うちのトム知りませんか?

◆トム、降臨
朝のミーティングルーム。白い蛍光灯が、眠たげな顔ぶれを均一に照らしていた。咳払いをしてから課長が口を開く。「今日から新しい仲間が入ります」ざわつくミーティングルーム入り口ドアのすりガラスの向こうに人影が映ったのを察した課長は「来たようだな。居長くんだね、どうぞ入って!」

扉が開いた。笑顔が、先に入ってきた。その後から、丸い顔の男が続いた。喪黒福造を思わせる顔立ち。黒目がちな瞳は妙に濡れていて、笑っているのに、どこか濁っている。

人事部長から渡された履歴書を持った課長が小声で呟く。「……本人?」トムはにこやかに答える。「それ、間違いなく私です。写真は職業訓練校のアプリで加工しましたけど、元は私ですから」

課長は戸惑いを隠すように「初めなんで先ず自己紹介からお願いします。」と促す。

「居長トム、42歳です。前職も大手ハウスメーカーでリフォームをしてました。早く慣れて、お力になれるように頑張ります。よろしくお願いします。」

「何か聞きたいことあるやついるか?」

「前職ではどのくらい売ってたんですか?」トップセールスの三浦が、息を潜めるように尋ねた。トムは即座に答える。「10人で10億円以上売る目標でした。」

ざわつくミーティングルーム。

「個人ではどのくらいですか?」

「我武者羅にこなしてたんで、個人でいくらとかは気にしてませんでした。だって、仕事はチームでやるもんですよね?」満面の笑みに何となく言いくるめられた感じで、三浦も課長も苦笑い。誰も突っ込めない。トムの笑顔が、壁の時計にまで反射しているようだった。