は徐々にぼやけていたところから、フォーカスされていく。心臓は胸から飛び出そうなくらい大きな音を立てている。私はベンチに座っているみたいだ――。
顔を上げると、志度と目があった。志度の目は優しくて、ぱっちりしていた。シャープな顔立ちとセンターパートの髪型がとても似合っていた。耳に付けているシルバーのピアスが照明に反射していた。
「――ん?どうしたんだ日奈子」
志度はもう一度私にそう呼びかけた。私は志度の声を聞いて鳥肌が立った。こういう声だった。遠のいていた志度の声、仕草、立ち姿の雰囲気。私は今、目の前にいる志度から衝撃を受けている。
「――ごめん」と私はそう言った。少し、力んだ声になった。
「ごめんってなんだよ。待たせたんだから、俺のほうが謝らなくちゃならないじゃん」と言って、志度は微笑んでくれた。
――本当に志度に会えてるんだ。
辺りを見渡すと、函館駅の中で、私は朝市側のすぐにあるベンチに座っていた。左側の大きい窓からは雪がしっかりと降り積もっていて、除雪の山が至る所に出来ていた。雪がちらついている函館駅前が見えていた。
――不眠症で重かった身体の感覚も、軽くなっている。
たぶん、本当にこれは17歳のときの私になったのかもしれない。
「いいよ。そんなことより、ラッピ行こうぜ」
そう言って、左手を私の前に差し出してきたから、私が右手に出すと、なんでだよ。と笑いながら、志度は私の右手を繋いだ。
☆
誰かに手を引かれるのは5年ぶりだった。手を引かれたまま、函館駅を出ると冬の匂いがした。きっと、今日は1月22日。1月23日が志度の命日だから――。
志度の手は暖かく、ゴツゴツしていた。この感覚だ――。
私もしっかりと5年前は恋をしていたんだと思うと、胸から熱さがこみ上げてきた。思わず、私はその場に立ち止まってしまった。志度は不思議そうな顔で私を見た。
「どうした?」
そう言われても涙が溢れそうで返すことが出来なかった。だけど、こらえきれず、大粒の涙が一滴、右の頬に伝う感触がした。
「――ウソ。泣いてるじゃん」
「――ごめん」
口を開くと自然に涙が何粒も溢れ出てしまった。私は左手で口を覆い、指を目頭に当てた。志度の顔を見ることができなかった。
「どうした。日奈子」志度は笑いながらそう言ってくれた。たぶん、本当は戸惑っているはずなのに、そんな素振り、全然見せない。そういう志度のいつも堂々としていて、余裕があるところがすごく好きだった。
私はバッグからポケットティッシュを取り出し、ティッシュを目頭に当てた。志度は私の背中をさすってくれた。それでより涙が溢れてきた。
「ごめん。もう落ち着いた。――大丈夫。行こう」
私はそう言って志度の手を引いた。志度と手をつなぎ、歩きながらしばらくはお互い無言だった。
「日奈子。ごめん。俺、なんか悪いことしたかな」
志度は心配そうな顔で私を見てくれている――。
「ううん。違うよ」
うん、明日、あっけなくスリップした車に引かれて死ぬんだよ。最低だよね。私の気持ちを中途半端に残して、そんなことするなんて。
「なあ」
「――なに?」
「俺、この間、楽しいことしたんだ」
「楽しいこと?」
「あぁ。絶対、日奈子、びっくりすると思うよ。二個で一つみたいな感じ。きっと、未来で笑ってると思うよ」
志度を見ると少しだけ満足そうな表情をしていた。
「えっ、なにそれ」
志度、未来で笑うことなんてできないんだよ。私は。
「俺は日奈子とずっと一緒にいる予感がするんだ。だから楽しみにしてて」
ずっと一緒になんてなれないんだよ。志度。
「――ありがとう」
「――泣いてるところもかわいいよ」
頭にそっと、熱を感じた。そして、私は志度にゆっくりと丁寧に撫でられた。
☆
函館山の夜景はイルカの尾から胴体へつながる曲線美のように輝いていて、雪で反射したオレンジ色の線や、緑がかった白色の線が浮かんでいた。さっきまで降っていた雪は止み、低い灰色の雪雲は雪で反射した光を吸収し、藍色と灰色が混ざった明るい夜の色をしていた。
「ねえ、写真撮ろうよ」
私はそう言って、iPhoneをバッグから取り出した。
「いいね」
志度は笑顔でそう言った。私はiPhoneのカメラを起動して、右手で志度の腰を掴み、左腕をいっぱい伸ばした。そして、志度の身体に首をもたれて、志度と私、そして、光っている函館の尾が入るように自撮りした。
ベイエリアのラッキーピエロでバーガーを食べたあと、コーヒーを飲んでゆっくり話していたらいつの間にか、夕方近くになっていた。気づいたら、3時間も話していたんだと思ったら不思議だった。しかも、私は高校生と話しているはずなのに、なぜかわからないけど、バカなこと言い合ったりして、話題が尽きなかった。
「なあ、日奈子」
「なに?」
「日奈子って最高だな」
