ツルギの剣




 ――一方、同時刻。深水島の某所、合宿所。


 他方から深水島まで練習試合の為、遠征に来た団体が宿泊する施設。

 多くの優秀な生徒を抱える深水島の各学園は、他県から団体を招致して試合することも少なくない。

 なので、合宿所は頻繁に、多くの人々が入れ替わり、利用する。


 現在合宿所を利用する団体のうち一つ。

 聖凰高校野球部二軍。

 来週に深水女子野球部との練習試合を控え、メンバー全員がここに宿泊している。


 聖凰高校の為に用意された宿泊施設の一室。
 三人部屋。

 そこに少女が居た。白いフリルをあしらったドレスに身を包み、金髪を縦にくるくると巻いており、まるで何処かしらの王国の姫のような外見。

 そして、不釣り合いにも、手には白球。


「――ただいまだよ~、ジュン!」

 部屋の扉を開き、一人の人物が入ってくる。

 金髪碧眼で、日本人離れした顔立ちの少女。


「遅かったですわね、ステラ。

 偵察の方、どうでしたか?」


 ジュンと呼ばれた少女はドレスを優雅に操り、美しく振り返る。

 高貴な印象を与える身振りから、なおさら白球が違和を訴える。


一方で、ステラと呼ばれた少女は気の抜けた笑顔を浮かべて言う。

「あ~、それね。

 なんかグラウンド周りでこわーい顔した野球部員さん達が見張っててさ。

 それで私、全然近づけなかったんだ。

 仕方ないから諦めてアイス買って食べてたよ」


「あのねぇ……それじゃあ偵察にならないですわ。

 ちゃんとしてくださいまし」

「まあまあ、そう怒らないでよ。

 ジュンの分もちゃんとアイス買ったから」

「あら、それは本当かしら」

「もちろん。

 まあ、帰ってくるまでに我慢できなくて食べちゃったけどね」

「駄目じゃない。
 もう、ステラったら……」

 呆れて頭を抱えるジュン。

 ステラは、悪びれもせずに、ポケットからレシートを出す。


「はい。
 カントクに渡して、経費で落としといてね~」

「いい加減にしないとしばきますわよ?」


 ジュンの脅しも何のその。

 ステラはそそくさと部屋へ上がり、ソファに腰を落ち着けた。

 まるで緊張感の無い様子に、ため息を吐くジュン。


 と、そこへ。
 再び部屋の扉が開く。

 入ってきたのは、褐色の肌をした少女。
 アジア系の顔立ちではあるが、日本人ではない様子。


「遅くなった、ジュン殿」

「お帰りなさい、アバドン」

 ジュンは、褐色の肌をした少女をアバドンと呼んだ。


「貴方はステラのような失態など犯しませんわよね?」

「無論だ。

 吾輩はそこのくるくるぱーとは違うのである」


 ジュンに言われ、アバドンは妙に古風な口調で答える。

 これを聞いて、ステラがむっと頬を膨らませる。


「何を~、アバドンめ!

 ミーが何をしてきたか知らないのによくそんなこと言えるね!」

「どうせ偵察失敗してアイスでも食ってたのであろう。
 吾輩にはお見通しである」

「……そんなこと無いし~?」

「嘘を吐くのはおやめなさい、ステラ」


 悪びれないステラに、ジュンもアバドンも呆れ顔。

 放置し、話を進めることにする。


「それで、偵察の結果はどうかしら?」

「うむ。
 深水女子高等学校野球部は、どうやら内部分裂しているらしいのだ」

「内部分裂?」

「超野球少女でチームを強化した結果、普通の部員が反乱を起こし、暴力的な野球で超野球少女に制裁を加えている、というところである」

「ふふっ。
 愚か者共ですわね。

 超野球少女側も、反乱を起こした側も」


「だが、問題は超野球少女側の数だ。

 向こうは五人の超野球少女を抱えている。

 我々はジュン殿、ステラとかいうクソアホ、そして吾輩の三人のみ。

 数の上では不利である」

「お~いアバドン?」

 クソアホ呼ばわりされたステラが、抗議の声を上げる。

 だが、アバドンもジュンも無視。
 放置して話を進める方向だし、そもそも事実だ。


「問題無いですわ。

 わたくしの魔球であれば、例えどんな超野球少女でもヒットを打つことは不可能ですもの。
 十人だろうが百人だろうが、かかって来いというところですわ」

「うむ、それについては心配しておらぬ。

 問題は、奴ら五人の超野球少女の中に、厄介な人物が一人紛れているのだ」


 アバドンは言いながら、部屋へ上がる。

 そして、テーブルの上に写真を広げた。


「奴らの様子を盗撮した。

 無駄な写真も紛れてはいるが……この一枚を見て欲しいのである」


 言って、アバドンは一枚を指し示す。

 ジュン、そしてソファーを離れたステラが写真を覗きこむ。


 それは他でもない。

 マウンド上から魔球を投げる、深水剣の姿だった。


「これは――ッ!」


 ジュンが驚きの声を上げる。

 途端に、憎しみからくる表情が顔に浮かぶ。


「青い闘気。
 浮き上がる魔球。

 そして、グラウンド上の仲間が呼んだ名前。

 総合して考えると、この少女は以前ジュン殿が話していた少女、フカミツルギではないかと推測する。

 どうであるか?
 ――と、聞くまでもないようであるな」


 アバドンはジュンの様子を見て、話を区切る。

 ジュンは頷き、剣の写真を殴るように、拳をテーブルに振り下ろす。

 ダアン、と大きな音が響く。


「この面構え……忘れもしませんわ。

 わたくしが生涯を懸けて憎み恨み否定してやると決めた顔。

 この少女、深水剣で間違いありません」


 ジュンは笑った。

 怒り故か、剣を憎む感情が、恐ろしい笑みとなって表れた。


「楽しみですわ。

 わたくしが全身全霊で奴を否定してみせます。

 奴の野球を打ち破り、奴の犯した罪を余すこと無く全て広めてやりましょう。

 そうすることで、剣から野球も仲間も、全て奪ってみせます。


 あの日から野球を辞めたと思っていましたが……こんなところで続けていたとは。

 好都合ですわ」

 言うと、ジュンは部屋の片隅に置いてある日傘を手に取った。


「行きましょう、お二人共。

 奴らに宣戦布告するのです」