続く攻撃。
打者はナイル。
超野球少女と関係の無い立場ならば、死球や暴行を受ける可能性は低い。
ただ、全く無い、とまでは言い切れない。
ナイルも覚悟だけはしていた。
恐ろしく思いながらも打席に立つ。
剣が戦うというのなら。剣の意思に従おう。
ナイルはただ、剣に尽くそうという気持ちのみで打席に立っていた。
また、次に打順を控えている日佳留も同じ思いだった。
両者、言わずとも。
互いに剣の為に身を挺することを厭わない、と覚悟した。
互いの覚悟を理解していた。
来るなら来い。
ナイルは白球を待つ。
だが、最初に挟まったのは牽制球。
二塁方向への牽制。
「剣サン!」
意味は無くとも、叫ばずにはいられない。
塁上に滑り込み帰還する剣と、その足へ目掛けて蹴りを入れる二塁手。
「ぐぅッ!」
痛みに膝を押さえる剣。
無論、元野球部員は無視。
黙ってピッチャーにボールを返球。
「卑怯だぞ!
牽制なんてしないでこっちへ投げるんだ!」
ナイルが叫ぶ。
しかし無情にも、再びの牽制。
剣への暴行が続く。
「クソッ……何にも出来ないのか、僕たちは。
大切な人がどんな酷い目にあっていようと、ここに突っ立っているしかないのか……ッ!」
悔しさから震える声で言うナイル。
一方で、日佳留も悔しさに顔を歪めていた。
剣が殴られていようが、助けることが出来ない。
無理にでもこの試合を辞めさせようものなら、なおさらどんな報復があるか分からない。
それを考えると、今は黙って見ているしか無い。
十数球の牽制球。
その度に暴行を受け、剣もまた、ラブ将軍のように満身創痍だった。
しかし――立ち上がる。
「ふん、寝ていればすぐに楽になれるものを。
無理して立ち上がるから余計に苦しむことになる」
元部長が呟く。
そして、ジェスチャーで更なる牽制球の指示。
ベースから離れてもいない剣に大して、タッチ。
無論、ただ触るだけではなく。
腰の入ったパンチのような一撃が鳩尾に見舞われる。
ぶっ、と呼気を噴き出す剣。
殴られた衝撃で、一瞬呼吸ができなくなる。
「全部、お前自身のせいだ。
お前が自分で選んだんだ。
こんな苦しい思いをするのも、全部お前がヒットを打ったからなんだよ。
どうだ、自分で自分の首を締める気分は」
元部長の嫌味な言い方にも負けず。
「最高だよ」
と、笑って答えてみせる。
「自分で選んで自分で苦しむ。
それ以上のことなんて何も無い。
いいことだよ。
何も選べないままでいるよりずっと。
あんたたちよりずっと」
「訳の分からないことを言うな。
痛めつけられて頭がおかしくなったのか」
「かもね。
それか、元々おかしかったのかも」
言って、俯く剣。
顔を上げて話すだけのことでも体力を消耗する。
苦しいのだ。
「私は野球が好きだ。
何よりも。
一番なんだ。
それをずっと押さえつけてきた。
やっちゃいけないことだから、って。
でもやっぱり、無理だった。
私は我慢なんて出来ない。
大好きだから、例え誰にどれだけ禁じられたって野球をやる。
どんなに苦しくっても、あんたたちに殴られてでも野球をやるんだ」
それが最後の言葉だった。
剣は崩れ落ちる。立ち上がる体力すら残っていない。
報復が一つ完了したのだ。
元部長は、いよいよ勝負に出るように指示を出す。
「もう十分だ! 後のバッター二人を三振に抑えろ!」
言って、視線を真希の方へと向ける。
真希は何も言わず。
ギリギリと、歯を噛み締めていた。
狙い通りだった。
真希には、仲間二人が傷つき倒れた後、虚しく最後まで一人で野球をやらせる。
そして最後の回に歩かせて抹殺。
屈辱を最大限まで味わい、苦しむように。
結局、剣の一点以外は元部長のプラン通りの展開だった。
剣もラブ将軍も傷つき、自分は打席で勝負をさせてもらえず、役立たずの素人の放る球を受け、どれだけ屈辱的だろうか。
それも当然の報いだ、と元野球部員の誰もが考えた。
自分たちの受けた屈辱、失ったものはこんな程度ではない。
まだ仕返し足りないぐらいだ、と。