「最高ってどういう意味?」
「最高って。――好きだってことだよ」
「――私も。最高に好きだよ」
「――照れるな」
フッと笑ったあと志度はそう言った。
「照れないでよ。好きだよ。本当に」
「なあ、日奈子」
「なに」と私が言ったとき、左肩から身体をキュッと寄せられる感覚がした。気がついたら、私はすでに志度にキスされていた。
唇が重なったまま数秒間の時が流れた。志度の唇は柔らかくて、温かった。志度はそっと唇を離した。そして、何秒間かお互いに目を見たまま、また時が流れた。志度の瞳は茶色くて、吸い込まれそうなくらい透明だった。
そのあと志度はそっと微笑んだ。
私は左手で志度の右手を握った。すると志度は右手でしっかりと私の左手を握り直してきた。
「ねえ」
「なに?」
「――もし、私が死んだらどうする?」
「日奈子が死ぬの?」
「うん。私が明日死ぬとするじゃん」
「しかも、明日? ――急だな」
「うん。そうだよ。それも、志度は私が明日死ぬことがなぜか事前にわかってて、悩んでるの。どうしよう、明日、日奈子が死んじゃうって。そしたら、今、この瞬間、どうする?」
私がそう言い終わると、志度はニヤッとした。私も途中からニヤニヤしながら、隣にいる志度を見つめている。
――メンヘラって呼ばれてもいいよ。
どうせ、明日には魔法が解けるんだから。
「簡単だよ。俺だったら、日奈子が死ぬのを阻止する」
「えっ、どうやって?」
「教えるんだよ。日奈子に。明日、日奈子が死んじゃうことを知っちゃったんだ。だから、絶対、明日は一緒に居ようって。一緒に居たら、たとえ病気で倒れても、事故に巻き込まれても救えるじゃん」
志度は得意げな声でそう言ったあと、しばらくの間沈黙が流れた。時折吹く、強い風は冷たくて、そのたびに身震いした。だけど、夜景はどんどん時間を追うごとに深くなっていき、ゆっくりと時間を支配しているように感じた。
「――私が死ぬことを知ったら教えてくれるんだ」
「うん。死んでほしくないからな」
志度の手は温かく、血が通っていて、生きていることを実感できた。私は志度と繋いだままの手を見ながら、弱く息を吐いた。
「私もだよ。――志度にはまだ、死んでほしくない」
「俺も死ぬ気はないよ」
「――本当に?」
「うん。マジなやつ。ほら」
志度はそう言ったあと、右手の小指を私に差し出した。私はゆっくりと右手の小指を志度の小指に結んだ。
「俺さ、たまになんでもっと早く日奈子に告白しなかったんだろうって思う時があるんだ」
「私も」
そう言うと、志度は弱く笑った。
☆
ロープウェイで函館山を降りたら、また雪が降り始めた。なんか、ちょうどよかったねと言って、2人で笑い合いながら、十字街の電停まで歩いた。そして、暖かいに電車に乗り、身体を暖めながら、また無限に話していると、あっという間に私たちの地元である深掘町の電停に着いた。
電車を降りるとこれでもう、終わりなんだと思った。2回まで寝れるなら、今日の前の日をイメージすればよかったんだろうけど、そんな5年前の普通の日のことなんて、ちっとも覚えてなかった。
私と志度が降りると電車はゆっくり発車していった。発車した風圧で降っている雪が舞い、電車の赤いテールランプが空間の中で滲んでいた。
吹雪いていて、風が冷たくて、思わず両肩に力が入り、上がってしまった。
「家まで送るよ」
後ろから、そっと右手を繋がれた。志度の手はまだ暖かくて、暖かかった電車の名残がした。
「吹雪いてるからいいよ。それより、明日、一緒に学校に行こう」
「明日さ、電停で合流しよう」
「え、いつもどおりスーパーの前でいいよ」
志度は怪訝そうな表情でそう言った。――だけど、朝の待ち合わせの場所を変える必要がある。
「そしたら、ローソンで合流――」
「だからいつもどおりでいいって」
志度はなぜか譲ってくれなかった。
「――そしたら、時間。少し早くしない?いつもより10分早くしようよ」
「――いいけど、どうして?」
「――嫌な予感がする」
「なにそれ」
志度は少しだけ不機嫌そうな声でそう返した。――不機嫌になろうがどうでもいい。
「ねえ」
「なんだよ」
「真面目な話。――志度に死んでもらっちゃ困るの」
「は? 何言ってるの?」
「――志度に死なれちゃ困る。私」
私は左手で志度の右手を握った。そして、ぎゅっと力を入れた。志度は何も言わずにされるがままだった。
「――明日、志度が死ぬ夢を見たの」
「なにそれ」
「私、よく正夢を見ることがあるの。――こういうの信じてくれる?」
私は志度に嘘をついた。だけど、そんなのどうでもいい。なんでもいいから信じてくれさえすればそれでいい。
「――とりあえず、話は聞くよ」
「ありがとう。――志度は明日、交通事故にあって死ぬの。いつも待ち合わせしているスーパーの前で」
