ヴォォォォ……。
ドクロマークから、禍々しい紫の霧が射出される。
それはまるでドクロの形をした生き物のように、うねりながら、一気にエリナに迫っていく。
死の気配。
触れただけで命を奪われそうな、おぞましい瘴気。
「危ない!」
シエルが慌てて弓を引き絞り、矢を放つ。
シュッ! シュッ! シュッ!
だが、矢は霧を素通りするばかりで効果はなかった。
物理攻撃が通用しない。
呪詛そのものに、矢は無力だった。
ひっ!
エリナはいきなりの横からの攻撃に、対応が遅れた。
カインとの戦いに集中していた彼女の視界に、死の霧が迫る。
避けられない。
間に合わない。
その瞬間――。
「エリナっ!」
レオンがとっさに駆け出し、体を張ってエリナの前に飛び込んだ。
その背中には、迷いがなかった。
ただ、仲間を守る――それだけの想いで。
考えるより先に、体が動いていた。
ズゴォォォッ!
紫の霧がレオンを包み込む。
瞬間、パキン!という繊細なガラス細工が砕けるような澄んだ音が、レオンの中で響きわたった。
それは、何か大切なものが壊れていく音だった。
同時に、全身を激痛が襲う。
「ぐっ……あぁぁぁぁっ!」
レオンが倒れる。
まるで全身の骨が砕かれるような、内臓が引き裂かれるような、筆舌に尽くしがたい苦痛。
それは肉体だけでなく、魂そのものを蝕む痛みだった。
自分の中で、何かが消えていく。
大切な何かが、砕け散っていく。
その感覚が、痛みよりも恐ろしかった。
「レオン! レオンっ!」
エリナが悲鳴を上げる。
その声は、五年前に家族を失った時以上の絶望に満ちていた。
目の前で、大切な人が倒れた。
自分を守るために。
自分のせいで――。
一方、セリナは虚ろな目でその場に崩れ落ちる。
「はぁ……はぁ……レオン……なんで、邪魔するのよぉ……」
自分も生気を吸われ、もう立っていられなかった。
髪は完全に白く変色し、顔は老婆そのもの。
かつての妖艶な美しさは、跡形もなく消え去っていた。
「ハハハハッ! お前らの大好きなレオンがやられたぞ? ざまぁみろ!」
カインが高笑いした。
傷だらけの体で、それでも嘲笑を浮かべている。
「あぁ、レオン……。くぅぅぅ……」
エリナは倒れたレオンを見つめ、そして――。
その瞳に、炎が宿った。
黒曜石のような瞳に、抑えきれない殺意が燃え上がる。
大切な人を傷つけられた怒りが、彼女の全身を支配していた。
もう、容赦はしない。
「もう、怒った! 絶対に許さない!」
エリナの声が、夜の空気を震わせる。
「お前を……絶対に、許さないっ!」
エリナは剣を構え直すと、猛ラッシュで一気にカインに襲い掛かった。
その速度は、先ほどまでとは比べ物にならない。
怒りが、彼女の潜在能力をさらに引き出していた。
キン! キン! キキキンッ!
剣戟の音が、夜に響く。
火花が散り、金属がぶつかり合う音が途切れることなく続く。
「ぐっ……うおぉっ!」
必死にさばくカインだったが、どんどん速度の上がるエリナのラッシュに耐えきれず、あちこちに手傷を負っていく。
ザシュッ!
腕を斬られ――。
ザクッ!
肩を斬られ――。
ザンッ!
胸を斬られ――。
そして最後に、足を深々と斬られて――。
ドサッ!と、カインは倒れ、カランカラカラと太陽の剣が転がっていく。
かつて輝いていた英雄は、今や無様に地に這いつくばっていた。
全身から血を流し、もはや剣を握る力すら残っていない。
「勝負……あった、な……」
レオンがよろよろと立ち上がりながら、苦しそうに呟いた。
その体は今にも倒れそうなほど衰弱していた。
だが――その翠色の瞳だけは、まっすぐにカインを見据えていた。
◇
全てが――終わった。
長い因縁が、ここに決着を迎えたのだった。
だが――。
「馬鹿め! アルカナが勝手に襲ってきたことにしてやる! 俺のパトロンの貴族様が警備隊を派遣するからな! お前らこそ捕まるんだぞ!」
カインが喚く。
血まみれの顔で、必死に叫んでいた。
その声は、もはや英雄のものではない。
あらゆる汚い手を使って陥れようとする姿は、あまりにも惨めで――かつて太陽のように輝いていた男の面影など、微塵も残っていなかった。
「それは通らんよ、カイン君」
その時――闇から、重厚な声が響いた。
ギルドマスターが、物陰から姿を現す。
その表情には、深い失望と、そして静かな怒りが浮かんでいた。
灰色の髭を蓄えた老練な冒険者は、まるで裁判官のように厳かにカインを見下ろしていた。
ドクロマークから、禍々しい紫の霧が射出される。
それはまるでドクロの形をした生き物のように、うねりながら、一気にエリナに迫っていく。
死の気配。
触れただけで命を奪われそうな、おぞましい瘴気。
「危ない!」
シエルが慌てて弓を引き絞り、矢を放つ。
シュッ! シュッ! シュッ!
