「次からはスイングも避ける。
せやから気にすんな。
剣ちゃんは思いっきり投げてくれたらええ」
真希の言葉を信じ、剣もマウンドへと戻る。
試合再開。
剣の第三球。
青い光の煙が立ち昇る。
揺らめくそれは、剣の超野球少女の力の証。
これから、魔球を投げようという証。
「真希さん。
私、投げるよ。
今投げられる精一杯の球『ディープショット』を」
言ってから。
剣は投球に入る。
胸に含むような深いテイクバックの後、放球。
変わらぬ剣流アンダースロー。
そこから放たれる魔球に宿る蒼光が軌跡を追う。
白球は唸りを上げ、轟々と砂煙を立ち上げ、地面を這うかのような低い軌道を進む。
打者の眼前で強烈に変化。
立ち上り、膝元低め一杯へ決まる。
飛沫のように光が弾け、散乱する。
打者も必死にスイングするが、まるで狙いも定まらず虚しく空振り。
結局白球は、ばぁん、と叩きつけるような音を立てながら、ミットに収まる。
空振り三振。ワンアウト。
「――よっしゃあ! 剣ちゃん、最高やでホンマ!」
言いつつ返球。
真希は喜び、打ち震えた。
この球だ。
この、おぞましくすらある魔球を受けたかった。
並みの超野球少女では及ばないレベルの魔球。
鬼や悪魔でも宿っているのではないか、というぐらい。
とにかく、この魔球には剣の鬼気迫る感情が宿っていた。
ミットの中が熱く感じられる。
重く、熱く、速く。
そしてえげつない。
打者を何が何でも抑えてやろう、という執念が宿っている。
真希は嬉しかった。
剣はやはり、野球を愛している。
正確には、野球で勝つことを溺愛している。
今の魔球は超野球少女だからと言って投げられる球でもない。
それを安々と成し遂げてしまうことが、何よりもの証拠だ。
自身もまた、野球を愛する者として。
骨肉の一片も残さず全てを捧げられる人間として。
剣の情熱を理解出来た。
そして、その情熱に心が震えた。
人生で初めての仲間かもしれない。
共にグラウンドで燃え、戦う人間が欲しかった。
例え生まれつき才能に恵まれた超野球少女とはいえ、真希ほど人生を野球に懸ける者はやはり多くない。
心根が似通っているかともなるとさらに少ない。
だが、真希は出会えた。
確信した。
剣と自分は同じような情熱を抱え、野球に全てを捧げられる数少ない仲間であると。
世界中を探して見つかるとも限らないような同胞だと、ただ一球の魔球を受けることで理解した。
続く打者がバッターボックスに入る。
また真希をバットで殴るつもりなのだろう。
投手である剣よりも先に、真希の方へ視線をやる。
先程の打者はディープショットと称された魔球の威力に腰が引け、まるで真希を殴る余裕も無かった。
だが、あの魔球は一回に一球が限度。
次は積極的に殴ってくるだろう。
真希は覚悟し、避ける算段を始める。
剣が足を上げる。
同時に――青い光。
蒼炎が立ち上り、再びの魔球が放たれる。
二連続でディープショット。
打者はまるでスイングする余裕すら無く。
無情にも、白球は真希のミットへ吸い込まれていく。
まずはワンストライク。
(一回に一球……まあ、多くても二球とは言っとったけど、大丈夫かいな)
不安に思いながら、剣へと返球する真希。
そして、続く投球。
足が上がると、三度。
蒼炎が立ち上がり、場を包む。
真希は気づいた。
剣は無理にでも魔球を投げ続けるつもりだ。
しかも、今までで最も、グラウンドに蒼が溢れ荒ぶっている。
放球。
魔球ディープショット。
三球連続での魔球に驚きながらも、真希は落とさずしっかり捕球。
すぐさまタイムを宣言し、マウンドへと駆け寄っていく。
「剣ちゃん! こんな放って大丈夫なんかいな!」
「大丈夫だよ。
真希さんと比べたら、どうってことない。
バットで殴られるわけでもないんだから、これぐらいはやるよ」
「せやけど、一試合で何球投げれんねん。
十球とかそんなもんやないか?」
「勝つまでなら百球でも二百球でも投げるよ。
あんな奴らには絶対に負けたくないから。
真希さんを殴らせたりしない。
あいつらが真希さんを殴るのが目的なんだったら、そんなこと絶対にやらせない。
それが私の勝利条件だよ」
さあ、戻って。
剣は笑顔で真希を促した。
真希も仕方なくキャッチャーボックスへ戻る。
何を言っても剣は魔球を投げ続けるだろう、と考えた。
真希自身、何を言われても試合を辞めないと言い張ったのだ。
剣のディープショット連投を制止させられるはずがない。
その後、剣はディープショットのみを連投し、続く二者も三球三振で抑えスリーアウトチェンジ。
攻守が入れ替わる。