「――それで」
志度はそう言ったあと、ため息を吐いた。
「車にぶつけられて、頭とお腹切れちゃって、出血多量で病院に運ばれたときにはもうすでに手の施しようがない状態になってた。――私は処置室の前で志度のこと待ってたけど、医者から志度が死んだことを告げられて、呆然としたままになって」
話しているうちに5年前のあの日を思い出した。私は救急車に乗って、志度と一緒に病院に行った。
血まみれの志度。
――医師が告げた言葉。
全部、思い出すことができる。
私はだんだん喉の奥が詰まるような感覚がした。
「そうなんだ。俺、夢の中で死んだんだ」
「――そうだよ」
「――今朝、そんな夢みたの。志度が死ぬ夢」
「そうなんだ」
志度がそう言ったあと、少しだけ沈黙が流れた。私と志度が黙っているうちにブザーが鳴り、ドアが閉まった。そして、電車はまた加速を始めた。
「だから、会った時、泣いたんだ。――日奈子、俺は死なないよ」
「――死なないで」
「そんなに簡単に死なないって」
志度のその言葉は宙に浮いたみたいになった。別に志度を信頼していないわけじゃないけど、結果がわかっているから、信ぴょう性がほとんどないように感じた。
「ねえ、約束して」
私は真剣に志度を見つめた。
「――わかった」
志度は私を見つめてそう言った。私は志度の瞳に吸い込まれそうになった。私は握ったままだった志度の右手を話した。そして、私の左手の小指に志度は右手の小指を絡めた。
「ねえ」
「なに?」
「明日のお昼、一緒に食べたいものがあるの。だから、コンビニでパン買わないでね」
「わかった」
「約束して」
私はそう言ったあと、もう一度小指を数回揺らした。そして、そっと指を離した。
そして、志度と別れた。
志度は反対方向へ歩き始めた。私は志度の後ろ姿をしばらく見てから、私も歩き始めた。上手く待ち合わせの時間を変えることが出来た。
30秒でも違えば、結果は違って、もしかしたら、志度を救えるかもしれない――。
☆
志度と別れたあと、いつも待ち合わせしているスーパーに入った。閉店20分前くらいみたいで、お店のなかはガラガラだった。
200グラムくらいの鶏もも肉と、コチュジャン、6個入の卵、2分の1のレタス、そして、蓋付きの使い捨て容器をささっと買った。レジで財布の中を見たとき、2000円しか入ってなくて、一瞬ヒヤッとした。それらを買うと財布は小銭だけになった。
スーパーを出ると、吹雪はさっきよりもさらにひどくなっていた。自動ドアの先に見える歩道は無数の人が踏み均した細い道があったはずなのに雪が吹き溜まって道が無くなっていた。思いきって外へ出ると、雪が叩きつけるように全身に降り掛かった。
親はもう、すでに寝ているみたいで、家の中は静まっていた。私は一通り着替え終わったあと、玄関に置きっぱなしにしていた、食材が入ったビニール袋をキッチンまで持っていった。キッチンの電気を付けた。キッチンから漏れる光でダイニングキッチンの先にあるリビングが薄暗く浮かび上がっていた。
私は炊飯器から釜を取り出し、一合の米を入れ、米を研ぎ、早炊きで炊飯器をセットした。その後、鍋にサラダ油を入れ、IHコンロの上に鍋を置いた。IHのスイッチを入れ、160℃に設定する。ボールに酒と塩、こしょうを入れた。そして、冷蔵庫にあったチューブのおろしにんにくを入れ、スプーンでかき混ぜた。そして、鶏もも肉をキッチンはさみで一口サイズに切り、ボールの中に入れ、漬け込むことにした。
換気扇をつけるのを忘れていたことに気づき、換気扇を付けた。
もも肉に下味を付けている間、レタスを洗い、適切なサイズに手でちぎった。そのあと、ボールとフライパンを取り出した。ボールのなかに片栗粉を入れておいた。そして、フライパンには、コチュジャンとケチャップ、しょうゆとみりん、オイスターソースを入れ、それらをスプーンでかき混ぜた。香りを嗅ぎ、いつも作っている味になりそうなことを確かめた。
もも肉を揚げ終わったあと、卵焼きも作った。卵焼きが出来たころ、米も炊けた。フライパンを温めタレにとろみが付き始めたところで揚げたもも肉をすべてフライパンの中に入れた。タレと肉汁が絡まり甘く香ばしい匂いがキッチンに広がった。
洗い物をして、プラスチックの使い捨て容器2つにご飯とおかずを入れ終えた。キッチンを一通り片付け終え、寝る支度をして、自分の部屋に戻った。そして、志度を救うために少しだけ早くiPhoneのアラームをセットし、充電器をiPhoneに付けた。
電気を消し、ベッドに寝転んだ。
大きく息を吐くと一緒に涙がたくさん溢れた。志度のこじんまりとした葬式がフラッシュバックした。志度の家族は、みんな泣いていた。だから私は泣かないことにした。そして、そのまま泣かずに日常を過ごすことを決意したのを思い出した。