だが、矢は霧を素通りするばかりで効果はなかった。
物理攻撃が通用しない。
呪詛そのものに、矢は無力だった。
ひっ!
エリナはいきなりの横からの攻撃に、対応が遅れた。
カインとの戦いに集中していた彼女の視界に、死の霧が迫る。
避けられない。
間に合わない。
その瞬間――。
「エリナっ!」
レオンがとっさに駆け出し、体を張ってエリナの前に飛び込んだ。
その背中には、迷いがなかった。
ただ、仲間を守る――それだけの想いで。
考えるより先に、体が動いていた。
ズゴォォォッ!
紫の霧がレオンを包み込む。
瞬間、パキン!という繊細なガラス細工が砕けるような澄んだ音が、レオンの中で響きわたった。
それは、何か大切なものが壊れていく音だった。
同時に、全身を激痛が襲う。
「ぐっ……あぁぁぁぁっ!」
レオンが倒れる。
まるで全身の骨が砕かれるような、内臓が引き裂かれるような、筆舌に尽くしがたい苦痛。
それは肉体だけでなく、魂そのものを蝕む痛みだった。
自分の中で、何かが消えていく。
大切な何かが、砕け散っていく。
その感覚が、痛みよりも恐ろしかった。
「レオン! レオンっ!」
エリナが悲鳴を上げる。
その声は、五年前に家族を失った時以上の絶望に満ちていた。
目の前で、大切な人が倒れた。
自分を守るために。
自分のせいで――。
一方、セリナは虚ろな目でその場に崩れ落ちる。
「はぁ……はぁ……レオン……なんで、邪魔するのよぉ……」
自分も生気を吸われ、もう立っていられなかった。
髪は完全に白く変色し、顔は老婆そのもの。
かつての妖艶な美しさは、跡形もなく消え去っていた。
「ハハハハッ! お前らの大好きなレオンがやられたぞ? ざまぁみろ!」
カインが高笑いした。
傷だらけの体で、それでも嘲笑を浮かべている。
「あぁ、レオン……。くぅぅぅ……」
エリナは倒れたレオンを見つめ、そして――。
その瞳に、炎が宿った。
黒曜石のような瞳に、抑えきれない殺意が燃え上がる。
大切な人を傷つけられた怒りが、彼女の全身を支配していた。
もう、容赦はしない。
「もう、怒った! 絶対に許さない!」
エリナの声が、夜の空気を震わせる。
「お前を……絶対に、許さないっ!」
エリナは剣を構え直すと、猛ラッシュで一気にカインに襲い掛かった。
その速度は、先ほどまでとは比べ物にならない。
怒りが、彼女の潜在能力をさらに引き出していた。
キン! キン! キキキンッ!
剣戟の音が、夜に響く。
火花が散り、金属がぶつかり合う音が途切れることなく続く。
「ぐっ……うおぉっ!」
必死にさばくカインだったが、どんどん速度の上がるエリナのラッシュに耐えきれず、あちこちに手傷を負っていく。
ザシュッ!
腕を斬られ――。
ザクッ!
肩を斬られ――。
ザンッ!
胸を斬られ――。
そして最後に、足を深々と斬られて――。
ドサッ!と、カインは倒れ、カランカラカラと太陽の剣が転がっていく。
かつて輝いていた英雄は、今や無様に地に這いつくばっていた。
全身から血を流し、もはや剣を握る力すら残っていない。
「勝負……あった、な……」
レオンがよろよろと立ち上がりながら、苦しそうに呟いた。
その体は今にも倒れそうなほど衰弱していた。
だが――その翠色の瞳だけは、まっすぐにカインを見据えていた。
◇
全てが――終わった。
長い因縁が、ここに決着を迎えたのだった。
だが――。
「馬鹿め! アルカナが勝手に襲ってきたことにしてやる! 俺のパトロンの貴族様が警備隊を派遣するからな! お前らこそ捕まるんだぞ!」
カインが喚く。
血まみれの顔で、必死に叫んでいた。
その声は、もはや英雄のものではない。
あらゆる汚い手を使って陥れようとする姿は、あまりにも惨めで――かつて太陽のように輝いていた男の面影など、微塵も残っていなかった。
「それは通らんよ、カイン君」
その時――闇から、重厚な声が響いた。
ギルドマスターが、物陰から姿を現す。
その表情には、深い失望と、そして静かな怒りが浮かんでいた。
灰色の髭を蓄えた老練な冒険者は、まるで裁判官のように厳かにカインを見下ろしていた。



