その後、三人の話し合い――というよりもいがみ合いの結果。
放課後、何かしらの方法で正式に勝負をして、その結果如何で剣を自由にして良い、ということに。
「なんで私が同意もしてないのに……」
剣はぼやく。
場所は食堂。
一人で昼食。
放課後のことを考えると憂鬱になるが、今は食を優先。
ぼやきもほどほどに、黙々と食べる。
品目は学食の定番、期間限定の中華そば。あまり美味しくない。
「――おっ、剣ちゃん!」
不意に、剣を呼ぶ声。
同時に肩を叩かれる。
顔を向けると、そこには真希が立っていた。
「隣座ってええか?」
「やめてもらえますか」
「じゃあ座るわ」
真希は無理に隣へ。
真希の昼食はからあげ丼。
学食のメニューの中では比較的美味しい方。
「ところでな、剣ちゃん。ちょっとお願いがあるんや」
一方的に話し続ける。
剣は話を聞きたくないので、返答せずにラーメンを食べる。
美味しくない。
「野球部入ってくれへん?」
単刀直入。
剣は口の中のものを咀嚼し飲み込むと、即座に返答する。
「嫌です。もう二度と野球はやりません」
「なんでや。あんたも超野球少女やろ?」
「野球は嫌いなんです」
「嫌いやのに、わざわざグラウンドに立って勝負したんかいな」
「貴方が危ないってことを認めなかったからですよ」
「そんなめちゃくちゃな。
嫌いなんやったら、そんなんこだわらんでええやろ。
口で適当言うても、取り繕えへんもんがあるで。
あん時の剣ちゃんを見たら誰でも分かるわ。
あの拘りよう、あの魔球。
見りゃあ分かる。
どんだけマケて見積もったところで、剣ちゃんは野球のこと気になってしょうがないんやろ」
鋭い指摘。
だが、当然の結論でもある。
剣は後悔する。
あの時、自分の拘りを捨てられなかったから事態が厄介になってしまった。
嫌いだ、という嘘は通用しない。
かといって、全てを話すことも出来ない。
「……私は、野球をやってはいけない人間なんです」
言ってラーメンを食べる。
もう話したくないという意思表示。
だが、真希は構わず言葉を浴びせかける。
「やったらあかんってどういうことや。
そんなことあるかいな。
野球やりたいんやったらやりゃあええんや。
誰かに止められとるっちゅうことか?
親に辞めろとでも言われたんかいな。
そんなもん無視せえよ。
本当は、剣ちゃんは野球がやりたいはずやろ。
どんなしがらみがあろうが、構うな。
放りたいだけ白球を放れ。
ウチが全部受け止めたる」
「ごめんなさい。
それでも、私は野球はやれません。
そんなこと、出来るはずが無いんですよ」
剣は泣きそうな、震える声で言った。
どうも様子がおかしい、と真希も悟る。
これ以上要求したところで逆効果だろう。
「……すまんな剣ちゃん。
そんなに無理なんやったら、しゃあないわ。
今回は諦める。
でもな、もし野球がやりたいっちゅうんやったら、ウチはいつでも味方になるで。
剣ちゃんがボール投げるんやったらウチが受ける。
投げへんのやったら、しゃあない」
それで話は終わりだった。
その後、昼食が終わるまで。
真希も剣も、一言も発さなかった。
先にラーメンを食べ終えた剣の一言が、沈黙を破る。
「……あんまり美味しくない」
これに、真希が吹き出す。
「そら災難やな」
「まあ、分かってて注文したんですけどね」
「なんでや。不味いんやったら頼まんでええやん」
「だって期間限定ですから。つい頼んじゃうんです」
そんなやりとりをして、二人は別れた。