もし、志度が明日死ななければ、私は生まれ変わるかもしれない。僅かな可能性に期待してもいいような気がした。だって、本当に過去に戻れたんだから、過去を変えることだって出来ると思う。
志度が生きている世界に帰れば、私達はきっと幸せな23歳を過ごしているはずだ。本当に過去を変えることが出来るんだったら、変えたい。
久々に強い眠気を感じ、そのまま私は眠った。
☆
時間を見て絶望した。
このままじゃ、志度が死んじゃう――。久々にゆっくり寝れる感覚に任せてしまって、私はこんな大切なときに、簡単に寝坊してしまった。慌てて身支度をして、弁当を持ったことを何度も確認して、女子高生の格好をして家を出た。
外はスッキリと晴れていた。
水色の空が気持ちよかった。そんなのはどうでもよかった。私は走り始めた。昨日より、ものすごく冷えている感覚がした。吸い込む息はいつもよりも凛と張り詰めていて、もしかしたら、マイナス10度くらいまで下がったのかもしれないと思った。
何度も滑りそうになった。
このままじゃ、また同じ結末になってしまう――。
何やってるんだろう私。
誰かに鷲掴みされているかのように胸が痛くなった。
今日に限って、積もった雪が磨かれた道路はツルツルだった。
――というより、このツルツルになった路面の所為で志度は交通事故にあったんだから、当たり前といえば当たり前に思えた。
横断歩道がちょうど赤になった。道の向かいにいつも待ち合わせているスーパーが見えた。志度はまだスーパーの前にはいなかった。志度の家の方面を見ると、奥から志度が歩いてきているのが見えた。志度はiPhoneをいじりながら歩いていた。志度はまだ私のことに気づいていないようだった。
信号が青になり、待っていた車も動き始めた。信号が変わってすぐに私も横断歩道を渡り始めた。横断歩道は思った以上にツルツルになっていた。凍ったアスファルトが朝日で照らされ光っていた。横断歩道を待っていた何人かの人たちもゆっくり慎重に渡り始めた。
みんなペンギンの散歩のように慎重に、静かに横断歩道を渡っていた。やっとの思いで横断歩道を渡り切り、私は走って、志度の方へ向かった。志度は私に気づいて手を振っていた。私は手を振り返さなかった。
「志度!」
私は大声で志度を呼んだ。右足を踏み込んだ時、右足の摩擦がなくなった。そして、右足と左足は宙に浮き、私は尻もちをついた。志度をあの場所から動かさないと、と私は思った。
だけど、身体は鈍く痛んだ。早く立たないとと思いが空回る。心臓が破裂しそうなくらい音を立て、冷静に危機を感じた。遠くから日奈子って声が聞こえた。志度が走ってきているのが見える。私は両手を雪道についたまま、尻に鈍い痛みを感じ、上手く立ち上がれなかった。
志度は息を少し切らしながら、私に右手を差し出していた。私が志度の右手をつかもうとしたとき、大きな音がした。
☆
辺りは一瞬で静まり返った。
この道を歩いていた何人かは立ち止まり、車道の車は停まっていた。何人かの人が大丈夫ですかと言って、車の方へ走っていくのが見えた。私は尻もちをついたままだった。目の前に立っている志度を見ると志度は振り向き、車の方を見ていた。
音の方を見ると、スーパーの駐車場の前にあるポールに車が突っ込んでいた。何秒かして、ざわざわと多くの人が話し始めたのがわかった。歩みを止めていた何人かは再び歩き始めた。
「日奈子、大丈夫か」
志度はそう言って、右手を私に差し出した。志度は私をまっすぐに見つめていた。私は志度を見つめたまま、何度か深呼吸をした。
「ヤバいな」
志度は私の右手を掴み、私を起こした。地面に打ち付けたお尻はじんわりと痛み始めている。
「――志度」
「生きてるよ」
志度は私の手をつないだまま、そう言って微笑んだ。
「ねえ」
「なに?」
「――学校サボっちゃおう。今日」
「いいね。日奈子、悪い子だな」
志度はそう言って、微笑んだ。
☆
両親が仕事に出たあとの実家に招き入れて、私の部屋で志度と二人っきりになった。私は冷蔵庫からオレンジジュースを取り出し、2つのコップに注いだ。部屋に戻って、志度に出した。
「ありがとう」
志度はそう言って、オレンジジュースを私から受け取った。志度は私の部屋の床に足を崩して座っていた。
「これが女の子の部屋だよ」
「茶化すなよ」
志度の顔は少し赤くなっていた。私はオレンジジュースを机におき、ベッドに行き、枕を持った。
「ほら、これが女の子の枕だよ」
私は枕を両手に持って左右に振った。
「バカかよ。恥ずかしいなぁ。もう」と志度はそう言って、そっぽを向いた。私は枕をベッドに置いたあと、志度の背中に抱きついた。
