「いいわよ? でも、となれば……次は、ねぇ?」
それまで黙ってソファーに座っていたエリナが、静かに立ち上がった。腰まで届く艶やかな黒髪が揺れ、黒曜石のような瞳が鋭く光る。その視線がルナとシエルに向けられ、無言のメッセージが送られた。
――後半戦で、この腹黒聖女を叩き潰す。
ルナとシエルは、ムッとした表情のまま力強くサムアップしてエリナに応えた。
普段は四人でわちゃわちゃとじゃれ合っている王妃たちだが、この日ばかりは真剣勝負だ。応援してくれる地区の誇りと、自分自身のプライドがかかっている。
ミーシャは三人の視線を受けながらも、涼しい顔でコーヒーカップを傾けていた。しかしその口元には、かすかな笑みが浮かんでいる。前半で得たアドバンテージは膨大なのだ。このまま一気に力押しで逃げ切ればいいだけ――。ミーシャはそこに勝算を見出していたのだ。
後半戦が、さらに熾烈になることは間違いなかった。
◇
『はい! 全ウェーブが終了しましたーー! 皆様お疲れさまでした!』
アリスの声が会場に響き渡ると、数十万人の観客が一斉に歓声を上げた。
うぉぉぉぉ!
しかしその声には、どこか疲労感が漂っていた。全力で網を振り、全力で声援を送った一時間。誰もが汗だくになり、喉を枯らしていた。しかしその疲れすらも心地よい。これこそが、生きている実感だった。
『さて! 気になる結果はこちらです!!』
アリスがノリノリで腕を突き上げると、上空の巨大スクリーンに四チームの成績が棒グラフとなって表示され始めた。
赤、黒、金、銀。四色の棒が、ゆっくりと伸びていく。
うぉぉぉ!
観客たちは固唾を呑んでその棒グラフを見つめていた。この中に、自分の一年間の苦労がわずかではあるが含まれている。毎日エアモンを育て、戦略を練り、網を振り続ける筋力を鍛えてきた日々。その全てが、この一本の棒に凝縮されているのだ。
しかし――。
会場の空気が、徐々に異様なものへと変わっていった。
赤、黒、銀の棒が止まっても、金色の棒グラフだけがどこまでも伸び続けている。その差は圧倒的で、もはや勝負にすらなっていなかった。
「なんだよー!」「どうなってんだ金色の奴ら!」「ずるいぞー!」「Booo!」
会場のあちこちからブーイングが巻き起こった。あの「黄金の道」戦術のことは、すでに会場中に知れ渡っている。ルール違反ではないとはいえ、納得できない者が大勢いるのは当然だった。
『金色チーム、恐るべき数字をたたき出してますね……』
アリスも、どう表現したらいいのか分からず、困惑気味だった。だが、司会者として中立を保たなければならない。
『でもまだ分かりませんよぉ! 後半戦、このハンデがどうなるのか! 皆さん、最後まで応援してくださいねっ!』
強引にまとめて腕を突き上げた。
おぉぉぉ!
やや怒りのこもった歓声が響き渡った。そうだ、まだ終わりではない。後半戦で逆転すればいいのだ。自分たちの王妃を信じて、最後まで応援しよう。そんな想いが、観客たちの声に込められていた。
◇
四人の王妃たちは、それぞれ各自のエミュレーションルームに入ってスタンバイしていた。
後半戦のシステムは、この国ならではの最先端技術の結晶だった。王妃たちはこの部屋の中で手足と腰を専用の装置につなぎ、VR眼鏡を装着して他の三人と対戦することになる。動きは全てトレースされ、実際の戦闘と同様にヒットすれば倒されたり、相手から物理的な衝撃を受けたりするようになっている。魔法効果もエミュレーションされ、その効果に応じて動きが制約される仕組みだ。
ダメージを受けるたびに体は小さくなり、攻撃力も減衰していく。そして一定サイズ以下になったら負けで退場となる。最後まで立っていた者が優勝だ。
最初の身体の大きさは前半のエアモンゴール数で決まり、今年はミーシャが圧倒的な巨大サイズでスタートすることになる。エリナとシエルは中程度、ルナに至っては最も小さいサイズからのスタートだった。
戦闘の映像は、湖面上に投影される。湖面には水煙を噴霧する装置が設置されており、そこに無数のプロジェクターから映像を映し出すことで、観客席からは湖面上で巨大な四人の王妃が対戦している大迫力の光景を楽しむことができるのだ。
『それでは、王妃様たちの登場です!』
アリスの掛け声とともに、上空から巨大な四人の映像が湖面へと下りてくる。
最初に降り立ったのは、緋色の髪をなびかせたルナだった。小柄な体に似合わぬ獰猛な笑みを浮かべ、全身から陽炎のような熱気を立ち上らせている。
続いて、漆黒の髪を揺らすエリナが降り立つ。腰に佩いた緋剣に手を添え、静かな闘志を瞳に宿している。
三番目は、銀髪を短く切り揃えたシエルだ。背中の弓を軽く叩きながら、快活な笑顔で観客に手を振った。
それぞれ身長は百メートルを超え、湖面の上にその巨大な美しい姿を見せている。
空は茜色から群青色へのグラデーションが美しい時間となっていた。沈みゆく太陽が湖面を黄金色に染め、その上に浮かぶ王妃たちの姿は、まるで神話の一場面のようだった。
それまで黙ってソファーに座っていたエリナが、静かに立ち上がった。腰まで届く艶やかな黒髪が揺れ、黒曜石のような瞳が鋭く光る。その視線がルナとシエルに向けられ、無言のメッセージが送られた。
――後半戦で、この腹黒聖女を叩き潰す。
ルナとシエルは、ムッとした表情のまま力強くサムアップしてエリナに応えた。
普段は四人でわちゃわちゃとじゃれ合っている王妃たちだが、この日ばかりは真剣勝負だ。応援してくれる地区の誇りと、自分自身のプライドがかかっている。
ミーシャは三人の視線を受けながらも、涼しい顔でコーヒーカップを傾けていた。しかしその口元には、かすかな笑みが浮かんでいる。前半で得たアドバンテージは膨大なのだ。このまま一気に力押しで逃げ切ればいいだけ――。ミーシャはそこに勝算を見出していたのだ。
後半戦が、さらに熾烈になることは間違いなかった。
◇
『はい! 全ウェーブが終了しましたーー! 皆様お疲れさまでした!』
アリスの声が会場に響き渡ると、数十万人の観客が一斉に歓声を上げた。
うぉぉぉぉ!
