血塗れになって倒れた剣は、真希が部室へと運び込み、応急処置を施す。
血塗れのまま寝かせておくのは、あまりにも酷い。
攻守が交代し、超野球少女軍の攻撃。
バッターは日佳留。
打席に立ち、ピッチャーを睨む。
「死球でも敬遠でも何でもいいッ!
塁上に出せ!
そうすれば私が直接手を下してやる!」
元部長が、ファーストの守備位置に入って叫ぶ。
投手は部長の方を見て――首を横に振る。
「……出来ないです」
「何を、ふざけてるのか!?
お前だって奴らに復讐してやりたいだろ!
今さらいい子ぶるんじゃないぞ!」
怒りを露わに。
喉が破れるのかというぐらいの叫び声で元部長は言う。
だが、それでも投手は頷かない。
「部長こそ、目を覚ましてください!
もう、誰もあいつらを恨んだりしていない。
あそこまで野球に全てを懸ける人を見て、まだ憎いなんて言えるはずがないですよ!」
言って、投手は部室の方をグローブを付けた手で指す。
「私は勝負しますよ。
誰が何と言おうと。
正道の野球で超野球少女に勝ってこそ、初めて野球部を取り戻せるってもんです。
今までみたいに暴力で奴らを倒したところで、そんなものは勝利じゃない!
私たちの野球部は帰ってこないんですよ!」
言い切ると、投手は打者の日佳留へと向き直る。
日佳留は笑った。
爽やかに。不敵に。
「いいよ。
勝負しよう。
絶対に打って、絶対に点を取る。
剣にもう投げさせられないもん。
アタシは必ずホームを踏むッ!」
日佳留の言葉に、投手は全力投球で返す。
魂の入った一球。
無礼にならぬよう、日佳留は全力のスイングで返した。
ヒット。
打球はショート頭上を超えるライナーとなり、左中間を破ってワンバウンド。
簡易フェンスを跳ね返り、これを左翼手が捕球。
日佳留は二塁を蹴るところ。
左翼手は急いで送球するも、三塁に間に合わず。
日佳留の滑り込む方が早い。
セーフ、三塁打となる。
「おい、サード!
私と守備位置を変われ!」
元部長が怒鳴る。
だが、やはり。
三塁手も首を横に振った。
「嫌だよ。ここは私のポジションだ」
言い切った。
そして、次の守備に備えて身構える。
まるで元部長の存在など取るに足らない、と告げるかのよう。
無下にされ、怒りながらも、何一つ出来ずにいる元部長。
続く打席。
前打席で本塁打を放ったラブ将軍。
負傷ももはや意味を持たない。
剣の投球を見ておきながら、この程度で膝をつく訳にはいかない。
バットを構え、二本の足で突っ立つ。
息が荒い。
負傷が身体の負担となっているのか、息苦しそうな表情のラブ将軍。
守備で立ち続けていた分もあり、消耗は相当なもの。
「……倒れるわけにはいかぬ。
剣君が生命を賭して戦ったのだ。
この程度の怪我で引くことは出来ぬ!」
宣言。
そして、投球される。
ラブ将軍のスイングは、惜しくもボールを捉えられず。
空振り、空を切る。
スイングの勢いで膝が負け、倒れそうになる。
だが、ラブ将軍は踏ん張る。
大股開きの姿勢で、どうにか堪える。
「ぐぅ……ッ!
こんなもの苦しくはない。
苦しみと呼べるかこの程度で!
剣君の味わった痛みと比べれば、私の怪我なんぞ鼻で笑えるわッ!」
言って、姿勢を正す。
第二球。
投手は一切手を抜かず、全力のストレート。
ラブ将軍はこれを辛うじて捉える。
セカンドの頭上をギリギリ超える。
ライト前ヒット。
日佳留は難なくホームへ帰還。
ラブ将軍は必死に走りぬけ、一塁を踏む。
これを好機、と元部長は声を張り上げる。
「おい、牽制しろ! 一塁側だ!」
だが、投手は見向きもしない。
次の投球に備え、マウンドの土を足で整える。
そして、続く打者は真希。
部室で剣への応急処置を終え、バッターボックスに立つ。
既に緑の闘気が立ち上がり、戦う意思がはっきりと見て取れる。
「ほんじゃあ、勝負や!
ウチも一番の打法でお前を迎え撃ったる!
お前も一番の球でウチを仕留めに来い!」
言って、真希の闘志が、風がバットに集まる。
渦の形は風神打法。
投手は頷き、放球。
速く鋭く動くスライダー。
キレの良い変化球。
並みの野球少女なら手も出ないだろう。
だが相手は真希。
超野球少女の前で常識は通用しない。
容易く変化に対応し、ジャストミート。
「吹っ飛べえエェッ!」
白球は緑の風に運ばれながら、大きく飛んで行く。
引っ張り気味、レフト方向への大飛球。
文句なしのホームラン。
そのまま白球はグラウンド外へと姿を消した。
ラブ将軍、真希が帰ってきて二点。
これで合計九点。
あと一点でコールドゲームが成立する。