「ねえ、外だとこんなこともできないでしょ」と私は志度の耳元でそう囁いた。
「――そうだな」
「どう?」
「悪くない」と志度はそう言って、優しく微笑んでくれた。
「ねえ」
「なに?」
「こうしてると落ち着くね。――なんでだろう」
「そういう運命なんだよ。俺たち」
そう言いながら志度は左腕で私を巻き込んで右側に寝転び始めた。
「おー、ちょっとちょっと、持っていかれる」
志度に抱きつかれ、右腕に志度の重さで潰れそうになった。
「あー、ちょっと、腕痛いって」と私はそう言ったあと、右腕を無理やり志度の脇腹から抜いた。
「あ、ごめん、ごめん」
志度はそう言って笑った。全く悪気がなさそうな、とても軽い謝り方だった。私は起き上がって、一度志度をまたぎ、志度の横に添い寝した。志度は私の髪をゆっくりと撫でた。何度もゆっくりと丁寧に私の頭を撫でた。
「よしよし」
そして、今度は私から抱きついた。志度ってこんなに暖かいんだと思うと、私はこの5年で志度の相当なことを忘れていたように思えて、虚しくなった。
「たぶん、あの車、俺に当たってたよな」
「そうだね。粉々になってた。夢みたいに」
私がそう言うと、志度はため息を吐いた。
「正夢だったってことか」
「――正夢じゃないよ」
「え、正夢だろ。だって――」
「志度が死んでないから」
「あ、そっか」
志度がそう言ったあと、ふっと弱く笑った。私もつられて弱く笑った。
「ねぇ」
「なに?」
「――生きててよかった」
「日奈子もな」
志度は優しく微笑みながら、センターパートの前髪を右手でジリジリといじった。
「なあ、日奈子」
「なに?」
「――このまま、時が止まればいいのにな」
志度はそっとした声でそう言った。そんな残酷なこと言わないでよ。ずっと、止まってる方がいいんだよ。――志度。
「――ずっと一緒にいたいよ」
「俺もそう思ってるよ」
志度がそう言ったあと、しばらくの間、時計の音が部屋中に響いている。
「ねえ」
「なに?」
「私たち、もう二度と、会えなくなるのかな」
「――何言ってるんだよ。日奈子」
私は黙ったまま、志度に背中を向けたまま、横になったままだった。だから、志度がどんな表情をしているのかわからない。
私は下唇を噛んだ。志度を救うことはできたけど、このあとどうなるのかわからなかった。23歳の私に戻っても志度が生きていたらいいなって思った。
未来は変ったのかどうかわからない。
「ずっと、愛してるよ」
後ろで志度がそっとした声でそう言った。
☆
「お腹へったでしょ」
志度をリビングに通し、ダイニングテーブルの椅子に座るよう私は志度に伝えた。私はかばんから弁当を2つ取り出し、テーブルの上に置いた。
「お、なにこれ。美味そう」
「今、温めて来るね」
私は弁当を2つ持ち、キッチンへ向かった。弁当をレンジで温めた。弁当からはコチュジャンのいい香りがした。2つの弁当を温め終え、1つの弁当を志度の方へ持っていった。
「はい、どうぞ。本当は学校で食べてもらおうと思ったけど、まさかのうちで食べることになっちゃったね」と私はそう言いながら、テーブルに弁当を置いた。
「やばい、めっちゃいい匂いする」
「やばいでしょ。これ」
私はそう言いながら、もう一度キッチンへ行き、自分の弁当を持ってきた。テーブルに弁当を置き、私は志度の向かい側に座った。私はいただきますと言い、両手を合せた。志度もいただきますと言った。
志度は割り箸をわり、弁当の蓋を開けた。
「なにチキン?」
「ヤンニョムチキン。美味しいよ」
「自分で美味しいって言うなら、絶対美味しいな、これ」と志度はそう言いながら、箸でヤンニョムチキンを取り、一口食べた。
「うっま。なにこれ」
「でしょ。私の絶対うまい料理」
私もヤンニョムチキンを箸で取り、一口頬張った。志度はそのあと、無言で弁当を食べ進めていた。私もあまり話さずに弁当を食べた。
「いや、うますぎだって。日奈子。やばいな」
「嬉しい。――志度に食べてもらいたかったの。ずっと」
「なんでもっと早く食べさせないんだよ。めっちゃうまいわ」
「ありがとう」と私はそう言った。志度は頷きながら、弁当を食べていた。
「なあ、日奈子。これ、昨日帰ったあと作ってくれたんだろ?」
「そうだよ」
「最高だな」
志度はまた弁当に箸をつけて食べた。
✫
「そろそろ帰るよ」
「――わかった」と私がそう言ったあと、志度は立ち上がった。そして、自分のコートを手に取り、コートを着て、志度は玄関まで歩いていった。
私は志度の後ろを付いて行った。志度の背中を見ていると胸が苦しくなり、私は咄嗟に志度の腕をつかんだ。
「――行かないで」
「ダメだよ。行かないとオーナーにぶっ飛ばされるよ」
「あのコンビニ、代わりのスタッフくらい、いくらでもいるでしょ」
