「剣君、遅いぞッ!
このような遅刻、次はあると思うなよ!」
「はい。
ありがとうございます、ラブ将軍!」
叱咤しながらも、ラブ将軍の顔には笑みが浮かんでいた。
そして、真希も自信満々の表情で笑っている。
「まあ、任せときや将軍。
ウチら秘密の特訓してきたんや。
あんなへなちょこ二軍共なんざ相手にもならへんで!」
「ふん、それは楽しみだ。
虚言癖を疑われぬよう精々頑張るんだな!」
言い合い、ハイタッチを交わすラブ将軍と真希。
一方で、剣はナイルと向かい合っていた。
両者ともに真剣な表情。
「――剣サン。
僕は詳しいことを知らない。
君が誰かを殺したと言うのなら、それを擁護するつもりは全く無い。
けれどね、この勝負は君と一緒に戦うよ」
「私は人殺しです。
それでも、戦ってくれますか?」
「人殺しでも、どんな犯罪者でも同じさ。
同じ戦いに身を投じる人同士なら、誰でもチームメイトだと思う。
少なくとも、この野球場の中では」
ナイルの言葉に癒される剣。
これでいいのだ。
この決闘の中だけでも十分すぎる。
仲間として戦ってくれるだけでも、今は有り難い。
二人の会話を、不安げに眺める日佳留。
剣の方を見ようともしない。
妙に思った剣から日佳留へ声を掛ける。
「日佳留、どうしたの?」
「うん……」
ばつが悪そうに頷く日佳留。
「正直、アタシはショックで剣のことが信じられない」
日佳留の言葉を受けても、剣は嫌な顔一つしない。
どころか、笑って応える。
「それが普通だからね。
人殺しと一緒なんて、友達だなんて最悪。
楽しかった思い出にも全部影が差す。
平気でいてくれ、なんて言えないよ。
大丈夫。日佳留は私のことなんて、見下していい。
私なんか、人殺しの外道でいいんだよ」
剣に言われ、日佳留は迷う。
良いと言われれば疑ってしまう。
本当だろうか。
剣は無理をしていないだろうか。
本当に、外道扱いを望んでいるのだろうか。
気付いてしまった。
日佳留は、自分に迷う余地など無かったと。
剣は我慢しているのだ。
日佳留の心が少しでも楽になるように。
人殺しを受け入れる、なんて道を選ばせないために。
自ら外道を名乗ったのだ。
それに気付いて、剣を外道と呼ぶ気は毛頭なかった。
日佳留は剣を愛しているのだから。
剣の道に沿い生きると決めたのだから。
「……ううん、アタシは、そんな呼び方しない。
剣は剣だよ。
アタシたちのやることが正しいかどうか分からない。
でも、この戦いの後に決まるんだと思う。
道を間違えていそうで怖いけど。
自分で決めたんだから、貫き通すよ。
この勝負は、剣のチームメイトとして戦う」
「そっか。
ありがと、日佳留」
剣は言って、日佳留に微笑みかけた。
大切な親友。
本心を言えば、絶対に外道と呼ばれたくない相手。
深水女子へ転校してきて以来の友人だからこそ、離し難い気持ちもあった。
二人は互いを抱きしめあい、友情を確認する。
抱擁も終わると、剣は全員に視線を向けていった。
真希、ラブ将軍、ナイル、日佳留。
そして最後に――三塁側ベンチへと。
はっきりと見えない盾は、何を思ってそこに立つのだろうか。
どんな顔で決闘に臨むのだろうか。
「――さあ、試合開始だね!」
自分のチームメイトへと向き直り、呼び掛けた。