しかしその声には、どこか疲労感が漂っていた。全力で網を振り、全力で声援を送った一時間。誰もが汗だくになり、喉を枯らしていた。しかしその疲れすらも心地よい。これこそが、生きている実感だった。
『さて! 気になる結果はこちらです!!』
アリスがノリノリで腕を突き上げると、上空の巨大スクリーンに四チームの成績が棒グラフとなって表示され始めた。
赤、黒、金、銀。四色の棒が、ゆっくりと伸びていく。
うぉぉぉ!
観客たちは固唾を呑んでその棒グラフを見つめていた。この中に、自分の一年間の苦労がわずかではあるが含まれている。毎日エアモンを育て、戦略を練り、網を振り続ける筋力を鍛えてきた日々。その全てが、この一本の棒に凝縮されているのだ。
しかし――。
会場の空気が、徐々に異様なものへと変わっていった。
赤、黒、銀の棒が止まっても、金色の棒グラフだけがどこまでも伸び続けている。その差は圧倒的で、もはや勝負にすらなっていなかった。
「なんだよー!」「どうなってんだ金色の奴ら!」「ずるいぞー!」「Booo!」
会場のあちこちからブーイングが巻き起こった。あの「黄金の道」戦術のことは、すでに会場中に知れ渡っている。ルール違反ではないとはいえ、納得できない者が大勢いるのは当然だった。
『金色チーム、恐るべき数字をたたき出してますね……』
アリスも、どう表現したらいいのか分からず、困惑気味だった。だが、司会者として中立を保たなければならない。
『でもまだ分かりませんよぉ! 後半戦、このハンデがどうなるのか! 皆さん、最後まで応援してくださいねっ!』
強引にまとめて腕を突き上げた。
おぉぉぉ!
やや怒りのこもった歓声が響き渡った。そうだ、まだ終わりではない。後半戦で逆転すればいいのだ。自分たちの王妃を信じて、最後まで応援しよう。そんな想いが、観客たちの声に込められていた。
◇
四人の王妃たちは、それぞれ各自のエミュレーションルームに入ってスタンバイしていた。
後半戦のシステムは、この国ならではの最先端技術の結晶だった。王妃たちはこの部屋の中で手足と腰を専用の装置につなぎ、VR眼鏡を装着して他の三人と対戦することになる。動きは全てトレースされ、実際の戦闘と同様にヒットすれば倒されたり、相手から物理的な衝撃を受けたりするようになっている。魔法効果もエミュレーションされ、その効果に応じて動きが制約される仕組みだ。
ダメージを受けるたびに体は小さくなり、攻撃力も減衰していく。そして一定サイズ以下になったら負けで退場となる。最後まで立っていた者が優勝だ。
最初の身体の大きさは前半のエアモンゴール数で決まり、今年はミーシャが圧倒的な巨大サイズでスタートすることになる。エリナとシエルは中程度、ルナに至っては最も小さいサイズからのスタートだった。
戦闘の映像は、湖面上に投影される。湖面には水煙を噴霧する装置が設置されており、そこに無数のプロジェクターから映像を映し出すことで、観客席からは湖面上で巨大な四人の王妃が対戦している大迫力の光景を楽しむことができるのだ。
『それでは、王妃様たちの登場です!』
アリスの掛け声とともに、上空から巨大な四人の映像が湖面へと下りてくる。
最初に降り立ったのは、緋色の髪をなびかせたルナだった。小柄な体に似合わぬ獰猛な笑みを浮かべ、全身から陽炎のような熱気を立ち上らせている。
続いて、漆黒の髪を揺らすエリナが降り立つ。腰に佩いた緋剣に手を添え、静かな闘志を瞳に宿している。
三番目は、銀髪を短く切り揃えたシエルだ。背中の弓を軽く叩きながら、快活な笑顔で観客に手を振った。
それぞれ身長は百メートルを超え、湖面の上にその巨大な美しい姿を見せている。
空は茜色から群青色へのグラデーションが美しい時間となっていた。沈みゆく太陽が湖面を黄金色に染め、その上に浮かぶ王妃たちの姿は、まるで神話の一場面のようだった。