「そうもいかないよ。バイトは学校と違うんだから、休んじゃダメだよ。迷惑かけちゃう」
「――ごめん。そうだよね」
私は右手を志度の腕から離した。
「――じゃあね。美味しかった。マジで。ありがとう」
「ううん。――また作るね。ばいばい」
「うん。ばいばい」
「――バイト、頑張ってね」
「ありがとう」
志度は笑顔でそう言った。私も自然に笑みがこぼれてしまったけど、すごく寂しい。本当は行かないでほしかった。だけど、志度はそっとドアを開けて出ていった。
志度が出たあと、私は急に力が抜けた。 玄関から自分の部屋にトボトボ歩いて戻った。
自分の部屋の床に仰向けになると涙が溢れた。バイトなんてどうでもいいから、ずっとここに居てほしかった。私はまるで明日も志度に会うかのように振る舞ったけど、もう明日、二度と志度と会えないかもしれない。
どうせ、タイムスリップは夢みたいに簡単に終わってしまう。目覚めたら、23歳の私に戻るはずだ。そして、占い師のおばさんが私を起こしてくれるのだろう。
『どう? 楽しかった?』
と占い師のおばさんが慣れたような口調できっと言ってくるんだ。そして、青色のサリーの裾をひらひらとさせているんだ。きっと。
起きたら、もう終わりだ。起きた先の世界でも志度が生きていればいいけど、本当にそうなっているのかどうか私は確証がなくて、急につらくなった。
そもそも、23歳の私に戻って、志度とまだ付き合ってたとしても、タイムスリップした私には5年分の志度との思い出がないまま、過ごすことになるかもしれない。
それだったら、元の世界になんか戻らないで、このまま志度と一緒に大人になって、思い出をたくさん作りたい――。
大きなため息を吐くと一緒に涙が何粒も溢れてきた。そして、そのまま、涙は止まる気配はなかった。
そもそも、これはタイムスリップだと聞かされていたけど、もしかしたら、タイムスリップではなく、私の中の幻想にすぎないのかもしれないと思ったら、急に寒気がした。
残された僅かな時間も、志度と過ごしたい――。
親が帰ってくる前に、私服に着替え外に出た。
☆
だけど、志度をコンビニから連れ出して、手を繋いで一緒に逃げるなんて、現実的に無理だし、かなりの人に迷惑がかかることをするのは気が引けて、結局、スタバでソイミルクを飲んで時間を潰した。そして、志度が働いているコンビニの前に着いた。
iPhoneで時計を見たら21時57分だった。親には、今日、友達の家に泊まると連絡しておいた。明日は土曜日でよかったと思った。
窓越しにコンビニを覗くと、志度はまだレジにいて、もうひとりの店員と話していた。私は店内に入った。志度は話に夢中で、私が店内に入ったことに気づかなかった。私はホットドリンクコーナーに行き、ココアを手にとった。ちょうど、もうひとりの店員がレジを出た。私は迷わずにレジに行った。
「あれ、日奈子じゃん」
「また会いたくて来ちゃった」
私はココアを志度に渡した。志度がココアのバーコードを読み取り、レジの操作をした。私は財布を取り出し、120円を志度に渡した。
「俺も会いたかったよ。やるな、日奈子」
「志度、どうしても話したいことがあるの」
「なんだよそれ。死ぬわけじゃないんだから」と志度がそう言ったあと、私は少しムスッとした表情を作った。
「マジなやつ」
「――オッケー、わかった。日奈子、雑誌コーナーで待ってて。すぐ準備するから」と志度はそう言って、お釣りをくれた。
私は志度に言われたとおり、雑誌コーナーでファッション誌を読んでいた。コートのポケットにココアを入れた。ポケットからココアの温かさを感じた。少ししてから、志度がやってきた。志度の気配に気づき、私は志度の方を振り返った。志度は呆気にとられている表情をしていた。私も思わず、呆気にとられた。
「――おまたせ」
志度はそう言ったあと、しばらくの間、じっと私を見つめてきた。
「――どうしたの?」
「いや、大丈夫。外出るか」と志度は出口の方を指差してそう言った。
☆
車もまばらな静かな夜だった。時折雪がちらつき、寒かった。さっきスタバにいるとき、iPhoneでニュースを確認したら、今シーズン最強寒波が来ていたらしい。函館の天気を見ると、最高気温はマイナス8度で最低気温はマイナス12度と書いてった。
顔に触れている外気は凛として冷たかった。志度はバイト前に家に帰っていたのか、服は制服から、ジーンズにベージュのダウンになっていた。手をつないでゆっくり歩いている。もう、ずっとこうしているだけでいいやと私は思った。
「なあ、日奈子」
「なに?」
「俺も会いたいって思ってたんだよ」
「私も」
「じゃあ、両思いだな。今日はそんな気分だったよ。一日」と志度が言ったあと、私は立ち止まった。
「志度、これだけは言わせて。あなたは私にとって、とても必要なの。ずっと好きだから。ずっと」
私がそう言っている途中で志度が私を抱きしめた。一瞬、時が止まったかと思った。鼓動が徐々に大きくなっていく。私も両手を志度の背中に回した。
「――日奈子。ずっと、一緒だよ」
背中で感じる志度の両手は暖かく、顎を当てた肩は硬かった。
☆
どこにも行くあてがなくて、結局、近くのファミレスに入った。23歳の世界ではもう、とっくの昔に潰れてしまったお店だ。もう、明日の学校なんてどうでもよかった。どうせ、寝たら元の23歳に戻ってしまうんだから、17歳の私の生活なんてどうでもいい。
とりあえずドリンクバーを頼み、志度はコーヒー、私はカフェオレを飲んだ。窓側の席に座った。
「私、眠れないんだよね」
「――そうなんだ」
「不眠症なの」
「――病院行ったほうがいいよ」
「もう、とっくに行ってるよ。眠剤出されてる」
「そうなんだ」
「だから、今日はさ、私が眠らないように監視して」
「いや、逆だろ。それ」と志度は笑いながらそう言った。
「いいの。今夜だけでいいから」
「ってことは、オールか」
「そうだね」
私はニコッとしてそう言って、頬杖をつき、窓の外を眺めた。道路はトラックとタクシーがたまに雪煙をあげて、目の前をゆっくり通り過ぎていった。気がつくと雪は本格的に降り始めていた。
「それより、俺は日奈子のことが心配だよ」
「私の心配なんてしてくれるの?」
「当たり前だろ。寝れないのはヤバいよな」
「もう、慣れちゃった。調子いいときは普通に寝れるし、寝れなくても、眠剤飲めば、寝れるときもあるから、まだマシなほうだよ。私の不眠は」
「そうなんだ。今まで知らなくて悪かった」
「いや、志度が謝ることじゃないよ。私、初めて志度に言ったんだから」
「俺さ、もう少し、日奈子のこと知る努力したほうがいいと思うんだ」
「十分してるでしょ」と私は笑ってそう返した。
「いや、してなかった。もっと一緒にいる努力とか、そういうことすればよかったって思う時があるんだ」
「なあ、日奈子。俺がもし、あの時、死んでたらどうなってたんだろうな」
志度はまたコーヒーを口づけた。過去のことがフラッシュバックした。何か満たされないあの寂しさが胸に溢れるのを感じた。
「――寂しいに決まってるでしょ。それに苦しいよ」
「悪い。変なこと言ったな」
「志度に死なれたら困るよ、私。何も面白くない20代を過ごすことになるんだよ。目標もなくね」
私は泣きそうになるのをごまかすためにカフェオレを一口飲んだ。
「なあ、日奈子」
「――なに」
私がそう言うと志度は両手で私の左手を握った。
「いいか、よく聞けよ。どんなアクシデントも今日みたいに乗り越えよう。そして、二人で幸せを掴もう。思いのままに」
志度の目が少し潤んでいるのがわかった。私は残された右手で志度の手をさらに握った。我慢できなくなった涙が一粒流れ出した。そして次々と涙が溢れ、頬を伝った。
「ごめん。昨日から泣いてばかりだね」
私はピークになった感情の波がおだやかになってからそう言った。志度は優しいから、私の次の言葉をしっかり待ってくれていた。
「いいよ。泣けよ。泣きたいときに泣かないヤツは損するよ」
「あ、ズルい。自分は我慢して泣かないくせに」と私は笑ってそう言った。口角を上げたら、まぶたが腫れぼったくなっているのがわかった。
「私ね、ずっとこうしたかったの。志度と。ずっと、こうして話したり、一緒にいたかったの。ずっとね」
「俺もだよ」
「私ね、相談したんだ。苦しくて。そしたら、その相談した人が自分で道を切り開くしかないって言うんだよね。厳しいよ。――私だって、抗いたいよ。私だって。今までのことなんてどうでもいいから、今を生きたいよ。私」
私がそう言ったあと、しばらく沈黙が流れた。志度は黙って、私の次の言葉を待っているのがわかった。
「もう、戻りたくないよ。――ねえ、離さないって言って」
「離さないよ。日奈子」
志度はそっとした声でそう言った。私はそれを聞いたあとテーブルに突っ伏した。急に猛烈な眠気がやってきた。目元を覆ったセーターの袖はすぐに涙で濡れてしまった。吸い込まれそうな腕の中の暗黒は、私の意識が現実なのか仮想なのかわからない心地よさで満たされ始めた。
さよなら、志度。
5年後、生きてたらまた会おうね。
☆
揺すられて目が覚めた。座ったまま寝ていた。右肩を軽く揺すられている。まだ瞼は重く、首を起こす気にもならないくらい眠かった。それでも無言で何度も右肩を揺すってくる。私は右手で揺すっている相手の手をつかもうとしたが、右手は自分の肩にあたった。そして、また、何度も右肩を揺すられた。
私は左腕を枕にしていた。左腕は軽くしびれている。首を上げ、身体を起こした。そして、右側を見ると志度が立って笑っていた。私は思わずにやけてしまった。志度が右肩をポンポンと軽く叩いたから、首を右にひねると志度の人差し指があたった。そのあと志度の笑い声が聞こえた。
窓の外は夜明け前の青さだった。
雪はやんでいて、すでに歩道を歩いている人が何人かいた。
「おはよう」
私は初めて志度に起こしてもらった。私は立ち上がり、ドリンクバーに行った。そして冷たい烏龍茶を取り、席に戻った。
☆
志度と手をつなぎ、火曜日の8時過ぎの道路を歩いている。道はツルツルしていて、何人かが尻もちをついた跡が雪道の上に残っていた。横断歩道を渡ろうとしたら、ちょうど青信号が点滅した。私達は立ち止まり、信号が青になるを待つことにした。駅と反対方向に向かっているから、私と志度以外この信号を待っている人はいなかった。
穏やかな朝だ。変な体勢で寝ていたから、身体が妙に痛かった。ふたりとも当然のように学校に行く気はなかった。右折してきた車が一台、スリップしているのが見えた。
「ヤバい」
私は右側から大きく押され、投げ出された。
私は受け身を取れず、左肩から地面に着き、雪溜まりの方まで仰向けのまま滑った。
何が起きたのかわからなかった。左肩、左腕が痛い。だけど、大きな音がしたのはわかった。空は冬らしい澄み切った水色をしていて、白くて弱い太陽が眩しかった。
☆
夜のスタバは落ち着いた雰囲気で、間接照明の電球色が、気持ちを暖かくしてくれているような気がした。窓越しに夜の函館の海が見える。ベイエリアから発せられた光を海面が静かに反射していた。
夢は3日で終わった。占いのおばさんは2回寝たら帰ってくるって言ってたけど、私はなぜか3回目に寝たときに現実に戻った。占いのお店を出て、すぐにLINEに志度の連絡先があるかどうかを確認したけど、タイムスリップする前と変わってなかった。
昔の交通事故のニュースをGoogleで検索したら、やっぱり志度の名前が乗っている古い記事が出てきた。
――やっぱり、志度は死んだんだ。
iPhoneをテーブルに置き、インスタで志度からもらった言葉を忘れないうちに書きなぐっている。
『――泣いてるところもかわいいよ』
『俺も会いたかったよ。やるな、日奈子』
『どんなアクシデントも今日みたいに乗り越えよう。そして、二人で幸せを掴もう。思いのままに』
実家から転送された手紙をバッグから出した。占いのお店から、家に帰って郵便受けを見たら、それが入っていて、私はそのまま、ソワソワして、市電にもう一度、乗り込み、ベイエリアのスタバに行くことにした。
十字街の電停を降りて、走って横断歩道を渡っていたら、雪道の上を滑って転んでしまった。左足からくじくように転んで、受け身を取ったから、左側の腰骨がいたかった。だけど、そんなのも気にならずに私は再び、立ち上がり、街灯でオレンジ色に照らされた雪道の上をベイエリアのスタバまで、再び走った。
封筒には私の名前が書いてあり、そして、裏側には志度の名前が書いてあった。封筒の上をゆっくり、ちぎり、そして、二つ折りされた便箋を取り出すと一緒にシルバーのネックレスが出てきた。右手でそっとチェーンを持ち上げると、ハートが半分になったシルバーのモチーフが見えた。
「二個で一つになるやつ――」
ぼそっと、私はそう小さな声でつぶやいたあと、ネックレスをテーブルに置き、手紙を開いた。
23歳の日奈子へ
俺の行動が恥ずかしいかどうかは、今読んでいる日奈子が判断してください。
そのとき、黒歴史になってたら、申し訳ないから先に謝罪します。
ずっと日奈子のこと、大切にできなくてごめん。
きっと、5年後もずっと一緒にいる気がしたから、この手紙を書いたよ。
こういう手紙でありきたりな、5年後のあなたは何をしていますかなんて聞かないよ。
だって、絶対に幸せになってるはずだから。
俺はたくましく、クールに日奈子のことを守る決意をしたから、
これを出すことに決めたんだ。決意を証拠として残すつもりで。
だから、もし、日奈子が危険な目に遭いそうになったら、
しっかりと日奈子のことを守るよ。
そして、日奈子のことを大切に優しくするよ。
世界中の誰よりも日奈子のことが好きだから、
二人で幸せを捕まえよう。
雪原のなかではしゃいで転がるように――。
このネックレスは片割れです。
5年後、一つにしよう。
もし、死んでたら、ごめん。
つらかったら、そのときはそっとこの手紙を燃やしてください。
17歳の志度より
そっと、便箋を閉じて、テーブルの上に置いた。
そして、書きなぐったインスタを人差し指で上にスライドさせて、改行したあと、
『燃やすわけないじゃん』とゆっくり打ち込んだ。
そして、窓の方にそっと右手を伸ばして、海に反射する僅かな光を集められるように息を止めた。



